刀使の幕間   作:くろしお

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どうも、くろしおです。

今回は姫和編 その7をお届け致します。
時系列はアニメ8•9話、舞草の里急襲の直前あたりの話になります。

それでは、どうぞ。


⑨ 崩れ去る平穏

 ー紀伊半島某所 舞草の里ー

 

 姫和達がやってきて何時目かの訪問となったわけであるが、伊豆での戦闘以降不気味なほどに静かな折神家や本部の動きを警戒しつつ、平城経由で里に入った彼と糸崎。

 舞衣や沙耶香も合流してからは、来るべき日に備えて集団戦の訓練を行っていた姫和達。着々と紫派への対抗準備を進めていくなか、この二人はというと……。

 

「お~い!レンチかインパクトドライバーを持ってきてくれ!」

「固定用の杭はこれくらいでいいんだな?―せい!」

 ……屋台の設営作業を行っていた。

 

 

 

 

 平城からの舞草構成員とともに里へやってきた二人だが、ノロを祀る神事を兼ねた年二回のうちのお祭りの日がこの日にあたる。

「兄ちゃん、ガスボンベはここでええんか?」

「はい!…ガス台もセットして、これで終わりですね。後の準備はお願いします。」

「おう!任せときな!」

 屋台の店主達を手伝う彼。

「糸崎~!そっちはどうだ?」

「倒壊防止用の杭は打ち終わったぞ!あとは社の薪やら使ってない藁とかを持ってくるくらいだろうよ。」

「りょーかい。じゃ、一足先に警備用の装備取ってくらぁ。」

「俺も後でそっちに向かう!」

「はいよ~。……さて、急ぐか。」

 

 昼からも人が多く来るため、急ぎ諸々の火器などを取りに向かう。祭りではあるものの、酒類の販売も当然ながら行われるため、酒気が回って予測不可能な行動を起こす者などを制圧できるよう、過剰防衛にならない程度の装備の方針で、事前の打ち合わせを済ませている。

 

「さて、ウエストポーチにスマホとデジカメ、財布を入れてと…。」

 あくまでも今回の警備はボランティア活動に等しいため、交代の時間が来たら、彼も祭りの人混みの中へと紛れる予定だ。

「…じゃ、行きますか。」

 黒色の防刃チョッキを羽織り、初夏の日中のお祭り会場へと足を運ぶ。

 

 

 

 

「ねえ姫和ちゃん!色んな屋台があるよ!」

「ま、待て可奈美!そう引っ張るな!」

 

 一方、鍛錬後に露天風呂で汗を流し終えた姫和達は、聡美と孝子の勧めで屋台の並ぶ参道にやってきていた。

 どの時代でも、こうして少女達が楽しそうに浴衣で駆ける姿は、よく映えるものである。

 

「可奈美ちゃん、姫和ちゃん!あんまり走ると危ないから、気をつけてねー!」

「分かったよ~!舞衣ちゃん達も早くはやく~!」

 少し離れて舞衣や沙耶香、薫やエレンが歩く。

「可奈美、凄く楽しそう。」

「沙耶香ちゃんも、いっぱい楽しんでいいんだからね。」

「うん。…ありがとう、舞衣。」

 

「可奈美と姫和、短期間のうちにあれだけ仲良くなるなんてなぁ。…オレ達も言えたほどじゃないか。」

「なんデスカー、薫?ワタシにヤキモチでも妬いてるのデスか?」

「うっせーよ、バカエレン。…そう思うなら、少しオレに付き合ってもらうぞ。」

「もちろん、デスよ!」

「ねね!」

 とまあ、だいたいペアごとに各々屋台を回っていった。

 

 

 

 

 そして屋台を一通り回りきり、可奈美がトイレに行っている間、姫和は一人彼女を待っていた。左手には先ほどチョコバナナの屋台で買った、チョコミント味のチョコバナナを持っている。可奈美の付き添いのため、今は他の面々と分かれていた。

「可奈美のやつ、トイレに駆け込んだのはいいが、私のことを忘れていないだろうな…?」

 時間の経過とともに、チョコバナナを完食してしまった彼女。それは無いと分かっていても、一人で待つというのは心許ない時もある。

 

 

 ましてや祭りの時ならば、こうした人間も現れるのである。

「おや~、そこのかわいこちゃん、今君一人~?」

「…何だ、お前達は。」

「おお~怖い怖い。お兄さん達、別にそんな怪しい人間じゃないよ。ちょっと時間をくれたら、俺達と気持ちいいこと一緒にさせてあげるよ。」

 

 姫和の前に立つ、屈強そうな二人組の男。明らかに連れ込み案件か薬物案件などで使われそうな常套句であるが、そんなテンプレ発言を使う人間を目の前にして、流石に彼女も大きな溜め息を吐くしかなかった。取り敢えず、嫌悪に満ち満ちた顔を彼らに示す。

