刀使の幕間   作:くろしお

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どうも、くろしおです。
もうまもなく、あの日から十年が経とうとしています。当たり前の生活が当たり前でなかったことを思い起こさせる時節ですが、激甚化する災害への備えを怠らないようにしていきたいものであります。

今回は姫和編その13 前編です。
時系列は現世への帰還後、七月頃を想定したものとなっております。『浴衣と花火大会』及び『一年越しの約束』の少し後の話です。
とじとも時空での出来事が、ギリギリ時系列上で被らないように執筆しています。
(被った時は、別世界線の出来事として見ていただければと思っております。)

それでは、どうぞ。


⑰ 南紀横断任務 前編

 ーJR名古屋駅ー

 

 東海道新幹線から降り、津や新宮方面に向かう列車が停まるホームへと向かう彼。荷物の量は多くなかったが、それでもそのうちの一つはライフルバッグという、また物騒なものを持っていた。

 旅行用のスーツケースを転がしながら、停車中の快速列車を目指す。一人の刀使を伴って。

 

「それで、何で私までお前の任務とやらに付き合わされなきゃならないんだ?」

「その愚痴を垂れるのは、本部長の前で言ってくれよ…。どっちかって言えば、俺も被害者なんだぞ?」

「…その割には、表情が明るいようだが?」

「…いやさ、だって久しぶりに任務でも一緒になれたんだから、そりゃ嬉しくもなるだろ?」

「……こんなことなら、他の誰かを一緒に連れてくるんだった。」

 

 彼の歩く隣で悪態を吐くのは、腰にまでかかるロングヘアーをポニーテールに束ねた姫和だ。季節はすっかり夏を迎え、平城の夏服姿を着るような頃にまで移ろいでいた。

 

「そう言うな姫和。半分は局長命令だし。」

「紀伊半島周辺の哨戒活動と、舞草の里の復旧状況の確認か。…確かに、丸一年ほど舞草の里を訪れていないからな。私もあの後、どうなったのかは気になっていた。」

「つっても、俺は頻度に行き来していたから、そこまで久しぶりって程でもないんだがなぁ…。」

「だが、それでも顔は見せに行ったらどうだ?ただでさえお前は、多方面に迷惑を掛けてきたんだ。その人達も安心させてやれ。」

「まあ、それもそうだな。分祀されているノロの状態も気になるし。そういや、のろろは連れてこなくて良かったのか?」

「連れて行こうか悩んだんだが、つぐみ曰わく『まだ今の状態だと穢れが落ちきっていないので、何も知らない人の前に出すと危ない』んだそうだ。なので、今はつぐみの研究所で留守番だ。」

「姫和もすっかりノロとの向き合い方が変わったな。ねねを初めて見たときは、結構警戒していたって聞いていたんたが。」

「人に害を為さないからな。それはそれとして、あの荒魂、私にだけあたりが強いのはどうにかならないのか?」

「まあ、その、薫にどうにかしてもらうしか、その、な?」

 

 彼も明言は避ける。

 とはいえ、彼個人は姫和ものろろと同じような関係性になっていけばいいな、とは思っている。荒魂被害の漸減化、減少を進めるには、どうしても荒魂への人々の認識を変えていかなければならない。

 彼が目指すのは、刀使や後方支援の人間が無事に帰ってくる未来だからだ。究極的には、荒魂被害を無くすことでもある。

 そのためには、薫とねね以外の人間と荒魂の関係性が必要になる。美炎(調査隊)とコヒメが似たような関係になるのかは、まだ時間を置いて考える必要性があるため、打てる可能性は全てやる方針でいる。

 

「…そういえば、お前が背中に担いでいるそれ、一体何なんだ?」

「ああこれ、ライフルバッグと戦闘用の装備一式だ。回っている最中に荒魂と遭遇しないとも限らないからな。念のため持ってきた。」

「そんな物を持ち出して、本当に大丈夫なのか?」

「書類も回してあるし、何なら朱音様からも許可をもらったぞ。ただでさえ人手不足なのだから、せめてもの保険として、だそうだ。」

「朱音様…。」

 

 自分達を心配してくれるのはありがたいのだが、それにしてももう少し軽くてよかったのでは、とも思わなくはなかった。

 

(…まあ、中身そのものは恐らくコイツが纏めたのだろうがな。)

 

 備えあれば憂いなし。

 本来の彼の性格を考えればこれくらいは不思議でもないか、そう思った姫和はそれ以上の追及を止めた。

 

