刀使の幕間   作:くろしお

220 / 235
どうも、くろしおです。

今話は前回に引き続き、諸メンバー編となります。

サポートキャラクターの投票では二位を勝ち取り、とじともでも登場することが間々ある、研師を目指す少女の話になります。
時系列は、御前試合から遡り前年の九月頃になります。

それでは、どうぞ。


陽菜編 青砥館のある一日

 ー東京都渋谷区 青砥館ー

 

 新宿・渋谷に挟まれたエリアにある、若者の街、原宿。

 その街中に、数多くの刀使や刀好きの一般人などの御用達である、刀剣・刀装具専門店『青砥館』はある。

 ここの店主である青砥(あおと)陽司(ようじ)氏は、伍箇伝の人間からも目を付けられるほどの腕前をもつ刀工技師でもある。まあ、そんな彼の裏の顔は舞草の構成員である。

 その看板娘で、可憐な青髪を靡かせる陽菜(ひな)。彼女もまた、そんな父の背中を見て育ち、同じ道へと進む選択をしたのである。現在は鎌府女学院の刀匠課に所属し、日々技術の研鑽に励んでいる。最も、高等部二年生でもあるため、そろそろ進路などを考えていたりはするのだが。

 ちなみに、陽菜自身も早希経由で舞草に所属はしているのだが、実のところ父親もまた舞草の一員であることを知らない。

 

 ある土曜日の朝、三連休初日ということもあり、青砥館にやってくる人も増え始めていた。

 陽菜もそれに応じて、店の手伝いをしていた。ちょうど、月に一度はやってくる中年男性の常連客が訪れる。

 

「いらっしゃいませ~!青砥館へようこそ!」

「おお、陽菜ちゃんじゃないか。学校の方はどうなんだい?」

「ぼちぼちやれてますよ。今日はどんな商品をお求めですか?それとも、刀の整備とかですか?」

「おおっ、商魂逞しいねえ。今日のところは、刀を持ち運ぶ際のケースが幾つか必要になってねえ。在庫はありそうかい?」

「ちょっと確認してみますね。」

 オトーン、と陽司を呼ぶ声を店内に響かせる陽菜。

 その光景を見ながら、男性は

「やっぱり、陽菜ちゃんが居るだけで、店の雰囲気がだいぶ変わるねぇ。若いって、いいもんだなぁ。」

 と、彼女の居ないうちにこう呟いた。

 少し経ってから、男性のもとへ陽菜が戻ってくる。

「お待たせしました!ウチにある品だと、一太刀分や三太刀分、脇差くらいの大きさのものが三つ入るケースがそれぞれありましたけれど、どうなさいますか?」

「…そうしたら、三太刀分入るケースを四つ貰おうか。美術品として輸送する時には、多く入るものの方がいいからねえ。」

「毎度ありがとうございます!すぐ準備しますね!」

 ハキハキと男性に返した彼女。

 その後、ケースを持ってくるとすぐに会計が行われる。

 青砥館では購買層の広さから、現金のみならずクレジットカードや電子決済での支払いも出来るようにしてあった。

「いつものように、カードで。」

「はい。お預かりします!」

 そのまま諸手続と会計を済ませ、男性はもう一人連れの若い男性と分けて、ケースを持って出た。

「ありがとうございます!またお越しください!」

 陽菜の声は、店外にまで届いていた。

 

 

 

 

 お昼を過ぎ、今度は伍箇伝各校の生徒達がやって来る。多くは鎌府の生徒なのだが、比較的距離の近い美濃関や綾小路、中には長船の生徒の姿もあった。

 

「陽菜、どんな感じだ?」

「オトン、結構人が来だしてるよ。だいたいは刀使の皆さんみたいだけれど。」

 店舗奥の作業場で、預かった御刀の手入れや柄の調整などを行っていた陽司が、彼女に店内の様子を聞く。

「すみませ~ん。」

「あっ、はい!すぐ行きます!」

 店内で手を上げて、陽菜を呼ぶ刀使。仲間も一緒のようである。

「この商品て、もう売り切れちゃいましたか?」

「この色の柄糸ですか…。そうですね、先ほど買われていったお客様がいらしたので、この商品は完売ですね。」

「そうですか…。」

「あ、でも同じ会社でこの商品に近い色のものは、ウチにもありますが、どうなさいますか?少しはお安くできますが。」

「じゃあ、お願いしてもいいですか?」

「はい!お任せください!」

 そうしてまた一人、商売を成り立たせていった。

 

 

 陽菜が店内で手伝いをしている時は、基本的に鎌府の制服である。最も、その上に業務用のロングエプロンを着ているので、傍目から見ればアルバイトの学生にも見えなくはない。

 

「ふう…。お客さん、普段に比べたら多いなあ…。」

 

 三連休の場合、仮に遠方から来ても時間的にゆったりとれることがあり、原宿という利便性の良い立地もあって遠くからの刀使も訪れやすいのである。

 頻度に御刀を使う伍箇伝の各校の刀使を合わせても、その数だけでも約六百人、これ以外にも折神家で警備にあたる刀使などを合わせても千人いればいい方ではある。マーケットとしては狭いものではあるが、年頃の彼女達にも受け入れられているからこそ、今のこの店があるわけでもある。

 

 

 

 

