今回は姫和編その4 後編です。
ちょっと長くなっています。ご了承ください。
それでは、どうぞ。
ー花火大会 露店エリアー
大阪天満宮駅から歩いていた二人は、露店の多く並ぶエリアに足を踏み込んでいた。
「いやはや、人の数が多いとは事前に調べたんだが、まさかここまでとはな…。」
「東京の人混みを見ていたら、これくらいは全然及ばないと思うがな。…まっ、荒魂が出ないだけでこれだけ平和な時間を過ごせるんだ。この時間を守るために、私達の存在がある。」
「…そうだな。…できるなら、俺も積極的に動けられればいいのにな。そうすりゃ、姫和達の負担を少しでも減らせられるのに…。」
一般人である彼と刀使である彼女の明確なその違いに、彼は改めて無力さを覚える。
そんな暗そうな顔をする彼に、彼女は励まそうと口を開く。
「そう暗い顔をするな。…学長から一通り聞いたぞ。死に物狂いで現場の刀使達や警察官、自衛隊員達を守り抜いて撤退したことを。」
彼女は、自身が可奈美共々タギツヒメを隠世に送り込んでいた際の出来事を、又聞きながら知っていた。
「あの時は無我夢中だったからな…。」
「それでもだ。現にお前はその場の刀使や自衛隊員達も救ったんだろ?なら、お前はそれを誇るべきだと思うぞ。」
「…そう、だな。辛気くさい感じになってすまなかった。折角の祭りを楽しまないとな。」
「ああ。」
二人は手を繋ぎつつ、各露店を回る。
色々と目につくなか、二人はある露店が目に留まる。
「おっ、チョコバナナの店か。」
「ここは普通のモノしか無さそうだな。…ん?いや、まさか…。」
「姫和、どうした?」
聞いた途端、彼女は思わずガッツポーズをしていた。
「やはり、時代はチョコミントか。ちょっと買ってくる。」
「…マジか。ここでも売っているとは…。」
彼女がチョコミント派とはいえ、チョコミントのチョコバナナを販売しているのは里の祭りの時くらいだろうとタカをくくっていたが、彼の目線の先には緑とも青ともいえる色で光るチョコバナナの姿がそこにはあった。
「う~む。やはり美味いな。」
「…早々と買いにまわるというのも、考えようかな。」
隣でチョコミント味のチョコバナナを頬張る姫和。
彼もいい加減何か買おうかとは思いつつ、露店を見回す。
「…もし、お前が良ければその…。これを食べてみないか?」
そんな彼を気遣ってか、彼女は先程のチョコバナナを彼に差し出す。既に少し食べた後ではあったが。
「…折角の提案だし、一口貰おう。」
パクリ、と一瞬でチョコバナナを口に入れ込む彼。
「…どうだ?」
「……やっぱりチョコミントだわ。」
どんな見た目でもチョコミントの味であった。(歯磨き粉言うなし)
「そうか。」
彼が食べた後のモノを少しずつ食べる姫和。
(やっぱ、自然な笑顔が一番いいな。)
そんなことを思いつつ、花火が見える堤防を目指す。
堤防に向かう途中、たこ焼きの露店を見つけて二人で分け合って食べていたのだが、その際に射的の露店が目に入った彼。
「へいらっしゃい!」
「大将、ワンゲーム頼むわ。」
「毎度あり~。五発までできるわい。」
彼は店主にゲーム料を支払い、弾がコルクである射的用の銃を持った。
「確か、射的の景品はそうそう当たらないんじゃなかったか?」
姫和は彼の隣でそう言った。
「元々、コルクじゃ軌道が安定しないからな。…それでも当てるヤツは当てるもんさ。」
そう言いながら、撃つ準備を進める彼。
「よし、…当たるといいが…。」
