刀使の幕間   作:くろしお

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どうも、くろしおです。

前回同様、今回もナンバリングが外れております。
分割21話目となります。

それでは、どうぞ。


復讐の残滓

 ー福井県某所 某県道ー

 

 東尋坊を発った車は、三国港方面を経由して芦原温泉へと向かおうとしていた。その途中、夏場でも荒れることのある日本海と道路が面する区間に差し掛かった。

 その頃には、孝太と貫太、そして叔母も眠りについていた。東尋坊を発ってから比較的早い段階で睡眠薬の効果が表れていたようだ。

 

「…ああ、眠い。」

 

 ゴシゴシと目元を擦りつつも眠気の酷くなってくるなかで、叔父は東尋坊でもらったコーヒーを飲む。カフェインが大量に摂れるはずのそれが、睡眠薬の成分が大量に含まれていることでむしろ眠気を悪化させているとは、気付かないとはいえ何という悪循環であろうか。

 

「…眠くないのかい。」

「うん。」

「そっか。…今晩、楽しみだね。」

「…何が?」

「そりゃ、その…。…何だっけ。何かを言おうとしてたんだけどな…。」

 

 睡魔が想像以上に酷くなり、叔父の思考力が低下しつつあった。ふらふらと、車が左右に振れ始める。

 潮時だと思ったのか、停車される前に少女は切り出した。

 

「叔父さん、今までありがとうね。」

「…何が、だい。」

「私を引き取ってくれたこと、私に生きる道を作ってくれたこと。…………そして、男がどんなヤツだったのかを思い出させて、また絶望させてくれたこと。」

 

 バックミラー越しから、少女の淡々とした話しぶりを見た叔父。その最後の言葉に、叔父は眠気の酷い中でもゾクッとする感覚を持った。最も、その原因は彼自身の行いにあったのだが。

 

「それにさ、不思議だよね。叔母さんも、孝太と貫太も、すっかり寝ちゃってさ。叔父さんも眠そうにしてるなんて。」

「…それが、どうかしたのかい。」

「変だと思わない?どうして、私は平然としているのか。まだ八時前なのに、皆こんなに眠っちゃっているのか。」

「……。」

 

 頭が重いなかで、叔父は考えたくもない可能性を導く。

 

「…まさか。」

「叔父さん、前!」

 

 彼女の顔を見ようとした直後、前方に曲線半径のきつい左カーブが目に飛び込む。直線が続いたことで状況判断力が下がっていたことにより、ずっと加速し続けていた。直線の終わりには必ず曲線があるという、その大原則を忘れて。

 

「ああっ!!」

 

 左に切ろうとするも、ハンドルとブレーキは間に合わなかった。

 五人の乗る車は赤いテールライトの光跡を残し、暗闇に包まれた日本海へと飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バシャーン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 高さ2~30mはあろうかという崖上の道路上から、巴投げのように背面飛行した車は、屋根から叩き落された。

 海面に叩きつけられた際、瞬時に粉砕された窓ガラスから大量の海水が流入する。

 

「あっぶ、おごっ!!」

 

 彼女以外で意識のあった叔父は、右方を先に沈める車から脱出できず、シートベルトを外すこともできずに溺れていく。

 叔母と兄弟は眠りながら、シートベルトにしっかり固定されたまま死ぬ感触さえ分からず冥界に逝く。

 

「ゴボボボボボッ!!」

 

 もはや、言葉すら発することができない。叔父は、気道内に大量の海水を飲みこみ、もがき苦しむようにして眼光を遠退かせていった。

 車は、自重によって海底深く沈んでいった。二度と自力で浮上することはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぷはっ!!」

 

 ただ一人、左側にいてかつ眠気を催すことさえなかった彼女は、沈みゆく車から脱出し、荒れ狂う日本海に揉まれていた。

 

「…はは、はははっ!やった!遂にやった!」

 

 流されながらも、彼女は叔父を殺すことが上手くいったことに対して、喜びを沸騰させた。とはいえ、自身も危機的状況であることに変わりはない。

 

「…さて、どちらにしてもまずは海から脱出しなくちゃね。」

 

 この時、彼女の思考は酷く冷静であった。あれほど酷い眠気であれば、身体を動かすことは容易ではない。唯一意識があっただけに、死に逝く時は一体どのようなことを思いながら息絶えるのだろうか、などの余裕を持ちながら考えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 少女の発見は、別の走行車両からの、ガードレールが脱落し車が転落したかもしれないという通報が寄せられたことがきっかけであった。彼女は数時間海上を漂いながらも、通報を受け現場周辺を捜索していた海上保安庁の巡視艇によって、船上へ救助された。

