二日連続投稿となります。
今話は可奈美編その2 後編です。
二人が別れた辺りからスタートします。
今話は、少々長めとなっております。
それでは、どうぞ。
ー神奈川県横浜市 横浜・八景島シーパラダイス 連絡橋付近ー
本土側からやってきた荒魂と対峙する、可奈美。
二体の荒魂の大きさこそ、中くらいのタヌキ型のものではあったが、一人で対処するには少し手の余るものだった。
「特別祭祀機動隊の者です!危険ですから、この場から直ちに離れて下さい!」
周囲の民間人に避難を呼び掛けながら、間合いを詰める。
「はあぁぁぁっー!」
二体のうち、前側にいた荒魂に斬りかかる。
だが、
「!?…うそっ!この荒魂硬い!」
容易に打ち勝てる相手ではないことを瞬時に悟った可奈美は、体力を温存させるため一旦島側に下がる。
「…まだまだ、私も鍛錬が足りないなぁ…。剣術でみんなに勝てても、刀使の本分である荒魂を倒せないんじゃ、意味無いよ…。」
自分自身に辟易しながらも、可奈美は、いかに荒魂が島に到達する時間を稼げるかを考えた。
八景島の構造上、荒魂がやってきた連絡橋以外で島外に脱出するには、国道357号の東京湾岸道路もしくは歩行者用の駐車場に繋がる歩道橋、船による海上退避の選択肢があるが、いずれにしても民間人や従業員、合わせて数千人を逃がすには時間がかかり過ぎる。
「やっぱり、一人じゃ厳しいな…。」
一人になって初めて分かる、仲間の大切さ。
無論、可奈美も分かっていたつもりだったが、こうした状況にでもならなければ、その本質を理解できなかっただろう。
「…泣きごとなんて言ってられない。ここには今、私一人しかいない。…やるしか無い。」
可奈美は、迅移と八幡力を使い、再度荒魂に近接する。
…まだ手を出していない、後方の荒魂へ。
ー横浜・八景島シーパラダイス 広場ー
一方、可奈美と別れた彼は、従業員に刀剣類管理局の人間と特別祭祀機動隊の者が居ることを伝え、もし他に同じような人間が居れば、民間人を広場に避難誘導させると共に集まって欲しいことも伝えた。
そして、それから少しして利用客や従業員が、広場に集まってきた。
従業員の方から、拡声器をお借りし利用客に呼び掛ける。
「皆さん、落ち着いて下さい!私は刀剣類管理局の者です!荒魂の討伐が終わるまで、従業員の方に従って、安全な場所へ避難して下さい!」
その中には外国人の方もいらっしゃったため、通訳の出来る方にお願いして、避難誘導を手伝ってもらった。
ここまでで、可奈美と別れておよそ十分。
迅速さが求められるなか、これだけの時間でパニックを回避しながら、数千人の避難誘導にこぎつけられたのは奇跡的であった。
「この場にいる特祭隊員、皆集まりました!」
この日、彼や可奈美同様、非番だった隊員でこの場に居合わせたのは、計六名。
この場に刀使はいなかったが、それでも専門的知識を持つ者が居るのは、彼にとっても心強かった。
立場上、彼が上の立場であるため、六名は皆敬礼していた。
彼も、その六名に敬礼を返す。
「皆、折角の休日に済まない。だが、応援が来るまでの間、君たちの力を貸してくれ!」
「皆、これくらい慣れてますよ。それで、今荒魂は?」
「今、可奈美が応戦中だ。だが、耐えられるとも限らない。」
「えっ、あの衛藤さんが!?」「ウソでしょ!?」
「各々言いたいことはあるかもしれないが、今は時間がない。四人と二人に別れて行動してくれ。」
それから、すぐに分かれる六名。
「完了しました!」
「まず、四人グループは応援で来るであろう、ヘリコプターや刀使たちの誘導、あとは従業員とともに避難誘導に当たってくれ。応援が来次第、引き継いでもらってくれ。」
「了解です!」
先行して、四人が離れる。
「私たちは何をするんですか?」
残った二人のうち、長髪の女子が彼に問いかける。
「…可奈美を援護する。」
「えっ、でも。」
「確かに我々は刀使ではない。だが、出来ることもある。恐らく、ヘリコプターからコンテナが落とされるから、一人はそれを回収して俺の下まで持って来てくれ。もう一人は、連絡橋に人を近づけないようにしてくれ。興味本位で、討伐中の映像を撮ろうとする輩はどこにでもいるからな。」
