今回は舞衣編その6 前編です。
時系列は『シビア・スキーイング』の一ヶ月ほど後、春頃の話になります。
それでは、どうぞ。
※2019/8/15 舞衣の母親の名前を正しいルビに変更致しました。
ー神奈川県横浜市 横浜港大さん橋国際客船ターミナルー
大型クルーズ船などが停泊できる、国際港横浜の玄関口。東京都が進める、クルーズ船接岸用の岸壁が出来るまでの間は、少なくともここでのクルーズ船利用客の数は安泰であろう。
そんな場所に、彼の姿はあった。勿論、理由が無ければそうそう来るような場所でもない。その理由は、これから会う人物である。
「いやしかし、俺なんかが乗り込んでも良いもんなのかねぇ…。明らかに、場違い感が半端ないぞ。」
バンドで繋いだ二つの大型スーツケースと、ノートパソコンを入れたビジネスバッグを持参した彼。無難な服装として、スーツ姿でこの場に入る。
あちこちキョロキョロと見回していると、馴染みのある声が彼の耳に届く。
「◯◯(彼の苗字)さ~ん!ここです!」
「あっ、舞衣!よかった、居たいた。」
彼女の姿を確認すると、其方の方へとスーツケースを転がす。
近づいて見ると、普段見る美濃関の制服姿とは異なり、白い長袖のワンピースを着ていた。
(…女の子って、ホント変わるよなぁ。何着ても映えるというか、何というか。)
舞衣の服装に目を惹いたものの、即座に思考を切り替え、彼女のもとへ向かう。
彼が到着すると、いつものように微笑んだ表情で訊ねてくる。
「今ちょうど着かれたんですか?」
「ああ。ちょっと、準備に時間が掛かってな。…ぶっちゃけ、使わないならそれに越したことのないものばかりだけど。」
「そこはすみません。急に船の中を警備する人の数が足らなくなってしまったみたいで…。」
そう、今回彼が呼ばれたのは、柳瀬グループ主催の二泊三日間の船上パーティーであった。
元々は舞衣の父親が、柳瀬グループに携わったり自社の取引先だった人達を呼んで、もてなそうと企画したものだ。そこに、両親の激務でなかなか家族全員が揃わないなかで家族団欒の時を作ろうと、舞衣の母親が注文を加えたのである。
人脈を活用して、中型クルーズ船を貸切って親睦会のようにしようと考えたのは、様々な人々を交えるという点ではある意味当たりだった。
だが、開催目前でインフルエンザの流行により船内の警備の人間が足らなくなったのである。その時、彼のことを思い出した舞衣から依頼され、この船上パーティーでの警備を請け負うことになった次第だ。
「むしろ、三日間分の食事や部屋の確保までやってくれた方が驚きだったよ。急遽入れ込まれた人間なら、別に部屋なしでもおかしくないわけだし。」
「いえ、そんなことは絶対しませんよ。少なくとも、私は◯◯さんのことを知ってますし、恩義だってありますから。」
「恩義ねえ…。そんな大層なことは何もしてないと思うんだがなあ…。」
「ですから、名目上では警備業務を行う人として乗船してもらいますが、船内では他の皆さんと一緒に自由にしてらしてください。」
これは舞衣なりの善意だったのだが、彼はそれに待ったをかけた。
「舞衣、それは駄目だろ?仮にも警備員として俺は派遣されたわけだし、仕事はきちんとさせてくれ。でないと、他の派遣されてきた人達に申し訳ない。」
「◯◯さん…。…困ったなあ。」
彼女もうっかりしていたが、彼は基本筋が通らないことは絶対にやりたがらないし、反発することもある。まして、仕事人間の側面もあるならば、こうした回りくどい手段ではなく、直接彼に招待した方がなんぼか良かったのかもしれない。
どうしたものかと思案していると、舞衣の家族がやってくる。執事の柴田も一緒だ。
「あれ、舞衣お姉ちゃんが男の人とお話ししてる。珍しいね。」
「まさか、舞衣姉の彼氏?…無いない。こんな堅物な人と付き合う人って、そう居ないか。」
「こら、
彼は舞衣の言い方から、先に発言した幼げな子が詩織、舞衣より少し下くらいの子が美結であると分かる。まあまあと舞衣をなだめつつ、彼女の姉妹に声を掛ける。
