刀使の幕間   作:くろしお

226 / 235
どうも、くろしおです。

今回はとじともで登場しました、美濃関のプレイアブルキャラクターである少女の話を投稿致します。

時系列は御前試合前、前年の九月頃を想定して執筆しております。それでは、どうぞ。

※暁とは誰ぞや?という方のために、ざっくりとした説明を下に記します。

稲河(いなご)(あきら)

美濃関学院の高等部一年生の刀使。薫、エレン、夜見と同学年にして、夜見の幼なじみでもある。外見は長身の黒髪ロング、ところどころに赤いヘアカラーが入る。
秋田出身で、背中側になまはげのイラストが描かれたジャケットを制服の上から羽織るほどに、郷土愛の強い少女。
ツーリングが好きで普段からバイクを乗り回すも、自身のハプニング体質により度々パンクに悩まされる。

不良であることを本人も認めてはいるが、強面そうな雰囲気に反して、可愛いものの収集活動や涙脆さといったギャップもある。
舞草に所属していると本人は主張しているが、薫達や彼などの舞草主流派とは異なる、何らかの目的や彼女へ指示を出している人間がおり行動している模様。(執筆当時)


暁編
ミッドナイト・ツーリング 前編


 ー刀剣類管理局本部 駐車場ー

 

 夜七時を回る頃。広い駐車場の敷地の一角に、程々の大きさのバイクが二台停められていた。

 一台は前面が朱色で彩られ、遠目からでも存在に目を惹く。その隣には黒を基調とした国内メーカーの車両が、申し訳程度に停まっていた。

 

 その傍らには黒髪に赤いヘアカラーが混じった少女が、いわゆるヤンキー座りをして何かを待っていた。この少女の名は稲河(いなご)(あきら)。名前も独特だが、初見の人間は怖そうな印象を抱きがちではあるものの、話してみると会話が普通に通じる少女でもある。(彼視点)

 刀使ではあるのだが、彼女のかなりのハプニング遭遇体質も相まって、実際の剣の腕前に関しては所属している美濃関の中でも謎とされている。一説には、美濃関最強とも目されている。

 

 

 

 

 

「…ったく、おっせえなぁ…。アイツは一体何をやってるんだ。」

 

 彼女がぼやいた理由。それは、隣に停めてあるバイクの主を待っていたためだ。荒魂討伐のため、たまたま鎌府に出向いてきていた暁が鎌府の刀使に代わって、箱根町での討伐任務を依頼されたのだ。

 ただ、彼女だけが行っても討伐支援を行う人間は最低限必要になる。そこで急遽送り込まれたのが、仕事が一段落して官舎の自室に帰ろうとしていた彼であった。彼としても予定外の出来事であったため、一通り準備をしてから暁と共に箱根へ赴くことにしたわけである。

 

「にしても、アタシと同じ大きさのバイクとはねえ…。確か、同じ歳って聞いたっけなあ。」

 

 この黒いバイクの持ち主こそ彼なのだが、暁は場所こそ指定されてここへやって来てみたが、バイクしか無かったということもあり、彼女が今ここに留まっているわけでもある。

 

「…アタシがアイツと会った時に、バイクの話をチラッとしただけでバイクを持って来い、って言われるとは思わなかったけどなあ。本部(ここ)の人間は変人ばかりなのか?」

 

 と、彼女がそんなことを呟いている時だった。

 一台のアルミコルゲートバンタイプの4tロングトラックが、暁の前に停まる。トラックから降車してきたのは、先程言及していた彼であった。

 

「稲河、待たせた!」

「おい、○○(彼の苗字)!このトラックは何だ!?」

「ああ、これ?そこのバイクと必要な装備を積むためのヤツ。」

「ちょ、ちょっと待て!アタシのバイク、ぶつけられると困るんだが!?」

「…ちゃんと締結装置と車両止めも載せてるから心配するな。というか、俺もバイク載せるんだから、それくらいはキチンとやるわ。」

「お、あ、そうだった。」

「…意外と表情がコロコロ変わる娘で、面白そうだな。」

「だっ、誰のせいだ、このタコ!」

 