「「はい!」」
「待ってろ可奈美。もう少し踏ん張っていてくれ!」
連絡橋に向かう三人。彼は、一人奮戦する彼女のことを思いながら、足を速める。
ー刀剣類管理局本部 ヘリポートー
その頃、出動準備中の柳瀬舞衣と十条姫和、益子薫は、八景島に出現した荒魂の概要を聴いて、唖然としていた。
「可奈美はまだ戦っているのか!?急げ!」
「マズいな。もう初報から五分経過している…。オレたちが救援に行って間に合うのか?」
「可奈美ちゃん…。待っていて。今向かうから!」
三者三様の思いを抱えながらも、エンジンスタート中のヘリコプター二機に分乗する。
そのうちの一機には、彼が言っていた黒色のコンテナが載せられていた。
その機には、《祢々切丸》を携える薫とねねが乗っていた。
「これは一体何だ…?」
「ねっ?」
「それは、現地にいるアイツが寄越してくれと言っていたやつだ。」
一緒について来た真庭本部長が説明する。
「連絡があったら、投下してくれ。ヘリの高度は、その時低い筈だからな。」
「オレたちは、いつ降りればいい?」
「現地の特祭隊員が、降下場所を指定しているらしい。何分、場所が人工島だからな。風の影響を受けないように降ろさないと、二次災害を招くからだそうだ。」
「了解。んじゃ行って来るわ。ど畜生…じゃなかった学長。」
ヘリのスライドドアを閉める薫。
その直後、二機のヘリは八景島に向けて飛び立つ。
「…アイツ、帰ったら課題増やしておくか。」
ヘリの行ったヘリポートで、そう呟いた本部長であった。
なお、戻ったらホントに課題が増やされていた薫が、本部長に抗議しに行ったとかなんとか。
ー横浜・八景島シーパラダイス 連絡橋ー
「はあっ…、はあっ…。」
二体の荒魂のうち、後方にいた荒魂に関しては、脚を斬り落とすことでその進行を止めることに成功した。
だが、ジリジリと前に進む高硬度の荒魂に関しては、未だ止めることができていなかった。
後方の荒魂を止められたのは、運と《千鳥》で斬ることのできた荒魂の性質もあった。
もし、可奈美が接近したタイミングで、前側の荒魂が入れ違いに島側に突き進んでいたら、彼女とて抑えられないどころか、寧ろ被害拡大を招いていた可能性もあった。
だが、かれこれ二十分近く二体の荒魂を、一人で相手し続けるのには限界があった。
「…さすがに…、まずい…かな。」
何度か写シを張り直しながら対処したこともあり、体力的にも精神的にもそろそろ保たなくなってきた。
それでも、彼女は立ち上がる。島内にいる人々を守るために。
「ここで…、倒れるわけには…、いかない!」
自身を鼓舞しながら、奮起を図る可奈美。
その時だった。
「可奈美、待たせたな!」
聞き馴染んだ声が、彼女の耳に届く。
「…もう、遅いよ…。バカッ…。」
若干涙目になりながらも、彼に微笑みかける可奈美。
そして、上空からはヘリの音が近づく。
彼女が限界を迎える、そのすんでのところで間に合った。
ピピピピッ
ほぼ同じ頃、薫のスマホに通話が入る。
「ん。もしもし。」
『薫か!俺だ!』
「…詐欺なら間に合ってますが?」
『違う、コンテナ!本部長から聞いた。赤い発煙筒を焚いているところに落としてくれ!』
「はぁ。面倒くさいな…。」
そう言いながらも、スライドドアを開く。
「どっせい!」
勢い良く投げ下ろし、ヘリ真下にコンテナを落とす。
コンテナは、パラシュートを開きながら、発煙筒の下に落ちてゆく。
下には、自分と同じ位の歳の少女が、コンテナに駆け寄ってきた。
恐らく、彼の指示で派遣された特祭隊員だろう、と薫は思った。
「益子さん、そろそろ降りる準備をして下さい!」
ヘリのパイロットに促される薫。
「わーったよ。行くぞねね。…本物のヒーローってのは、遅れて登場するもんだぜ。」
「ねねっ!」
先行する舞衣と姫和のヘリを見ながら、到着準備をする薫とねねだった。
無事可奈美と合流した彼。だが、少し離れた位置から見ても、可奈美が消耗しきっているのは、彼の目から見ても明らかだった。
「可奈美、まだ動けるか!?」
「うん。でも、もう厳しいかも。」
「そのまま後方へ下がれるか?」
「結構ギリギリ…。」
(マズいな…。応援も間に合ったっていうのに!)
