姫和編①同様、時系列的には胎動編と波瀾編の間あたりです。
それでは、どうぞ。
① スイーツ・クッキング
―美濃関学院 調理室―
可奈美の立ち合いに付き合うことが日課になってきた、
最近では、可奈美の友人である
そんなとき、彼女は心を落ち着かせるためにクッキーなどのお菓子作りをする。
精神を整える際に他のことを行うことは、日常生活においてもそう珍しいことではない。彼女の場合、それがお菓子作りであるのだが、下手なパティシエよりも質や見た目、味が良い為、美濃関の他の生徒からクッキーなどを依頼されることも多い。
最も、舞草に匿われていた頃から、現在の頻度な関東出向の際までに知り合いが増えたこともあって、その筋での腕の高さは刀使の間で知られている。
そんな彼女は、一人調理室で試作のクッキーや、ロールケーキを作っているところだった。
「あまり遅くならないうちに作り終えて、可奈美ちゃんや美炎ちゃんのところに持っていこうかな。…今日は、あの人も来ているのかな?」
ふと、たまに美濃関で見かける青年のことを思い出す。
刀剣類管理局所属にして舞草のメンバーである彼のことを知ったのは、図らずも糸見沙耶香と共に舞草で匿われることになった頃であった。
彼は、折紙家や親衛隊の動向を、定期的に報告しに里に訪れ、その僅かな滞在期間のうちに、まあまあ話す程度の仲にはなっていた。
鎌倉特別危険廃棄物漏出問題以降、各伍箇伝の学園や鎌倉の本部を東奔西走しているとはいえ、美濃関に寄る際には必ず連絡を寄越していた。
室内に、オーブンからの香ばしい匂いが漂う。
「焼き加減よし。あとは…。」
いい加減に焼き上がたクッキーを、一旦冷ます。
その間に、ロールケーキに入れるフルーツやレーズンなどのドライフルーツを、スポンジに塗られた生クリームの上に載せる。
そして、ロールケーキの断面部が綺麗な楕円形になるように転がす。円形では、皿に置いた際に形が崩れてしまうためだ。
トン トン
「よしっ。これを皿に載せて…、出来上がり!」
皿には、切り分けられた二つのロールケーキ。黄色い生地のケーキに、出来たてのクッキーとホイップを添える。
さながらパティシエの
コンコン
「舞衣、やっぱりここにいたのか。」
「ああ、お久しぶりです。」
「調理室の電気が点いていたからもしかしたら、と思って来たんだ。」
「そうだったんですか。あっ、もし良かったら食べていきますか?」
「ちょうど小腹が空いた頃だったからな。頂こうか。」
舞衣から一皿頂き、手を合わせる。
そして、ロールケーキを刺したフォークを口に運ぶ。
モグモグ
「どうですか…?」
「……。」
突如無言になる。
舞衣は、まさか人に食べさせてはいけないものだったのか、と慌ててロールケーキの一つを口に含む。
しかし、彼の言葉は舞衣のその疑念を噴き飛ばす。
「…プロ並みの、いやプロ顔負けの味だよ。」
「えっ。」
「すまない。あまりの美味しさに言葉が出なくてな…。」
「そっ、そんな。とんでもないです。」
言葉を失う程の美味しさとは、と作った自分で言うのも何だかなぁという気がした、舞衣の心。
「ん?ちょっと失礼。」
「へっ!?」
彼の顔が舞衣に近づく。彼女は、咄嗟に目をつぶる。
だが、彼女の予想したようなことにはならなかった。
少しずつ目を開ける。
「頬にクリームが付いていたみたいだったからな。…気が付かなかったのか?」
彼の右手を見ると、白い生クリームの塊が。
かああっ、と顔を真っ赤にする舞衣。
「す、すみません。」
「なに、こちらも配慮が足らなかった。謝るのはこちらだ。」
「…分かりました。」
彼からの謝罪を受け、落ち着きを取り戻す舞衣。
「じゃあ、二つ頼みがあります。」
「俺が出来る範囲のことなら。」
「一つは、次美濃関に来た時に新作クッキーを食べてもらうこと、もう一つは一日私に付き合ってもらうこと、です。」
「前者はともかく、後者は?」
「他意はありません。構いませんか?」
顔は笑っている舞衣の背後に、なにかモノを言わせないオーラが漂っているのを感じ、彼は観念した。
「そのくらいなら。…そう言えば、沙耶香と連絡はとっているのか?」
「はい。寝る前には一度。…確か、今度は鎌倉に戻るんでしたっけ?」
「まあ。明日の昼には鎌府だ。と言っても、本部に寄るついでになるけれどな。」
益子薫も大概だが、彼もこうも飛び回っては大変だろうな、と舞衣は感じた。
すると、彼女は何かを思いついたように動き出す。
「そうだ!これを沙耶香ちゃんに渡してもらえますか?」
舞衣が手渡すのは、つい先ほど出来上がったクッキー。既に長期保存対策の酸化剤まで袋に入っていた。
彼は、彼女の手慣れた一連の動きを見て、ホントに本職の方と遜色ないな、と感じた。
(何度やられてもへし折れない彼女の鋼のメンタルは、もしかするとあのお菓子作りから来ているのかもしれないな。本当にそうとは限らないだろうが。)
美濃関学院内に設けられた、来客用の学生寮に向かう際にそんなことを考えた。
翌朝、単身ひかりに飛び乗って新横浜に向かう彼の顔は、どこか晴れやかだった。
ご拝読頂きありがとうございました。
反響に少々驚きながらも、生半可なことは書けないと感じる今日この頃です。
舞衣は、可奈美に何度も剣を交えてきたが故の、良き理解者であり続けました。
沙耶香が居なかったら、彼女はヤンデレモード一直線だったとの意見も、確かに分かる気がしました。
最終決戦時にかなりドスの効いた声でタギツヒメを見ていたのは、視聴当時衝撃的でしたが。(裏を返せば、優しいけれど怒らせたら怖い娘でもあるということ。)
それを含めて柳瀬舞衣というキャラクターの魅力であるとも、個人的には思います。
身体だけでなく、その人物の人間性も魅力的な面々ばかりですので、未視聴の方がいらっしゃれば、ぜひ視聴して頂ければと思います。
感想等ございましたら、感想欄などで対応させていただきます。
それでは、また。