今回は番外編として由依編をお送りいたします。
時系列は胎動編と波瀾編の間、みにとじ中での島流しを基に執筆しています。
それでは、どうぞ。
ー伊豆大島 元町港ー
東京・竹芝桟橋から東海汽船のジェットフォイルで数時間。海上の方は少し荒天気味ではあったが、無事に港に到着する。
今回、綾小路武芸学舎所属の
「いや~。荒魂の調査とはいえ、管理局も気を利かせてくれますね~。」
「とはいえ、数日掛かってもいいから調べて来いとか、本部長も勘弁してくれよ…。」
「私もミルヤさん達と離れて久しいですから、ちゃっちゃと終わらせて帰りましょうよ。」
「そうだな。」
キャリーケースといつもの黒コンテナを転がす彼と、《蛍丸》を刀ケースに嵌めてダッフルバックを肩にかける由依。そのまま、船を降りる。
真っ先に拠点となる宿泊施設を探しに向かったのだが、予算の関係もあり折悪く一部屋しか確保出来なかった。
島内の観光客向けの電気自動車を、数日分の料金を支払ってレンタルし、事前に購入していた伊豆大島の全島地図を基に島中を巡回する。
「山城、すまないな。あまりに急だったもんだから、宿の確保も後手になっちまって。相部屋なのは目を瞑ってくれ…。」
「いえ、心配要りませんよ。…女の子と一緒じゃないのは、残念ですが。」
助手席に座る由依は、最短経路を導き出しながら彼の運転をサポートしている。
人伝手に、彼が簡単に女子へ手を出すような人間では無いことを聞いていた彼女は、逆にその存在に安心していた。
「…そういや度々、綾小路やら鎌府の学生寮で不審者の目撃情報があるんだが、お前何か知っているか?」
「嫌だなぁ、私を疑っているんですか?…確かに、刀使の娘やサポートに来る可愛い女の子がいっぱい居るのはそうですけれど、見境なく襲うなんてこと、私はしませんよ。」
「……山城、俺は一言も不審者が『襲った』なんて言ってないぞ。」
「…あっ。」
思わず失言をしていた彼女。
「…はぁ。警備員を増員しようかとかの話が出るくらいなんだから、行動は自重してくれよな。…こんなことを俺も言いたくは無いんだが、変態扱いされると困るのはお前自身なんだから、気を付けてくれよ…。」
「ううっ…。すみません…。」
若干涙目になる彼女。
「まあ、あまり言うのもなんだ。後で本部に報告は入れるが、今後は適度な加減を持って付き合いをしてくれよ。」
「善処します…。」
追及するのも心に堪えるうえ、女子を泣かせる趣味も無いので、ここで話を切る。
元町港から島内を南下していた、二人の乗る車。
ふと彼が海を見ると、黒い雲とうねりを伴う波を目にする。
「…ん?雲行きが怪しいな。」
「降りますかね?」
「そういや東京を出る前に、低気圧が接近しているとか言ってたな。…戻るか。」
「荒魂の目撃情報も無かったですしね。今日のところは宿に戻りましょうよ。」
「波で道が塞がれる前の方が賢明か。山城、どこかUターン出来る場所を探してくれ。」
「あそこの空き地でどうですか?」
「噴火時に備えた避難シェルターのところか。…ちょっと掴まっていてくれよ。」
「あっ、はい。」
車の静かなモーター音が流れるなか、土煙を立てながら回頭する車。
島の南側に下るのを断念し、宿へと戻る。
ー元町港付近 某ホテルー
運良く予約が取れた、和室タイプのこの部屋。
い草の匂いが漂うなか、レンタカーを返してここに来る際に少し濡れたため、由依はシャワーを軽く浴びていた。
彼の方は、彼女にシャワーの順番を譲って、今日分の調査報告を作成するとのことだった。
(は~。あったか~い。)
この施設には温泉もあるのだが、その楽しみは翌日に回してさっと髪や体を洗う。
「や~、結構体にも軋みが…。」
生傷の絶えない仕事とはいえ、やたらと酷使される日々を過ごしている彼女。
「…○○(彼の苗字)さんにマッサージでもしてもらおうかな?」
別に男性恐怖症というわけでもなく、単に女の子が大好きなだけなのだが、異性への性的趣向は現状無かったりする。ふとそんなことを思い立ったのは、偶然でもあった。
「ともかく、着替えますか。」
一通り体を拭き終え、白Tシャツと短パンを着るとバスルームを出る。
部屋に戻った由依が彼を見ると、物凄い形相でパソコン画面を見ながらタイピングを行っていた。