薫を含めた応援の刀使が、あと数分以内に来ることは分かっていた。
だが、その数分が長い。
このままでは荒魂に押し切られる、そう思った時だった。
「持ってきました~!これでいいんですね!」
コンテナの運搬を任せていた長髪の少女が、自身の言っていたコンテナを携え戻ってきた。
彼はそれを見た瞬間、思わずガッツポーズをしていた。
「よし、これでいける!ここまでの運搬作業、済まない。ありがとう!」
「い、いえ。こちらこそ。お役に立てたなら何よりです!」
思わず、お辞儀をする長髪の少女。
そしてコンテナを受け取ると、手早く中身の確認をする。
内部は二層構造になっていて、上段には照準機付きの弓と弦、寸胴で特殊な矢尻をした矢が収められていた。
下段には、12.7mm対物ライフルと、これまた変わった弾頭をした弾丸が入ったマガジンがあった。
思わず、控えていた別の特祭隊員が声を上げた。
「このコンテナは一体?」
「ああ、本部長に掛け合ってな。準備してもらっていたんだ。刀使以外の人間が扱える、対荒魂用拘束ユニット。まだ試作段階だけどな。」
先に対物ライフルを展開しながら、彼は受け答えする。
「いつの間に、そんなもの準備してたんですか!?」
前方で、少しずつこちらに後退してくる可奈美も、思わず突っ込んだ。
「備えあれば憂いなし、って言うだろ。…最も、実物を扱うのは今日が一発目だけどな。」
「ええっー!」
「近いうちに試射しようと思ってたんだが、実戦が先になるとはな。」
「ホントに大丈夫なんですかそれ!」
「まあ、見ておいてくれ。…刀使の負担を減らすための、俺なりの考えだ。失敗なぞ、させないさ。」
口調と彼の射撃の腕に不安はあるが、彼の真剣な目を見て、可奈美はそれに賭けることにした。
何より、自身も既に荒魂を対処するには限界だった。
「……その言葉、私は信じますよ!」
「任しておけ!可奈美、そのまま真っ直ぐ下がってこい!写シを張っていても、何が起こるか分からん!」
「はいっ!」
ふーっ、と息を吐く。銃の照準機も調整し終えた。
そして、引き金に手を掛ける。
荒魂との相対距離は、およそ130m。
(風は西寄りに7m/sくらいだろうか?いける!これに全てを込める!)
ドンッ
島側に近寄る荒魂目掛け、荒魂の動きを縛るための弾丸が、対物ライフルから撃ち出される。
対物ライフルの周囲に、衝撃波が走る。
可奈美の横をすり抜け、弾は荒魂の脚部に当たる。
その瞬間、彼女の目の前の荒魂は、その動きを止めた。…正確には、動けなくされた、が当てはまるだろう。
みるみるうちに、荒魂の脚部から全身にかけて凍結していく。
「あれって、まさか!」
「液体窒素ですか!?」
二人の特祭隊員が、声を上げる。
「ご名答。ただ、急速冷凍できるよう色々混ぜ合わせているから、正確には違うけどな。可奈美!今のうちにこっちに!」
写シを解き、彼の下に飛び込む可奈美。
思わず彼に抱きついた。
「ありがとう!…信じて良かった。」
「そうかい。…可奈美、抱きつくのは有り難いんだが、出来れば腕を解いてほしい…。その…、後ろの二人が見てる。」
「えっ。」
可奈美が彼の後ろを見ると、先ほどまで彼をフォローアップしていた二人の特祭隊員がいた。
「ど、どうも…。」
「こ、こんにちは…。」
気まずそうな二人。
「…なんかごめん。」
「気にするな。…正直、嬉しかったけどな。」
「えっ、それって『ギャオォォォー!!』まだ動けるの!」
聞き返そうとした可奈美の声は、凍結から少し動けるようになった、荒魂の咆哮によって遮られた。
「どうしよう…。もう限界みたい…。」
写シが張れないほど、消耗しきった可奈美。
「……いや、どうやらこちらの勝ちのようだ。」
「へっ?」
可奈美は、彼が指差した先を見ると、彼女と親しき仲間達がその姿を見せた。
「可奈美ー!無事かー!」
「おい、あそこ!手を振ってやがる!」
「良かった…。可奈美ちゃん、無事だったんだね…。」
駆けつけた姫和、薫、舞衣の三人は、可奈美の姿を見て一同安堵する。
