刀使の幕間   作:くろしお

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どうも、くろしおです。

今回は番外編として、本作ではちょこちょこ登場していた調査隊の最後の一人の話をお届け致します。
時系列は御前試合の前、九月前後を想定して執筆しております。なお、途中から波瀾編の十二月前後あたりの場面に変わりますのでご注意ください。

それでは、どうぞ。


※葉菜とは誰ぞや?という方のために、ざっくりとした説明を下に記します。

鈴本(すずもと)葉菜(はな)

綾小路武芸学舎の中等部三年生。(姫和や早苗と同学年)
彼女の真面目な性格により他の刀使から注目を集めることもある刀使だが、その裏の顔は綾小路の情報を収集する舞草の諜報員である。

大荒魂・タギツヒメが三女神に分裂していた頃、綾小路を拠点に動いていたタギツヒメや高津鎌府学長(名目上)が画策した近衛隊構想に巻き込まれる形で、同じ調査隊の仲間であった由依と共にノロを取り込んだ冥加刀使にされる。
(※とじともメインストーリー上での話、本作ではそれに準拠する形で執筆)
このため、ノロのアンプル投与で引き起こされた強力な洗脳効果により、実際に美炎ら調査隊と衝突する事態も起こった。

現在(2019年春時点)では、その洗脳から解き放たれているものの、近衛隊当時の行動から自責の念に駆られている。

なお、アニメ本編や漫画版にも彼女の姿が数カットほど登場している。

※2020/5/15追記 筆者の作業ミスにより、一時的に本話が読めなくなっていたことをお詫び申し上げます。また、前書きと後書きが投稿当時の文面と異なります。ご容赦ください。


葉菜編 (そら)架ける橋

 広島県宮島、宮城県松島に並ぶ、日本三景の一つである天橋立。

 京都中心部から、特急はしだてを使って、およそ二時間ほどで向かうことができるロケーションにある。

 

 宮津駅で一旦乗り換え、天橋立駅で降りる葉菜と彼。

 私服姿の二人だが、葉菜の方は刀ケースに御刀を挟んできていた。

 天橋立の方に向かって、歩いていく。

 

「それで、どうしてここまで僕を連れてきたんだい?」

「仕方ないだろ。こういう場所でもなけりゃ、綾小路の中じゃ、のんびり話も出来ないしな。まして、舞草のことも話すとなれば、それなりの対策は必要だろ?」

「…確かに、こうした観光地ならどんな人間でも、一つ一つの会話をふるい分けるなんて、不可能だろうしね。」

「…まあ、俺が葉菜と話したかった、ってのもあるけどな。」

「……煽てても何も出ないよ?」

「話術で負けるのは目に見えてるんだから、そんなことは思わんさ。」

 

 そう言って、苦笑する彼。

 

 

 前日に早々と綾小路での仕事が終わり、一日ほど休みが確保出来たため、どうしようかと思案していた際に、たまたま会ったのが彼女だった。

 彼女も、翌日は休みだったこともあり、最近の綾小路のことも聞くついでに、気分転換に誘ったのである。

 確かに紫派の人間に聞かれるリスクは減るが、端からすれば、ちょっとしたカップルのデートにさえ見える光景だ。

 

 

 

 

 天橋立に整備された歩道を歩きながら、並んで歩く二人。ボーダーライン入りの青色シャツと黄色のパーカー、ハーフパンツという季節相応の彼女の服装が、遠目からでも目を惹く。

 

「こう、直接ゆっくり葉菜と話すのって、どれくらい久しぶりかね。討伐任務で一緒になることは間々あるが。」

「…それこそ、舞草の集まりがあった時くらいじゃないですかね?ここまで、ゆったりとはしていなかったけれど。」

「綾小路は会合向きの場所でもあるしな。なんせ、伍箇伝で最古、かつ地理的には五校の中間付近にある。…京都駅が近いのもあるだろうがな。」

「その際に舞草へ上申する情報も、判断は僕たちでやらなきゃならないのは大変ですけどね。」

「…まあ、葉菜自身は真面目さが取り柄というが、程々の距離感で色んな生徒に接しているのは、良い傾向だと思うぞ。」

「…果たして、それはいいこと尽くめなんでしょうかね。…嘘にまみれる日常というのは…。

「…?どうかしたのか、葉菜?」

「いえ。…ちょっと、思うところがあっただけです。」

 

 彼に向けた表情は、どこか固かった彼女。

 その彼女の雰囲気を不思議がる彼。

 

 

「…そういや、最初に会った頃は同じくらいなのにえらく『~だ』とか、畏まった言い方が多かったよな。」

「それは、仕方がなかったじゃないですか!僕もまさか、こうして話すような関係になるなんて、当時は思いもよらなかったんですから。」

「まあ…、それもそうだな。」

「でもまさか、本部の中にも舞草の人間が居る、って聞いた時は驚きでしたよ。折神家のもとにある本部なら、全員紫派でもおかしくなかったでしょうし。」

「俺も俺で、舞草に入った理由があるしな。…親衛隊の新設というのは、流石に予想外だったが。」

「…僕達が折神紫派を倒すとき、彼女達は間違いなく障壁になると思いますけどね。」

「…その辺はまあ、なるようになるだろ。」

「彼女達を口説き落としでもしますか?」

「俺に斬り刻まれて死んでこいと?」

「冗談です。…まあ、貴方ならやりかねませんけど…。」

 

 と、潮風が吹き付けるなかで今後の行く末を考える。

 

 

 

 

 砂洲を渡りきった二人は、天橋立を一望できる公園へ登る前に、麓にある神社を訪れる。

 