「…なんか、凄い表情ですね…。」
カタカタとタイピングで動かしていた手を止め、後ろを振り返る彼。
「…上がったのか、山城。声を掛けられるまで気が付かなかったぞ。」
首にタオルを巻いた状態の彼女が、彼の隣にやってくる。
「作業の邪魔をするつもりは無かったんですけれどね。…それ全部、本部への報告書ですか?」
「まあな。あと、本部に残っているウチの部署の同僚宛てのメールだ。」
「あ~。文章の方が何かを伝えるのに向いていますから、いいですよね。」
「…しかも、この雨風じゃあな…。早く帰れても、明日の夕方か明後日だろうし。」
窓の外を見ると、横殴りの雨が打ち付けてくる。これでは、海上は相当の風雨に晒されているのに等しく、高速船もやってくるのは難しいだろう。
「仕方ないですよ。人間は自然には敵いませんから。」
「だな。…よし、これで終わり。今日は意外と少なかったな。」
メールの送信ボタンを押し、文書作成ソフトのウィンドウを閉じる彼。
ノートパソコンを仕舞い、再び由依の姿を見ると、異性と一緒の割には無防備な姿をしていた。
「山城、その格好…。」
「えっ、ああ、これですか?学校指定のジャージじゃなくてもいいかな~、と思いましてね。どうです?」
「まあ、部屋着としては良いんじゃないのか?…ただ、もう少し男と一緒に居るってことを自覚してくれよな…。」
「え~っ。でも○○さん、全然女の子に興味が無いみたいなお話しを聞きましたけれど?」
ちょっと脚色気味にぶっこむ彼女。
「そう言った奴をここに呼び寄せてもらいたいもんだがな…。…単に性的欲求とかが、他の同世代の男と比べて減衰しているってだけの話で、別に全く無いわけじゃないぞ。…現に、お前のことは女の子という認識をしているしな。」
「ほ~ん。じゃあ、葉菜さんとかミルヤさんとかにも、色々思ったりしたことがあるんですか?」
「任務は任務、プライベートはプライベートで分けて考えろよ…。少なくとも、誰かと一緒になりたいとかは現状無いな。しかも、山城含め刀使やサポートの人間をそうした目では見るわけにいかないんだよ。立場も含めてな。」
ある種の心理的ストッパー、いや防壁を作り上げている彼。
思春期の男子の割には、異性に向けるものとしては明らかに一線を画すというのは間違っていない。
「では聞きますが、葉菜さんと私とミルヤさんの三人しか女の子が居ない世界だったら、○○さんはどうするんですか?」
「…何もしないな。それと山城、その聞き方だと解答方式が色々出てくるから、本心を聞こうとしても意味ないぞ。」
「ええ~っ。私だったら、お二人と色々したいですけどね…。」
「考え方は人それぞれだ。別に葉菜やミルヤに魅力が無いとは言っていないぞ。勿論、山城も。」
「じゃあ、私の魅力って何ですか?」
単に好奇心と彼から見た彼女の姿を垣間見ようとした由依。
「忠実なまでの欲求実現能力、見た目以上にお茶目でバリバリ数学の出来るウーマン、とかか。まだあるぞ。妹思いの優しいお姉さん、か。」
案外、ズバズバ言った彼。容赦のない褒め具合に、からかうつもりだった彼女も困惑する。
「…結構、人を見る目がありますね…。正直、驚きました。」
「任務で一緒になる人間のこととかは、分かる範囲は事前に調べておくのが俺の中での鉄則だ。」
「私にも、男性からの魅力が有るんですね…。」
「あくまでも俺の視点からだから、参考にはならんと思うぞ。」
「でもまあ、色んな人が貴方に好意を持っているのは、分かる気がしますよ。」
その後由依は、彼に頼んで両肩と太ももより下の部分を軽くマッサージとストレッチをしてもらい、その晩は気持ち良く寝られたそうである。
それから数日の間、二人の距離感は以前に比べて短くなっていったというが、ここでは一度筆を置くことにする。夏の伊豆大島での一コマであった。
ご拝読頂きありがとうございました。
由依はみにとじではサウンドオンリー(シルエットはあった)の登場ですが、彼女の清濁併せ持つ姿、ギャップを知って頂きたくも思います。
とじともストーリーがハードな展開になっていますが、七人揃った姿をまた見たいと思いつつ手を動かしているところであります。
感想等ございましたら、感想欄・活動報告にて対応させて頂きます。
それでは、また。