「みんな~!」
「すまん、あとの荒魂対処は任せる!可奈美はもう限界だ!」
可奈美を含めた四人は、姫和たち三人の刀使に現場を引き継ぎ、彼女たちは荒魂の対応に当たる。
四人は、広場近くに駐機してある、刀剣類管理局のヘリコプターのもとに向かった。
ー臨時指揮所 救護テント内ー
緊急で手伝ってもらった特祭隊の二人と別れ、可奈美と彼の身は、駐機ヘリ横のテント内にあった。
「ごめんね。折角の息抜きが台無しになっちゃって。」
「なに、俺は可奈美が無事なら、それで充分だ。」
二人は、駆けつけた刀剣類管理局の職員らに、簡単な事情説明と、可奈美の方は治療もしてもらっていた。
「実は…、私謝らないといけないことがあって…。」
「何のことだ?」
「あなたは、どうして私のことを構ってくれるんだろうか、って。この機会に知ろうと思ったんです。」
「…ふむ。」
「結局、その前にこうなってしまいましたけど。…あなたが優しい人だとは思っているんですけど、尚更私より他の娘と一緒の方がいいと思ったから…。試そうと考えてました!すみません!」
(この娘は…。自分自身のことを、あまり大切に考えていないのか?…いや、そうじゃない。剣術以外の部分を控え過ぎているんだ。)
彼は、可奈美の方に向き直り、真剣な顔で話しかける。
「可奈美。」
「はっ、はい。」
「…俺は、可奈美を放っておけない。君は、誰よりも努力し、剣術を磨いてきた。だが、たまに思うことがある。君は人の為に尽くすが、そんな君を誰が守ってくれるんだ?」
「そっ、それは…。」
「君のことだから、恐らく自分自身と答えるだろうけどね。…もっと、周りを頼ったっていいんだ。それは俺じゃなくたっていい。…俺は、君を死なせたくない。失いたくないんだよ。」
(この娘を守ってやりたい、これは俺のエゴだろう。事実、彼女は自分で自分を守れるだろう。だが、それでも)
「…俺は精一杯、剣術に打ち込んで、いつも笑顔でいてくれている、そんな君が好きなんだよ。」
「!?…それって。」
「い、いや。今のは…、忘れてくれ。」
「はっ、はい…。」
二人の会話は、一旦そこで終わった。
(…ヘタレだな。俺。でも、言ったことに嘘偽りはない。…彼女が気づかない方が、いいのかもしれないけれどな。)
肝心なところで折れた彼。
可奈美は不思議そうな顔をしていたが、何となく察した様子だった。
その空気感のまま、彼が救護テントから出ようとした時だった。
「あのっ。」
「どうした、可奈美。」
突然可奈美が声をかける。
「もう一度、抱きついてもいい、ですか?」
「えっ。」
思いがけない申し出に、思わず固まる。
「あっ、いや、さっきした時に、嬉しいって言ってくれましたから…。その…。」
「…そうだな。確かに言ったな…。まあ、可奈美みたいな可愛い娘にそうしてもらえるのは、嬉しいことなのは事実だしな。」
「そんな、可愛いだなんて…。」
「するか?」
「…!はい!」
可奈美は、先ほどのようにガッチリと腕を回して、彼の体に抱きつく。
(…やっぱり慣れないな…。…この小さな背中に、色々なものを背負ってきたんだろうな…。)
彼は思わず、可奈美の頭を撫でる。
「ふぇ!?」
「あっ、すまん。つい…。」
「いえ…。ちょっとビックリしただけでしたから。」
「止めようか、撫でるの。」
「…いえ、お願いします。…なんだか、こういうのも悪くないかな、って。」
「分かった。」
その後、二人は姫和たちに呼ばれるまでの間、お互いなかなか止めることができなかったそうな。
なお、可奈美たちは知らなかったが、今回の荒魂出現のトリガーになったのは、あちこち荒魂を吸収していたタギツヒメのせいだった。
まだ、秋深い頃のことである。
ご拝読頂きありがとうございました。
10月4日は刀使ノ日(ゴロからかな?)、ということが話題になっていましたが、本話はいかがでしたでしょうか?
感想等は感想欄などで対応させて頂きます。
次話は姫和編となります。
それでは、また。