今話は以前リクエストを頂きました、番外編での学長達の話になります。
その先陣は、主人公とも縁深い人になります。
時系列はみにとじ期間、胎動編と波瀾編の間になります。
それでは、どうぞ。
朱音編 緩話休憩
ー折神家・特別祭祀機動隊本部 局長室ー
局長であった姉の紫が不在である関係で、現在は局長代理として刀剣類管理局を動かす、
とはいえ、紫のようにテキパキと指示を出す訳ではなく、現場への指示の多くは本部長を兼任する真庭長船学長に委ねている。自身が指示を下せるのは、本当に自分で決断しなければならない最終決定項くらいである。
「それにしても、朱音様も苦労されてますよね。紫様が表に出られない今、面倒な議員からの証人喚問だったり、他の膨大な業務も受け持っているわけですから。」
「これでもだいぶ抑えられているそうですから、舞草の協力者の方達には感謝しかありません。」
資料整理を手伝う傍ら、彼女と話す彼。
たまたま局長室に寄る用があった彼は、室内の埃を被った書籍や荷物が気になり、朱音の許可をもらって作業にあたっていた。
「○○(彼の苗字)さん、仕事の方は大丈夫なのですか?」
「それなら、問題ありませんよ。今日分の仕事は何とか済みましたし、局長室に寄ったら上がるところでしたから。」
「そう、ですか。」
ちょっと嬉しそうな顔をする彼女。
その表情を見ていなかった彼は、棚の物を扱いながら、ふとした疑問を彼女に投げる。
「…そういえば、以前から気になっていたことがあるのですが、なぜ朱音様は、俺を舞草に引っ張ってこようと思ったのですか?」
「と、言いますと?」
「いえ、舞草に入ってから、朱音様とは比較的付き合いも長いですが、スカウトした理由と経緯を詳しくは知らなかったものですから。」
「…そうですね。その時のことを少し話しましょうか。」
過去の出来事を逡巡するように、彼が入学する年に江麻と紗南が訪れた際のことを彼に話す*1。
朱音の話を聞き終えた彼は、ずっと疑問だった部分に納得していた。
「…通りで入学直後からの動きがスムーズだったわけで…。今だから言えますが、そりゃ銃扱う人間なんて日本国内じゃそう居ませんよ。まして、小学生の段階なら尚更ですが。」
「…最も、それだけが理由では無かったのですが。」
「ん?何か他にもあったんですか?」
「……秘密です。」
(まさか、あの時の選択が今に繋がるとは、人生分からないものですね。)
満面の笑みで、彼の追撃をかわした彼女。
「そうですか…。まあ、今となっては舞草でのことがいい経験になってますから、そう言う点でも拾ってくださったのは有り難いと思いますよ。」
改めて、舞草、そしてそこへ招いてくれた朱音に感謝を伝える彼。
「いえ、私は何も。…◯◯さん、そろそろ一度休まれてはどうですか?」
「…そうですね。ちょっと休憩させていただきます。」
「お茶をお出ししますから、そこに掛けていてください。」
局長室のソファーに掛けるよう、彼に伝える朱音。
「失礼させていただきます。…ふう。」
思わず、全身の力が抜ける彼。
対面に座る二人。テーブル上には湯呑みが二つ置かれる。
「緑茶は、やっぱり落ち着きます。」
「◯◯さんは確か、お茶好きでしたね。」
「他人より、ちょっと飲む程度でしょうけれど。……思えば、あの世行きになりそうになったり、美濃関を離れて今の部署に落ち着いたり、こうした時でもなければ、この数年の出来事を振り返る気が湧きませんが。」
波乱の人生を送る彼には、こんな一時の安らぎが、自身の頑張ってきた実感を与える。
「この半年で状況がかなり大きく動いたのは、私自身も予測できませんでした。ですが今は耐え凌ぐ時期だと、私は考えています。…貴方達には、大変な苦労やご迷惑をおかけすることになりますが。」
申し訳なさそうな顔を浮かべる朱音。
「遅かれ早かれこんな事にはなっていたでしょうから、そこは割り切ってますよ。…むしろ、姫和が起こした行動が、起こり得た最悪の結果を防いだと思えば、これくらいどうってことは無いですよ。ただ、現在の急造な混成部隊の練度不足は課題ですが。」
「なるべく人員と予算を回してもらえるようにはしていますが、もう少しだけ頑張って頂けますか?」
「俺の仕事は、刀使や後方支援の人間の負担を下げることですから、どうであれ、いくらでもやりますよ。」
「……ありがとうございます。」
二十年前には居なかった者達が、今こうして事態収拾に奔走する姿を見て、積み重ねてきたものは決して無駄ではなかったと感じる、朱音。
後にこの年の歳末頃には、再び日本や世界が存亡の危機に立たされた。そんななかで紫の帰還までの間、維新派やその行動に加担した者以外の、刀剣類管理局や伍箇伝の更なる空中分解を防いだ功績は、評価されるべきであろう。無論、彼女の持つ人徳も大きな要因として働いたと言える。