 

「…結構だ。それに連れの者を待っているのでな。」

「いいじゃん。どうせ来るまでに時間が掛かるでしょ。その間だけでいいからさ。」

「そうそう。大丈夫大丈夫。それに連れっていってもどうせ女の子でしょ?その子も一緒にどうよ?」

「―っ、くどいぞ!」

「おっ、怒った顔もいいねえ。―さっ、行こうか。」

 嫌がる姫和の腕を掴み、無理矢理連れていこうとする一人。時悪く御刀を携帯していなかったこともあり、一回り体格の勝る男の腕力には、流石の彼女でも敵わなかった。その男は手早く彼女の後ろに回ると、姫和の両手を左手一つで拘束する。

 

「おい、何をする!離せ!…んぐっ!」

 騒がれないようにするためであろう、厚手のハンカチで口を塞がれる彼女。流れるような手慣れ具合からして、常習犯であることは間違いない。

 だがそれでも、口を塞がれながらもなお抵抗する彼女。確かにこの場で暴れ続けられれば、トイレなので誰かしらが来る可能性は上がる。だが、そんなことは男たちも織り込み済みだった。

「んんっー!!んんっー!!」

「ったく、手こずらせやがって。こういう祭りの時ほど、こんな可愛い子が釣れるんだから、力に任せればちょろいもんよ。」

 姫和を抑える男は、左右の手で姫和の体を強く抑えつける。まるで、彼女を物のように扱っていた。ハンカチに加わる力も強くなっていくため、段々彼女の呼吸もままならなくなってくる。

「…もう一人狙い目の子が来るかもしれねぇから、おめえはここに残って待ち伏せしておけ。この子は俺が茂みまで運ぶ。」

「おう。」

(……駄目だ、このままだと私どころか可奈美まで…。…息が、…できない。)

 

 まさに絶体絶命。

 御刀のない刀使は、ただの女の子であることに変わりない。

 この状況で連れ去られるというのは、普通誰しもが想定しているものではない。

 彼女も、もはやこれまで。そう思った。

 

 

 

 

 

 

「おいそこ!何をやってるんだ!!」

 聞きなれた声が、彼女の耳に届くまでは。

 

 

 

 

 

 

 彼が来た時、それはそれはどう見ても犯罪現場に遭遇したようにしか見えなかった。

(…!髪型は違うが、あれは姫和じゃないか!?…ということは、この男達は。)

 すぐに彼女であることに気が付いた彼は、咄嗟の判断を迫られる。

「刀剣類管理局の者だ!そこの少女を直ちに解放しろ!」

 幸い、ショルダーバッグを回している腰あたりには、ベルトにスタンバトンや自動拳銃を入れたホルスターと無線機を差していた。すぐに無線機の集音スイッチを押す。

「おいおい、そこの坊主。冗談はよしな。」

「腰に巻いてるやつも、どうせ玩具のやつだろ。とっととこの子は連れて行っちまおうぜ。」

「そうだな。その前にこのガキは始末しちまおう。」

 

 姫和を抑えていない方の男が、本来所持を禁止されているはずのダガーナイフを取り出す。ダガーナイフは対人殺傷用の武器であるため、十年程前に国内では所持も含めて流通も禁止された物だった。

 刀渡りも数十cmほどあるため、人に向けていい代物ではないのだが、興奮状態の人間に言ったところで意味は無いだろう。

 

「…正当防衛の条件はクリアされたか。」

「何をボソボソ言っているか知らねえが、その口を黙らせればこっちのもんだ!失せな!!」

「後は任せるぞ。」

「んんー!!(◯◯ー!!)」

 

 口を塞がれていた姫和だが、必死に彼の名前を叫んだ。まさに彼女が森の中へと連れて行かれようとしていたのだが、彼はいかにもマニュアル人間的な対応を取る。その顔と声音は、やや不満そうで低いものであったが。

 

「…形式上でも言わにゃならんか。そこの男二人、改めて警告する!直ちに少女の解放、及びその刃物を放棄しろ!これが最後だ。聞き入れられない場合、実力を持って拘束させてもらう!」

「…話にならねえ。やれ。」

「おう。死ねえぇぇぇーっ!!」

 真っ直ぐ、彼に突っ込む暴漢。姫和を抑えている男は、それを見ることなく彼女を連れて離れようとしていた。

 

 

「…威嚇射撃用意。撃て。」

 瞬時にホルスターから自動拳銃を抜くと、空砲を一発上空目掛けて撃ち出し、即座に両手でグリップを持つと暴漢へ銃口を向ける。

 パーンという乾いた音が、祭りの喧騒でかき消されるものの、目前の相手への意思表示には充分だった。

「ぐっ!」

「次は当てます。それでも挑むならどうぞ。そこの少女を抑えている貴方も同様です。」

「ふっ、この娘を人質に取っていることとも分からず、何を粋が」

 

