刀使の幕間   作:くろしお

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どうも、くろしおです。

今回は姫和編 その3をお届け致します。
時系列としては、『実家訪問』の少し後の時期です。

それでは、どうぞ。


④ ゼロ距離と遠距離

 ー刀剣類管理局本部 彼の職場ー

 

 ここのところ、全国横断の旅状態だった彼であったが、この日は珍しく本部の所属部署に居た。

 …実際のところは休みなく動いているのだが。

「姫和のところに寄ったはいいが、新しい収穫は無かったな…。戻ってきてくれたら、そりゃこっちも万々歳なんだが…。」

 

 燃え尽き症候群を発症している彼女が、再度奮起して戻ってくるような状況は本来好ましくないのだが、人手が足りていない現在では、使えるリソースを最大限活用してなんとかやりくりしている状態なのである。

 

「どうが正解なんかね…。」

「お前が愚痴るなんて珍しいな。」

「ああ、糸崎か。…俺にだって、こぼしたいことくらいあるさ。」

 糸崎と呼ばれた同僚が、隣の仕事机に入る。

「ま、何事にも時流ってもんがあるさ。良くも悪くもな。…その辺はお前が一番分かっているだろ?」

「…それもそうだな。俺は俺のやれることをやるだけだ。…この書類の山じゃなければな。」

 不在時に(うずたか)く積まれた書類たち。正直、手を着けるのが憚られるものであった。

「悪いな。こっちも手が離せなくてな。そっちまで手が回らんのだよ。」

 少し半笑いにこちらを見る同僚。

「…糸崎、今から彼女にチクッとく。」

 

 おもむろに自身の携帯を取り出し、ロックを解除する。

「ちょ、お前!バカ、それは止めろ!」

「手伝ってくれるなら、考えるけどな。」

「ぐぬぬ…。鬼!悪魔!荒魂!」

「待て、最後はおかしい。」

 

 そんなやり取りをしていた二人だったが、彼の方の私用携帯*1から通知音が鳴る。

 

 ピコン

 

「ん?…姫和からだ。」

「なに?お前、いつの間に彼女と仲良くなってんだよ!」

 驚く糸崎。

「いや、単に連絡先を交換しただけだったんだが。…仕事で使うし。」

「……忘れてた。お前、元々こういう性格だったわ。」

 彼の言葉に呆れ返る同僚。

 その反応に頭上でハテナマークを作った彼だが、それも程々にして内容を見る。

 

 

from:姫和

『今度来たときに、作っておいてもらいたいものを言え。なんとか準備してみよう。』

 

(…凄く返しに困るヤツだ、これ。)

 仕事のやり取りならいざ知らず、こうしたプライベートのことになるとホント駄目な彼。

「無難に返すか。」

 

 

from:彼

『いつ来られるか分からないが、その時は鹿か猪のジビエ料理を頼む。』

 

 

「これで良し。」

 本来なら、ここで彼があっさり返したことで話は終わる。

 だが、そこで終わらないのも姫和らしいところであった。…彼女の知らないところで、とんでもないことが起ころうとしてはいたが。

 

 

 

 

 その日の晩。自室のテーブル上にスタンドを立てたスマホと向き合う彼。

「…えっ~と。その。姫和さん?」

『なんだ?』

「わざわざテレビ電話をしてくださったのはありがたいのですが、一体何の御用でしょうか?」

 同世代である筈の彼女に萎縮する彼。

 その理由は…、

『いや、お前に送っただろ。あのメールの話だ。』

「あ~。あれの話ですか…。」

 なぜか不機嫌な雰囲気であった彼女。

(俺、なんかおかしなこと言ったっけな?)

 思い当たる節が無いため、姫和の反応を待つ。

『ジビエ料理はまだ分かる。だが鹿ってなんだ!私に県の条例違反を犯せと言っているのか!』

「……あっ、そうだった。」

 奈良県は歴史上、神の遣いと称されるほど鹿との縁が深く、国の天然記念物にも奈良の鹿として指定を受けているほどだ。

 このため、許可された狩猟以外での鹿の駆除は県の条例違反などに当たる可能性が高いのである。

 つまるところ、姫和は危うく触法行為を働くところであった。

 

 

 

 

「いや、まさかそこまで本格的に動こうとしてるとは、こっちも思わなかったからな。すまない。」

『まったく。…それで、来た時は猪の料理でいいんだな?』

「ああ。…いや、ホントごめん。」

『…はあ。全く、物事を考えているのかそうでないのか、お前はいつも分からないな。』

「…はははっ。」

 乾いた笑いしか出てこない彼。

『そういえば、そっちの動きはどうなんだ?』

「ん?…まあ、各校でバランスを取りながら関東に派遣してもらっているぞ。そのおかげか、他校の生徒同士で仲良くなることも間々あるぞ。」

『そうか。なんだかな…。』

 ちょっと悲しそうな顔をする彼女。

「…こっちは当面大丈夫だ。気が向いたらでいい。その時は俺が迎えに行こう。」

『世話焼きな奴だな。』

(だが、それはお前の良いところであり、人柄だろう。)

