刀使の幕間   作:くろしお

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どうも、くろしおです。

今回は姫和編 その5になります。
主人公と姫和が初めて会った時の話になります。
時系列はアニメ本編1話から、舞衣と沙耶香が舞草の里に来る前までの頃になります。

脚注機能の乱発や長文化になっていますが、ご容赦ください。
それでは、どうぞ。


⑦ 剣呑な顔合わせ

 御前試合。

 それは一年に一度、現役刀使の頂点を決める神聖な試合とされている。

 決勝戦には、現在においても刀使の頂点に君臨するとされる、特別刀剣類管理局局長、折神紫が観覧するという。正に立ち合いを好んでいる刀使にとってみれば、一度は緊張感漂うこの試合の場に立ってみたい、という者も多いのである。

 

 

 

 

 ー刀剣類管理局本部 彼の職場ー

 

 その御前試合当日。

 本部に勤めていた彼もまた、折神家の警備要員として会場へ回されることが決まっていた。

「んじゃ、三人ともちゃんと仕事しといてくれよ。試合風景は、定点カメラからの映像がテレビで観れるから、気になったら観といてくれ。」

「おう、気をつけてな。女の子をたぶらかしてくるんじゃねぇぞ。」

「さぼっている時のアンタじゃないんだから、心配するだけ損よ。」

「◯◯(彼の苗字)さん、お気をつけて行ってらしてください。」

 同僚である糸崎、里奈、姫乃*1からそれぞれ出発時の挨拶を受けた彼。まさかこの段階では、およそ一年に及ぶ長い闘いの日々が始まるとは、誰も予想できなかった。

 

 

 

 

 混雑を避けるため、車の使用は諦めて徒歩で会場入りした彼。既に予選は始まっており、多角形型の道場内を巡回警備する程度で、午前中の試合は終わった。

 この試合では、後々に知り合うことになる刀使達も多数出場していたのだが、この時はその接点さえ見出せないような状況であった。

 

 

 そして、昼食時間を挟んで決勝戦が執り行われようとしていた。

 この時彼は、普段の装備である防刃チョッキや警棒、スタンバトン、実弾入りの自動拳銃といった物を確認していた。

「装備はこれでよし。後はどっちが勝つか、か。」

 正面の観客席から見て折神家の建物の左側に、濃緑色を主とした制服である平城学館の刀使が、右側に白を基調とした美濃関学院の刀使が、それぞれ試合開始の合図を待ち、立っていた。美濃関の方の刀使は、彼が江麻から以前聞いていた、美奈都の娘だったようである。

 

 

(さて試合が終わったら、今日の仕事は何が残ってたっけな。)

 観客席で不審な動きをする者が居ないか目を光らせてはいるが、やはり人間は誰でもいつもと変わらない日常が続くと、つい思ってしまうのだろう。

 

 

 

 

 

 

 試合開始の合図と共に、決勝戦の片方の刀使が一瞬消えるまでは。

 

 

 

 

 

 

 ガキーン

 

 

 

 

 彼が場内へ響き渡る甲高い金属音に気がついた時には、現在進行形で『その時、歴史は動いた』状況が起こっていた。

 真希に写シを剥がされた平城の刀使と、彼女の間に割って入った美濃関の刀使。そこからは時間にして一分も経たなかった。結芽が真希の制止を振り切り、二人の刀使と戦闘を行おうとしたものの、美濃関の刀使が平城の刀使を引っ張り上げるような形で、八幡力を用いて試合会場から辛くも脱出する。

 追手を出そうにも、決勝戦に伴い外部との出入り口を遮断していたことが仇となり、即時の追跡は不可能だった。

 

 

「何が起きたんだ、一体…。」

 二人の刀使が去った試合会場は、観客も含めて、その多くが困惑と動揺の兆しを見せ始めていた。彼もその例外ではない。

 そこから彼の携帯へ届いた着信で、先ほどの二人の刀使の捜索隊が編成される旨が伝えられたのには、そう時間はかからなかった。

 

 

 

 

