2018年も残り10日となりましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか?
今回は舞衣編 その3です。
時系列としては、ちょうど可奈美達と合流した頃となります。…何気に胎動編の辺りを書くのは初めてかもしれないです。
それでは、どうぞ。
※一部改稿しました。(2018/12/26)
ー紀伊半島某所 舞草の里ー
結芽と高津学長の魔の手から逃れられた沙耶香。
成り行きで彼女を保護した舞衣も、執事の柴田が運転する車に揺られ、ここまで送り届けられた。
「私、これからどうすればいいんだろう。」
羽島学長の手回しにより鎌倉から離れられたものの、未だ行方知れずの可奈美達が気がかりだった。
隣で静かに寝息をたてる沙耶香へ微笑みかけつつ、今後に不安を感じる。
その舞衣達が到着する少し前。
三重県
いつもお世話になるおっちゃんが、彼に話しかける。
「よお、兄ちゃん。元気にしてるか?」
「ええ。お勤めご苦労様です。」
「毎度確認してすまねえな。」
ピピッ
「問題ねぇ。行ってきな。」
「ありがとうございます。それでは。」
「おう!」
バックミラー越しから、手を振るおっちゃんの姿が見えた。
可奈美と姫和とは既にコンタクトを取っていたが、今から来る二人に関しては直接話す機会が初めてであった。話す場自体は、明日設けられるらしい。
「後で会うのはいいが、俺なんかでいいのかね…?」
里近くの駐車場にミニバンを止め、里の中心に向かって歩く。
先に朱音と面会した六人。ここで相模湾岸大災厄の真相を聞かされ、スッキリとモヤモヤが入り混じる状態になった。
特に後者が強かった舞衣は、この晩寝付けずに一度起き上がってしまった。
ガバッと布団から起き上がってしまった彼女。
「ま…い…。Zzz…。」
隣で彼女の名前を呼ぶ沙耶香。どうやら、寝言であったようだ。
「…ゴメンね、沙耶香ちゃん。」
起こさない程度にそっと沙耶香の頭を撫で、一度トイレに向かう。
「ふあぁ~。やべっ、眠い。」
一方その頃、舞衣達の眠る建物近くを巡回していた彼。
紫派からの襲撃を受けないとも限らないため、クルクルと一帯を回っていたのである。
「流石に博士達も寝ているか…。明日の晩には、鎌倉に戻ってないといけないんだっけか。」
彼自身、和歌山南部で荒魂討伐の任を負う、平城学館の生徒達の視察と現地で困っていることが無いかを自分の耳目を通して聞きに行く、という建前を付けて里に寄っていた。
だが、しょっちゅう行くと怪しまれるだけなので、徳島・三重・和歌山に寄ることがある時だけ、この場所に来ているのである。
その時には、朱音の下に時事報告を行うことが多いのだが。
「夜間でもだいぶ過ごしやすくなったもんだな……。……ん?こんな時間に人影?」
ふと、電柱にある電灯の奥の暗がりから、歩いてくる人の姿を捉える。
「…セーフティーだけ外しておくか。」
自動拳銃のセーフティーロックを外す彼。
持っていた自動拳銃とスタンバトン、そして十手をいつでも出せるように備える。
人影が段々と電灯に近づき、そして照明の範囲内に現れる。
「……?あれ、女の子?」
「あっ、貴方は一体…?」
思わず警戒を解く彼。姿を現したのは、トイレに行った筈の舞衣であった。
「こんなところで、一体どうしたんだい?」
「貴方こそ、誰なんですか?こんな時間帯に歩いているなんて…、まさか不審者!?」
舞衣の警戒具合は逆に上がっていた。
「ちょっと待ってくれ!…俺はこういう者だ。その証拠も見せておこう。」
彼は、彼女の信用を得るために名刺とスペクトラムファインダーを舞衣に手渡す。
「特別刀剣類管理局……本部の方ですか!?失礼な態度をとってしまい、申し訳ありません!」
彼の所属を見て驚き、頭を下げる彼女。立場が上の人間であるとは、夢にも思わなかったらしい。
「いや、慣れているから大丈夫だ。頭を上げてくれ。」
「…はい。それで、一体どうして本部の方がここにいらっしゃるんですか?」
不思議そうに聞いてくる彼女。