休憩開始から時間が経ち、穏やかな空気が漂うなか、こんなことを口に出した彼。
「そういえば、朱音様。失礼を承知でお聞きしますが、結婚願望などはお有りですか?」
「…○○さんの口から、そうしたお言葉が出るのは意外ですが…。」
「あ、いえ。朱音様はずっと、舞草の設立者の一人として頑張ってこられたうえ、未だに一人身を貫き続けられているものですから…。漏出問題*2が一段落すれば、良縁もまた舞い込んでくるとは思いますが、いかがでしょうか。」
「そうですね…。考えが無い訳ではないのですけれども…。」
そう言って、彼女は徐に立ち上がり、彼の隣に座ってくる。
「あの~。朱音、様?」
彼女の行動がよく分からなかった彼。彼女は話を続ける。
「ここには今、私と貴方しか居ません。…もし誰かが来たとしても、それにはまだ時間があります。」
「はっ、はあ。」
「率直にお尋ねします。…貴方にとって、私の存在はどのようなものでしょうか?」
「!?……え~っと、その~…。」
(…朱音様に先手を取られた!コレ、ぼかしたら後々大変なことになるヤツだ…。)
正直なことを言わなければ、紗南を通じて何があるか分からない。
何となくこの先と展開が見えた彼は、諦めて彼女の顔を見る。
「…尽くしたくなるような人、ですかね。朱音様のために、というよりは、率先して自分から動きたくなるような、そういう感じでしょうか。」
「尽くしたくなる、ですか。」
「何といっても、朱音様は優しい方ですから。」
隣に居る彼女に、笑顔を振り向ける彼。
「というか、朱音様にも日常的に愚痴を漏らせるような相手は、必要だと思いますよ?…いくら優しいからといって、思っていることなどを自分の中に押し込めるのは、朱音様ご自身がきつくなるだけでしょうし。」
「…そうかもしれませんね。」
感情の抑圧というものは、抱え過ぎたら最後、どう爆発するのか分かったものではない。それを防ぐのもまた、他人との会話だったりするのだが。
彼女は、ならば、と前置きした上で、
「◯◯さんが、その相手になってくださいませんか?」
「俺が、ですか?」
「はい。」
「…それは構いませんが、俺以上に適任な方も居られるのではありませんか?」
「いえ、上の世代との言い合いになっても渡り合える、貴方だからこそ頼みたいのです。それに…。」
「それに?」
一度口をつぐんだ朱音は、ゆっくりと彼の肩に体をもたれかけてくる。
コツンという柔らかい音が、微かに彼の耳に届く。
「…こうして、二人で静かな時を過ごすのは、お嫌いでしょうか?」
彼女の頭が彼の肩に支えられるようになっているため、二人の距離は非常に近い。彼女の意外な行動に、彼は顔を赤くする。
(朱音様って、こんな感じに打ち解けてくる方だったっけ?)
……なんていうことも考えていたのだが、
「…◯◯さんの傍だと、なぜだか安心しますね……。……すーっ。……すーっ。」
日頃の疲れが溜まっていたのであろう。そのまま、肩にもたれかかった状態で、朱音は眠ってしまった。
「……朱音様の愚痴を聞く相手、か。…魅力的な話ではありますが…。」
この辺りは姉妹で似るところでもあるのだろうか、とも思った彼。
室内にあった薄手の毛布を、ゆっくりとソファーへ横にした朱音の上に掛ける。
「…少し、お休みになられてください。朱音様。」
そう言って、資料整理に戻った彼。
「……はっ!…私は…。」
ソファーから起き上がった、朱音。
時間にすると三十分ほどだったのだが、意外と長く眠りについていたように思えた。
「この毛布…。◯◯さんは、……もう仕事を済まされたようですね。」
室内を見渡すも、彼は既に部屋から退出していたようだった。
「…この紙は?」
そして、先ほど湯呑みを置いたテーブルには、彼の筆跡でこう書かれてあった。
『朱音様へ
先ほどのお願いですが、快く引き受けさせて頂きます。下に個人用の携帯電話番号を記しますので、何かありましたら、其方の番号におかけください。その時にはよろしくお願いします。
資料整理も終わりましたので、本日はこれにて失礼いたします。 ◯◯より』
数字の羅列まで読んだ彼女は、大きく胸をなで下ろした。
「…嫌われていた訳では、決してなかったのですね。」
そして彼女は、自身の抱える想いが叶わぬものになろうとも、彼が成人する数年先までは独り身を貫こうと決意したのであった。
コッソリとでも、名前で呼び合えるような関係になるには、まだ長い時間を要するものになると、覚悟しながらも。
ご拝読いただき、ありがとうございました。
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それでは、また。