 そんな折、一人の青年が入店してくる。

「いらっしゃいませ~、…あれ、◯◯(彼の苗字)さん!?」

 驚いた彼女の視界には、本部所属の彼の姿があった。

「お疲れ様、陽菜。陽司さんに用があって来たんだが…、忙しそうだな。」

「お話しか何かですか?」

「そんなところだったんだが…。…というか陽菜、俺と話して大丈夫なのか?」

「今のところは大丈夫ですよ。ほら、刀使の皆さんて、慎重な方も多いじゃないですか。商品選びに時間をかけてくださっているなら、こっちもありがたいですよ。」

 そう言って微笑む彼女だったが、レジの方に目をやると、そろそろ会計しようかとソワソワして待つ、多くの客達の姿を捉える彼。

「…陽菜。なんかもっと忙しくなりそうだから、会計だけでも手伝っていいか?俺は商品の品揃えとかは分からないから、そっちを任せたい。」

「えっ、…ああ、はい。分かりました。それじゃあ、お会計の方はお願いします!」

「よしきた、任された。」

 

 普通ならば、店の金を他人に扱わせていいものかと思いそうになるが、陽司・陽菜双方に顔を知られており、かつ売上金を盗むような人間ではないことを陽菜に理解されていたこともあり、このあたりはすんなり合意がいった。

 

 

 

 

 そこから先の数時間は大変であった。陽司は御刀整備などを、彼は次々にやってくる客への会計を、ハムスターの滑車のごとく捌いていき、大車輪の活動を見せた。

 混雑が落ち着いた頃には、既に日も傾いていた。

 

 結局、閉店近くまで手伝うことになった彼。ほとんど無給水で動き回っていたこともあり、陽菜から水を渡されるまで集中しきっていた。

「○○さん、お疲れ様です。…早希さんや里奈さんの言っていたことって、本当だったんですね。集中すると真剣さがもっと増すっていうのは。」

 数個の氷が入ったマグカップを手渡すと、カウンター内の椅子に座る彼の隣に、彼女もパイプ椅子を持ってくる。

「ずっと会計ばかりしていたけれどな。…不手際が無きゃいいんだが。」

「それでも助かりましたよ。本当ならオトンと話をしに来ただけだったはずなのに、私達の手伝いを買って出てくださるなんて、思いませんでしたから。…たぶん、今日は年に数回あるかどうかの繁忙日でしたし、尚更ですよ。」

「そうか…。…おっと、マズい。」

「えっ、◯◯さん?」

 彼も会計時、無意識下にずっと集中力を使い過ぎたことと、先ほどまで無給水だったことが祟り、頭がオーバーヒートを起こしていた。

 

 

 結果、マグカップこそ近くの机に置いていたから良かったものの、彼は陽菜の方へ、フラッと上半身を傾けてしまった。

 傾ける直前に彼が声を発したことで、彼女の方もその異変に気付き、両手で上手く彼の両肩を抑える。

「…悪い、陽菜。ちょっと無茶し過ぎた…。」

「◯◯さん、本当に大丈夫ですか?」

「…多分。戻してもらって大丈夫だ。」

「私の経験上、大丈夫って言う人ほど大丈夫じゃないんですよ?…そのまま、私に体を預けてもらっても平気ですから、じっとしていてください。」

「…おっ、おう…。」

 そうして彼女は、ゆっくり彼の体を傾けつつ、パイプ椅子も横にずらしていった。

 

 

 ポフッ、という感覚が頭に伝わる彼。

 上半身は座っていた時より、直角の向きに置かれる。

「取り敢えず、私の太股に頭を置かさせてもらいましたけれど、どうですか?」

「…率直に言って、柔らかい。…ごめん、セクハラだったか?」

「いえ。乗せたのは私の意思ですから。」

 彼からは陽菜の表情は見えないが、眼前にはカウンターの裏構造が見える。

 

「今日来て改めて思ったよ。…陽菜、君は凄いな。陽司さんのもとで技術や商いを学び、鎌府でも更に技術に磨きを掛けようと努力している。」

「そんな、私なんてまだまだですよ。」

「それでもだよ。俺はその手の技術を学んでいくのがどれ程大変なものか、きっと想像もつかないだろうし、その道を進んで学ぼうという強い意志は俺には無い。それに…。」

「それに?」

 彼女の太股から、彼女の体に当たらないように捻りつつ、元のように上半身を起こす彼。

「時々鎌府で、陽菜が刀使達に整備し終えた御刀を渡す時、刀使が喜ぶ姿を見た自然な笑顔が、俺には印象深くてな。こういう何気ない、日常の一コマを守っていかなくちゃならないんだ、そんなことも思わされるんだよ。」

「そうだったんですか…。」

「まー、残念なことに俺は男だし、御刀どころか模造刀すら所持してないんだがな。一般人の刀の所持は、色々規制があるからな。…そういう点じゃ、陽菜の技術を直接感じ取ることが出来ないのは、凹むところもあるけれど。」

「…もし◯◯さんがよろしければですけれど、鎌府に居る時でも私の作業風景くらいならお見せできるかもしれませんが、それでも構いませんか?」

「いいのか?」

「はい!私でよければ!」

「なら、また今度見させてもらおうかな。…何時になるかは分からんけれど。」

「その時はお任せください!」

 彼女が見せたはつらつとした笑顔に、彼もまた何かで応えようとも思うのであった。

 

 

 

 

 その姿を後ろから見ていた陽司は、なにやら意味深な表情を浮かべていた。

「…けっ、見せつけてくれるじゃねえか、坊主。…まあ、責任取って陽菜をもらっていくならば、目を瞑っておくとするか。」

 娘と舞草の知り合いの様子を見つつ、また一刀、柄の整備を続けていくのであった。

 その後の舞草の話は遅くなったものの、用件はきちんと伝えた彼であった。




ご拝読いただき、ありがとうございました。
名前の同じ某ヒット映画のヒロインと間違われていないか、不安が…。

今日はつぐみの誕生日になります。
…先行して彼女の話を数日前に投稿したのはミスだったのか、など思いましたが、粛々と投稿を進めさせていただきます。

次話で番外編は一旦終わります。
感想等ございましたら、お気軽に感想欄・活動報告へご投稿頂ければと思います。

それでは、また。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。