 画面越しにも伝わる、彼の人間性。彼女もそのことは容易に理解できた。

 

 

 

 

「ところで話が変わるんだが。」

『どうした?』

「…姫和は、チョコミントアイスってどれくらい食べられる?」

『…急にどうしたんだ?』

 段々顔色を悪くする彼。

 

 

「いや、その、ね。……すみませんでしたぁ!!」

『いきなり土下座だと!!おい、何があった!?』

 エクストリーム・土下座競技なら、そこそこいい点が採れそうなほどの姿勢をとる彼。

「実は、姫和の承諾なしに破棄されそうだったチョコミントアイスを、一部其方に送りました!ごめん!」

『…はっ……、はあぁぁぁっ!』

 あまりにも急な爆弾発言に、アングリと口が開ききってしまった彼女。

 普段のクールビューティーな姿は、一体どこへいってしまったのかといわんばかりの表情と化していた。

 

 

 

 

『んんっ。取り敢えず、言い訳を聞こう。』

 咳払いしつつも冷静さを取り戻し、襟をただす彼女。着ていた白地に紺色の縦線が入ったポロシャツに、黒髪が映える。

「…三日くらい前か。可奈美と薫とで話をしたときに、アイスの話に移ってな。その時に鎌府の購買で扱っているチョコミントアイスのことが出たんだ。」

『ふむ。なるほど。』

「で、だ。薫が『姫和なら嬉々として食べるんじゃね?』みたいなことを言って、それをたまたま聞いていた購買のおばちゃんが『ならいっそ、その子のところに送れないか?』という流れになってな……。」

『それで?』

「あまりの量だったもんだから最初は断ったんだが、横から沙耶香が『食べ物を粗末にしたら、舞衣が怒る』と言ったもんだから、その時の表情に負けて買う羽目になったわけだ。」

『…確かに、沙耶香の意見は分かる。あの顔で来られたら、私でも無理だ。だが、問題はその後だ。』

 下手をすれば送りつけ詐欺、テロ紛いにも取られかねない。

「…すみませんでした。」

『本当に、そこは反省しろ。事前に言ってくれれば、まだ良かったが。』

「……弁明のしようもございません。」

 がっくりと肩を落とす彼。

 画面の向こうで、大きなため息は吐く彼女。

『…それで、モノはいつ届くんだ?』

「確か…、明後日の夕方にそっちに着くかな。」

『量はどれくらいになりそうだ?』

「200mlのサイズが20個、それが5箱だ。あっ、料金は全部こっちで持った。」

『…いくらチョコミントが好きとはいえ、限度があるぞ。』

 搬送されてくる量に目眩がした彼女。

「これでも減らした方なんだ。こっちは大型冷凍庫を買って、なんとか減らしているところだ。」

『…ちょっと待て。一体どれほど残っているんだ?』

「……姫和に送った量の二倍以上…だな。」

『流石におかしいだろ!』

「…なんでもかんでも、買えばいいという問題ではないな。」

『……まあ、こっちに送られた分はどうにかする。そちらは…頑張れよ。』

「善処します…。」

 

 なお、彼も居た鎌府では各校から来た人間一人ひとりに、何個かずつチョコミントアイスが手渡されていったという。

 ある者は美味しく平らげ、ある者は発狂しかけ、ある者は新しい調理法を編み出すなど、各自でチョコミントアイスの山を攻略していったそうな。

 山が消え去った時には、生徒一同揃って謎の感動があったそうだ。(ちなみに姫和は十日間かけて攻略していったらしい。)

 

 

 

 

 話は変わり、姫和が舞草に匿われていた時の話が出てくる。

「そういえば姫和。里のお祭りの時に撮った浴衣の写真、まだ送ってなかったよな?」

『…というか、いつの間にそんなものを撮っていたんだ、お前は。』

「現役の諜報員を舐めてもらっちゃ困るな。…まあ、皆綺麗だったし、姫和のチョコミントバナナを頬張る姿も撮れたから、正直あの場に居れて良かったがな。…一緒に行きたかったんだが、あの時は仕方なかったな…。」

 

 実は、姫和達が舞草の持つ原子力潜水艦で脱出を計っていた頃、彼は彼女達に同行せず、現地の特祭隊と急行した親衛隊に合流したのである。

 コレには理由があり、元々親衛隊ともパイプを持つ彼まで来てしまったら、後々信用問題になりかねないことが挙げられた。また、反撃の狼煙を上げるにせよ、本土に構成員が居なければ作戦の選択肢が狭まってしまい、どうにも動けなくなるという問題も浮上したためだ。

 泣く泣く彼は、殿を務める長船の刀使達に申し訳なさと悔しさを覚えながら、里のある紀伊半島から鎌倉に帰参したのであった。

 

