刀使の幕間   作:くろしお

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どうも、くろしおです。

今回も前回に引き続き、諸メンバー編をお送り致します。

サポートキャラクター投票では四位ながらも、清香との絡みや、刀使ノ巫女の世界観においての御刀と刀使の関係性に重要な意味を持たせてくれた少女の話になります。
時系列は、此方も御前試合から遡り前年の十月頃の話になります。

事前に主人公編『死線を越えて』前後編と『残された者の責務』をお読みいただくと、今話での話の流れはより理解しやすいかと思われます。

なお、上記の話が分からずとも大丈夫なように執筆はしておりますので、気にならない読者様はそのままお読みください。

それでは、どうぞ。


彩矢編 遠く離れていても

 ー平城学館 学生寮ー

 

 古の都、奈良。

 この街の一角に、伍箇伝の一校である平城学館は立地している。現学長であるいろはが就任して以降、御前試合で優勝する刀使を輩出するなど、刀使の質という点からでも優秀な少女達が揃う。

 

 そんな場所で、刀使として活躍し、その第一線を退いた少女がいる。

 小池(こいけ)彩矢(さあや)。現在警邏課に所属する彼女は、気さくな人柄とそのルックスの良さから、生徒の一部からは一目置かれている存在でもある。

 以前使っていた御刀は、今は下級生の刀使のもとで大切に扱われている。刀使への未練自体はそうないものの、自分が嘗て使っていた御刀がどのように扱われているのか気になって、その少女の様子を観に行くこともあるのだという。

 そんな彼女だが、将来は警察官になるべく日々勉学に励んでいる。

 

 

 と、ここまでは刀使としてやってきた者の経緯としては、そこまで変わったものではない。

 最も、彼女の場合は負傷による退役ではなく、使っていた御刀により適合する少女が現れたため、彩矢自身が、もっと御刀の能力を引き出せる者への引き渡しを望んだのである。そのため、未だに写シも張れるうえ、もし適合する御刀が見つかれば、再び振るうことも可能だ。

 ただ、現状ではそうしたものは見つかっていないため、警邏課での緩やかな日々を送っている。

 

 

 

 

 前置きが長くなったが、実は彼女、過去のある荒魂討伐作戦において、主体的な役割を果たした。

 秩父会戦、近年では稀に見る被害を出した荒魂との死闘である。

 

 概要を端的に説明すると、秩父市街で発生した三体の荒魂が暴れ回り、突然の荒魂の急襲を受けた特祭隊の臨時指揮所も被災。この結果、当時指揮所に居た多数の特祭隊員や刀使が死傷・行方不明となった。

 これにより、荒魂への初動対応が不可能になってしまった。

 

 彩矢は偶然にも指揮所を離れており難を逃れたが、刀使の戦闘を支える後方部隊は壊滅、派遣され生存していた刀使の数も、三体の荒魂を一度に相手にするほどの人数がいなかったのである。

 

 そんな絶望的な状況下にあるなか、指揮権の緊急委譲により一人の少年がこの荒魂達への対処を任されることになった。

 その少年が後に彼女の想い人となる、本部所属の彼であった。

 彼の立案した作戦は、寡兵で多数の荒魂討伐に挑むという、平時でも無謀と言われる作戦だった。

 だが、作戦参加者に一人の死者も出さなかったのは、現在でも特祭隊内で語り継がれている出来事である*1

 

 ただ、当事者の彼は決して誇るようなことをしなかった。それはあの時の悔しさが、今の彼を動かす原動力にもなっているからだろうと、彩矢はそう思っている。

 

 

 

 

「…あれからもう、二年も経つんだ。時の流れって、早いね。」

 卓上カレンダーを見て、そう呟いた彼女。今日のところは授業も終わり、学生寮の自室に戻っていた。

「あれからそう経たないうちに、刀使としての私は終わったんだっけ…。結局、彼と一緒に戦ったのって、あの時が最初で最後だったのかな…。」

 

 当時、自身を戦地へ送り出したのと引き換えにして、荒魂を引きつけた際の攻撃で負傷し、それから一月ほど昏睡状態が続いていた彼。以降、彼が意識を取り戻してから彩矢が御刀を返納するまでの期間は、本当に僅かであった。

