少し間が空きました。リアルでの忙しさには敵わないですね…。
今回は姫和編 その8です。
話中でも触れていますが、時系列はアニメ15~16話付近を想定しております。過去回想に入る部分も若干ございますが、基本はこの時系列となります。
それでは、どうぞ。
ー鎌府女学院 剣道場ー
タギツヒメや維新派が行動を起こし始める前、まだノロ回収班襲撃の容疑者が真希であると疑いを向けられていた頃。
再び御刀を自身の手に取ることを選んだ姫和は、たまたま任務の合間で待機中であった沙耶香に稽古を頼んでいた。かつては敵同士で御刀を向け合ったが、そんな過去を乗り越え互いのために技術を磨く。
振り返ってみると、この二人は可奈美に影響されたところが多少なりとも存在するのだが。
「ふっ!」
「…っ!やあっ!」
「くっ、まだだ!」
甲高い金属同士の接触音が場内に響き渡る。二人の汗と熱意が周囲に散らされるなか、十五分程度の打ち合い稽古を終える。
「…姫和、前よりも強くなってる。」
「そうは言うが沙耶香、お前も以前よりも更に強くなっているぞ。可奈美の立ち合いに巻き込まれているからなのかもしれないが。」
「……でも、可奈美に勝てない。」
「アイツと比べるのは止めておけ。沙耶香自身が可奈美のようになる必要はないのだからな。沙耶香は今、自分の力を蓄えていけばいい。」
「…分かった。覚えておく。」
二人は御刀を仕舞うと、沙耶香は任務の集合時間が迫っていたため先に剣道場を離れた。姫和は、ある人物からここで待っているように言われ、その間に《小烏丸》で素振りをする。
沙耶香が離れて数分後、彼女を呼び止めた当人がやってくる。
「姫和、すまん待たせた。」
「全く、遅れてくるのは相変わらずだな。」
「面目ない。仕事がちょっと手間取ってな。」
「…まあ、呼びつけておいて来なかったら、お前を斬りに行っても文句はなかっただろうが。」
「勘弁してくだせぇ…。…こっちでも回収班を襲った犯人を探しているんだがな。水沢ですらお手上げともなると、俺も頭を抱えるしかなくてなぁ…。」
少し前から続発しているノロ回収班への襲撃。相手が御刀を所持していることは判明しているのだが、それ以外の証拠はまるっきり分からぬままなのだ。
彼の部下である情報担当の姫乃*1が画像解析に当たっているものの、もともとの解像度が粗すぎたため、どんな人相であるのかすら掴むことすらできていない。
「せめて、偵察用のドローンが飛んでいる時に現れてくれたらなぁ…。」
「相手がそう都合よく出てくるものか。…もし私と遭遇したときは、そいつを意地でも逃がさないようにするがな。」
「…頼もしさとともに、無事でいてほしいって気持ちが先行するのはなんでだろうな。」
「そう言うが、お前はこと刀使に対してはいつも過保護だと思うぞ。御刀で相手をしなければならない相手だというのに、お前はなぜ、もっと刀使に任せようとしないんだ。」
「…単純に、刀使が傷ついてほしくないだけなんだよ。姫和も含めて、な。」
「……それは、甘い考えじゃないのか?私からすれば、お前の判断がいずれ、現場の刀使の足を引っ張りかねないような気がするんだが。」
「…あくまで現場の指揮権の多くは刀使達が握っているんだ。そこに俺が介入したらそれこそ大問題だろうが。姫和の心配も分かるが、俺は俺の裁量の範囲を逸脱するような真似はしないぞ。そこは信用してくれ。」
「―まあ、お前は約束を違える人間ではないからな。あくまで私が言いたいのは、もっと人を頼れ、ということだけだ。」
「それ、姫和が言うか?」
「さあな。少なくとも、今の私には討つべきものもないからな。あとはお前次第だろう。」
「…上手く逃げを打たれたような気がしてならない。」
この頃はタギツヒメが実体として動き回っているなんぞ知りもしなかったので、姫和もこんな風に返したわけである。…まさか彼女も、それから二月以内に自身の言葉がそのままブーメランとして突き刺さるとは、思いもしていなかったであろうが。
ー鎌府女学院 食堂兼レストプレースー
夕方から夜にかけてのこの時間帯になると、多くの生徒達が食事を求めてここへとやってくる。その雑然とした空気が漂うなか、彼と姫和もそれに混じって中へと入る。
「お前は、何を食べるのか決めているのか?」
「ん~、メニューを見てからでもいいかな、と。」
「…私はこれにするか。」
「……よし、俺も決まった。こういう時に食券方式は便利がいいよな、ほんと。」
若干の長考の後、自動発券機で選択したものの食券を取ると、お盆を持って姫和の隣に並ぶ。