「まあ、ここに居ることからも分かる通り、俺も舞草の人間なんだ。ただ、近隣で任務も受け持っていてね。その関係でここに立ち寄っているわけだ。今の時間帯は丁度巡回中だったんだ。…その長船のジャージ姿では見かけない顔だが、何か事情があったのかい?出来れば、学校の所属と名前を教えてもらってもいいかな?」
「はい。美濃関学院、中等部二年の柳瀬舞衣です。」
「ああ、君が可奈美の言っていた娘だったのか。とてもしっかりしているね。」
「あっ、ありがとうございます。」
「まあ、俺も昔は美濃関にいたんだがね。…もう、離れて結構経つのか。」
過去を振り返る彼。
「じゃあ、遠い先輩ってことですか?」
「そういうことになるかね。あと、そう畏まる必要はない。元々、敬語を使われるのにあまり慣れてないんだ。もう少し砕けた感じでいいぞ。」
「…分かりました。」
二人は立ち話も難だということで、近くの木製ベンチに座った。
一通り誤解も解けたところで、彼は舞衣に質問を投げる。
「ところで、こんな時間に夜歩きとは…。何かあったのかい?」
「実は…。」
彼女は、朱音から聞かされた話や今まで学んできたことを彼に打ち明ける。
眠ってはいたのだが脳内でそれらが上手く整理仕切れず、思わず起き上がってしまったという。そして、そのままの流れで夜風に当たって頭を冷やそうとしたらしい。
全くの赤の他人だったから、というのも彼に話せた要因の一つであろうが。
「なるほどな…。そりゃ、頭が混乱するわけだ。」
彼自身は本腰を入れて大災厄に関して調べたこともあり、彼女の混乱ぶりも無理はないと感じた。
「何が正しくて、何が間違っているのか、よく分からなくなってきちゃいまして…。」
「…それが普通の感性だよ。まあ、博士が原因になったタンカーに乗っていたと聞いた時は、流石に驚いたがね。」
災害は偶然の産物ではなく、連鎖的に引き起こされる事象の結果、と某番組のフレーズを借りると言いそうなものではあるが、当時の博士自身もノロのスペクトラム化の特性を知らなかった以上、それを責めるのは酷というものだろう。
「…よく見る、よく聴く、よく感じ取る、か。」
「その言葉…。」
「可奈美の受け売りのやつだ。結局、自分の感性からどう考えるかが大切ってことなのかもしれないな。」
「そう、ですよね…。」
「ただ、全てを良い悪いの二元論で見たら、それは間違いなく足元を掬われるだろうな。」
「えっ?」
「俺自身、紫様とちょくちょく話し合わせる機会もあるが、あの人は姫和の言うほど冷酷非情とか、完璧なまで荒魂とは思えないんだよな。あくまでも俺の意見だけどな。」
「はあ。」
「一つ確かなのは、自分がこの先どうしたいのか、ということなんじゃないかな?…迷っているんだろう?自分がどうしたいか、舞草に付くべきか否か。」
「…はい。」
「まだ時間はある。…自分の心部で感じたこと、それが答えになると俺は思う。」
「…私と初対面な筈なのに、助言してくださるなんて優しい人ですね。」
「…俺の性なのかもな。」
彼は、大平洋を一望出来る場所に舞衣を案内する。
「ここだな。夜間なら、波の音を聞きながら星も見れる絶景…は言い過ぎか。」
「…ホントですね。こんな静かな場所って、あるものなんですね。」
自身の刀使としての能力である透覚を使わずとも、比較的高台にあるここまで漣の音が反響する。
「…心が安らぎますね。」
「俺もぼーっとしたい時はここに来るんだ。ここまで人を連れてきたのは初めてかもな。」
「そうなんですか。…少しスッキリしました。」
「それは良かった。ここまで連れてきた甲斐があったみたいだ。」
彼は彼女に微笑みかけると、舞衣も少しニコッとして夜空を見上げる。
澄んだ空が、様々な星々を映し出していた。
舞衣が眠っていた建物まで送り届けようとする道中、トラブルに見舞われる。
「マジか…。」
「どうかしましたか?」
「猪がいる…。しかも二匹。」
前方に土を漁る猪を捉える彼。舞衣も確認した。
「…どうします?」
「…逃げるが勝ちか。舞衣、こっちから抜けよう。」
