UA5000、全話PV12000を突破致しました。
本作を読んで頂き、ありがとうございます。
今回は舞衣編その2 前編です。
時系列では、東京でのタギツヒメ決戦後の期間にあたります。
それでは、どうぞ。
ー東海道新幹線 ひかり512号車内ー
伍箇伝の各校は、毎年冬季になると荒魂対策の一環として、スキー場を借りたスキー教室と大規模訓練を行う。
今回は、一般客が多いスキー場で荒魂が出現した場合を想定した、慣例のものとなっているプログラムだ。
…とはいえ、修学旅行等のイベントも少ない生徒たちにとってみれば、こうした機会にウキウキするのも、仕方ないと言えばそうだろう。
ましてや、年頃の少女たちならば尚のことである。
訓練だからと気を抜く者も在らば、逆に訓練だからこそ気が抜けない者もいる。
舞衣もまた、どちらかと言えば後者の考えの娘であるので、緊張の糸も張りっぱなしだった。
「舞衣、そんなに険しい顔してどうしたの?」
隣席に座る、同じ学年の
「ああ、ごめんね美炎ちゃん。ちょっと緊張しちゃって。…みんなみたいに、はしゃげればいいんだけれどね…。」
「…やっぱり、可奈美のこと?」
舞衣は少し頷き、続ける。
「可奈美ちゃんも、姫和ちゃんも、あの日以来、まだ見つかっていないからね…。私は、途中までしか一緒じゃなかったから…。」
陰鬱とした暗い顔を見せる、舞衣。
「大丈夫だよ!きっと可奈美は帰ってくるって!思い続けていれば、為せばなる!だよ。」
「…そうだね。ちょっと、元気が出たみたい。ありがとう、美炎ちゃん。」
「うん!舞衣が元気ないと、私もなんだか暗くなってきちゃうもん。」
元気はつらつとした美炎の笑顔に、少し勇気をもらう。
「あっ、そうだ。美炎ちゃん、これ。良かったら、みんなで食べて。」
「おっ、舞衣のクッキーだ!…うわっ!チョコいっぱいだ!ありがとう!」
「どういたしまして。…私は、ちょっと休んでいるね。」
「分かったよ。ちょっと、席外すね。」
人当たりの良い美炎は、他の席にいる美濃関の生徒に声をかけていった。
席に残る舞衣。
「可奈美ちゃん…。」
流れゆく景色を見ながら、隠世に消えていった彼女を思い出し、すぐに目を閉じる。
最近はよく眠れないこともあり、新幹線の座席ではあったが、思わず睡魔が襲う。
疲れもとれていなかったため、スッと眠ってしまった。
スーッ、と長周期の寝息をたてていたが、舞衣の両目尻からは一筋の線が光っていた。
それに気づく者は、いなかった。
ー新潟県南魚沼市・十日町市 上越国際スキー場ー
東京駅で上越新幹線に乗り換え、冬季のみ営業するガーラ湯沢駅からバスに揺られること、約1時間。
美濃関学院の生徒たちは、今回の冬季訓練を実施する、上越国際スキー場に到着した。
到着後すぐに着替えて、スキー場に集合する参加者一堂。
今回の計画は、刀剣類管理局と伍箇伝の教職員との打ち合わせのもと、二泊三日で行われることとなっている。
今日は先に、スキー教室の方から実施することとなった。
というのも、近年の入学者の中には、スキーの経験の無い者も多い。
このため、安全面も考慮し、ガイド指導のもとで生徒たちにスキーを教えることとなった。
刀剣類管理局に所属する彼もまた、現地の人手不足の応援のため、上越国際スキー場にやってきていた。
「今年の雪は、災害クラスのものであるのにやるとは…。豪雪地帯でわざわざでやらんでも、美濃関なら県内の山合いでも出来るでしょうに。」
「仕方が無かったのよ。東海北陸(自動車)道、長野方面に向かう高速道路や一般道は、この前の大雪の影響で通行止め。先の東京でのこともあって、大量のキャンセル客が出た宿泊施設併設のスキー場の中で、すぐに場所の手配が出来たのが、ここしかなかったから…。」
隣を歩く、スキーウェアに着替えた羽島学長から、その理由を聞かされる。
文字通り、平成最後の今冬に襲った大寒波は、山陰地方から近畿北部、北陸や岐阜県北部、東北地方、更には関東地方にも大雪をもたらした。
幸い、関東地方の雪はそこまでのものでは無かったのだが、山に積もりゆく白い悪魔の手から逃れてきた、荒魂による被害も多数寄せられた。
当然、その対応に数多くの刀使たちも出向いたのだが、例外なく雪害に悩まされることとなった。
唯一、薫の率いていた部隊は、たまたま持参していたスキー板を駆使して、先行していた部隊を追い越し、現地に速くたどり着いて討伐に当たった。その時の討伐がモデルケースとして採用され、今回急遽変更された大規模訓練の下地になっている。
最も、その薫がスキー板を使おうと思った理由が、