普段の撃ち方で構え、景品を捉える。
パン
「やっぱ当たらんか。」
彼女も静かに見守りつつ、二発目、三発目と撃っていく。…やはり反れる。
「四発目…。」
パン
カン
ようやく命中する。…景品は少し後ろに下がっただけだったが。
「ラスト…。」
パン
最後の弾は景品の横をすり抜けていった。
「そこまで~。お疲れ様やね。」
「ありがとうございました。大将。」
銃を元の位置に戻し、露店を後にする。
「だあ~っ!クソ、あと少しだったのに!」
「仕方ない。運も実力のうちだ。」
悔しがる彼を慰める姫和。
「絶対なんか仕込んでいるよな…、重りとか。」
「それを言い出したら、どこの露店もやっていけなくなるぞ。」
「…まあ、そうだな。」
愚痴も程々にし、ようやく堤防上にたどり着く。
花火の開始時刻まではまだ少し余裕があったが、人の数はそれこそ数え切れなかった程だった。
「これだけ多いとはぐれてしまいそうになるな。」
「幸い姫和は御刀を持っているから、夜間でもまだわかる方だな。」
「まあ、お前がしっかり手を引いてくれればいいだけの話なんだが。」
「だよな…。」
立ち見か座り見かだが、既に堤防上には多くのカップルや集団が座っており、必然的に立ち見になった。
「さて、そろそろか。見えるか、姫和。」
「ああ。…お前が見えやすい場所を選んだからな。」
「折角の機会だしな。…おっ、始まったか。」
ヒュルルルル~
ドーン
夜空に大輪の花が咲き始めた。
彼は姫和と並んで、花火を見ていた。
ふと、彼女の顔を見る。
花火に気を取られていたのか、楽しそうな顔をしてその光景を見続けていた。
(大和美人とは、彼女のことを指すのかもな。)
そんなことを思いつつ、静かに花火を見続ける。
(全然話しかけてこなくなったな。…花火に気を取られているのか?)
姫和もまた、彼の方を見る。
その時の彼の表情は、にこやかではあったのだが何かもの寂しげな顔をしているようだった。
(…仕方ない奴だ。)
彼女は静かに、体を彼に傾けた。
「姫和!?」
当然ながら、彼女の行動に驚いた彼。
「…何も言わず、花火が打ち終わるまで私の体を支えていろ。」
「あっ、ああ。分かった。」
彼は彼女の言う通り、傾けてきた彼女の体を支え続けた。
その際、すっと背中を介して腰に手を回していた*1。若干驚いた姫和だったが、頬を少し赤らめつつも体重を徐々に彼に預けていった。
花火大会も終盤にさしかかった頃、二人のスマホがほぼ同時に震える。
「私の携帯が震えている?」
「俺もだ。」
二人とも何事かと思い、画面を立ち上げる。
先に姫和の方だが、これは可奈美からのメッセージだった。
From:可奈美
『姫和ちゃ~ん!上手く◯◯(彼の苗字)さんとやっていけてる?戻ったら、また試合しようね!』
「全く、可奈美の奴…。タイミングを考えて送ってこい…。」
ただ、親しき彼女のメッセージを愛しく感じた姫和。
ある意味、同時に着信するように狙ったのかもしれなかったが。
一方の彼。送り主は
From:糸崎
『早希から聞いたぞ。今日は姫和ちゃんとデートなんだってな。いっそ、もう付き合っちまえばいいじゃねぇか。…健闘を祈る(早く潔く玉砕しろ)。』
(…あの野郎、本部に戻ったら仕事三倍にして返してやる。)
若干の私怨を抱きつつ、彼のメッセージの意図も察する。
(確かにそれはそうかもしれないが、無責任で迂闊に突っ込めない問題も色々あるだろ!)