 

 

 

 

 

 名古屋から特急列車に乗り込んだ二人は、一路南へ下った。途中、名古屋駅で買っていた赤福を二人で食しつつ、高速で流れゆく車窓を眺める。

 

「しかしまあ、見方によっては二人旅だなこれ。」

「あくまでも任務だ。」

「……折角付き合いだしたのに?」

「それとこれとは話が別だ。…それで、新宮で降りるのか?」

「いや、津で降りる。そこからレンタカーを借りた後に、最寄りの特祭隊施設で装備を受け取ってから、里に向かう。」

「装備?」

「ああ、車載型のスペクトラムファインダーだ。一番新しい型の検測試験をしているらしくて、俺が今日里経由で平城に向かうことを知って、測定ついでの返却を頼まれたんだよ。」

「なるほどな。…ん?レンタカーは誰が運転するんだ?」

「え、俺だけど。」

「お前がか?年齢的には、お前はまだ取得できなかったはずだが。」

「ああそれ、法律上の例外があって、キチンとしたプログラム通り教習を受けた上でなら取得しても問題ないんだと。…普通に受けるには厳し過ぎるんで、取る人間は少ないんだがな。まあ、受けるなら早いタイミングの方が楽だ。」

「なるほど。」

「しかしまあ、まさかここしばらくは人を乗せて運転することも多かったからか、運転に神経を使うことも増えたな。…ま、いいか。」

「他に乗ってくる奴はいるのか?」

「いいや。完全に俺と姫和の二人だけだ。……同伴者がいた方が良かったか?」

「さあ、どうだろうな?」

「おいおい…。」

 

 どっちともとれる姫和の発言に、ここ数ヶ月まともに話し合いをしてこなかったことを少しばかり悔やむ彼。姫和は彼を揺さぶると、伊勢湾側の車窓に目を向けた。

 

 

 

 

 

 

 ー三重県津市 津IC周辺ー

 

 大手レンタカー屋が多く構えているのが津くらいしかなかったという事情で、やむなく津駅で降りた二人。レンタカーと装備を確保した後、ミニバンタイプの車両を白浜方面に走らせる。

 

「えーっと、紀勢自動車道は…こっちか。」

「……。」

『ポーン 左です。』

『―本日の天気をお伝えいたします。今日は太平洋側を中心に、ぐずついた天気となりそうです。各地の天気を見ていきます。』

 

 カーナビの案内とカーラジオのニュース音声が車内に響く。

 姫和は疲れているのか、あまり言葉を発さなくなってきている。

 

「今日は雨か。…鎌倉出た時は晴れてたのにな。」

「夏とはいえ、まだ梅雨明けしたあとで天気が安定しないからだろう。何か困ることでもあったのか?」

「運転しづらくなるのが一つ、傘を買い忘れたのがもう一つか。…哨戒活動だから、要らないとは思うんだがな。」

「そうか。……○○。すまないが、私は少し眠る。高速を降りたら起こしてくれ。」

「分かった。…ブランケットは要るか?」

「あるのか?そんなものが。」

「後ろの小さい旅行バッグに入れてあるから、使ってくれ。たぶんまだ小一時間は掛かるだろうし。」

「…悪い。背もたれも倒す。」

 

 姫和はそう言って、彼の荷物から茶色のそれを取り出すと肩から下に覆い掛ける。停車時に一旦シートベルトを外し、ブランケットを挟んだうえで再度シートベルトを着け直す。

 それから数分も経たないうちに、寝息をたて始めた。

 

「疲れてたんだな。…いやまあ、無理もないか。あっちこっち飛ばされている以上、疲れが溜まるのは仕方ないとはいえ、こうも影響が出るとなあ……。」

 

 彼が赤信号で停車した時に姫和の寝顔を見ると、少し疲れているような表情にも見受けられた。

 

「…ちょっとでも眠らせてあげようかな。どうせ、尾鷲で降りるまでは時間が掛かるし。」

 

 本部に帰ったら、刀使の労働状況に関しての調査と改善策を上申してみるか、と仕事思考につい陥る。とはいえ、隣の彼女が無理しないように努めることもまた、必要なことだと理解していた。

 

 

 

 

 二人の乗る車は津ICから紀勢自動車道を南下し、経由地である尾鷲北ICへと向かう。

 彼は姫和が眠れるよう、運転に注意しながら進む。彼の耳にはカーナビの音声案内とエンジン音、そして風切り音がよく聞こえてくる。その音に混じって姫和の吐息が聞こえてくるので、彼的には安心しながら運転に集中できた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 紀勢道を降りて尾鷲市街に入ると、高速走行の緊張感から解放された彼は、先んじて言っていた姫和の言葉を思い出して彼女を起こす。