 

 ダーン

 

 

 姫和を抑えている男の声が終わる前に、ダガーナイフを持つ暴漢に向けて迷いなく発砲する彼。

 その弾丸は、暴漢の胴体に命中する。

 

「ぐわあっっっつ!!」

 悶絶し、何とか立とうとダガーナイフを地面に突き刺すも、そのまま横たえる暴漢。

「な、何をする!」

「……警告はしたはずです。次は当てると。此方も正当防衛射撃の手順は踏んでますので、法的には何も問題はありませんよ。」

 実効性に難のあるマニュアル的対応ではあるが、法的に最も問題のない手段を講じて行っているので、彼の言い分には筋が通る。まさか本当に撃つとは思わなかった男は、彼に吠える。

「だ、だからって善良な一般人を…。」

「……善良?…善良ねえ。…その少女へハンカチで口や鼻を塞ぎ、両腕を拘束していて、かつその解放に応じない人間が、一体どの立場で物事を語っているんですか!!」

「ぐっ…、こんな青二才にやられる訳にはいかねえ!…もう女はいい!お前を殺す方が先だ!」

「うわっ!」

 

 男は姫和を突き飛ばすと、ジャケット内に隠していた脇差くらいの長さの小刀を取り出し、彼目掛けて突っ込む。

 この瞬間、彼は確実にこの男を葬らないと駄目かもしれないと直感した。

 昭和時代までは間々あった、政治家への刺突攻撃と全く似た状況に置かれるとは、彼もついていないところがあっただろう。

 だが、幸いにして彼にはこれに抗う手段を持っていた。

 

「おらぁーーっ!」

 迫る男。駆け寄ってくるその姿は、まるで悪魔のようだった。

 

 

 

 

 ダーン ダーン ダーン

 

 

 

 

 その行動に対して、彼は三発の弾丸を高速で撃ち込むことによって応えた。

 

 

「うぐっ…、がはぁっ…!」

 瞬間的に息ができなくなるほどの激痛が、男に襲いかかる。

「いくら正当防衛でも、相手を撃ち殺していいわけじゃないですからね。…最も、ゴム弾でも死ぬことはあり得るのでヒヤヒヤしましたけど。」

「…ゴム…弾、…だと。」

 どんなに頭に血が上ろうが、意外と冷静に言葉を返せた彼。姫和に対してやったことを考えると、ゴム弾では温いのかもしれないが。

「だから、血は吹き出てないと思いますよ。…内出血はしているかもしれませんが。」

 男は、自分の体を見た。

 確かに、小刀を持っていた右手以外から血は出ていなかった。右手は倒れた際に小刀の刃が接触して、切れたらしい。

「…なぜ、…トドメを…刺さない。」

「俺はただの公務員です。相手を殺すのは基本的に軍隊の役割です。…アンタのような屑に、この手を血で染めるほど、俺は腐っちゃない…。…15時12分、現行犯逮捕します。」

 そう言った彼を見て、男は観念したように目を瞑った。その後、万一の時に備えて持っていた手錠を、男の両手首へかける。後は、警察の仕事だ。

 

 もう一人へも手錠をかけ、逃げられないよう血行を遮らない程度に足へ縄をかける。

 ようやくそれが終わると、口を塞がれ突き飛ばされたものの、呼吸が安定してきた姫和のもとに来る。

 

 

 

 

「大丈夫か、姫和。」

「あっ、ああ…。」

「怪我は?体調は?アイツらにあれより酷いことされてないか?」

 矢継ぎ早に彼女へ状態確認を行う彼。

 さっきまで怒り心頭だったはずの表情は、すっかり冷めて、彼女を心配するあたふたした様子に変わっていた。

「だ、大丈夫だ。……その、お前が来てくれて、助かった。…礼を言う。」

「礼なんていいから、本当に怪我は無いんだな?…無さそうだ。良かったぁ~。」

 ほっとしたように、彼の表情が明るくなる。

「…お前、本当にさっきまでの奴なのか?人格が変わり過ぎてないか?」

「え、いや、さっきのは確かに俺だけど。どうかしたのか?」

 あっけらかんと答えた彼に、頭を抑える彼女。

「…いや、いい。気にするな。」

(この男、本当に何者だ?感情の爆発の仕方がまるで風船じゃないか。)

 確かに先日、刀使を守るために自身の存在があるとは言っていたが、まさか本当に実行に移すとは彼女も思わなかった。

 