 転落時、彼女はむち打ちと左肩の骨にヒビの入る重傷を負った。だが、海水を含むこともなく、浮き続けたことで生還することとなった。

 

「君、名前は?」

 

 救助した海上保安官が、助け出した少女の名前を聞く。

 

「真奈美、祇園真奈美、です。」

 

 体温低下でブルブルと震えるなか、少女ははっきりとこう答えた。その目に、光は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ー折神家・特別祭祀機動隊本部 取調室ー

 

 鎌倉や相模湖周辺で暴れ回った、『男性排斥運動(ブルー・パージ)』の女性構成員たち。その彼女達を束ねていたのが、山崎圭こと本名、祇園真奈美であった。

 現在の時系列は、『相模湖擾乱』が終結して一週間ほどが経過した頃である。

 

「……どうしてあそこまで、男性を忌み嫌っていたのかが非常に疑問ではあったが、確かにそれだけのことがあれば、その根底に男への憎悪を抱いても不思議はないな。」

 

 想像を絶するような人生体験を聞かされてもなお、彼は表情をあまり変えずにこう呟いた。

 

「あら、意外ね。私はてっきり、『そうであっても、他人を傷つける理由にはならない!』なんてお説教を喰らわされるのかと思っていたけれど。」

「当然、そんな思いもあるが、そんなことを言ったところで意味はない。それは此方の押し付けた、身の入っていない言葉にしかならないからな。」

 

 彼は『鎌倉事変』の処理にあたっていた姫乃と共に、真奈美の取り調べを行っていた。室内には鎌府の刀使が一人、それと神奈川県警の警察官二人が同席していた。ただし、取り調べの一部と尋問は彼の方に委ねてもらったのだ。直接確保した本人が聞きたいと言った以上、それを拒む理由も無かったというわけだ。

 今はこうして、犯行動機に繋がる真奈美の過去の話を聞いている。なお、彼女は手錠と腰縄で拘束されており、逃げ出せないようになっていた。最も、逃げるつもりなら早い段階でそれを試みているだろうが。

 

 同席していた刀使は、真奈美の話から想像力を働かせ過ぎて、思わず吐きそうになっていた。姫乃が彼女を落ち着かせつつ、深呼吸を試みさせていた。

 

 

 

 

「…それで、叔父さん達の遺体は結局見つかったのかしら。私はあの出来事以来、福井に戻っていないから。」

「はい。祇園さんの言っている年の二年後、海底深くに沈んだ車内から、身元不明の遺体が四名見つかっています。」

 

 刀使の介抱から戻った姫乃は、真奈美へ地方新聞のスクラップ記事を提示する。

 

「ただその…、遺体の大半は白骨化し、長年の海水の流入により車が漁礁と化していたことで、身元を特定できるものが見つかりませんでした。今では四名とも、無縁仏として埋葬されたそうです。」

「そう。…叔母さん達には、本当に申し訳ないことをしたわ。…あの時に苦しまず、安らかに眠ってくれたことを思うしかないのだけれど。」

 

 今となっては、直接的な証拠が全て無くなってしまっているので、真奈美の犯行を裏付けることは不可能である。だからこそ、この罪の告白であったのだろう。叔父の件は、今も家が残っていることから、証拠さえあれば容疑者死亡のまま立件することは可能だ。真奈美本人がそれを望むのかまでは知らないが。

 

「……話を戻すが、その後は綾小路に?」

「ええ、そうよ。両親も死に、身元保証人も死んでしまった以上、独り身になった私をどうするのかで児相や行政とかと少し揉めてね。結局、失うものもないからっていう理由で、綾小路に行くことが決まったわ。幸い、あそこは初等部もあるし、地頭だけは良くなってたからすんなり入れたわ。」

「…ただ、それだけであれだけのことを起こすには、まだ理由として弱いところがある気がする。綾小路では、一体何があった?」

「…相模湖でも言ったはずだけど、結局、他人からすれば碌でもないことがきっかけよ。初等部から中等部に上がると、同じ年齢の男子がちょっかいを掛けてくることがあったのよ。千里のように男を魅了するような要素がないにも関わらず、ね。それが一人だけならまだしも、四、五人の男が私にあれこれと邪魔をしてきた。時には、命に関わるようなこともね。…そして、一人ずつ復讐してやったわよ。最初は食べ物に薬物を混入させて、死なない程度にして。『男性排斥運動(ブルー・パージ)』に入って以降は、彼女達の協力を得て男として再起不能にして。…入って初めて思い知らされたわよ。世の中には、私と同じように男によって苦しめられる女の子や女性が、あまりにも多かった、って。」

