刀使の幕間   作:くろしお

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どうも、くろしおです。

今回からは番外編をお送り致します。
今話はミルヤ編を投稿させて頂きます。

それでは、どうぞ。


ミルヤ編 刀剣展覧会

 ー綾小路武芸学舎ー

 

 明治維新での事実上の東京遷都*1までは、古来から日本の中心であり続けた古都京都。

 その市域内に綾小路武芸学舎はある。

 刀使同士が試合以外で武力衝突するなどという前代未聞の事態が起こった発端は、他でもないこの場所だった。

 

 

 タギツヒメ・近衛隊などを擁する綾小路・維新派と他の四校の伍箇伝に分断されるなか、政治的駆け引きや物理的衝突などを経て、タギツヒメが隠世に送られたことにより双方の分裂状態は自然消滅へと至った。

 …その代償は、とても大きなものとなったが。

 

 

 

 

 東京での混乱を経て、近衛隊に所属していた刀使達の現状確認や、綾小路の担当していたエリアの荒魂出現状況の整理などで向かってきていた彼。調査隊を率いていた彼女とも、今回再会した。

「ミルヤ!」

「お疲れ様です。お話しは伺っていましたが、此方に来られていたのですね。」

「まあな…。事後処理が大変なのは大体どこも変わらんよ。取り敢えず、現状ある刀使の戦力でも回せるようにはしているから、東京への派遣があっても抜かりはないようにしているはず…。一応、ミルヤも目を通しておいてくれ。」

「拝見いたします。」

 

 本部に居る彼やその同僚達などが、可奈美や姫和が行方不明となって以降も、荒魂の対処という日々の業務を滞らせるワケにはいかなかったため、各々の感情を押し殺しながらも編纂した、綾小路の今後のロードマップを彼女に託す。

 

「流石に伍箇伝全体を見渡せる立場なだけありますね。確かに、コレなら今の戦力でも何とか凌げられます。」

「ただでさえ人手不足な現状ではこれが精一杯の線でな。綾小路一校に俺も贔屓する訳にはいかないからな。」

「相楽学長は何と?」

「『当分は任せる』とさ。と言っても、葉菜はじめ綾小路には一癖も二癖もある奴ばかりだ。案外早く正常化するだろうよ。」

「…お返しします。」

「おう。…俺らが出来るのはここまでだ。ミルヤの指揮能力の高さは折り紙付きだし、心配しているわけではないが、恐らくここが踏ん張り処だろう。…出来る限り支援はさせてくれ。」

「…全く、本部の人間がそんなことを言って大丈夫なのですか?ご自分の立場も分かった上で発言してくださいね。」

「悪い…。」

 ちょっとショックそうな彼。だが、彼女は硬い表情から朗らかなものへと変化する。 

「ですが、相変わらず我々刀使や多くの人の為に動いていることも改めて知ることが出来ましたから、私は貴方のその言葉を聞けただけで充分です。」

「ミルヤ…。ありがとう。」

 

 と、一旦会話はここで切れるのだが、彼は彼女が絶対に食いつくであろう話を繰り出す。

 

「ところで、今京都市内の博物館で刀に関する企画展がやってるらしいんだが「行きましょう!どこですか!」…筋金入りの刀好きだな…。」

 会話も途中に、あっさり反応する彼女。

「まあ慌てるな。ここに二人分のチケットがある。場所は…。」

 目を爛々と光らせる彼女を上手く御しながら、目的の場所へと向かう。

 

 

 

 

 ー京都市 京都国立博物館ー

 

 刀剣類管理局に届出がなされているのは御刀だけではない。

 一般的な刀や薙刀なども、その範疇に入る。単純に御刀の持つ力が強過ぎるため、これらの影が薄いのだ。

 御刀ではない一般的な日本刀と、所謂西洋剣とでは作り方も異なり、第二次世界大戦・太平洋戦争以後は芸術品としての価値も見出された。

 現存する刀そのものは、戦火や連合国軍の占領時の徴収を免れたものが多い。

 

