刀使の幕間   作:くろしお

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どうも、くろしおです。

今回は姫和編その9 前編です。
姫和がイチキシマヒメを取り込む前後の話となります。

それでは、どうぞ。


⑪ 捜索禁止命令 前編

 ー刀剣類管理局本部 駐車場付近ー

 

 刀剣類管理局維新派を名乗る雪那らタギツヒメ一派は、政府高官を味方につけた上で、舞草側が保護していたイチキシマヒメの奪取・確保に動こうとしていた。

 既に舞草の米原潜は拿捕されており、事態は一刻の猶予も無かった。

 

 

 

 

 累の手によって、紫とイチキシマヒメは原潜から脱出できたものの、維新派は二人の上陸地点を割り出しており、急いで応援に向かう必要があった。

 姫和達も紗南からの指示で、千葉県銚子市方面へと急行するように準備を急いでいた。

 

「姫和ちゃん、集合場所へ行くよ!」

「…!あっ、ああ。」

「?姫和ちゃん、どうかしたの?」

「いや、何でもない。行くぞ、可奈美。」

「う、うん。」

(普段よりもちょっと姫和ちゃんの様子、変だな。どうしたんだろう?)

 

 可奈美は姫和から伝わる違和感を感じてはいたが、それは後回しにされた。そして、続々とヘリポートへと向かう刀使達に混じり、彼女達も後を追う。窮地に立たされようとしている、紫達の支援へと赴く。

 

 

 

 

 

 

 ー刀剣類管理局本部 彼の部署ー

 

 一方、そんな彼女達の動きとは裏腹に、この敷地内から出られない人間がいた。

 

「はあ…。何でよりによって、大事なタイミングでこうも動けなくなるかねぇ…。」

「仕方ないだろ。ただでさえ、今のお前は近衛隊からすれば格好の標的なんだ。」

「あれだけはっきりと、アンタの命を狙ってくるとは思わなかったけどね。」

 

 誠司や里奈から返す刀で出られない理由を告げられ、その机上で頭を抱えていたのは、近衛隊から暗殺対象として直接名指しされた彼であった。数日前、東京都心での哨戒任務中に近衛隊からの襲撃を受けたのだが、その際に彼の存在そのものが今後のタギツヒメの計画の邪魔になる、と襲った側の近衛隊の刀使達から告げられたのだ*1

 

 航空自衛隊入間基地を経由して鎌倉の本部に戻って以降、彼の身は本部で預けられることになった。その理由として、対策を行わなければ彼が近衛隊に襲われる可能性が非常に高いことが、紗南や朱音、更には通話内容の音声分析を行っていた姫乃から指摘されたためだ。

 このため、それ以後の任務は基本的に本部での業務に専念、つまり事実上の軟禁を指示された。ネット環境から隔絶されたわけでもないので、ある程度の情報収集が続けられたのは幸いではあったが。

 

「これじゃあ、近衛隊の詳細な戦闘・戦術データを収集できねえよ。…葉菜や由依を奪還する糸口すら見つからないともなると、この先近衛隊を攻略する時に割と真面目に詰むんだが。」

「とはいえ良かったな。中島がお前を守る気が無かったら、今頃お前は血祭りに上げられてたんじゃねえの?」

「…確かにな。包囲されかけてたなかだと、逃げ出すのは容易じゃなかっただろうからな。そういう意味じゃ、中島には感謝してるさ。」

「お礼は彩矢に言ってあげなさいよ。半分は私の意志じゃないし。…にしても、近衛隊の動きがバレバレってのもねぇ…。」

 

 現在彼の部署では、近衛隊の刀使が持っているスペクトラムファインダーの端末位置情報が表示されていた。ただしあくまで表示だけであるので、その場にいる刀使の実数までは不明瞭だ。

 

「携帯の機能が組み込まれている、っていっても、バックドアの警戒くらいしておきなさいよ…。」

「全くな。ま、少なくとも俺やお前、中島や水沢、それと早希のスマホはそんな簡単にセキュリティを突破できるような代物でもない。俺以上のプログラミング技術を持っているのは、それこそ水沢くらいなもんだろ。そうそう、俺らの情報が漏れることも無ぇだろうよ。」