 

 目を細めるように、当時を振り返る真奈美。重要なのは、当時の彼女達はあくまでも女性側に対して何かしらの被害をもたらした男に対して、行動を起こしていたことだ。それは私刑という言葉が一般化されてくる以前の頃のことだ。それだけであるならば、その犯罪に近い報復行為*1に対して賛同は得られないにせよ、彼女達の行動に一定の理解は得られるものであったはずだ。

 この証言をもとにすれば、真奈美が綾小路に入った時点で『相模湖擾乱』までに至る萌芽は、既に埋め込まれていたことになる。これでいて相楽学長を責めるというのはお門違いも甚だしいので、綾小路の責任論はこの段階で無くなった。あくまでも、個人の活動であったと判断できたために。

 

 

 

 

 会話に戻り、真奈美は、相手からは親友とまで言われた少女の話に移る。

 

「…そんな時、私は千里に出会った。」

「四条に?祇園達の活動に参加するよう、勧誘でもしたのか?」

「いいえ。比較的最近までは、ただの学友よ。ま、傍から見ていて千里は、ただただ運が悪いとでも言うのか、酷く事故の多い印象を持たされたわ。隣を歩いていても、突然転倒して足の骨を折ったり、刀装具の整理中には刀のショーケースの下敷きになって死にかけたり。……そんな姿を見ていて、なぜか私は放っておけなかったのよ。」

 

 馬鹿な女よね、とこぼす真奈美。

 

「ボロボロになっていたなかでも、あの娘、弟のために頑張らなきゃって、ずっと必死だったのよ。いつしか、私も感化されかけてた。…あの出来事が発覚するまでは。」

「あの出来事?」

「…二年ほど前かしら。千里に彼氏ができたのよ。勿論、体面的にはいい奴のように見えた。でも、私にはそうは思えなかった。それで、その彼氏を調べてみたら、綾小路以外の一般の学校で複数の女子を侍らせているのを見つけたわ。」

「…それを四条には。」

「伝えたわ。その証拠写真も添えてね。…でも、ニコニコしたまま、まさか~、って言って深刻に捉えようとしなかった。この時に思ったわ。千里の彼氏のような男がいるから女性は舐められ続けて、それを重く捉えようとしない千里のような女がいるから、いつまで経っても女性が虐げられ続けるって。…多分、千里自身はそれに無自覚なんでしょうけど。」

「で、祇園は結局そのまま、『男性排斥運動(ブルー・パージ)』に?」

「ええ、そうね。御刀にも選ばれなかった私は刀使として生きる道が絶たれたし、目的はそれを軸としたものに傾いていったわ。……私の方針が過激だったことは、認めるわ。ただ、そうでもしなければ世の中は変わらないって分かってたし。私達なりに、足掻きたかったのよ。」

「……不器用なんだな、祇園は。」

「あら、お前が言えた話じゃないと思うけど。」

「まあ、そうかもな。―あと、水沢。ストップ。怒るのは分かるが、暴力はダメだ。」

「……はい。」

 

 後ろから自動拳銃(オートマチック)の銃身をスライドさせる音が聞こえたため、つかさず制止する彼。たかだか数mほどなら、日頃撃たない姫乃も外さない自信があるのだろう。彼としても、爆発的に怒った時の姫乃を抑えるのは簡単なことではないが。取り敢えず、彼女も聞き分けはいいので、軽率な行動は堪えるように言った。

 

「結局、千里はその男とは別れたけどね。それからしばらくは、『男性排斥運動(ブルー・パージ)』の一員として活動していたけれど、本格的な転機が訪れたのはここ一年くらいの話よ。私がトップに立ち、『女王』と呼ばれるようになったのはね。」

「…『鎌倉特別危険廃棄物漏出問題』と、『年の瀬の大災厄』か?」

「流石、とでも言っておこうかしら。この二つの出来事が私達の活動を活発化させる、本格的なトリガーにはなったわ。そして、その刀使以上に私達の障害として目立ったのが、○○××(彼の名前)、お前よ。」

「あの時言っていた、刀使の守護者(メイデン・ガーディアン)って話か。」

「ええ。ネット上の話題では些末なことではあったにせよ、本来刀使は女が主役、そこを男に侵食されるようなことは、何としても避けたかったのよ。刀使が神聖なものであるならば、尚更男の勢力拡大を阻止する必要がある。それに、刀使を巻き込む行動方針であった私達が、そのランドマークたるお前を排除しに動いたのは、ごく自然な話よ。あとは、相模湖で言ったとおりのこと。それだけかしら。」