 暁も恥ずかしかったのか、少し顔を赤くする。

 

「っと、取り敢えずそこのバイクを載せていこう。必要な装備はもう先に積んであるし。」

「えっ、そうなのか?」

「女の子を寒い中待たせている自覚もあるし、そりゃ先積みしてなきゃ怒るだろ?」

「…それじゃ、バイクを積むときは丁寧に頼む。…というか、箱根まで(・・)ツーリングするんじゃなかったのか?」

「箱根()ツーリングをするんだ。…というか、その分の燃料が無駄になるし疲労も溜まるだろ?なら、俺が途中までトラックで運んだ方が効率いいし。任務が終わって、もしかしたらそのまま美濃関にも帰れるかもしれないだろ?」

「……この野郎、意外に後のことまで考えてやがる。」

 

 そんなこんなでトラックの垂直リフトを用いて、二台の普通二輪をしっかり車両止めと締結装置に噛ませて載せる。出発準備が整うと彼の運転のもと、二人は今日の泊まり先である箱根湯本温泉へと向かう。

 

 

 

 

 道中、途中まで東名高速経由で箱根町へ下るという手段もあった。しかし、あまりに高速だと急ブレーキを踏んだ際に積んでいるバイクが破損する可能性があったため、一般道をひたすら南下する。とはいえ、そう時間が掛かる距離でもないため、余裕をもって進む。

 

「なあ。お前って確か、本部じゃ有名な人間なんだよな?」

「ん、どうした?急に藪から棒な話で。」

 道中、暁が彼に言葉を投げ掛ける。

「いや、もしも調子に乗っているようなヤツだったら、アタシも一発ぶちのめそうとも思ったんだが、そんな気配が微塵も無え。ちょっと気になってな。」

「いや、女所帯の中で調子に乗るって…。刀使や生徒達の機嫌損ねたら、あっという間にどっかへ首が飛ぶような気しかしないんだが…。それに、ぶちのめすって…。俺、また何かやらかした?」

「…安心しな。少なくとも、今はそんな気じゃねえ。アタシがそんなホイホイ手を出すような女に見えるか、ってんだ。」

「…正直に言うと、会って数回か数時間でその方の人間性を見抜けというのは、中々難しいものだと思いますが。稲河さん、いかが思われますか?」

「おっ、おい。なんでそんな急に、丁寧な口調なんだよ!?」

「……冗談だ。…まあ、あんな風に表情が崩せるなら、そこまで悪い人間だとは思ってねぇよ。俺はだが。」

「……そりゃどうも。」

 

 確かに彼女は不良ではあるが、それはあくまで大人の視点から見た時の話であり、彼からすると素直に話を聞いてくれている分、暁が極端な悪人とも思えなかったのだ。

 世の中、本当の諸悪というのはこんな単純な性格はしていない。特に、表情(かお)で見抜けるくらいならばそこまで大したことは無いのだ。彼女に対しては失礼なことかもしれないが。

 

「…しっかしまあ、もし美濃関で生活を送っていたら、もっと深く知ることができたのかもなあ…。」

「何をだ?」

「え、稲河のこと。だってなあ、俺の学籍はまだ美濃関のままだぞ。」

「……ああっ!?ちょ、ちょっと待て!―美濃関のままってどういうことだよ!?」

「えっ、討伐依頼の報告を羽島学長にした時、学長から何も聞いてないのか?―少なくとも連絡を取った時に、稲河がどういう生徒か、というのを俺は学長の方から事前に聞いてたんだが。」

「…いいや。全く。…というか、お前。羽島学長の連絡先、知っているのかよ。」

「本部の業務と相談をする時にちょっとな。…あー、でも知らないのは無理もないか。入学して数ヶ月で本部に飛ばされた訳だし。それを知っている人間も、刀使科なら尚更少ないだろう。」