「あっ、はい。」
来た道とは別のルートで下る二人。彼が彼女の手を引っ張るような形となったが、舞衣は周辺の地形が分かる人間に身を任せることとした。
「なんとか里の道まで出て来られたな。」
「ここまで、ありがとうございます。」
「言い出したのは俺だから、わざわざついて来てくれたことを感謝したいよ。…ただ、俺だから良かったものの、あんまり一人で出歩くもんじゃないぞ。まして、御刀を持ってない状態じゃ、ただの女の子なんだからな。」
「そこは…、すみません。今後気をつけます。」
「…でもま、攫われなくて本当に良かった。見つけたのがどす黒い欲にまみれた人間だったら、どんなことになっていたことやら。」
中等部二年とは思えないほど、魅力的な女性である事実は否定出来ない。彼女がそれに気がついているかは、また別の話ではあるが。
「…でも、貴方は親切丁寧に私に接してくれましたから。」
「もしかしたら、君の信頼を得て、それで油断させて襲おうとしていたかもしれないのに?」
「そうであれば、私と会う直前に警戒しながら、上着に手なんて差し込みませんよ。」
(…!?セーフティー解除の動作を見ていたのか…。)
彼女の力を少し侮っていた彼。まさか見られていたとは思わなかったのである。
「それに…。」
「それに?」
「私のことを、助けようとしてくれていましたよね?猪に遭遇した時も、さっきの場所で話を聞いた時も。」
「……単にお節介なだけだよ。」
「…貴方は優しい人ですね。」
「まさか。」
若干照れ隠しをする彼。
舞衣はそんな彼を見て、素直じゃないけど良い人だと思った。
その後、彼は舞衣を送り届けて二時間程度里の周辺を巡回した後、車中で仮眠を取った。
ー翌日 舞草の里 社務所内座敷ー
朱音の要請のもと、舞衣と沙耶香は舞草の中でも、戦闘と諜報に明るい同世代の人間に会うべく、ここに通された。
朝食は既に摂っていたが、稽古前に呼ばれるとは何事だろうと思った二人。
「一体、どんな人かな…?可奈美ちゃんは話しやすい人って言ってたけど…。」
「舞衣、大丈夫?」
「うん。ちょっとだけ不安だけれどね。」
「…舞衣に何かあったら、私が守る。」
「ありがとう。沙耶香ちゃん。」
こんなやり取りをするなか、部屋の襖がノックされる。
『お待たせして済まない。話し合いを行う者だ。』
「…今の声って、もしかして…。」
昨晩会った彼のことを思い出す舞衣。
その予想は見事に当たる。
「あれ…?昨晩の娘じゃないか。まさか、昨日の今日で直ぐに会うとはな。」
「ど、どうも。…貴方がそうだったんですね。」
「?舞衣、あの人と会ったこと、あるの?」
「ちょっとね。」
「まあ、二人とも立ちっ放しも難だし、取り合えずかけようか。」
「「はい!」」
そして、ここで三十分ほど話し合いと連絡先交換を行った後、舞衣と沙耶香は稽古に戻っていった。
稽古で汗だくになった身体を洗い流し、露天風呂から上がる舞衣。いつも結んでいる髪の毛は、乾かすため今は伸ばしていた。
「沙耶香ちゃん、上がるの早いなぁ…。それにしても、ちょっと肩凝ったかな?」
姫和あたりが聞いたら、『はっ?』と言われそうな発言だが幸い当人達は居ない。
制服に着替え直してそんなことを考えていると、彼女のスマホが震える。
「何だろう?」
震えた原因は彼からのメッセージだった。内容は、
『これから一度、鎌倉に戻る。選択がどうであれ、舞衣自身の後悔がないように前を向いて考えてくれ。以上だ。』
というものだった。
「…私が出来ることって、何なんだろう?」
彼女は、自身が刀使を目指した原点を思い起こし、舞草に一時協力する道を選ぶが、これはまた後の話となる。
彼女が通り過ぎた道の草は、余計な考えを拝すようにサラサラとなびいていた。
里の雰囲気は、嵐が巻き起こる前の静けさのようであった。
ご拝読頂きありがとうございました。
出会い始めの話って、書いていなかったような気がしたのでこの話を執筆致しましたが、いかがだったでしょうか。
次回は沙耶香編です。
それでは、また。