後々を考えると、交際という選択肢をとらないやり方のほうが遥かに利口な気もしていた。姫和のことが嫌いなのか、そう言わればそうではない。むしろ出来るなら即交際でも良いに決まっている。
だが彼の場合、建前と本音では前者を優先するタイプであった。
(…姫和は東京を、日本を救った英雄だぞ。そんな彼女とあわよくば、などと考える時点で斬られるわ。)
邪な感情が先行した結果、大惨事に至ったケースなどは数知れず。無論それは刀使や刀剣類管理局の人間も例外ではなかった。
結局それに対しての結論も出ず、「あ~。」だの「う~ん。」だの悩んでいるうちに、最後の花火が打ち上がろうとしていた。
意外にも先に動いたのは姫和だった。
「なあ、幾つか訊いてもいいか?」
「こんな時にか?」
「こんな時だからだ。…お前は私のことをどう思う?」
(どう…か。)
「…まあ、世代が近いし今時珍しいくらい凄く家庭的で、組織のトップ相手に突撃かますようなスゴい娘だと思うけど。」
(嘘は言ってないな。)
彼の言ったことは彼女の欲しかった答えだったかはさて置き、事実は淡々と述べている。
「最後はちゃんと理由があっただろうが!…んんっ。まあ、シラを切るつもりならそれでもいいが続ける。」
「何に対してシラを切るんだよ…。」
「…次の質問だが、お前は可奈美や沙耶香、舞衣達をどう思っている?というか、どんな関係でいたいと思っている?」
「…?仕事でも携わる友人か?実際そんなところだろう。」
正直、彼女達のプライバシーにヅカヅカ入って行くような人間にはなりたくなかった。…眼前の彼女は話が別だが。(もう既に片足踏み込んじゃってるし。)
「最後の質問だ。…お前は、私とどんな関係でありたいと思っている?」
「どんな関係って…。」
彼は直ぐに言葉に出来なかった。
(確かに姫和との関係は現状でも充分過ぎる。ここは穏当に返すか。)
「俺は今のような、持ちつ持たれつの関係で充分だと思うが。」
かなり当たり障りの無い答えをした彼。
「…いや、そういうことでは無くだな…。その…。」
「?姫和?」
何故か口ごもる彼女。
「もういい!今のことは忘れろ!」
「えぇ…。」
そんなことを言われては、此方も深く聞けない。
「それよりもだ。もうすぐ最後の花火が上がるぞ。」
「…写真撮っとくか。」
花火だけ、というアングルではもう既に撮り終えていた*2彼は、彼女と花火が入るような構図で撮ろうとする。
「姫和、こっちを向いてくれ。」
「ん?」
「はいチーズ。」
彼女はちょっと驚いたような表情でレンズに顔を向ける。
ピピッ
カシャッ
花火撮影モードでも、彼女の顔ははっきりと写っていた。
作り笑顔ではない、自然な表情であった。
「おっ、おいお前!」
「ほら、最後の締め括りの弾が上がるぞ。」
川岸から一筋の光が上空高く上がる。
ヒュルルルル~
ドドドドドン ドドドン
本日最後の花火が上空を大きく彩った。
こうして、花火大会の幕は閉じた。
「…意外とあっさり終わったな。」
「どうする、このまま駅に向かう人間に紛れて帰るか?」
姫和の言葉は至極普通なものだった。普通であれば家路につくなり、どこかの料理店へ立ち寄るなり何かしらの移動策をとる。
だが、彼の返答は違った。
「いや、人混みは避けたいから少し川沿いを歩くが、それでもいいか?」
こうした多くの人が集まる大規模なイベントでは、テロや犯罪が起こり得るリスクが一定の割合として存在する*3。無論それだけではなく、単に混みごみした場所に長居したくないということもあった。特に駅のホームは狭い場所が多いため、花火大会終了直後なら尚更だろう。
「お前がそう言うのなら、仕方ないな。付き合ってやろう。」
人数が少しずつ減っていく、堤防上を歩いていく二人。
「なあ、どうしてお前はこうも私と行きたがったんだ?」