 

「そうは言っても、私が彼を助けると言って以降、御刀を返納してからもずっと意見交換をしてくれるのは、ありがたいもんね…。普通、刀使を辞めたなら、その人の言葉って今の実態とは合わないから、あまり当てにならないような気もするけれど…。」

 彼女の言葉も一理ある。加えて、本部勤めならば近隣には鎌府もある。彩矢に聞くよりも、遥かに其方と話をした方がより有意義ではないだろうか、と定期的な彼からの連絡を少し不思議がってはいた。

 

 

 

 

 ピリッ ピリッ ピリッ

 

 

 

 

 そんな時、彼女のスマホから着信音が鳴り響く。

「誰からだろう…、えっ、嘘。」

 携帯画面を見た彼女は、迷わず通話ボタンを押す。

 ウワサをすれば何とやら、彼からのものであった。

 

「こんばんは、どうかした?」

『ああ、急な電話で悪い。今時間は大丈夫か?』

「えっ、ああ、うん。今は何も無いよ。ゆっくり話は聞けるから、大丈夫。」

 長時間の通話でもいいように、部屋のベッドに横たえる彩矢。部屋着ではなく制服であるが、今の彼女の無防備な姿を見た者がいたならば、思わずその手を止めてしまいそうになるだろう。

 

『実は近々、講習と訓練の兼ね合いでそっちの方に伺うことになった。』

「わざわざその報告を私に入れなくても…。でも、ありがとうね。」

『時間ができれば、会えるかもしれないしな。いや、何とか作ってみる。』

「そんな無理しなくても…。それに私、今はただの平城の生徒だよ?別に何かの力を持っているとか、そういう訳でもないし。仮にも本部の人なら、もっと別の人と会うのに時間を割いたほうが…。」

『何言っているんだよ。俺がこうしていられるのも、彩矢が早くに見つけてくれたお陰だろ?そんな命の恩人を邪険に扱う方が、よっぽど罰当たりだと俺は思うけどな。』

「…命の恩人、か。でも、こんな風に今でも連絡を取っていること自体、珍しいことだよ。まして、刀使でもなくなったのに。」

 

 つい意地悪く、彼にネガティブなことをぶつける彼女。しかしながら、あの出来事から二年近くの付き合いになるとは、当時の彼女はきっと思いもしなかっただろう。

 

『そうは言ってもなあ…。事実、彩矢の方が年上だし、ここまで親身に色々意見もぶつけてくれる人もいないんだよな…。』

「でも本部には、里奈もいるよね?」

『中島にもちょくちょく意見はぶつけてるが、身内じゃない彩矢だからこそ、第三者の視点から見てくれているとは思っている。…連絡を取るのは、それだけでもないが。』

 少し口ごもる彼。

「里奈から時々普段の君のことを聞いているけど、あんまり無理したら駄目だよ。」

『分かっているつもりなんだけどなあ…。どうも、気づかないうちにオーバーワークになっているらしい。』

「…もう。あんまり迷惑掛けたら皆心配するから、程々にね。…私も心配しちゃうし。」

『…善処はする。』

 

 彼の無茶しがちな理由も、彼女はよく分かっているため、こればかりは声を掛け続けることでしか対応できない無力さもある。ただ、彼の同僚には自身の親友(こうはい)もいるため、自身の目が届かないうちに彼が壊れないように、様々な面倒を見てもらうことを頼んだりはしている。

 

 

 

 

 話題は変わり、毎年の慣例をどうするのかという話を持ち出す彼。先で述べた秩父会戦で殉職した、彼や彩矢にとっての先輩のところへ、お盆か先輩の命日にあたる今の時期に墓参をしている。