 

「姫和、尾鷲に着いたぞ。」

「…ん…、もう着いたのか。」

「割と時間は掛かったけどな。さて、車載用のスペクトラムファインダーを起動させるか。…ただ、その前に。」

「まだ何かやることがあるのか?」

「里に行く前に、何か少し胃に入れておきたい。」

「なら、海鮮市場にでも寄って行くか?」

「…そうするか。」

 

 姫和の案内のもと、市街地にある魚市場に向かう。

 

 

 

 

 ー三重県尾鷲市 某海鮮市場ー

 

 姫和が知っていたこの場所は、新鮮な海産物をはじめとする地域の特産品が販売されていた。干物をはじめ、ブースの一角には柑橘系のジュースが瓶詰で売られていた。

 

「名産品が所狭しに並んでいるな。」

「お世話になってる里の人に何か買っていくかね…。」

「いいんじゃないか。」

「乾物か、果実系か…。それなら後者だな。配りやすいし。」

「私も何か買っていこう。可奈美達も喜ぶだろうからな。」

「ただ、その前に胃に何か入れるか。」

「なら、そこの食堂で海鮮丼でも食べていくか?」

「へー、そんなところが。昼も過ぎてるし、ここで食事していこう。」

「決まりだな。」

 

 二人は建物内にある食堂へ足を運ぶ。

 

 

 

 

 正午はとうに過ぎていたものの、食堂の営業時間にはまだ余裕があり、心配する必要はなかった。

 新鮮な海の幸をふんだんに用いた丼ものや、伊勢うどんを中心に提供しているようだ。

 二人は品を決め、料理を乗せたお盆を持って席に座った。そのまま、いただきますと言って箸を進めていく。

 

「…美味しい。お茶にもよく合う。」

「こういうのがお前の好みなのか?」

「丼ものみたく、お米と一緒に食べられる料理が、食事する時は速く済むからな。特に急な呼び出しがある場合とかは、絶対に残しては行けないし。」

「まあ、お前が料理を粗末にするような人間でないことは知っていたがな。それにしても、小食と言っていた割にはよく入るじゃないか。」

「これでも結構パンパンになるんだよ。頼んだ分は食べきるけどな。」

「……なら、一切れ私にくれないか?代わりに私のも、一つ持って行っていい。」

「いいのか?」

「言っておくが、お前のものが少し気になっただけだ。それが理由なだけだからな。」

「…そういうことにしておく。」

 

 少し苦笑いを浮かべながらも、姫和の反応を喜ばしく思った。

 彼が一瞬彼女の姿から目を離した隙に、姫和は意外な行動を取っていた。

 

「おい、これを。」

「ん?―んっ!」

 

 正面を向くと同時に、彼の口へ突っ込まれる箸。口内には、新鮮で身の引き締まったぶりトロの味が広がっていく。姫和は、彼の喉奥まで差し込み過ぎない程度に箸を止め、引き抜いた。

 

「……どうだ?」

「うん、美味い。…ただ、いきなりは怖いんで止めてくださいね、姫和さんや。そのまま喉に刺さるかと思ったし。」

「だから加減しただろう?口の中は無事なはずたが。」

「さ、さいでごさいますか…。」

 

 してやったり、とでも言いたそうな誇らしげな笑いを見せる彼女に、彼もやられたなあ、と思った。

 とはいえ、彼も別にこれくらいで彼女を嫌いになったりだとか、そんなことを考えたりはしない。むしろ、彼としては嬉しく思うのだ。

 彼は御前試合の一件以降、数々の事実と真実が明かされていくなかで、一人悩み抱え続けた彼女を支援したかった。もちろん、それを拒まれることだってあったし、お節介だとも言われても仕方のないことだってあった。

 それが今となっては、こうして彼女とともに食事を交わしている。人生どう転ぶのかは分からないものだとは思った。

 

「そういや、突っ込んだ箸はどうするんだ?まだ少し残っているだろ?」

「…別にこれくらいの量なら、箸をわざわざ変えて食べる必要もないだろう。何か問題でもあったか?」

「いや、何も問題はないぞ。うん。」

(よし、まだ気付いてないな。…俺は一体何を考えているんだ、まったく…。)

 