 その後、紫への襲撃を行った犯人が姫和であることが伝えられたのは、一度職場へと戻った時のことであった。

「状況は!?」

「逃走した刀使二名の足取りはまだ…。ですが、身元はもう判明してます。」

 姫乃はそう言って、壁に掛けられてはいたテレビ画面に、紫を襲撃した刀使とその逃走を幇助した刀使の、詳細な情報を表示する。

「襲撃した娘が、平城の十条姫和。で、逃走を幇助したのが美濃関の衛藤可奈美と。……てか、どっちも可愛い娘じゃねぇか。」

「…糸崎、三原*2にお前が余所の娘に目移りしたらしい、って伝えとくわ。」

 早希へ向けて、スマホに早打ちでそれを入力する彼。

「おま、ちょ、待て!」

「それは彼女本人に言うべきだろうな。……それと、もう送信ボタン、押したぞ。」

「……はっ!?ーなっ!」

 一瞬の思考停止時間を挟んで、彼の発言の意味に表情が凍った糸崎。

 

 それから僅か十五秒。

 ドタドタという足音が反響しながら、廊下から聞こえてきたと思ったら、勢いよく部屋の扉が開かれる。そこに居たのは、笑顔ながらも目が全く笑っていなかった早希だった。

「糸崎く~ん?どういうことかな~?お・は・な・し、してもいいかな?」

「さ、早希、違うんだ。コイツが、」

「問答無用。…◯◯さん、糸崎君をお借りしますね。」

「ああ。存分にやっていいぞ。」

 ニッコリ彼へ微笑んだ早希は、糸崎の腕をガッチリ挟んで何処かへと連行して行った。

「…ありゃ、コッテリ搾られるな。二重の意味で。」

「…そうね。」

「そうですね。」

 職場に残った三人は、糸崎を置いて話を先に進める。

 

 

 

 

「今日以外で接点はなし、か。」

 可奈美と姫和の情報を漁るも、これといったものは出てこなかった。

「不思議よね。何で衛藤さんは、知り合いでもなかった十条さんを助けたのかしら?」

「…その辺りは本人に聞くしかないだろうな。」

(だが、羽島学長から聞いていた限り*3じゃ、何も考えずに行動を起こすような娘ではないのは確かだ。)

 そうであるが故に、何かが引っかかるような感覚を覚えた彼。

「……まさかだが。」

 ある可能性を思い至った彼は、一旦席を外し、トイレへ向かう。

 

 

 トイレの個室に籠ると、スペクトラムファインダーを起動させる。これに内蔵されている舞草用のSNSを介し、ある人物に聞きたいことがあったのである。

 

『Mr.FineMan、了解してもらいたいことがあります。』16:27

 我々の世界で言うところの、某L○NE風の表示がされる画面。そこには、彼の舞草内でのコードネームも出ていた。

『Yeah.君からコンタクトを取るなんて、珍しいね。』・FROM:FineMan 16:28

『何分、緊急事態ですので。…未確認情報ですが、紫様がタギツヒメである可能性が高まりました。』16:29

『…やはりかい。』・FROM:FineMan 16:30

『つきましては、その情報を確固足るものにするための準備を始めます。よろしいでしょうか?』16:31

『OK.僕達も準備を始めるとしよう。』・FROM:FineMan 16:32

『ありがとうございます。よろしくお願いします。』16:33

『I will want to make a wish the success for your positive operation. Good luck.』・FROM:FineMan 16:35

 

 交信が終了する際に、フリードマンから激励の言葉が送られる。

 一通り読んだのち、自身の方も可奈美と姫和を確保…いや保護するため、行動を開始する。

 

 

 

 

 廊下を移動中、親衛隊が舞衣や早苗を聴取する姿を目撃したり、結芽と二言三言ほど言葉を交わして、本部の状況把握に努めた。

 

「中島、水沢。今戻った。」

 トイレから戻ってきた彼。糸崎は早希に連行されていったまま、未だ帰ってきていない。

「お帰り。…で、私らはどうするの?」

「取り敢えず、通常業務を続けるか。紫様が狙われたことで、真希達親衛隊が躍起になって、衛藤と十条の関係者に聴取を行っているみたいだし。…少なくとも、俺達が出る幕は無さそうだ。」

「じゃあ、抑止をかけられた美濃関と平城の生徒の分の布団とかが、これから必要になるわよね。全員に聴取とかになれば、一日じゃきかないでしょ?」

「…俺の勘だが、二人は直ぐには見つからないだろうしな。数日分は見ておいてくれ。水沢、不審な動きをした奴がすぐ分かるように、定点カメラの設置とケーブルの確保、頼んだ。」

「了解です。早速準備してきます!」

「じゃ、私も。施設課の方に掛け合ってみるわね。」

 立て続けに部屋を後にした、女性陣。

「…さて、俺も動く準備を進めるか。」

 本部職員として、ではなく舞草の一員として、さり気なく根回しを進める。

 