『車が使えないんじゃ、このクソ重い刀なんか持てん。…そうだ、スキー板使えば楽出来るんじゃね?』
ということだったのだから、それを聞いた真庭本部長も、苦笑するほかなかったが。
「にしたって、もう少し遣りようがあったでしょうに…。…舞草も、だいぶガタガタだったということでしょうかね…。」
「まあ、あれだけの混乱の中で、早期に組織全体が纏まったことを考えると、これくらいは大目に見てほしいわね。」
羽島学長の言っていることも、彼は承知の上である。
タギツヒメを擁していた綾小路の一部や日本政府の一部高官と、刀剣類管理局本部や他の四校とで二分されていた状況は、タギツヒメが隠世に送られたことと、それに連動する荒魂の増加に伴う混乱により、伍箇伝は組織的な纏まりを取り戻した。
その際に、封印にあたったであろう可奈美と姫和も消息を絶っていたことは、一部の人間しかまだ知らない。最も、それが全体に露見するのは、もう時間の問題だろうが。
それも分かった上での、少し俯き気味の羽島学長の姿に、彼も少し言い過ぎた気がしてならなかった。
それでも彼は、学長へ言葉を続ける。
「羽島学長、今回の訓練は可奈美たちのことも絡んでいますか?」
「そうね…。一応、捜索の時間も設けられているらしいけれど。…ここで見つかるとは、限らないわね…。」
「…そうですね。…ところで、舞衣は今どうしていますか?」
「…柳瀬さんは、衛藤さんが消息を絶って以降、美濃関と東京を行ったり来たりしていました。あまり、ゆっくりした時間は、取れていなかったようにも思えますが…。」
と、羽島学長は舞衣の現状に懸念を示す。続けて、
「最近では学校の方で、後輩達を率先して指導していますけれど、もしかしたら衛藤さんが行方不明になったことも、それに関わっているかもしれませんね。」
「いずれにせよ、あまり好ましい状態ではないことだけは、確かですね。」
首肯する羽島学長。
「それでなのだけれど、柳瀬さんとも仲の良い、あなたに一つ頼みたいと思うの。」
「…カウンセリング、ですかね?」
「そこまでする必要は無いけれど、できるだけ彼女の話を聞いてあげてほしいの…。何だか、美奈都を亡くした頃の私に、どこか雰囲気が似ているのよ…。」
今の舞衣の姿に、過去の自分の姿を重ねる羽島学長。
「分かりました。どこまでやれるか解りませんが、やってみます。」
彼は、そんな学長個人からの依頼を、引き受けることにした。
この当時、二人の死亡が確定した訳ではなかったのだが、あまりの情報の少なさも災いし、段々と二人の生存を絶望視する者も出始めていた。
そんな中、彼は、案外今も二人はしぶとく生きているだろう、と強く楽観視していた。
本能的な勘なのか、そう念じているからなのかは、この時点では、彼自身もよく分からなかったが。
結果的に、二人はこの時から数ヶ月経たずに帰還したのだから、あながちこの男の感覚は侮れない部分もあるのだろう。
本人は、そのことに全く気がついていないようだが。
最もホテルに近いリフト付近に集合する、美濃関一行。
整列する生徒たちの前に、拡声器を持った羽島学長が躍り出る。
「生徒の皆さん、今日は最初にスキー講習です!ガイドさんの指示のもと、しっかり上達してくださいね!」
「は~い!!」
「それでは、各班に分かれて解散!スキー講習の終わるデータイム終了までに、皆さんのスキー技術が上達していることを望んでいます!」
学長の挨拶も終わり、それぞれ各班十人程度に分かれる美濃関の生徒たち。
その表情の多くは笑顔であった。
その一方、どこか冴えない顔をする舞衣。
「スキーか…。そういえば、お父様に連れられて、家族みんなでやったことがあったっけ…。」
舞衣は、昔家族でスキーに行ったことを思い出し、その時のことを少し思い起こす。
(確か、私だけお父様達とはぐれて、泣きじゃくったことがあったよね…。)
今となっては、忘れられない思い出となっていたが、当時は血相を変えて探し回った父の姿を見て、安心のあまり、今では考えられない程大泣きしたらしい。
らしい、というのは、彼女の覚えている限りの細かい部分の記憶が、年を追うごとに薄れてきたためでもあった。
ふと、彼女に声を掛ける者がいた。先ほどの彼である。
「おっ、舞衣。ここのグループだったのか?」
「あっ、お久しぶりです。本部では、元気に過ごされていましたか?」
「いや…。東京での事後処理とかで、また全国横断の旅だよ。今回は、ここの人員補充要請で来たわけだったがね。」
「そうだったんですか。お疲れ様です。」