 冷静になって考えてみると、食べさせ合いよりも濃厚なやり取りをしているのではないか?と思ったものの、変に地雷を踏み抜く必要もないと思い、彼は黙った。

 

「ところで、お前はどうするんだ。」

「ああ、これか。…そしたら姫和、口を開けてくれ。」

「…こう、か?」

 

 目を閉じて口を開く彼女。

 

(…ついそのまま、顔を吸い込まれそうになるが、ここは我慢だ。)

 

 若干の葛藤の末、彼は姫和の舌上に本まぐろの切り身を乗せる。箸はどこにも触れさせることなく、すぐに彼の手元に寄せた。

 少ししてから、姫和がゆっくり味わっていた。

 

「…いけるな、これ。かかっている醤油が、魚の風味を引き立たせている。」

「あ、それかけたの俺だわ。」

「……前言撤回。お前は味的センスが無さ過ぎる。」

「えー、今褒めてたじゃないか。」

「気のせいだ。」

「そうですか…。」

 

 デレたかと思いきや、フェイントを仕掛けられたので少し凹んだ彼。とはいえ、姫和が少しでも笑っている姿を見られただけで、個人的には十分すぎるほどに満足ではあった。役得とも言っていい。

 彼が姫和と出会ってから一年以上経過したが、会った当初からすればこんな関係になるとは夢にも思わなかった話だ。ただ、彼女が一時期いなくなったことで、自分が抱いていた感情がより鮮明に浮き上がっていっただけでなく、彼女に寄せていた想いに向き合うこともできたため、時間の経過というのはそれほど悪い事ばかりでもないのだろう。

 

 

 

 

 先に食べ終わっていた姫和に遅れること数分、彼も丼の中身を空にした。湯呑に残っていたお茶を食道に流し込むと、両手を自然に前で合わせていた。彼女もそれに気付き、食後の挨拶に移った。

 

「「ごちそうさまでした。」」

「さて、これからどうするつもりだ?哨戒活動に移ると言っていたが。」

「ああ。山沿いの国道や県道を進みながら、舞草の里を目指す。車両や道目掛けて荒魂が襲って来なけりゃ、荒魂の反応があった位置データだけ送れば大丈夫だろ。こっちはあくまで哨戒活動だし。それ以上のことはできないし。」

「…の割には重装備で来ていたな、お前は。」

「いやまあ、万一の時は目の前に迫る火の粉を払わないとさ。姫和にばっかり負担をかけさせるわけにはいかないし。」

「私のことは別に気にしなくてもいいだろう。」

「いいや、ダメだ。可奈美達も心配するし、何より俺が姫和の傷つく姿を見たくない。…もし危なければ逃げればいい。避難誘導を行いつつな。」

「…はあ~。まったく、しょうがない男だ。―分かった、発見した時に無理はしない。それでいいか?」

「助かる。」

(ただの哨戒活動で、普通あそこまで言うのか?…いや、私を気遣ってくれるのは嬉しいんだが…。)

 

 姫和は、彼の少しばかり過保護な姿勢に首を傾げるも、そんなものかと思い直して席を立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 海鮮市場で土産物を購入後、再びの移動中の車内。

 二人の乗る車は車載型スペクトラムファインダーを起動させて、南紀の山間の道々を進んでいく。ピッ、ピッという規則的な電子音が、荒魂が周囲に居ないことを示し続ける。

 二人はそれぞれ、彼は運転に、姫和は周囲の、特に前方に警戒しながら道を見渡すことに集中していた。

 

「……参ったな。思ったよりも時間が掛かりそうだ。」

「もともと道路事情は悪いところなんだ。今更焦ったところでどうしようもないだろ?」

「それはそうなんだが。」

「舞草の里まではまだ距離があるのだろう?なら、ゆっくり行っても悪くはないんじゃないか。」

「…それもそうだな。幸い、スペクトラムファインダーに荒魂の反応はないし。それに、姫和と一緒にいる時間を少しでも長く延ばしたっていいんじゃないか?」

「……わっ、私は別に、お前と一緒に居たいわけじゃないからなっ!勘違いするなよっ!」

 

 姫和のツンケンした態度の割には声が上擦っているようにも聞こえたが、彼は気のせいだろうと思い、運転に意識を戻す。

 

 

 

 

 運転中、ふと彼は姫和との出会ってからの出来事を振り返ってみた。

 