 

 

 

 ー一週間後 平城学館 学生寮ー

 

 本部権限を行使し、姫和の部屋に紫を襲撃した理由があるかもしれない、などと理由をこじつけて、奈良方面に向かう許可を貰った彼。

 部屋の捜索には、平城の舞草の構成員も同伴で実施したものの、これといった手掛かりになりそうなものは見つからなかった。

 

「空振りか~。…何かあるかと思っていたんだけどな。」

 はあ、と溜め息を吐く彼。

 姫和の実家を調べるべきなのか、とは思ったものの、彼女が平城に編入されて以降は実家の方には、あまり帰っていないということを、鎌倉に行ったいろはから聞いていたこともあり、無駄足と判断して敢えて行かなかった。

 まさか、その実家の方に重要な手掛かりが残っていたとは、この時の彼は思っていなかった。この手の件では珍しく、見落としをしていたのだ。

 

「さて、今からどうしようかね…。」

 空振りに終わった以上、彼も長居をする訳にはいかなかったのだが、本部の講じている情報統制が逆効果となっている状況を垣間見てしまった。

 自校の生徒が、組織のトップの命を狙ったという衝撃の事態に、平城の校内ではパニックや混乱が起こっている様子であった。

 それに鎮静化を図ろうとしていた教師陣に対して、どういうことかと詰め寄る生徒の姿も、彼は目撃した。

「…生徒も教師も疑心暗鬼になっているのか。急がなければ…。」

 幸い自身は、生徒の目にあまり触れない校内の抜け道を知っていた*4こともあり、この騒動に巻き込まれることは無かった。

 

 

 

 

 個人的には、平城の知り合いなどと一服お茶などを交えたかったのだが、あの殺伐とした状況でそんなことを試みようものなら、その知り合いや友人達にも迷惑がかかると考え、この時には諦めた。

「一旦、京都まで戻ろうかね…。」

 今回の立ち寄った用件はこれで終わったため、綾小路に寄る用も無く、真っ直ぐ鎌倉に帰ろうと考えていた時だった。

 

 小刻みに震える、自身の携帯端末。鳴っていたのは、舞草でチューンアップしてもらっていたスペクトラムファインダーだった。

「もしもし、○○です。」

『HI!元気にやってマスカー!』

「この声…、エレンか?」

『Yes!今、グランパの方から掛けてマ~ス。』

「だからか。」

 通話画面には『FineMan』の文字で表示されているが、近親者のエレンなら掛けてきてもおかしくはなかった。

「それで、博士の方から掛けてきたってことは、舞草の方で何かあったってことだろ?」

『話が早くて助かりマ~ス。…実は、折神紫に刃を向けた、反逆者の二人を此方で引き取ってマ~ス!』

 

 

 

 

 ―今エレンは、何と言った?

 

 

 

 

「エレン、もう一回言ってくれるか?」

『だから、折神紫に刃を向けた二人を、此方で匿っていマ~ス。』

「あ、俺の耳は正常だったか。」

『もう!ワタシのことを信用してくれないなんて、ヒドイデス!』

「エレン、違うさ。俺の思考が追い付かなかっただけだ。ゴメンよ。」

『…別に怒ってはいまセンから。大丈夫デスヨ。』

「そうか…。それで、匿った二人の様子は?」

『Very fine、デース!食欲も旺盛デシタ。』

「…栄養、健康状態には問題ないのか。」

『ソレと…、色々話をしないといけなくなったみたいデスから、里まで来られますカ?』

「それなら大丈夫だ。今、所用で平城に来ているからな。遅くとも晩のうちには来られるだろう。」

『カオルと一緒に待ってマ~ス!』

「ほいよ。じゃ、また後でな。」

 通話を切る彼。

「…“何か”は間違いなくあったな。少なくとも、俺自身を呼び寄せなければいけないような、マズい事態が。」

 これから聞くことに対して、嫌な予感が頭を過ぎるものの、兎にも角にも里へと向かう準備を始める。

 普段から懇意にしていた奈良市街の個人レンタカー店*5を頼り、セダン型の車を借りて一路南に下る。

 

 

 

 

 ー紀伊半島某所 舞草の里ー

 

 車を飛ばすこと数時間。奈良市街に居る間に私用携帯以外の携帯端末のGPS機能を切り、里へと辿り着く。

「着いたか…。」

 彼は車を里近くの駐車場に停める。

 スマートキーで車のドアにロックをかけ、エレンの指定した神社脇の屋敷へと向かう。

 