「…ちょい待て。入学は美濃関なんだろ?だったら、アタシと顔を合わせている可能性だってあるだろうに。」

「本部に飛ばされるたった数ヶ月のうちに、俺は中学二年生までの学習指導要領範囲の完全な履修と、荒魂と刀使との基本的な関係性や法令等々までを叩き込まれたんだぞ。夏休みなんて、あってないようなものだったし。寮に帰っても勉強、勉強、勉強…。…そんな中で、刀使とか他の女子生徒と話す機会なんて有ったと思うか?女気があったと思うか?」

「………アタシでも分かる。無いな。」

 

 暁もまさかこんなところで、同級生の苦労話を聞かされることになるとは思ってもみなかった。不良とはいえ授業は受ける身であっても、それを纏めて喰らわされたらどうなるかは、彼女でも容易に想像がついた。

 

「それである程度教養を蓄えた上で本部、ってわけか。…お前も結構、苦労人なんだな。」

「今の環境も悪くないと思っているが、同時に美濃関で穏当に過ごしていたらどんな風に日々を送っていたのかな、とかはたまに考えることがあるな。流石に。」

「…そうかい。」

「…もしかしたら、もっと早く君のことを知れたかもしれない、とか色々思うけれどな。後の祭りだろうけどね。」

「ま、いいじゃねえか。今はこうして話が出来てるんだ。…きっと、これも何かの縁だろ。」

「縁かあ…。…それもそうかもな。」

(……何か、上から聞かされていた感じと全然異なるんだが。コイツ自身は知らねえみてえだが、相当目の敵にされていたみたいだな。…もう少し、見極めてみっか。)

 

 暁自身も様々なしがらみがある中で、隣の彼が自分にとって信用・信頼できる人間であるかをよく吟味していた。…恐らく、面識のある陽菜*1や和美*2から聞けば彼の人物像の一端を知れたのだろうが、今は自分の耳目で確かめてみようと考えた。

 

 運転中、エンジン音と時折扱われる排気ブレーキの音が、二人の耳に響き続ける。

 箱根の山々へ分け入るには、あともう少しのところである。

 

 

 

 

 

 

 ー神奈川県箱根町 箱根湯本温泉 某宿泊施設ー

 

 さて、チェックインを終えた二人だが、実は出発前、彼は財務課の方から経費削減を盾にされ、宿泊部屋を一室にするよう求められた。

 その件で頭を抱えた彼だったが、正直に暁へその話をすると、

 

『あっ、そうなのか?…別にお前が悪いわけじゃねえんだろ?気にすんなっての。』

 

 と、逆に気を遣わせてしまった。

 加えて、宿泊経費として渡された金額的にツインルームしか予約が取れないことも分かり、彼女の言葉に大人しく甘えることになった。彼としても、彼女と変に摩擦を生むような真似は避けたかった、という点は大きかったようだ。

 

 とはいえ、財務課の融通の利かなさはどうにかしろと考えたくなった。何かコトが起きてからでは遅いというのに、というのが彼個人の考えであったのだ。…後々、彼絡みの件は財務課の中でも特例扱いされていたことを知った時には、何とも言えぬ信頼性や他者と区別されたことの不快感を感じることとなった。

 

 

 

 

 話を戻し、今回持ってきた装備類はトラックに置いてきており、もし何者かが窃盗でも働こうものなら、即座に警報装置とノブの電撃などが作動するようになっている。これにより、車内に停めているバイクも無事に守られるというわけだ。

 

 

 

 

 部屋に着くと、暁が展開した自分の荷物から何かを取り出す。

「稲河、それは?」

「ああ、これ?ライダースーツだよ。…お前言ってただろ、ツーリングするって。」

「……あ、すっかり忘れてた。」

「おいおい…。」

「ってことは、ここで着替えるのか?」

「そうだな…。そうさせてもらうわ。」

「分かった。じゃ、俺はトラックでバイクの荷降ろし準備でもしとくわな。この恰好でもバイクは運転できるし。」

「ああ、行ってきな。部屋の鍵はアタシが持っていく。」

「ほいや。じゃ、後でな。」

 先に彼が部屋を離れる。

 

 

 

 

 彼が部屋を去ると、彼女は一人でツッコミを重ねる。

 