「……問題は、俺の預かり知らぬところで、水沢が勝手に盗聴アプリを仕込んでいたことだがな。アレのおかげで助かったとはいえ、それとこれとは別の話だ。」

 

 姫乃が綾小路の生徒の端末に仕込んでいた情報収集用アプリ。最も、それを仕込んだきっかけ自体は、紗南から寄せられた綾小路の不穏な動きによるものだったのだが。

 どっちにせよ、憲法でも保障されている通信の自由を、本来遵法すべき国家機関が真っ向から否定しにかかっている行為を行ったのは非常に不味いので、姫乃には彼から文書による厳重注意を行った。…維新派の動きが完全に鎮静化するまで当該アプリの削除が施せないというのは、切迫した緊急事態が間近に迫っているため、やむを得ないという判断がなされた。そのことはこの情勢下では致し方ない部分もあったが。

 姫乃曰く、アプリの削除そのものにはそこまで時間も手間も掛からないそうなので、そこは彼女を信頼することにした。今彼女は席を外しているが、これは盗聴した通話内容の分析を他部署で行っているためだ。

 

「イチキシマヒメの上陸後の細かな動きは、まだ掴めていないんだよな?」

「今のところは姫乃の解析結果待ちよ。…ホント、まさか綾小路の人間に盗聴アプリを仕込んでいるとは想定外だったけどね。」

「何気に俺達にも仕込んでいたりしてな。まあ、今となっちゃ仕込まれても別に困るようなこともねえが。聞かれてもプライバシーに引っ掛かるようなものはないだろうし。」

「…少なくとも、水沢本人にはあのアプリを使ってこれ以上の悪用しないことを条件に、内容の解析許可を出した。もし他の人間、特に刀使に対して何か良くないことでも謀ろうものなら全力で止めるさ。」

「だといいんだがなあ…。お前、女の子には結構甘いところがあるだろ?」

「そんなわけあるか。……むしろ、相手からは嫌われているほうが仕事はしやすいさ。何がダメなのかがすぐ分かる。」

「…それって、十条さんのこと?」

「姫和の言葉は、よくグサりと刺さるからな。…まあ、姫和には家族がもういないしな。そういう意味では、彼女の言葉はかなり重たいものだと思っているぞ。」

(……時たま見かける十条さんの言葉って、私はてっきり照れ隠しなのかと思っていたんだけど、違うのかしら?)

(…十条はともかく、よく考えたらコイツ相当な鈍感持ちだったっけか。多分、ただのお世辞やら表面的な褒め言葉だと思い込んでいることも多々あるもんなあ…。俺からすれば、コイツはなんてヒデェ奴だろうか、とか思うが。)

 

 時々彼と姫和が話す姿を目撃する里奈と誠司だが、ただの刀使と一職員の間柄と捉えるには親しげな雰囲気であるように思えた。二人には、彼らの関係がそんなふうに見えていた。当の本人たちが否定する以上、変な勘繰りはしないようにしてはいるのだが。

 と、ここで姫乃が部屋に戻ってくる。

 

「◯◯さ~ん、傍受していた近衛隊の通話内容、分析と書き起こしが終わりましたよ。」

「おっ、助かる。これでどういう動きをしていくのかが、少しばかりは読めそうだ。」

「…別にお前が、近衛隊の無力化・刀使達の解放作戦への矢面に立つ必要もないとは思うだがな。俺は。」

「言うな糸崎。他の人間にこんなモノを任せられないたろ?少しでも良心のある人間は、そもそも近衛隊の刀使を、傷つけてでも取り戻したいとは言わないだろうよ。」

「アンタはどうなのよ、◯◯。」

「……綾小路の刀使達やそのご家族から恨まれようとも、鬼だろうが悪魔だろうがなってやるさ。人の生き死にが掛かっているんだ。俺の立ち位置なぞどうでもいい。」

「…◯◯さん。」

 