『なあ、彩矢。先輩の墓参り、どうする?俺は、今度そっちに来たついでに行こうとは考えているんだが。』

「私も一緒について行くよ。今年のお盆は難しかったし。」

『分かった。ついでにレンタカー手配しておくわな。』

「りょーかい。…ってことは、君が運転するの?」

『えっ、ああ。そうなるな。というか、彩矢も運転免許の講習、受けてなかったか?』

「一応は持っているよ。…使う機会は殆ど無いけれど。」

『いや、単に高頻度に運転している俺がおかしいだけだから。』

「でも、君とドライブに出るのって初めてになるのかな?」

『あー、…そうだな。一緒がマズいなら、電車でもいいが。』

「ううん。平気だよ。むしろ、ちょっと嬉しいかな。

 彼へ聞こえないように、少し携帯を耳から離す彩矢。

『そっか。なら、当日になったらまた連絡を入れるとしよう。』

「はーい。」

 電話口の彼は絶対に分からないが、結構嬉しそうな表情を彼女は浮かべていた。

 

 

『あ、そうそう。彩矢、最近平城で何か変わったこととか無かったか?』

「変わったこと?」

『例えば、鎌府に派遣されて戻ってきた刀使の様子がおかしかった、とか。』

「…う~ん。そうだったらすぐに私も分かるんだけど、特にそうした話は聞かないかな。何かあったの?」

『ちょっとした調査をな。ほら、彩矢も知ってのとおり、ウチの部署って相談とか色々引き受けたりしているだろ?』

「ああ、そういうことね。でも、残念だけど私に分かることはそんなにない、かな。」

『いや大丈夫だ。…今のところは、なのか。』

 なにやら深刻そうな声音の彼であったが、敢えて何も訊かずじっと耳を澄ます。きっと、彼がこう訊いてくる理由は何かあるのだと、そう思った。

 

 

『そういや、彩矢。今年平城の代表で優勝して、親衛隊に配属された獅童真希のことなんだが、何でもいい。何か知っていることはあるか?』

「あるには、あるけど…。」

 

 彼女は、彼が他の女子の話を出した時に、少しムッとしたものの、聞く限りどこか必死そうな声の震え方に気付く。

 当時彼は、舞草の方から親衛隊についての情報収集を依頼されていたこともあり、平城出身の真希がどのような人間なのかを、同じ学び舎であった彼女から些細な情報でも聞こうと考えていた。

 

『今度平城へ来たとき、北海道産日高昆布を使った酢昆布と、墓参の時の費用負担をするから、情報料はそれでどうだ?』

「…酢昆布が好きなの、まだ覚えていてくれたんだね。」

 

 連絡を取る程度でしか、なかなか彼と話す機会が得られない彼女。まして、直接顔を合わせてとなるとその機会はより難しさを増す。それでも、彼は彼女の好きなものを忘れたりしていなかった。

 どんなに、遠く離れていても。

 

『えっ、何か不味かったか?』

「ううん。…分かった。君のお願いだし、私も知っていることは話すよ。といっても、人伝だけどね。」

 そして彩矢は、真希が遭遇した大規模な荒魂討伐の顛末や、平城在学下での様子を彼に話していった。

『…ありがとう、彩矢。助かった。』

「いいよ、お礼なんて。」

『じゃ、今度来るときはお世話になる。その時はよろしく頼むよ。』

「うん、またね。」

 

 そして、通話終了のコールが鳴る。

 

 

 

 

 

 

 通話が終わり、寝転んでいた彼女は携帯を近くの机に置くと、枕をギュッと抱き締める。

 

 

「君への私の想い、いつか届くといいな。…一緒に居られる時間が、無くなる前に。」

 

 

 卒業という、彼とまだ気軽に会える学生としてのタイムリミットは既に迫っている。

 だからこそ悔いのない選択をしたい、そう思った彩矢だった。

*1
より詳細な経過は、主人公編『死線を越えて』前後編参照。




ご拝読いただき、ありがとうございました。

とじともではサポートながら彼女のキャラクター性に惹かれましたが、演武大会などでもちょくちょくお世話になっております。
…とじとものサポートメンバーは、プレイアブル化してもらいたい娘がホントに多いと思っております。
(それだけ魅力ある娘達ばかりということですが。※これは筆者の一意見です。)

番外編は今話で一旦終了となります。
次回からは戻りまして、真希編からになります。…名残花蝶、早く聴かなければ。

それでは、また。

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