「姫和が選んだのは、チキン南蛮定食か。」
「そう言うお前は…、親子丼?お前、丼ものが入るのか?」
「姫和さんや、俺も流石にそこまで入らないわけじゃないから。大盛りとかが入りにくいだけだし。」
「…の割には、私が作った料理は余すことなく完食しきるな。あれもそこそこの量があるはずなんだが。」
「え?折角作ってくれたうえに、味も美味しい料理を残す選択肢があるとでも?」
「……褒めすぎだ、バカッ。」
「何か言ったか、姫和?」
「……何でもない。こっちの話だ。それよりも、そろそろ受け取る準備をしたらどうだ?」
「おっと、もう順番が回ってきたか。」
姫和の二人前の生徒が夕食を受け取る姿を目撃し、二人は厨房側のカウンターへ体を向けた。
いつもならば鍛錬ついでに可奈美と食事を共にすることも多い姫和だが、今日は可奈美が任務のためそれは叶わない。
その代わりになるかは分からないが、彼が一緒に夕飯を共にしている。
「そういえば、お前の同僚に中島里奈という刀使がいるだろう。あの刀使はお前のように舞草の人間だったのか?」
「いいや、全く。俺らの部署だと、他の舞草の人間は糸崎だけだな。後から加わった水沢はともかく、中島は無関係の人間だぞ。」
「お前のことだから、舞草への勧誘とかはしなさそうなイメージはあるが、どうだったんだ?」
「しなかった、とまでは言わないが、中島の場合は個人的に此方の事情へ巻き込みたくなかったんだよ。特に、俺の命の恩人である平城の親友の、そのまた親友だったし。…まあ、この隠し事に関しては紫様が居なくなって以降に色々言われたさ。」
「だろうな。」
「それでも、俺のことを信じて未だについてきてくれるんだから、本当に感謝しきれんよ。中島には。」
「…では、私のことはどうなんだ?」
「姫和はその、何というか。初めて会って覚悟の違いがはっきりしているなかでも、『守らなければ』という意識があったことは間違いないな。」
「『守る』、か。ただ、もとを正せば、私が勝手に行動したせいでお前たち舞草に迷惑を掛けたんだろう?そうした意識が湧くのは、少し不思議だと思うんだが。」
「確かに姫和の最終的な目的を知ったときには、オイオイ、とは感じたさ。でも、姫和の行動を止めようが許そうが、どっちにしたって大荒魂の復活は防がなければならない。…命を捨てる覚悟をしているなら、説得はしつつも姫和の意向を尊重するように動く方が、俺としても理には適っていたし。」
「……どこまでも甘いな、お前は。」
「甘くて結構。刀使の命を救える限り救うというのは、誰にも譲らせはしないところだ。…何があっても、な。」
「そうか。」
一旦話題を区切った姫和。個人的には彼の甘さが命取りにならないことを祈りつつ、それが彼が人から好まれる要素でもあると思い直した。
こうして二人が距離の近いなかで食事を摂ることも多くないので、ふと気になったことを彼にぶつける。
「……以前から思っていたが、お前自身の話はあまり聞かないな。」
「聞くほどの話でも無いだろ。舞草の諜報員なんかやってた人間の戯れ言なんて。」
「…の割には、お前自身の功績はもっと誇ってもいいものじゃないのか。なぜ、それを自ら拒む?」
「だってそれ、俺の功績じゃなくて現場とか他の人間が頑張った結果じゃん。悪いけれど、他の人間が頑張った結果を横取りするような神経は、俺の中には無いぞ。」
「お前の場合は、その謙虚さがむしろ他人に悪影響を与えてないか、と聞いているんだ。」
「俺がか?…今まで理不尽なことが降りかかってきたことを除いて、どっかしらに圧力をかけた覚えはないんだが。」
「お前自身は悪気は無いのだろうが、敢えて言うと『空気』だ。管理局や特別祭祀機動隊で、お前の名前を知っている人間は多い。それも、そこそこの地位だ。そんな人間が自身の功績を否定するとなれば、…流石にお前でも分かるだろう?」
「……なるほど、他の人間が『勝手に』萎縮しかねないってことか。ただ、本当に力のある奴は無能な人間をはね退けて這い上がってくるだろう。業務妨害や諸々のハラスメントに対しては、折神家隷下の刀剣類管理局監査部が徹底的に調べ上げるし。そんなことをやった人間には重い処分が下るぞ。」
「だといいんだがな。」
「……まあ、やらかして左遷喰らった人間は何人か見送ってるしなぁ。俺の知り合いにもいたし。」
「ちなみにソイツは、一体何をしでかしたんだ?」