 御刀を向けられてもなお、彼は彼女達の救出を諦めたくなかった。刀使に助けられてきたなら、今度は自分たちが刀使を助ける番だと。

 

「まあ、解析結果を見ながら、近衛隊と此方の動きを追っていくことくらいはできるだろ。」

 

 彼は室内にある大型ディスプレイ上の、近衛隊と姫和達捜索部隊の動きを注視した。

 

 

 

 

 

 

 ー茨城県神栖市 国道124号線上ー

 

 北上しているとみられる紫とイチキシマヒメを追う姫和。S装備であるとはいえ、バッテリーの稼働時間を考えるとのんびりしている時間はない。維新派によって交通規制が実施されていたため、交通量が少なくなっていた国道124号線を辿りながら、彼女は周辺の捜索に専念していた。

 

「急がねばな。」

 

 付近にあるガソリンスタンドと地域のコミュニティーセンターを左手に見ながら、近衛隊の包囲を抜けていく。可奈美達が工業地帯で近衛隊の一部を引きつけている間に、何としても紫達と合流しなければならない。

 

(不思議なものだな。今まで私が討とうとしていた人間を、今度は私自身の手で守ろうと動いている。…母さんは、今の私をどう思うのだろうな。)

 

 ここ数ヶ月間の心境の変化はあれど、荒魂を討つという考えそのものに変化はない。それでも、一時期彼女が刀使を続けるかどうかという、そんな迷いを持っていたことを思えば、今の姫和は目的意思を持って行動している。

 

「居たぞ!折神紫のもとへ絶対に向かわせるな!」

「――っ!ここにも近衛隊がいるのか!」

「相手は一人だけだ!タキヅヒメ様から頂いた力を持ってすれば、四人掛かりなら」

「お前達の相手をしている暇などない!そこを通してもらう!はあっ!!」

 

 姫和は近衛隊が動く前に二段階迅移を発動し、四人の近衛隊刀使をあっさり無力化する。邪魔をされて若干苛立っていたのもあるだろうが、可奈美と重ねてきた鍛錬の成果がここで表れていた。

 

「…くっ、時間が無いというのに!」

 

 刀使の体力も無尽蔵ではない。八幡力を用いて移動速度を上げる。

 この道を北上すると鹿嶋市に至る。姫和の流派である鹿島新當流の発祥の地であり、建御雷(たけみかづち)(武御雷)神を祀る鹿島神宮が目前に迫ってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 ー刀剣類管理局本部 彼の部署ー

 

 視点を本部に戻す。

 作戦参謀本部から送られてくる状況を見ながら、彼は此方側の旗色の悪さを実感する。

 

「…こりゃ、今の近衛隊への認識を改めなきゃならないな。烏合の衆なんかじゃない。明らかに統率された動きだ。」

「え?どういうこと?」

「展開の仕方だろ?近衛隊の動き、明らかに誘い込むような配置だ。銚子大橋で紫様とイチキシマヒメを捕まえる算段だったんだろうが、それが失敗してもなお全般的な動きに変化はない。…これ、維新派側に相当な戦略家がいるぞ。」

「……確か、綾小路の相楽学長って、刀使だった頃は『鬼の結月』と言われるくらいには、指揮統率能力が高かったはずですよね。」

「ああ。…もしあの人が相手になるなら、浦賀*2達では太刀打ちできないかもしれないな。つくづく、厄介な人が敵に回ったもんだ。」

 

 現場指揮権そのものは夜見が握っていたものの、全体的な指揮は彼や姫乃の推測どおり、結月が執っていた。

 

「それってつまり、自分たちの生徒をタギツヒメの駒にしているってことよね。…相楽学長、一体何を考えているのかしら。」

「…案外、高津学長の暴走を止めようとしてたりな。」

「……かもな。ま、憶測の域を出ない話ではあるが。」

「◯◯さんの憶測が当たっていたとして、止められますか?相楽学長は。」

「結論から言うが、無理だろう。相手は政治力と弁舌に長けている。加えて、守るべき生徒は自分の制御下を離れている。…せいぜい、綾小路本体がこれ以上巻き込まれるのを防ぐしかできないだろう。」