「……おい。男はどいつこいつもケダモノって言ってた奴は、一体何処のバカだぁ!?―アイツ、普通にスルーしたぞオイ!」

 

 知らされていた彼の情報と実際の行動との乖離に、もはや驚きもしなくなってきた暁。

 

「…『上』の情報、もう信用したく無くなってくるなあ。オイ。」

 地味に彼女からの信用度を下げに掛かっている『上』。何事も、事前に偏見を抱いてはならぬということなのだろうが。

 

 

 

 

 黒を基調としたライダースーツを纏い、彼が先に行っていたトラックのもとに辿り着くと、既に二台のバイクは下ろされたあとだった。

 

「おー、稲河。着替え終わったのか。」

「バイク降ろすのが早えーじゃねぇか。お前が下に下りてから、まだ十分も経ってねえはずだぞ。」

「あー、簡単に転がせるタイプの車両止めだったしなあ。車両止めも外してあるから、あとはもう、キーを挿してエンジンを噴かすだけだ。」

「…あの黒く積まれたのは何だ?」

 

 暁の視線の先にあったのは、荷台の中身だった。

 

「あー、あれ。あれが持ってきた装備とか、あとは簡単な工具だな。故障した時の。本当なら、稲河の後をトラックで追う形が良かったんだが、仕方ない。俺もたまには、コイツを動かさないとな。」

「その黒いバイクのことか。」

「ああ。親父から勤続祝いで貰った奴なんだが、忙しくてこういう機会じゃないと運転できないんだよ。」

「…お前んとこの親父さん、バイク好きか?」

「いや、…そういや聞いたことないな。」

「そうか。」

(耐久性のあるバイクだな。…ただ、市販モデルで特に何か弄っているわけでもなさそうだ。)

 

 彼女はそんな分析をしつつ、外へ通じる通路へとバイクを転がす。

 

「じゃ、行くか!」

「ちなみに、目的地はどこだ?」

「そりゃ勿論、芦ノ湖だ!」

「…了解。工具は俺のバイクに積んでいくから、大丈夫だ。他に何か持って行くモノはあるか?」

「…いや、無いな。強いて言えるなら、タイヤくらいか。」

「それは流石に…、無理だな。すまないが。」

「…いや、良いってことよ。じゃ、アタシが先導するぜ。」

「行き道はお任せするさ。あまり遅くならないうちに行こうか。」

 

 

 

 

 こうして、暁と彼の秋のツーリングが始まろうとしていた。

 

 

 しかし、彼は知らなかった。

 暁の類い希なるハプニング体質のことを。

 

 

 夜の箱根は、寒さを増して更けようとしていた。

*1
鎌府女学院の青砥陽菜(とじともサポメン)のこと。とある縁から面識を持つ。

*2
鎌府女学院の綿貫和美(とじともサポメン)のこと。バイク好きのよしみ。




ご拝読いただき、ありがとうございました。

…道交法などの法令に関しては、後日設定集の方で理由等を書かせていただきます。(なんで主人公が16歳以下でも運転できてるの?など。)
というか現行法令をそのまま当て嵌めてしまうと、大型二輪免許の交付基準上、暁は運転できないという矛盾が…。(普通二輪はギリセーフという)
そのため、本作では二人ともバイクを普通二輪免許で運転している事にしています。

彼女は12月には来なかったのですが、3月に迎えることができました。…読み方が初見殺しすぎる。

それと彼女のエピソードを読みながら、綿貫さん(とじともサポメン、鎌府女学院)がツーリングを楽しんでいることを知るとは思いませんでしたよ。
よくよく手持ちのサポートカードを見てみたら、はっきりバイクのイラストが入ってましたから驚くほかありませんでしたが。

イベントで『琉球剣風録』のメイン二人が登場するとは思いませんでしたよ、ええ。(筆者もビックリ)
…ところで、とじともに新規実装された『キズナ機能』、実績の部分で“25”種類(つまり人)クリアのモノが有ったのですが、今プレイアブル化している人数って何人でしたっけ…?(確か“22”人じゃあ…。)

長い筆者の愚痴も漏れましたが、後編へ続きます。

それでは、また。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。