今回は番外編としていろは編をお届けします。
時系列は姫和が平城に入り、《小烏丸》の所持を認められる前の頃です。
…関西弁の表現は難しい…。
それでは、どうぞ。
ー平城学館ー
奈良市内の一角にある、平城学館。近年では親衛隊に所属する真希を始めとして、数多くの実力ある刀使達の育成・輩出を行ってきた。
その学長である、
後に姫和へ《小烏丸》の帯刀権を与えた、言ってみれば、タギツヒメを本格的に討つ切っ掛けを作った人物ともとれる。
廊下を歩く彼といろは。彼の両手は今、積み重ねられた荷物で覆われていた。
前に進みつつ、彼女へ口を開く彼。
「毎度毎度、すみません。五條学長。本当なら、あまり俺のような人間が関わりを多く持つのは、要らぬ疑いをかけられ兼ねないのですが。何分、大っぴらに出来るものでもないので…。」
「ええんよ。…現に今、荷物を持ってもらっとるしね。貸し借りは無しの方が、こっちとしてもありがたいんよ。」
長船の生徒も多く居る、舞草の里の所在する紀伊半島は、本来は平城学館の管轄エリアである。そのため、末端の舞草構成員ならともかく、彼のように比較的名前の知られた人間が里の方へと向かう場合、なるべく彼女に便宜を図ってもらうことが多い。
…こうして律儀に毎度毎度、許可を貰いにやってくる人間というのは、彼くらいなものではあるが。
「そういえば、◯◯(彼の苗字)君は彩矢ちゃん*1と会ってこんでよかったとね?」
「…何も知らない彩矢を、此方の事情に巻き込む訳にはいきませんよ。それに、会うならもう少し時間をキッチリ取れるようにしますし。またの機会にしますよ。」
「ほーね。…まあ、他の人間をなるべく巻き込まないように、かなり気を遣っているのは報告書からも読んで分かるさかいに。」
万一の備えとして、平城の舞草構成員からのレポートも読んでいる彼女。当然、やってきた時の彼の動きも追わせている。
「そうそう、里奈ちゃん*2は本部で元気にやっていると?」
「ええまあ。…ただ、刀使としての職務というよりは、事務作業が中心になっていますね。正直、中島には済まないとは思っていますが。」
「ただ、ウチは◯◯君のところに預けて正解やったと思っとるで。…いま、雪那ちゃん*3のところでは、あまりいい噂を聞かへんからね。」
「その辺りの真偽も一応調べてはいますが、…決定打にはまだ欠けますね。限りなく黒に近いグレー、といったところでしょうか。」
「そうね。…里奈ちゃんも守ってやってな。」
「最善は尽くします。」
「…っと、そうこう言ううちに着いたようやね。」
二人は、平城学館の資料室前に到着する。
「それにしても、平城の地下にこんな場所があったとは…。驚きです。」
「二階構造やから、結構な量の物が入るんよ。…ただ、ここを作る時にはえらく揉めたっちゅう話があってな…。」
「…まあ、平城京跡含め、奈良市街は掘れば文化財の宝庫ですしね。京都並みに地下工事が大変なのは、容易に想像できます。」
書類や過去に使われていた御刀の再生用機材などが、年代順に置かれている。
「さて、ここに何個か置いてと。」
「上に積まれたやつですね。…下ろしますよ。」
一つあたり、10cmほどの厚みがある複数のファイルを、床に下ろす彼。
「え~っと、これとこれは此処に。で、それとそれはあっちやね。」
「この二つは此処で、この二つはあっちと…。このファイル、意外に掴みにくいな…。」
いろはの指示のもと、四つのファイルは保管されるべき場所へ収納されることになった。
「…ふう。」
「あとは、この箱たちくらいやね。」
ファイルの下にあった幾つかの箱。彼もよく知らずに運んでいたものである。
「ちなみに五條学長、その箱の中身は…?」
「ああ、それな。…確か、有事の時のマニュアルやね。でも、新しい物が搬入されたから、古い方のは一旦ここで保存しとるんよ。」
「なるほど。」
そう言って、彼は数秒ほど思案した後、いろはにあることの許可を求めた。
「…五條学長、後でこのマニュアルをコピーしてもよろしいですか?」
「ええけど…。何に使うつもりなん?」
「研究用途でちょっとお借りしようと思いまして。伍箇伝の生徒向けに非常時にどう動くべきなのか、みたいな文書を作ろうかと。」
「せやったら、尚更新しいものの方がええんとちゃう?」
「勿論、新しいマニュアルも使いますが、大体この手の奴は、作成時直近にあった非常時に対しての詳細な対策が載っていることが多いんですよ。備えあれば何とやら、です。」
「…確かにこのマニュアルは、生徒には分かり難そうやしね。出来上がったら、分かりやすいものをお願いするさかい、楽しみに待っときますわ。」
「はい。…取り敢えず、これで収納終わりっと。」
後でコピーを取るため、彼が箱を戻す位置を紙に控え終えたあと、古いマニュアルの入った箱達は、静かな眠りにつくように置かれていった。
いろはと共に、校内を見て回る彼。
校庭も併設されているため、多くの少女達が体育の授業を行っている光景も目に入る。
その視線を横に回していると、武道館の方に濃緑色の平城の制服とは異なる格好をした少女達を見つける。
「…ん?あの色は、綾小路の制服…。何でここに?」
「ああ、あれねえ。ウチが頼んで、綾小路の生徒さんと模擬戦を行うようにしとるんよ。」
「はえ~。…確かに京都までは近鉄で一本ですから、そうしたこともやりやすいでしょうね。自分の実力も、相手の実力も客観的に推し量れる、いい機会になりますし。」
「そういうことや。…っと、○○君。そろそろ出らなあかん時間やない?」
校内に設置されている時計を見て、彼に確認を促すいろは。それに応じて、彼は左手に巻いた腕時計を見る。
「…本当ですね。五條学長、本日はこれにて失礼致します。今度来る時は、お土産も持ってきますね。」
「ほな、無事に行ってきてな。」
「毎度のことですみませんが、また生徒さんを一部お借りしますね。」
「ええんよ。本人達が同意しとるなら、ね。」
「それではこれで。」
去り際に、彼女へのお辞儀を忘れなかった彼。そして、目的地の舞草の里へと赴くのであった。
「さて、ウチも色々と準備をせなあかんね。」
日頃あまり開かない、彼女の目が少し見開かれる。
その視線に延長線上には、執務机に置かれた一枚の履歴書。そこに置かれていたのは《小烏丸》の適合者申請書だった。
その御刀への帯刀申請者の名は、十条姫和。
これより先の時間軸で、
運命の歯車は、静かに回り出そうとしていた。
ご拝読いただき、ありがとうございます。
この人がもし姫和に《小烏丸》を持たせなかったら、と考えると、御前試合の時に可奈美と出会うことさえ、ありえなかったかもしれないですね。
(下手をすれば、全てありえないことになっていたのかも…。)
そうした視点から見ると、彼女の存在もまた、大きなものであったことが分かります。
今話で一旦、学長達編は区切りを付けます(勿論、後で残りの三学長の話も書きます。)が、番外編はまだ少し続きます。ご容赦ください。
感想等ございましたら、感想欄・活動報告にて対応させて頂きます。
それでは、また。