 そこで彼女は、彼に訊いてみる。

「…なあ、お前が今私を助けに入ったのは、私が『刀使』だからか?それとも『女』だからか?どうなんだ?」

「…?それ重要か?」

「いいから答えろ!」

「おっ、おう…。…って言っても、姫和の問いに答えるなら半分正解、半分間違いだ。」

「どういう意味だ?」

「…刀使がどうとか、そういうの以前に一人の『人間』だろ?襲われている姿を見て見ぬふりなんて、俺はゴメンだ。まして、退けられる力があるなら、尚更な。」

 さも当然のように答えた彼。最も、これを実行できる人間など極一握りだろう。

「……まあ、俺の同僚からも言われるんだが、他人を救うのに自分の命を投げ出して、それを勘定に入れないのは止めろ、とな。俺の悪いところなのかもしれないが。」

「お前、まさかさっきの行動は…。」

「もしダメな時は、差し違える覚悟ぐらいしていたけどな。…ともかく、警察の人がもう少しで着くらしいから、それまで待機だ。もしかして誰かと一緒だったのか?」

「あ、ああ。可奈美が今トイレに行っていたはずだ。……。」

 半ば話題を切られる彼女。何故だかもやっとした感覚が残ったのもまた、事実である。

 そうしてやり取りをしているなか、トイレに行っていた可奈美が姫和のもとへ戻ってくる。

 

 

「姫和ちゃ~ん!お待たせ~!」

「遅いぞ可奈美!」

「ゴメンごめん、…あれ、◯◯さんもいらしてたんですか?」

「ああ。ちょっと面倒事ができてな。あとで写真撮るから、二人とも警察がくるまで時間をくれ。やってくる警察官も舞草の関係者だから、大丈夫だぞ。」

「はい、分かりました…。」

「そうだな。…浴衣が乱れなかったのは、不幸中の幸いか。」

 精神的余裕も出てきた頃、犯人二人を確保するためにやってきた警察官らが、ようやく到着する。

 

 

 

 

 トイレに行った時は散々だったものの、警察官から大まかな事情を説明するのに、そう長い時間は掛からなかった。

 後日分かったことだが、姫和を連れ去ろうとした男達は少女誘拐などの常習犯だったらしく、つい先日刑務所から釈放されたばかりだったらしい。里の情報はそう広く伝わらないようにしていたのに、彼らがなぜこの祭りに来られたのかは謎な部分でもあるが、そのあたりは後々取り調べなどで明らかになるとのことだった。

 

 

 事情聴取と現場検証が終わり、屋台の並ぶ参道へと戻ってきた姫和と可奈美。暴漢二人を抑えた彼も、警備のシフトを終えて合流した。

 

「いや~、◯◯さんって凄いですね!刃物を向ける相手に果敢に挑むなんて。」

「あれは運が良かっただけだ。…それに、もう少し早く来ていたら姫和が襲われるようなことにはなっていなかったはずだしな…。ごめんな、姫和。」

「それはもういい。…お前が私を助けたのは、紛れもない事実だしな。…ただ、躊躇が無いのには驚かされたがな。」

「…姫和、いや刀使に、一般人を傷つけさせる真似なんてさせたくないし、それは俺達がやるべき分野だったからな。…ぶっちゃけ、姫和が飛ばされた時には、あの男の頭に撃ち込もうとも思ったけど。」

「おい待て、それは不味い。」

「…でも、姫和が無事で良かった。…今度は、俺は守れたんだな。」

 彼は少し遠くを見るような目で、そう呟く。

「ん?何の話だ。」

「…いや、此方の話だ。あー、それと可奈美。俺が写真を撮り終わったら、舞衣達が社の石階段の下あたりで待っているだろうから、そこに姫和も連れて行ってやってくれ。」

「あれっ、◯◯さんは?」

「俺は別件だ。多分、エレンから何か案内されるだろうから、それについて行ってくれ。」

「あっ、はい。」

(まあ、糸崎や平城の舞草の人間と合流するためなんだけどな。)

 

 此方の事情はさておき、可奈美と姫和の浴衣姿を撮った彼。勿論、許可は取った。

 姫和に関しては、恥ずかしそうに赤面していたが。

 彼はほとぼりが冷めたら、二人の携帯の方に送信しようと考えている。

 

 

 

 そうして、時間の経過とともに祭りの幕が下りようとしていた時、折神家から指令を受けた特祭隊部隊と結芽が里を急襲する。

 ここから舞草の大部分が壊滅的打撃を被り、折神家目掛けて背水の陣に打って出ることになるが、その道へと進んでいくのはまだ先の話である。

 

 彼や姫和達の平穏な時は、唐突に崩れていくのであった。




ご拝読いただき、ありがとうございました。

感想等ございましたら、お気軽に感想欄・活動報告にご投稿頂ければと思います。

次回は舞衣編になります。
それでは、また。
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