当初の疑問が浮かぶ。なぜ、わざわざこのタイミングで彼が花火大会のことを振ったのかを。
「…姫和、覚えているか。チョコミントアイスをお前に送りつけたあの騒動のことを*4。」
「ああ。まあ。……まさか、あの時の約束か?」
「そのまさかだ。…俺も忘れたつもりはなかったんだが、如何せんその後のゴタゴタがな。」
「…タギツヒメ諸共、可奈美と隠世に行っていたことはすまないと思っている。…色々迷惑もかけたしな。」
「…その時の約束を今果たそうと思ってな。まっ、見事に叶ったワケだが。」
「そうだな。…今日は楽しかったぞ。その意味ではお前に感謝している。」
「そうかい。なら良かった。…姫和、俺から一つ言わせてもらってもいいか?」
二人以外誰も居ないこの場所で、何か決したように彼女に向き直る彼。
「姫和、これから先も可奈美達から離れている間だけでいいんだが、こんな感じでなるべく隣に寄り添ってもらえないだろうか。」
それは、彼が姫和に向けた事実上の告白だった。
こんな告白とは少し遠い言い回しになったのは、やはり可奈美達と姫和の関係に亀裂が入ることを恐れたためだ。特に隠世から一緒に行って帰ってきた可奈美と彼女の絆へ、下手を打てば彼が横槍を入れるような状況になり兼ねない。
それは彼としても本意ではなかった。
(承諾か拒否か保留か、このどれかだろうが…。拒否されても文句は言えまい。…断られても、出来ることなら今と変わらない関係でありたいな。)
彼とて無茶は承知の上だ。間違いなく、後戻りは利かない。…同僚のメッセージも彼を後押しした要因の一つではあるが、それはあくまでも結果論である。
彼は、姫和の解答を待つ。
「…はあ。」
「えっ、呆れられた!?」
まさかの反応に戸惑う彼。
「私からも、一つお前に言わせてもらおう。…遅すぎだ、この大バカ野郎。」
「……その言い回しって、まさか…。」
「…今まで、私の気持ちに気が付かなかったとは言わせないぞ。」
(……ゴメンナサイ、全然気が付きませんでした!)
内心、彼女に謝る彼。気付いていないワケでもなかったのだが、そんな超極低確率の可能性は基本的に頭の中から外していたことが、こんな時になって仇になるとも思っていなかった。
「…つまり、姫和さん。その…。OKということでよろしいんですかね?」
「それ以外、何かあるのか?」
キッとした目で彼を見る。
「……良かった~。」
思わず、ヘナヘナとその場にしゃがみ込む彼。
「おい!脱力し過ぎだろ!」
「いや、てっきり駄目だと思っていたもんだから。…つい、安心しちまって。」
「はぁ…。肩を貸せ。立ち上がるぞ。」
姫和の補助で、何とか立ち上がる彼。
「すまない、姫和。」
「全く、私もどうしてこんな奴を好きになったのだろうか…。」
「えっ、それ酷くないですか!?」
「冗談だ。」
そう言った彼女の顔は、晴れやかな笑顔であった。
「さっ、私は帰るぞ!」
「ちょ、姫和!置いて行くなよ!」
ある年の夏の一風景は、こうして過ぎ去っていった。
長く離ればなれだった男女は、ここから歩みを更に加速させていくのか。
それは、神や仏ですら判りはしない。
ただ一つ確かなことは、苦難を乗り越えた者達の結束は決して弱くないことであろう。
ご拝読頂きありがとうございました。
気がつけばUA31,000、全話PV87,000を越え、多くの読者さんが読んでくださっていることに感謝しつつ、今後も慢心せず頑張っていこうと思います。
とじともの方では、ようやく播さんのプレイアブル化が決まりましたが、まさか御刀を投擲するとは…。スゴい。(語彙崩壊)
みにとじも楽しみにしつつ、過ごす日々です。
感想等ございましたら、感想欄・活動報告で対応させて頂きます。
次回は舞衣編です。…少し間が空くもしれませんが、ご容赦ください。
それでは、また。