「俺個人は別に、目立ちたいわけじゃなかったんだがなぁ…。そこの誤解だけは分かって貰いたいもんだ。」

「どうかしら?お前の経歴を見るに、どう見ても目立ちたがりたいからやってます、と白状しているようにしか私には見えないのだけれど。」

「……そう捉えるのか…、こりゃ話が平行線になるわけだ。」

 

 とはいえ、彼の苦悩は彼にしか分からない。いくら目の前の真奈美に説いたところで、理解してもらえるとは到底思えなかった。それは逆の視点からでも言えることだが。

 

 

 

 

 

 

「そうそう。高鍋は結局どうなったのかしら。あの後音沙汰が無いってことは、死んだってことでいいのよね?」

「…詳しくは俺も知らない。ただ、既に治療のために引き渡した時には虫の息だったことは言っておこう。」

「そう……。」

 

 真奈美は一瞬寂しげな顔を浮かべたが、すぐに彼に向き直る。

 彼には、彼女が狂人のように見えて、実際は考えながら動いている節があるように思えてならなかった。ただ、未成年者であっても、彼女の犯した罪は決して許されるべきものではない。早希が瀕死の重傷となり、多くの無関係な人々を殺め苦しめた。彼自身もその被害者であったが、その感情だけに囚われるべきではない、と自身を律した。それができる人間は、果たしてどれほどいるのだろうか。

 

「祇園が今回の事件に関わった人間のうち、俺や四条を誘拐した車の所有者は、数日前に意識を取り戻したそうだ。ただし、後遺症は残ったらしい。」

「ああ、あの男か…。」

「それと、俺と四条が見つかるキッカケになったトラック運転手は、起訴猶予処分が下されたそうだ。俺や四条の生命線となる物資を送り続けていたのが、猶予処分になった理由らしいぞ。」

「…本当なら、あの日にお前達のところに届くはずの物資には、媚薬や精力剤を大量に発注して投下するはずだったのよね。……つくづく、運のいい男だこと。」

「相模湖で言っていたことは、やっぱり本気だったってことだな。」

「ええ。……今考えてもなお、計画を真正面からへし折りにかかるとは予想もしなかったけれど。…トップを張っていたクセに、自分の利益のため、名声を遺そうと躍起になったのは失敗だったわ。」

「……そうか。」

 

 あの時の会話も含め、すべての通信は録音を取ってある。だからこそ、彼は嘘を言わなかった彼女をまだ見極め続けていた。兼任ではあったとしても、その元上司として。

 

 

 ちなみに、『男性排斥運動』があれほど大規模な行動が取れていた理由の一つである、無尽蔵の資金に関してはおおよその見当はついていた。それは、大陸マネーであった。

 この手の分野に強い姫乃が、警察庁公安部からもたらされた情報を基に、真奈美達の背後関係を探ってみた。だが、そこから先は闇、いやブラックホールとでも言えようか。様々な団体の思惑が複合的に重なり、『男性排斥運動』への活動を裏から手回ししていた。彼もその進捗状況と、刀剣類管理局単体では非常に手に負えない存在が捜査対象として浮かんできたため、姫乃にこれ以上追わせるのは危険と判断し、自分達の被った被害分以外は、警察庁公安部や神奈川県警などの広域捜査本部に全てぶん投げた。

 子どもにこれ以上何でもかんでも押し付けるな、という彼なりの反抗心があったのだろう。とはいえ、結果的に捜査上のヘイトは全て其方が持って行ってくれたことで、刀剣類管理局側からすれば爆弾を無傷で処分できた。……目下進行中である、内部での危機的状況が生じていることについては弁明することはできないが*2

 

 

 

 

 彼から話すことはだいたい終わり、真奈美は今後の自身の身柄について尋ねる。

 

「それで、私は今後どうなるわけ?」

「さあな。少なくとも、君の組織の背後関係を捜査されたうえでその罪が決められるだろうから、少なくとも一~二年は処遇が浮いたままってことになるだろうな。裁判はまたそれからだろう。……最も、既に綾小路の相楽学長は、君の退学処分を決定している。他の伍箇伝各校への再入学は不可能だ。たとえ、名前を変えたとしてもな。」

