番外編の学長達編では最後の登場となりましたのは、筆者個人としてはどう書いても難しさを感じる方となります。
時系列は『年の瀬の大災厄』を過ぎ、ドラマCD「名残花蝶」での出来事が起こる前の頃になります。(つまり、だいぶ浄化された感が強くなったあたりの話です。)
今話も前回同様、アニメ本編の流れを汲む構成になっております。
それでは、どうぞ。
ー刀剣類管理局本部 医療施設ー
舞草中心の新体制への移行が完了しつつある、現在の刀剣類管理局。鎌倉特別危険廃棄物漏出問題から端を発した伍箇伝内の一連の動乱は、神輿に担ぎ上げていたタギツヒメの隠世への封印により、維新派は急速にその勢力を縮小していった。
中でも、二十年前の相模湾岸大災厄の真実を巡り、官房長官をはじめとする政府高官への圧力をはじめ、タギツヒメの代弁者とでも言わんばかりな公権力への介入を行っていた、
この日、朱音から雪那の見舞いを頼まれた彼は、彼女とはだいぶ久方ぶりの対面を果たすこととなった。
「…お久しぶりです。高津元学長。」
「……ふん、お前も、私を嘲りに来たのか。」
会って早々にいじけた様子で応対する彼女。確かに彼自身も本部で勤務してからというもの、雪那に対して良い感情は持っていなかった。その最たる原因が、刀使達をどのような目線で視ているのかという、根本的に隔たりが深い要素しかない理由からだった。ましてや、親衛隊や近衛隊などで繰り広げられた非人道的な人体実験を行ってきたような人間を好め、というのは、一般的な感性ではとても仲良くなれる気がしないのは当たり前である。
「そんなこと言っても身体が良くなるわけではありませんよ。…窓とカーテン、開けますね。」
「……。」
とはいえ、過ぎたことをあーだこーだと責め立てたところで何か状況が良くなるわけでもない。ベッドで横になっている雪那を見つつ、彼は以前と今現在の彼女の姿に改めて驚くしかなかった。…まるで、生きたまま死んでいる、そんな風に今は思えた。
「あ、そうそう。これは朱音様からの花束です。花瓶の花を差し替えておきますね。」
「…余計なことを…。朱音…。」
化粧がケバ…もとい煌びやかだった頃の姿からは想像がつかない位に程遠い姿にはなったが、元々他の学長達に負けないほどの美しさはあったのだ。むしろ、カッカしていた学長時代の時に比べれば、今の方が遥かに血色も良くなっていた。あくまでも、彼個人が見た彼女の姿ではあるが。
「……ずっと、私に対して上辺の話ばかりしているようだが、何か、私に言いたいことでもあるんじゃないのか。◯◯(彼の苗字)。」
「………そりゃ、幾らでもありますよ。―鎌府での人体実験、沙耶香が鎌府を逃げ出した時の対応、折神家に突入した時での舞衣は殺せという発言、無理矢理に綾小路の生徒を巻き込んだ近衛隊の編成、などなど、今口に出せるだけでもこれだけありますよ。……まあ、一番キレたくなるのは近衛隊を唆して俺を殺そうとしたことですかね。…全てにカタがついて真相が分かった時には、殺したきゃ自分の手でやれ、他人の手を汚させるな、正直そんなことを思いましたよ。…むしろ、この今の状況で、俺が貴女を殺さないという確信がお有りですか?」
「……まあ、無いな。……お前以上に、遠回しに沙耶香から殺す価値もないと言われたのは、未だに精神的にもきているがな。……今では私自身、この人生で何をやってきたのか、もう分からなくなってきている。結局、夜見以外に私のことを見捨てなかった者はいなかったのだからな。」
笑いたければ笑えばいい、とでも言いたげな彼女。そう半ば自嘲気味に語る姿を見たが、彼はそんなことは気にしなかった。彼女への用件は、見舞い以外にもう一つある。
「……高津元学長。こんな会話をしていて難ですが、今からお時間を頂きますがよろしいですか。」
「…何を企んでいるのかは知らないが、あまり動くなと医師からは言われている。運動などはできないぞ。」
「いえ、今から車椅子に乗って頂き、ある場所へ来てもらいます。…担当医師からは、もう了解も得ていますよ。」
そう言って、雪那の外出許可証を提示する彼。
「……どこへ、私を連れて行くつもりだ。」
「…あの日、彼女の時が止まった場所です。」
彼女、というのを聞いて、雪那はハッとした表情を浮かべた。
「今日は、月命日ですから。」
そう言った彼の顔は、悲しげであった。
ー東京駅 丸の内駅舎 某室ー
日本の鉄道の中心エリアも破壊された『年の瀬の大災厄』から、もうすぐ三ヶ月が経つ。ノロに呑まれた夜見の遺体は今も見つかっていないが、残念ながらそのことは他者の人の営みには関係のないことであった。経済活動は、人の生死に関わらず進んでいく。
荒魂によりあちこちが破壊された丸の内駅舎だが、修復工事が進んだことで駅舎や東京駅ステーションホテルなども再開の目処が立ちつつあった。
その中の一角に、夜見が最期を迎え、雪那が僅かながらも弔った部屋がある。