 発端は昨年の御前試合の出来事。全ては二十年前から続く因縁によるものだった。

 出会う以前から事前に把握しており、かつ自身の間接的な後輩でもあった、美奈都の娘である可奈美はいざ知らず、篝の娘であった姫和に関しては、お粗末ながら彼は彼女の出自を把握していなかった。彼がこの事実を朱音の口から聞かされた時には、驚嘆するほかなかったのだが。

 舞草の里で初めて出会った時からしばらくは警戒されたが、彼女の話を聞いたり、逆に此方から問い掛けたりすることで、徐々に彼女の警戒心を解いていった。彼としては、彼女からずっと警戒されっ放しであっても仕方ないとは思っていたのだが。

 紫を隠世に一旦送り込みかけて以降は、彼女の燃え尽き症候群からの脱却を、間接的に支援したり根回したりしたことで、刀使復帰への道筋を立てることに成功した。

 それから先は色々大変ではあったが、そこは周囲の支えもあってどうにか立ち直れた。姫和が隠世から帰ってきたことも大きな要因であったのだろう。

 そして、今では比較的親密な仲になった、と彼個人はそう思っている。姫和がどう想っているかまでは知らないが。

 

(…まあ、邪険に扱われてないところをみるに、姫和も俺のことをそこまで嫌っているわけでもないんだろう。)

 

 あの花火大会の後に伝えた想いとその返事*1を思い返す限り、いわゆる男女交際の関係になったとは感じている。

 しかし未だにその確信はない。自己肯定感の低さがこうした時に浮き彫りになる。

 

(姫和のことを異性関係で譲るつもりはない。…けど、姫和自身は自分から犠牲になろうとする節があるから、その点は本当に怖いんだよな…。)

 

 彼も深くは知らない、彼女が大荒魂と融合してからの影響。元々の性格に起因する不安要素。彼が姫和と付き合っていくうえで迫る、その障壁は意外と多い。

 それでも。

 

(彼女を、姫和を守りたいという意志は変わらないし、彼女が犠牲にならないよう必死に回避策を練るだけだ。)

 

 そのためにはもっと、色々なところに目を向け続けなければならない。彼女の安寧を求めるならば、彼女を利用しようと画策する者達と対峙する覚悟を持つべきだろう。

 

(―今更だな。俺はただ、姫和が無事に生きてくれれば、それ以上を求めるつもりはないし。)

 

 欲を求め続ければ、欲にまみれいずれは溺れる。シンプルだがはっきりした願いであれば、横にフラフラと考えなくて済む。

 仕事と彼女へ向ける姿勢が同じ方向だからこそ、信念として一緒に考えることができるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 彼と姫和は、道中に荒魂と遭遇することなく、無事に舞草の里へとたどり着いた。

 

 すっかり日も落ち、二人は以前お世話になった旅館風の宿泊施設へと向かう。

 南紀エリアの哨戒活動はひとまずこれで終了した。後は残りの範囲を通過したうえで、明日晩には平城に入る。姫和とは、今回の任務上ではそこでお別れとなる。

 

(……夜遅くならないうちにたどり着いて良かった。それにしても、途中から姫和、静かだったな。コミュニケーションくらいは取りたかったんだが……。)

 

 そうは言っても、連日連夜の出撃任務では身体の疲労は誤魔化せない。彼個人も、自分と話すよりは彼女自身の体を労ってほしいのだ。話すこと自体は何時でもできるから、というのが理由だが。

 姫和からすれば、お前が言うな、という話である。

 

 

 

 

 そうして、二人は用意された宿泊部屋へと進んでいった。

 波乱の夜が幕を開ける。

*1
姫和編『一年越しの約束』参照。




ご拝読いただき、ありがとうございました。
執筆途中のデータが何度か吹き飛んだので焦りましたが、これはブラッシュアップし直せということなのか、と前向きに考えて遅れながらの投稿となりました。

とじとものイベントで新事実がボコボコ出てきますが、これらを考えたうえだと、とじみこの時空上で曇る人がかなり多くなりそうな印象が……。
(特に夜見や結芽の親族関係)
だからといって、今までのヒスおばのヘイトが減るわけでもありませんが。(残当)

とじともOVAも無事に届いて再視聴しましたが、個人的に驚いたのは弘名の胸部がそこまで大きくないという事実(付属ブックレットより)でした。
…いやまあ、それでもまだまだ心身ともに成長するでしょうしね。まだ中等部ですし…。(他意なし)

長くなりましたが、後編に続きます。
ホワイトデーまでに舞衣編入りたかったなぁ…。
(届かぬ思い)

それでは、また。
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