「それにしても、人が多いな…。」

「昨今は刀をモチーフにした擬人化ゲームが流行ったこともあって、女性のリピート率が高いそうです。」

「…興味があるって良いことだよな。受け入れる側は大変だろうけど。」

「どこから見たらいいのか、迷いますね。」

「落ち着けミルヤ、展示品は別に逃げやしないから。」

「ハッ、私としたことが…。」

 若干取り乱す彼女。それを見ていた彼は、和らいだ表情を浮かべる。

「別に良いじゃねえか。見ているだけで目を光らせることが出来るなんて、今じゃそう簡単にはいかないからな。…俺も物事を素直に直視することが出来る訳じゃねえし。」

「…過去に何があったかは聞きませんが、興味関心があるということは、それだけで探求心を生み出しますから、あった方がいいとは思いますよ。」

「全くもって無いわけじゃないんだがな…。ついつい仕事を優先しちまう。」

「…貴方らしいと言えば、それまででしょうが。」

 

 

 二人は他の来館者に混ざり、文字通りの意味で刀の鑑賞を続けた。拵えから柄、刀身に至るまで一本一本の意匠や、切先に至るまで白銀に輝く鋭利な刃が、此方に何か訴えかけてくるものを感じ取らせる。

 

 

 

 

 企画展も一通り見終えたところで、博物館員に声を掛けられる。

「そこのお二方。もしかして刀使さんとその関係者様でしょうか?」

「はい、そうですが…。博物館の方が一体どうされたのですか?」

「実は、我々もいずれ刀剣類管理局に届け出を出そうと思っていた物がありまして…。」

「それは、御刀なのですか?」

「正直、我々は御刀への知識があまり多くありません。直接見てもらった方がよろしいかと思います。」

「だそうだが、ミルヤ。お前さんはどうしたい?」

「私に判断をさせるのですか?」

「俺も正直言って、専門的な分野に関しては専門家でないと判断が付けられないと思ってな。…一応、研師だろ?」

「…現物を見せて頂いてもよろしいですか?」

「はい。此方からもよろしくお願いします。」

 博物館員の先導のもと、モノが仮置きされている収蔵庫へと案内される。

 

 

 

 

「こちらです。」

「ミルヤ、どうだ?」

「…間違いないです。僅かにノロが付いていたり、錆びてはいますがこれは赤羽刀です。」

 たまに荒魂の中から出現したりする赤羽刀。現在は珠鋼の製造・精錬が出来ないため、これを再生することで御刀にしているのだ。

「やはりか…。しかし、何でこれがこの博物館に…。」

「これは一般の方から寄贈された物なのです。『蔵から出てきたのだが、どうしたらいいのか分からない。』ということで、そのままお預かりした次第なのです。」

「…ちなみに、これをこのままお預かりしてもよろしいですか?」

「はい。…刀も御刀も、輝きがあるのが一番いいですから。」

「んじゃ、ミルヤ。お前にそれは任せるわ。」

「よろしいのですか?」

「上にはこっちから話を通しておく。…それに、手元がそんなにうずうずしているようじゃ、他の奴に任せることも出来なさそうだしな。」

「…ありがとうございます。木寅ミルヤ、全力で再生させてみせます!」

「おっ、おう。…無理は、するなよ?」

 

 

 その後、綾小路の方から赤羽刀を入れるための保全ケースを持った複数の人間が、博物館に到着する。

 赤羽刀に付着していたノロに関しては、一旦館内で吸引後に綾小路の方で祀ることになった。今後、各地に分祀される他のノロ共々、その出立を待つ。

 

 

 

 

 徒歩で綾小路に戻る二人。

「しかしまあ、奇妙な縁もあるもんだな。」

「人であれ、御刀であれ、縁というものはそう変わらないものです。無論、貴方に今日会ったこともですが。」

「…さて、戻ったらすぐ鎌倉か。何かあったら、連絡頼むわ。」

「了解です。…それと、今日はありがとうございました。」

「ゆっくり話が出来る機会にまたな。」

 

 

 

 

 そして、京都駅で彼を見送るミルヤ。

 彼との再会を心待ちにしつつ、新幹線のテールランプを見送った。

 梅の花が咲き出す、春の息吹の迫るある日の出来事であった。

*1
諸説あり。




ご拝読頂きありがとうございました。

バラバラな個性を上手く纏めて指揮にあたるという、常人には簡単に出来るものではないことをやってみせる彼女の凄さを感じながら、とじともの今後の展開を注視していきたいと思います。
(由依と葉菜の安否も気になりますが…。アニメで映っていた葉菜はともかく、由依は一体どうなるのか…。)

変則的投稿になりますが、親衛隊編の投稿までは少々お待ちください。

感想等ございましたら、感想欄・活動報告で対応させて頂きます。

それでは、また。

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