「……ま、失敗した以上はこうなることは目に見えている話よね。無理もないか。」

「ちなみに、祇園達の移送先は決定している。千葉県内の鎌府女学院の元研究施設だ。高津前学長があれこれやっていた頃の代物でな、あの数の被疑者を纏めて収容するにはうってつけの場所だったわけだが。」

(…曰く付きだけどな。)

 

 彼は、教えなくていい情報は訊かれるまで教えないようにしていた。

 一説には、夜な夜な人が一人ずつ消えていくだの、誰もいないはずの部屋から人の声や不審な音が聞こえてくるだの…。彼としては、そこが事故物件だったという話は聞かないので、話半分にしか信じてはいないが。

 

「罪を犯した者と言えど、衣食住はキチンと守られる。裁判の時までは、そこでの生活が主になるだろう。」

「…集団生活かしら?」

「いいや、個人だ。ただ、労役はないらしい。それくらいだな。」

 

 真奈美達の処遇そのものは、法務省の管轄だ。場所は提供した以上、そこから先はその道のプロに任せることにした。

 

「それに、取り調べをする分野は非常に広範だ。特にあの武装群はな。」

「あら、私達は単独であれだけのことをやってのけたはずだけれど?」

「…大陸産の銃火器と多額の紙幣、北の大国の対戦車ロケット弾、更にはアメリカ製の対空火器やアサルトライフル、そして最新鋭のデータリンク連動型ヘルメット。単なる女性の集団が持つにしては、何かしらの伝手が無ければ入手不可能なモノばかりだろう?―それに、少し前に高知沖で沈んだ貨物船『アフロディーテ号』のこともある。引き揚げにも、捜査をするにも、時間が掛かり過ぎるほどには怪しいモノがゴロゴロ出てくるだろうよ。」

「ふ~ん?でも、果たしてそれだけで私達に関わりがある、と断言できるのかしらね。」

「ま、その辺りは専門家に任せるさ。結局俺達は、荒魂を祓うことに主眼を置いている組織なのだからな。他所様の領域は其方にお任せするさ。」

「…その割に、アメリカと組んで軍事研究を進めるのね。非戦を誓った、戦後日本とは思えないような体制だけど。」

「あくまでも俺や俺達は、荒魂に対処する力を確立していくだけさ。それ以上でもそれ以下でもない。…俺は、刀使やそれを支える他の仲間達が楽にしていけるようにしていきたい、今も昔もそれだけだ。」

 

 その真っ直ぐな表情を見て、真奈美は少し間をおいて息を吐いた。

 

「……男って、やっぱり全員噓つきね。」

「かもな。……まあ、武力をもってしてまで自分たちの意見を押し通そうとしたことは、紛れもなく祇園たちの敗因の一つだろう。言っていることがそこまで大それたモノでなかったのなら、議論形成をキチンとやるべきだったろうよ。議論なくして、武力で訴え掛けたところで世論はむしろ反抗的にしかならない、という点を見落とした結果だ。民主主義は、そんなに甘くない。」

「……危機感を、世間は分かっていなかったからよ。いつか貴方は、また後悔するわね。きっと。私達が再興しなくとも、男に対する女の恨みは根深いわよ。」

 

 そして、ここで訊くべきことは全て聞き終え、真奈美は神奈川県警の捜査員に連れて行かれた。

 彼女がここへ戻ってくることは、恐らくもう無いだろう。真奈美を見送った時、彼は彼女が世に再び放たれないことと、女性に対する世間の姿勢が変化することを祈った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、多摩湖の爆破が『男性排斥運動(ブルー・パージ)』によるものであったことが公表されると、その遺族や被害者たちが、生存した構成員や死亡した元構成員の家族に対しての、誰も救われない泥沼の争いに突入していった。

 この首謀者であった真奈美は、これから数年後の未来、裁判等によりある程度の真相解明が進められた後、何者からの狙撃と、その後に行われた杜撰な医療措置の結果として、短く波瀾な生涯に幕を下ろすことになる。

 

 

 

 

 彼女が残そうとした歴史の爪痕は、『男性排斥運動(ブルー・パージ)』というテロリストの一員という一括りで、後世にはその名前すら残らないものとなった。最期まで、彼女の望みが叶うことは無かった。

*1
犯罪行為は発覚して初めて認識されるため、発覚しなければそれは行為として見なされないという論法。(この論説には当然ながら無茶苦茶な部分もあるが。)

*2
だいたい美炎と日高見派の件。




ご拝読いただき、ありがとうございました。

次話で、『相模湖擾乱編』は最後になります。
後日談が中心の回となります。

それでは、また。
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