 

 屋敷までは道が暗かったこともあり、懐中電灯を照らしながら進む。

「何か出そうだな…。…フラグになりそうだから、口開くの止めとこ。」

 

 都市の詰まるような息苦しさもない、自然溢れるこの里は、意外にも衛星からは捉えることが出来ない。紫派からの追跡を防ぐために、リアルタイムで位置情報を消去し続けているためだ。そのため、直接陸路か海路で向かって来ない限りは、そうそうバレるような場所でもないのだ。

 これも、天才科学者として名高いとある博士とその取り巻きの人々のお蔭でもあるのだが、ここでは触れない。

 

「おっ、里のいつもの道か。これを真っ直ぐ行けば、指定した屋敷にはすぐ着くな。」

 社に繋がる道に足を載せる彼。どうやら、思っていたよりも夜道の心配は杞憂であった。

 

 

 

 

 屋敷に着く頃には、八時を既に過ぎていた。

「こんばんはー。遅くなりましたが着きました~。」

 戸の鍵が空いていた屋敷の玄関で、到着の挨拶をした彼。だが、人がやってくる気配はない。

「…もしや食事時かね。取り敢えず、上がるか。」

 靴を揃え、屋敷内を進む彼。

 

「エレンか薫あたりが顔を出してきそうなもんだが、…というか、まだ誰も見てないな。」

 少しホラーな雰囲気を感じ始めていた彼。ともかく、一部屋一部屋、人を探す。

 

 

「変だな。もう七、八部屋くらい見て回っているはずなんだが…。」

 携帯の電源は入っているため通話を行おうとも思ったが、紫派の探知を防ぐため、大手携帯キャリアを使っていた彼の携帯は、圏外表示になっていた。

「誰でもいいんだが、居ないのかね…。」

 

 そんな時である。

 ある部屋から、布を擦るような音が聞こえた。

「…誰か居るのか?」

 人を探していた彼にとって、この音は手掛かりになるような気がした。…だが、彼は不注意にもノックをせず、普段の調子で襖を開けてしまった。

 

 

 

 

 

 

 襖を開いた先に居たのは、黒色の長髪を床につけ、ちょうど着替えている途中だった大和撫子の姿だった。

 

 

 

 

 

 

(…綺麗な娘だな。)

 思わず見惚れる彼。

 

 

 

 

 しかしながら思い出してほしい。

 彼女は今、着替えているところであったと。

 

 

 

 

 彼女の方も、彼の顔を認識するや否や、頭を少し下げると、腕をプルプルと震わせる。

 

 ぽーっとしていた彼だったが、改めてこの状況を確認すると、どう見ても更衣中の少女の姿を凝視しているという、事故とは言え非常にマズい様子だった。

 

 

「―っ‼」

 当然ながら、少女も黙っていたわけではなかった。

 半ば着かけの状態ながら、彼の間近まで二足で距離を詰めると、右手で彼の左頬に平手打ちをしてきた。

 

 

(…まあ、そうなるな…。)

 頬を叩かれて後ろに倒れていく彼の視界に写っていたのは、涙目で服を抑える少女の姿だった。そのまま彼の意識は、頭を打ったことで一気に遠のいていった。

 

 

 

 

「姫和ちゃ~ん。着替え終わった~?」

 風呂から上がり、夕食の準備が整ったのだが、先に着替えに向かっていた姫和がなかなか戻ってこないため、彼女を呼びに来た可奈美。

「姫和ちゃ~ん?開けるよ。」

 

 彼女が障子を開けると、着替えを終わらせた姫和と、開いた襖の先で、両足裏を此方に向けて倒れている人の姿を捉える。

 

「…姫和ちゃん。まさか、人を斬っちゃったの…?」

 みるみるうちに、表情が青ざめていく可奈美。

 それを見た姫和は、慌てて状況を説明する。

「お、落ち着け可奈美!私はまだ、人を殺していないぞ!」

「…じゃあ、そこに倒れている人は?」

「あの男は、突然私が着替えている時に襖を開けてきたから、その…。気がついたら、全力で頬をひっぱたいていたんだ…。」

 

 八幡力を使用していなかったとはいえ、鍛えられた刀使の腕力はそれ相応であるため、無防備だった彼が吹き飛ばされるのも無理はなかった。

 