「複数の刀使との交際。要するに又掛けだな。しかも双方の刀使はそれを知らなかったんだから、確信犯だったろうな。それがバレた時に刃傷沙汰になって、俺もその時死にかけたが、その人が道東へ左遷させられることで決着したよ*2。」
「…お前も似たようなことをしでかしそうだがな。」
「は?いやいや、俺が好きな人間は居ないだろ。ましてや、そこまで俺は節操のない人間でもないし。そりゃ、女の子から好意を向けられたら嬉しいけどなぁ…。交際はまた別の次元の話だろ?」
「さ、どうだろうな。…ま、こんな薄情者に好意を抱くような人間もいないか。」
「薄情者で結構。俺自身は嫌われ者でも構わないと思っているし、サンドバッグ役には慣れてる。」
「……薄情者と言った私が言うのもなんだが、もう少しお前は自分を大事にしたらどうだ?」
「えぇ…。それやるくらいなら、姫和とか他人の方に時間を回すぞ?姫和達がぶっ倒れたら、誰が荒魂を抑えるんだよ。」
「……はぁ。分かった。ただ、お前も倒れられると困る人間も多いことは覚えておけ。」
多分、これ以上この手の話を続けても平行線にしかならないと判断した姫和は、彼にやんわりと注意は促した。その意図が伝わるかまでは分からないが。
「しかしまあ、お前は食べる速度が速いイメージがあったんだが、今日は遅いな。」
「ついつい、姫和との話が夢中になっちまうのかもな。…単に親子丼が重いってのもあるだろうが。」
「お前の食欲の薄さは、どうやら本物らしいな。それでよく倒れないものだ。」
「姫和とか舞衣とかの料理は普通に入るんだけどなぁ…。別に摂食障害とかの病でもないんだし、もっと入ってもいいんだが。」
「舞衣の料理も食べたことがあるのか?」
「えっ、あっ?ああ、可奈美を一度美濃関に帰してすぐ蜻蛉返りになった時にな。」
「そうか……。」
「ん?俺何かマズいことでも言ったか?」
「別に?…ただちょっとだけ、な。」
若干不機嫌そうな顔を浮かべた姫和。彼女本人はそれに気付いていないようだったが、彼はその表情の変化を読み取りつつ、親子丼をかき込む。
「……ふう。ごちそうさま。」
「食べきったのか。」
「どうにかな。ここの食堂のご飯は、やっぱり美味しいもんだな。」
「その割には、さっきまでえらく食い方が荒かったがな。」
「米粒一つ残していないんだから、いいだろ?」
(…どうにか不穏な流れは回避できたみたいだな…。しかしまあ、なんだってあんな顔を…。)
それに気付けるのなら、女子の扱いがぶっきらぼうなものになるわけもないのだが。
それから少し遅れて、姫和も夕食を食べ終える。
「はーっ。」
「水でも飲むか?」
「いやいい。…そういえば、もうすぐ沙耶香の誕生日だったな。何かプレゼントでも贈ったほうがいいだろうか?」
「そうだな…。」
彼の視点からでは、沙耶香の性格的に物欲というものがあまり無いようにも思えたが、無難なものを例に挙げる。
「コップとかの日用的に使えるものだったり、あるいは御刀の手入れができそうなものとかを渡すと、沙耶香は喜ぶんじゃないか?」
「確かに、それはアリだな。」
「…身も蓋もないことを言えば、舞衣のお菓子を欲しがりそうな気はするけどな…。」
「……ああ、それは、あり得そうだな…。」
普段姫和が見せるクールな表情が破顔しているところを見るに、やはりその可能性は考えていたのだな、とは思った彼であった。
食堂を離れて姫和と別れる時、彼は彼女にこう言われた。
「なあ、○○(彼の苗字)。」
「なんだ、姫和。」
「お前は、…私がまた何かを成さなければならないと思った時に、私のことを止めるか?」
「……今の時点では分からない、とだけ答えておく。ただ、もし姫和の命を引き換えにするような事であれば、最後まで諦めずそれを避ける方法を探すだろうよ。」
「…そうか。いや、ちょっとした気の迷いだ。気にするなよ。」
「は、はあ。」
思えば、彼としては特に重要視していなかったこの時の会話だが、既に姫和は何か起きた時には再び死地へ赴くことを考えていたのだろう。
彼としては姫和と仲良くなり、彼女と過ごす時間も悪くないと思い始めていたなかで、全身の血の気が引く事態が立て続けに起こることなど、この時には知る由も無かった。
彼がその幸せな時間の尊さを知るには、あまりにも見えない犠牲が付きまとうことになった。
ご拝読いただき、ありがとうございました。
筆者のところにも振袖の姫和が来ましたが、彼女はやっぱり和装が映えますね。
次回も間隔が少し空くかもしれませんが、その点を留意していただきますと幸いです。
それでは、また。