「…でも、それにしては妙に刀使の数が多くないですか?綾小路の刀使の数は、初等部を含めて多めに見積もっても精々百五十人もいればいいほうですよ。」

「……まさか!?」

 

 姫乃の疑問に、彼は想定したくない可能性を導き出した。

 

「水沢、綾小路が持つ無銘(・・)の御刀、つまり汎用的の御刀はどれくらいある?」

「ちょっと待ってくださいね。……赤羽刀からの再生がまだなものを含めて、約100本ほど。再生済みは約70本ほどですね。……◯◯さん?」

 

 途端に表情が曇りだした彼。

 

「……恐らく、あの異常に多い刀使の数の理由は説明できるぞ。冥加刀使計画、あれを一般生徒にまで適用したってことだ。…それなら、短期であれだけの戦力化が可能になるわけだ。」

「ちょっと待って!幾ら何でもそれは無理があるわよ。だって、たった二~三週間くらいで刀使になれるなら、そもそも近衛隊を必要とするほどの戦力は必要無いはずよ。」

「…まさか、あのノロアンプルですか。」

「可能性として、非常に高い。諸々の報告で上がってきていた洗脳効果や、タギツヒメへの崇拝が付与されているものなら、元々刀使の強化を目的としたアレならできるだろう。別に足止めする程度の人数を揃えるだけなら、鍛えられている必要はないからな。」

「…じゃあ、実質無差別に刀使にできるってことですか。」

「いや、ノロに適合しなければそれは無理だ。問題はそれがどの程度の人数いるのか、って話だが。」

 

 加えて、足止めすることに主眼を置いているのならば、部隊展開はユニット方式を採るはずだ。これなら、練度の高低によらないで部隊内でのカバーが容易となる。

 

「……いずれにせよ、姫和達が戦っている相手は、簡単には倒れてくれない奴らだ。せめて、紫様とイチキシマヒメを保護できれば、戦闘の流れはこっちに傾くんだがな…。」

 

 だが、彼のその考えは非常に甘いものであった。

 鹿島神宮にたどり着いた紫達であったが、既にそこにはタギツヒメが待ち構えていた。そんななか、イチキシマヒメがタギツヒメに斬り伏せられようとしていた紫を救うべく、合流を目指していた姫和との同化を望んだのだ。

 同化後、雷神と化した姫和は、タギツヒメを撤退*3に追い込んだ。だが、イチキシマヒメの持つ膨大な情報量と、全盛期よりも幾分も少量になったとはいえ彼女が抱えていた莫大な量のノロが、彼女の精神に多大な負荷をかけていた。それこそ、今にでも姫和の精神を崩壊させかねないほどに。

 

 姫和は、その場で可奈美を巻き込んだ力の暴発を防ぐため、何処かへと消えていってしまった。

 その場で紫から追跡を止められた可奈美は、見えなくなった姫和の身を案じた。

 

 

 

 

 

 

 姫和の失踪の一報は、刀剣類管理局本部に居た彼のもとにも届けられた。

 だが、彼は動けなかった。紗南と朱音から、捜索参加への許可が下りなかったからだ。

 

「姫和、無事で居てくれよ…。皆、帰りを待っているんだからな。」

 

 彼の心中として、それが第一に来るようになっていたのは、彼女と出会ってからの今までの積み重ねがあったからだろう。

 

 

 

 

 しかし、彼の祈りは届かなかった。

 彼には、彼女の運命を変えることはできなかった。

*1
この時の話は、主人公編『Surgical Strike』前後編参照。

*2
綾小路武芸学舎の浦賀奈緒(とじともサポメン)のこと。

*3
正確には可奈美が来た途端、彼女はまるで逃げるかのように隠世へと潜っていった。




ご拝読いただき、ありがとうございました。

感想等ございましたら、感想欄・活動報告にお寄せいただければ幸いです。

後編に続きます。
それでは、また。
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