 …そして、あの奇襲作戦だった。

 

「……。」

『どうした?急に黙り込んで。』

「ちょっとな。…落ち着いたら、一度里に戻ってみるかな。」

『そうしてみろ。私も改めてお礼が言いたいからな。』

「ああ。」

 

 

 姫和と話し出して約一時間。

 友人というには、もう少し関係を深めていた二人。

 まだ、恋仲と呼ぶには遠く及ばない頃であった。

 

 

 

 

 テレビ電話もそろそろ佳境といったところで、姫和が口を開く。

『なあ。…少し気が早いことを言うが、いいか?』

「ん?なんだ?」

『刀使に復帰するしないは別としてなんだが、来年の夏に大阪か奈良の花火大会を…、その。…いっ、一緒に観てくれないか?』

 だいぶ先の予定をぶっこんでくる彼女。事実上、デートの誘いだ。

「可奈美達ではなく、俺とか?」

『可奈美達とは別でだ。…どうだろうか?』

 勇気を振り絞って言ったと分かるくらい、頬を真っ赤に染める姫和。

 彼は一分程度考え込んだ後、画面に向けて口を開く。

「…その提案、乗った。」

『本当か!?』

 ちょっと嬉しそうに声が弾む、彼女。

「但し、条件がある。」

『…じょ、条件だと…。…もし、いかがわしいことを考えているのなら、次会った時に斬るぞ!』

(まだ何も言ってないんですが、それは。)

 心の中で姫和に突っ込む彼。

「…その時は浴衣と雪駄で来てほしい。条件はそれだけだ。」

『…本当にそれだけでいいのか?』

「ああ、それだけだ。なんで浴衣の似合う娘が自らその選択肢をかなぐり捨てるのか、俺には理解できないしな。」

 彼個人もTPOや写真映えなどを考慮した上で言っているので、言っていること自体におかしな点はなかった。

『分かった。…夏が楽しみだな。』

「そうだな。」

 

 まさかこっから半年以上、姫和や彼にとっても再び大変な時期に突入しようとは夢にも思わなかっただろう。

 この約束はここから約十ヶ月ほど後に果たされるのだが、色々乗り越えた二人の関係は更に壊れにくいものへと深化していった。これはまた、後の時系列の話となる。

 

 

 

 

「さて、そろそろ時間だな。」

『そうだな…。気付けばこんな時間か。』

 時計の針は、もう間もなく日付を飛び越えようとしていた。

「アイスの件、すまないがよろしく頼む。」

『分かっている。…お前も、体を崩さないようにな。』

「それはお互い様だ。」

『じゃあ、またな。』

「姫和。」

『ん?』

「…姫和の選択がどうであれ、俺はそれを尊重したい。何かあれば、連絡してくれ。」

 本来ならこんな気遣いは不要だろうが、彼の人柄がそうさせたのだろうか。

 それを静かに聞いていた彼女。

『大丈夫だ。…まあ、愚痴くらいは話すかもな。』

「本当か!?」

『バカ。私の言葉に簡単に乗せられるんじゃないぞ。…じゃあな。』

「おいちょっと、姫和!」

 画面は暗く落とされた。

 

 

 

 

「ふう…。」

 自分でも思った以上に話していた姫和。

「アイツ、ちゃんと話を聞いていたな。」

 両親を亡くした彼女にとって、可奈美達や彼の存在は重要な、いや大切な存在と化していた。

「…どんな浴衣だったら、喜んでくれるだろうか。」

 早速、柄や色などを思案し出す彼女。彼女自身も楽しみであることに変わりはないようだ。

 

 

 

 

「そう日は経ってないんだが、やっぱり姫和の声を聞くと安心するな。」

 改めて自身の中での彼女の存在感を思い知る彼。

「…写真の姫和も、もうちょっと柔らかい顔だったら良かったんだが、それは贅沢か。」

 作業机の上に立てていた写真立て。その中には、里で撮った二人の写真が収められていた。

 …表情のガチガチ具合は、二人ともあまり変わらないのだが。

 

「…何事もなく、静かに夏まで過ぎてくれればいいなぁ…。」

 この彼の盛大なフラグは、後に東京が災禍に見舞われることで最後の回収を受けるが、そんなことを知るわけがなかった。

 

 

 

 

 奈良と鎌倉の夜空は、澄み渡る秋空が二人を繋ぐようであった。

*1
彼はスマホタイプの業務用携帯、私用携帯、そしてスペクトラムファインダーの三つの端末を常時持っている。なお、携帯番号はそれぞれ異なる。




ご拝読頂きありがとうございました。

今度のコミケで販売予定の可奈美と姫和(とねね)のチャイナ服タペストリー、良かったですね。
ねねの尻尾が肉まんを掴んでいるのも、ほっこりするものだと思います。
現地に行かれる方は無理をなさらないように…。

次回は舞衣編です。
それでは、また。
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