「夜見…。…本当に、ごめんなさい。貴女のことを、きちんと見てあげられなくて…。」
献花台代わりに置かれた会議用テーブルの上に、花束を手向ける雪那。その隣で彼と、同伴でついて来た結月が線香の準備を行う。
「持ち運び式の線香入れでの弔いというのは、果たして彼女に怒られませんかね…。」
「どのみち、ここは本来火気厳禁の場所だ。彼女とて、そこまでの無理をしてまで弔いをしてくれるのならば、そう咎めはしないだろう。」
そう言葉を交えながら、灰が飛ばないように横倒しで線香の束に火を点ける。
三人が火を点けた線香を数本ごとに持ち、彼が雪那から頼まれて準備していた、夜見の姿が写された写真立ての前へ置いていく。
最初に彼が線香を置き、数秒ほどの合掌とお辞儀を写真に向けて行う。結月も彼に倣って同じ動きを行ったが、雪那は線香を置いてからと合掌を行うと共に、数多の涙を溢し始めていた。
「……夜見っ、夜見っ…。ごめんなさい、夜見…。」
彼女は車椅子ながらも肌身離さず持っていた夜見の御刀、《水神切兼光》を抱き寄せるように写真のほうへ謝り続けていた。
その姿を見た彼は、
(因果応報であり自業自得でもある。が、彼女を責めたところで、むしろ夜見は悲しむのではないのだろうか。)
という、どこにぶつけるべきか悩ましい感情を抱いたのもまた、亡き夜見のことを考えたうえでの思いではあった。もし彼が夜見のことを全く知らなければ雪那を激しく責めただろうが、生前の彼女の想いに多少なりとも触れていたことが、彼を感情的な行動へと突き動かすことを阻んだのであった。
彼らは一通りの月命日の所作を済ませて、時間と場所を提供していただいた駅舎を所管する鉄道会社の方々や復旧工事の作業員の方達にお礼を告げると、東京駅を後にする。
その帰りの車中、泣き疲れて眠っている雪那をよそに、彼が結月に疑問をぶつける。
「相楽学長。」
「何だ、○○。」
「…近衛隊の結成の顛末は俺も把握していますし、だからこそ尚更分からないのですが、なぜ自分達の生徒を襲撃した夜見のお参りに赴こうと思ったのですか?」
一般的な感情論としてはだが、死んでいるとはいえ危害を加えてきた人間のことをわざわざ見舞わったり、参りに向かおうとするというのは、そう簡単にできるものではない。だがこうして、彼女は夜見の月命日のお参りに加わったわけである。
結月は、彼にこう返した。
「…そうだな。後々思い返せばだが、ウチの生徒を斬りつけた、あの時の皐月からは執念のようなものを感じた。あの頃はタギツヒメの暴走と朱音達本部との衝突を何としても避けようとしていたわけだが、結果的に彼女の行動が決定打になってしまった。…それだけ、皐月のほうは覚悟を決めていたのだろう。雪那が動きやすくなるように、ということをな。―だから、彼女を参ることは一つの敬意、とも取れるだろうな。やったことは褒められるモノではないにせよ、だが。」
そして、それに加えて夜見が刀使になれた経緯を考えると、雪那がどれほど外道であってもついて行くことを決める理由にはなるだろう、とも彼はそう分析している。
「…そう、でしたか。…俺は、何ができたんでしょうか。夜見に。…むしろ、彼女にとっては邪魔な存在だったのかもしれません。」
「…だったら、お前が彼女の亡き後の雪那を支えてやれ。別に付きっきりとは言わん。ただ、皐月が守ろうとした者の人生を無意味な結果にするのは、お前とて嫌じゃないのか。」
「本当は彼女の夫が色々やるべきだとは思うのですがね。…いいでしょう。早死にされても夜見に対して申し訳が立ちませんし、何より個人的に寝覚めの悪いことは嫌なんですよ。…胃と頭はキリキリするかもしれませんが。」
「……お前のアフターケアは、紗南に伝えておこう。」
ともあれ、彼が刀剣類管理局に在籍する間、ある程度の雪那の面倒を見ることが業務として加わったのは、それからそう経たない頃のことだった。
それから数ヶ月の時を経て、伊豆・石廊崎にて真希や寿々花、可奈美や姫和から、夜見に似た荒魂の情報がもたらされた。だが、彼や雪那がこのことを聞かされたのは、コトが全て終わった後の話であった。
ご拝読いただき、ありがとうございました。
最後は「名残花蝶」の出来事へと繋がるような形で書かせていただきましたが、いかがでしたか?
この話はアニメ本編の流れを汲んだ話になっておりますので、とじとも時空のように夜見が生き延びた場合ですと、この話のような出来事は消滅することになります。(世界線の変動)
…しかしまあ、彼女と、結婚した高津さん(夫のほう)、夫婦仲自体に何かあったんじゃなかろうかという気しかしませんが、その真相や如何に。(雪那の苗字が代わってますしおすし)
次回以降ですが、気まぐれに書いた話が長くなりそうですので、主人公編に付け足すか別枠で新編作ろうかという方向性で考えております。
…刀使達とのイチャイチャ、もう少しばかりお待ち頂ければと思っております。(そう遠くないうちに書きに戻ります)
それでは、また。