「また、しばらく一緒になるな。よろしく頼む。」
「はい。」
久々に彼の姿を見ることができ、少し嬉しく思う舞衣。
「…ところで、スキーは得意な方ですか?」
「まあ…、普通の人より若干上手く出来る程度だな。ただ、毎年一回は必ずどこかで滑っているぞ。」
「技術を鈍らせないためですか?」
「それもあるが、やっぱり滑ると気持ちがいいからな。やるまでは分からなかったが、今となってはウィンター・スポーツを楽しむ人間の気持ちも分かる。」
彼は誇らしげに、舞衣に語りかける。
「私も、もっと出来るようになるかな…?」
「剣術と違って、スキーはある程度の技術を習得すれば、それなりに楽しめるものだからな。まして、高度な身体能力を求められる刀使なら、案外すんなりとできるんじゃないだろうか?」
「…そうですね。私、頑張ってみます。ただ、過去にやったことはあるので、その時の感覚を取り戻すことが中心になるでしょうけれど。」
「まあ、ケガはしないように。スキー教室といえど、御刀を持っている以上、普通のスキーと異なって動きにくいからな。」
「はい。…あのっ。」
舞衣は、一拍間を空けて彼を呼び止める。
「?どうした?」
「…また、滑られるように、教えてもらってもいいですか?」
「俺にか?…参ったな…。」
スキーの滑りが感覚型に近い彼は、舞衣に教えられる保障が無かった。そのため、彼女への返事に困ったわけである。
「具体的なことは教えられないかもしれないが、それでもいいのか?」
「はい、構いません。」
彼の目を、真っ直ぐ見る舞衣。
(いや、こんな時に覚悟を決めたような顔をせんでも…。)
こちらと舞衣との意識の差に、だいぶギャップを感じながらも、そこは頼まれたら断れない自身の性格。
(…まあ、羽島学長からも依頼されているし。懸命になる娘の気持ちを、無下にはできないしな…。)
少し考えた後、舞衣に対して口を開く。
「分かった。やってみよう。…ダメだと感じたら、すぐに言ってくれ。ガイドのもとに連れていくからな。」
「…!はい!」
舞衣の顔が明るくなる。
(大丈夫かな…。俺。)
不安を感じながらも、舞衣に頼まれた以上、やり遂げねばならないな、と感じる彼であった。
それから二十分程かけて、二人は基本的なスキーの動作を確認し、いよいよ滑走する。
「よし、そろそろ滑るか。」
「私、出来るかな…。」
「まずは実践。何度か滑れば、体が思い出すさ。…俺は、舞衣に何かあった時に備えて、後追いで滑るから、頑張ってな。」
「えっ、ホントですか!?…仕方ないですね。」
パンパン、と両頬を軽く叩いて、気合いを入れる舞衣。
スノーゴーグルを掛け、ニット帽もしっかり被る。
スキー板がハの字になるように開き、ストックで雪の感覚を掴む。
(よし、行こう。)
白地に、両脇の部分に桃色の線が入ったスキーウェアを羽織った舞衣が、美奈ゲレンデを滑走し始める。
後に続けて、彼も舞衣を追う。
他の美濃関の生徒の多くは、スキーが初体験だったこともあり、まだガイドからの講習を受けていた。
たまたま、そこに舞衣が滑り込む。
スキーが面倒くさいと感じていた者も、艶やかに滑る彼女の姿を見て、俄然やる気を出す。
後続の彼の滑りも見事なもので、繰り出される連続クイックターンに見とれる生徒もいた。
滑走時間としてはそう長いものではなかったが、この僅か一回だけで、舞衣は過去の滑りの感覚を取り戻したのだから、大したものではあるだろう。
最も、技術を呼び覚ました彼もまた、評価されてしかるべきなのかもしれないが。
「ふ~っ。…思いの外、滑られたね…。」
舞衣は、滑り切ったゲレンデを見上げながら、そう呟く。
「よっ…と。危ない、危ない。通り過ぎるところだった。」
少し遅れて、舞衣のもとに彼もたどり着く。
「どうでしたか?私の滑りは?」
「…お世辞を抜きにしても、上手いものだと思う。多分、俺より君の方が上手いんじゃないか?」
「そんな…!とんでもないです。」
褒められると思っていなかったのか、もじもじする舞衣。
「まだ時間があるだろうから、また滑りに行かないか?」
舞衣は、少し考える素振りを見せたが、
「はい!行きましょう!」
と答え、彼の手を引いてリフト乗り場へと向かうのだった。
ご拝読頂きありがとうございました。
私事ですが、とじとものハロウィンイベ、メインでは夜見さんのみお迎え出来ました。
ただ、ハロウィンの日まではまだ遠い(^_^;)
感想等ございましたら、対応させて頂きます。
次回は後編です。なんで今話がこのタイトルなのかは、次回分かります。
それでは、また。