「葉菜、参っていくか?」

「神頼みをするようなことも無いですけれどね。…御刀の神力も借りている僕らは、それでも参った方が良いこともあるのかもしれないけれど。」

「それ言い出したら、占い系統の商売は軒並み壊滅するから、あんまり言ってやるな。…かく言う俺も、何か願うことがあるかと言われてもな…。…いや、願掛けを一つしておくか。」

「じゃあ、僕も付き合いますよ。一人だけしないのも、気が引けますしね。」

 

 彼が財布から十円玉を二枚取り出し、一枚を彼女へ手渡す。

 

「俺の願掛けに付き合ってもらうんだから、これは出させてもらうぞ。」

「…相変わらず、頑固な人ですね…。」

(でも、そういうところが貴方らしいところでしょうね。)

 そんなことを内心思った葉菜であった。

 

 

 チャリーン

 

 チャリーン

 

 ゴンッ

 

 

 二人の投げた賽銭が、賽銭箱の中で音を立てる。

 二礼二拍一礼を拝殿に向けて行う。

 それぞれ、心の内で願掛けを唱える。

 

(葉菜を含めた、刀使やサポートをしている人間が無事に元気で居られる日々を送れる手助けができますように…。)

(…隣にいる彼が、僕のことを意識してくれますように。)

 

 互いに数秒ほど拝み倒した後、展望台がある公園に行ける、ケーブルカー乗り場へと向かう。

 

 

 

 

 展望台のある公園まで登ってきた二人は、改めてこの場所の壮観さに目を光らせる。

 

「…凄いですね。本当に海に浮いているみたいだ。」

「さすが、日本屈指の景勝地に選ばれるだけはあるな。」

 自分たちが先ほどまで歩いてきた場所を見下ろすように、天橋立を見る。

「そういや、天橋立の語源ともいえる風景は、股覗きで見られるんだっけな。見ていくか?」

「…あんまりジロジロ見られるのは、慣れてないんですけれどね。」

「後ろ向いとくから、見終わったら言ってくれ。」

「…ありがとうございます。」

 

 スッと後ろに彼が向いたのを見て、天橋立を股覗きで見る彼女。

「…確かに、天に跨がる橋という意味も分かりますね。これは。」

 一瞬でも、何となく理解できた気がした葉菜。

 

「見終わりましたよ。」

「ほいよ。じゃ、見るとするかな。」

 お~っ、と声を上げる彼を見て、彼女は

(さっきみたいな気配りができるから、多くの人に好かれるのだろうね。……僕は、どうしたいのかな。)

 なんてことを思ったようである。

 

 

 

 

 股覗きを終えた彼は、葉菜のもとへと向かう。

「葉菜、写真撮ろうか?」

 持参していたデジカメを、手元に取り出す。

「僕のかい?別に構わないけれど。そんなに良くは撮れないと思うけどな…。」

「若干曇り気味の方が、逆光を気にせず撮れるから、その辺は大丈夫だ。」

「そういう意味じゃないんだけどね…。」

「じゃ、撮るぞ~。はい、チーズ!」

 フラッシュはオート設定だったため、焚かなかったようだが、撮った画像では、彼女の表情は少しぎこちないものだった。

「ちょっと固いぞ~。もう一枚撮るか?」

「いや、大丈夫だよ。君の分も撮ろうか?」

「お願いしていいか?」

「技術は人並みくらいですから、手ブレとかは勘弁してくださいね。」

「はいよ。」

 

「いきま~す。はい、チーズ!」

 先程の葉菜と似たような構図で写る彼。

「撮れたかな…?」

「撮れてるな。キレイに。」

 彼女に寄って、写真を確認した彼。

「…そうだ、一緒の写真はまだ撮ってなかったな。近くの人に頼むか。」

「えっ、僕は別に…。」

「すみませ~ん!写真をお願いしてもいいですか?」

 彼女が言い終える前に、近くに居た男性へ撮影依頼をする彼。

「…まあ、いいかな。たまには、こういうのも。」

 強引さもまた、彼らしいなと思う彼女であった。

 

 

 

 

 

 

 そして、時間はかなり前に進み、舞草含む刀剣類管理局と、維新派を標榜する、タギツヒメ擁する綾小路の部隊に、伍箇伝が分裂していた頃。

 

 本部で作業をしていた彼に、糸崎が声を掛ける。

 

「◯◯(彼の苗字)、お前大丈夫か?」

「…なんとか、な。美炎やミルヤ達から色々聞いた時は、ちょっと倒れそうになったけどな。」

 

 由依共々、彼女もノロの投与による冥加刀使になっていたという報告を受けた時に、彼は危うく倒れかけたところを、隣にいた里奈に支えてもらった。

 その彼の机上の片隅に、目がいく糸崎。

 

「…そのフォトフレームの写真、葉菜ちゃんとのか?」

「去年の春過ぎあたりに、天橋立に行った時のだな。…葉菜、いや綾小路の面々も含めて、俺なりに出来ることはするぞ。本部にも、何人か綾小路に彼女が居るヤツが居るみたいだし。そいつらのためにも、な。」

「絶対に、無茶だけはするなよ。…俺は、真庭本部長のところに行ってくるな。」

「ああ。……。」

(…葉菜、必ずこっちに連れ戻す。俺もそうだが、調査隊の皆が、お前を待っている。)

 

 

 

 

 彼にとって胃も頭も痛くなりそうな状況のなかで、親しき彼女や戦友達を取り戻す努力を惜しむ理由は、そこにはなかった。




ご拝読いただき、ありがとうございました。

後書きを再構築するような形となりますが、彼女が笑って過ごせるようになるのはまだまだ先になるのでしょうかね…。(とじともメインストーリー)
個人的には好きなキャラクターなだけに、本格的な出番を待ち続けてしまうところがございますが。(プレイアブル化はよ…。)

それでは、また。

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