「姫和ちゃん、ちょっとゴメンね。」

 倒れて気絶した彼のもとへと寄る可奈美。

「…気を失っているだけみたいだね。」

「そっ、そうか。…良かった。…だが、着替えている時にジッと此方を覗いてくるとは、一体この男は何者なんだ!?」

 彼のことをまだ知らなかった姫和や可奈美*6は、この男が一体誰なのか皆目見当がつかなかったのであった。

 

 その後、エレンと薫が来たことにより、ようやく彼の正体が判明することになるのだが、諸説明は彼の意識が戻り次第ということになった。

 

 

 ちなみに彼が屋敷内で人となかなか会わなかった理由としては、ちょうど夕食の調理と舞草幹部の打ち合わせが被ったことが、一番大きな原因であった。

 いずれにせよ、そのとばっちりを一番受けたのは、他でもない姫和なのだが。

 

 

 

 

 彼が意識を取り戻したのは、姫和からひっぱたかれて約二時間後。布団の上で、頭を起こす。

「…痛てて…。…俺は確か、エレン達を探していてそこから…。」

「目が覚めたか。」

 その布団の側には、先ほどフルスイングで彼を吹き飛ばした、正座をする少女の姿があった。その脇には御刀もある。

(あっ、そうだ。確か、着替えているところに入っちまったんだっけか。)

 少しずつ鮮明になってくる記憶。

 

 そして少女は御刀を抜き、彼の喉元まで刃先を近づける。

「お前の話は古波蔵エレンから聞いた。…だが、本当はお前は、折神家からの刺客じゃないのか?」

「……ちょっと待った。」

 両手を上げ、抵抗の意志が無いことを示す彼。

「まあ、確かにさっき着替えていたところにお邪魔をしたのは、不味かったと思っている。…だが、それなら尚更、さっきの無防備な時に襲う方が自然じゃないか?」

 

 もし折神家の刺客なら、ああして間抜けにぼーっとしている間もなく、姫和の命を刈り取るという選択を取るだろう。少なくとも、彼がその立場ならそうすると思ったのだ。

 

「…っ!―そう、だな。」

 彼の言った意味を理解した彼女は、喉元から《小烏丸》を遠ざけ鞘に戻す。

「…すまない。」

「さっきのとで、おあいこという形でいいから。それと、さっきはゴメン。此方も不注意だった。」

 姫和の着替え中に彼女を見たことに対して、謝罪する彼。静かに頭を下げる。

「…もう怒ってないから、顔を上げろ。」

「…ありがとう。」

 

 姫和は、眼前の相手と話してみると、思いの外律儀に此方へ言葉を返してくるため、先程の出来事は偶発的なものだったのだろう、と納得した。

 

 

「ちなみに、君の名前を聞いていなかったね。十中八九合っているとは思うけど、聞かせてもらってもいいかな?」

「ああ…。ごほん。平城学館中等部三年、十条姫和だ。」

「では此方からも。刀剣類管理局本部所属、○○××(彼の名前)だ。今後ともよろしく。」

 そう言って、彼は右手を差し出す。

「…よろしく、頼む。」

 彼女もまた、その手を取り握手を交わす。互いの手は温かいものであった。

 

 

 

 

 こうして、偶然とはいえ姫和との出逢いを果たした彼。

 そして、なぜ彼女が紫を狙ったのか、そうしなればならなかったのかを、後に彼女の口から聞かされることになる。

 南紀の夜空は、さらに更けていく。

*1
左から、糸崎誠司、中島里奈、水沢姫乃。この三人についての人物紹介は、『設定集・時系列まとめ』参照。

*2
三原早希のこと。糸崎の彼女であるが、こちらも人物紹介については『設定集・時系列まとめ』参照。

*3
江麻編『衝撃の事実』参照。

*4
正確には、彩矢や平城に以前居た里奈から教えてもらっていた。

*5
当時、高頻度に大手レンタカー会社を使った場合、行先が簡単に足がつくことを気にしたため。

*6
但し彼と可奈美は、過去に一度会っている。その時のことは『出会いと人材選考』及び『真剣会話』参照。




ご拝読いただき、ありがとうございました。

貧乳ネタで話題にされることも多いですが、刀使ノ巫女のキャラクターの中で「和」の雰囲気を最も強く持っているのは、姫和ではなかろうかと考える筆者でございます。(個人談)

感想等ございましたら、お気軽に感想欄・活動報告にご投稿頂けたらと思います。

次回は舞衣編になります。

それでは、また。
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