「大丈夫だ、舞衣。此方が先に挨拶をするのが、客人としてのマナーだから。…初めまして、特別刀剣類管理局本部所属、◯◯××(彼の名前)です。君達のお姉さんの…、立場上は上司にあたるかな。よろしく。」
浅くお辞儀をする彼。
意外な対応に少し驚き気味の彼女達は、慌てて挨拶をし返す。
「よ、よろしくお願いします。柳瀬詩織です。」
「あっ、はい。よろしくお願いします。…柳瀬、美結です。」
「詩織さんに、美結さんか。舞衣の姉妹だけあって、とても可愛らしいね。」
「か、可愛らしい…///」
「またまた、お世辞でしょ?…でもまあ、悪くないかも。」
とまあ、社交辞令で返したつもりの彼の言葉に大きく反応する彼女達。
(…あれ、おかしい。別に変なことは言っていないはずなんだが。)
舞衣の妹二人がちょっと赤くなっている姿を見て、困惑した彼。
その際に、背後から謎の威圧感を感じ取ったりした。殺気とはまた違う系統のものであったが。
驚いて振り返ると、そこには目が笑っていない舞衣の姿があった。
「◯◯さん?」
「…いや、何でもない。…おかしいな。俺、何か地雷でも踏んだっけな…。」
残念ながら、女心の分からない男にとっては、なぜ彼女の態度が少し変わったのかさえ、理解できていなかった。
少し離れた位置で他のパーティー参加者と話していた、舞衣の父親である
「お父さん、お母さん。」
やってきた二人に、声を掛ける舞衣。
「すまない、遅くなってしまった。舞衣。」
「あら、その男の子は?」
柊子は舞衣の近くに居た、彼女より少し年上の男子を見つける。
「あ、お母さんやお父さんには紹介がまだでしたね。この人が◯◯××さん。刀剣類管理局本部で、私達をはじめとした刀使やそれを支える人達を色々と手伝ってくださる人です。以前、私を助けてくれたりした話に出てきた男の人ですよ。」
「ほう、君がか。」
「改めまして、特別刀剣類管理局所属の◯◯です。初めまして、舞衣のお父様、お母様。フリードマン博士からお話しだけお伺いさせていただいたことがございますが、こうしてお姿を拝見するのは恐縮致します。」
「なかなか面白そうな子ね。そうは思わない?貴方。」
「あっ、ああ。しかし、舞衣がこうして同年代の男の子を連れてくるなんて…。」
「お父さん、そのお話しはあとにしてください!彼も聞いてますから!」
顔を真っ赤にした彼女が、声を荒げて孝則の言葉を止める。
そして、先ほどから彼女が悩んでいることを孝則に伝える。
「…それより、実はお父さんに相談したいことがあって。」
「なんだ、舞衣?」
「今日◯◯さんには、この船上パーティーでの警備員として招待させてもらっていたんだけれど、◯◯さんは私にとっては恩義のある人だから、ゆっくりしてほしいとは言ったんです。でも、『招待理由はこの船上パーティーでの警備員だから、それを放棄する事は自分を納得させられないし、他の方に申し訳ない』と言って、譲らなかったんです。…どうしたら、いいでしょうか。」
困り顔の彼女。彼もまた、苦い表情を浮かべていた。
「ふむ。なるほど。」
「…あっ、それならいい方法があるわよ。」
「えっ。お母さん、その方法って?」
「簡単な話よ。彼に舞衣を守ってもらえばいいじゃない。そうすれば、万事解決じゃないかしら。」
「「えっ!?」」
彼と舞衣の声がハモる。
この柊子の提案に対し、孝則と彼はそれぞれ消極的な意見を出す。
「いや、それはどうなんだ?舞衣だって、女の子だろう。」
「舞衣のお母さん、その提案に口を挟むようで申し訳ないのですが、それはマズいのではないでしょうか…。舞衣は御刀を使えば自分で自分の身を守ることはできますが、俺は盾になっても彼女を守りきれる自信はありません。むしろ、足手まといにしかなりません。…それに。」
一旦呼吸を整える彼。
「俺が居ることによって、彼女の精神が乱れるかもしれませんし、家族団欒がゆっくりできる時にそんな緊張状態を強いることを、俺は賛成出来かねます。…まして、俺は男ですよ。その善意を利用して、彼女へ何かしらの行動を起こす可能性だって、なきにしもあらずではないでしょうか。」
「…確かに、それもそうねえ。」
舞衣と彼の意見をうまく纏めるには、これくらいしかないのでは、と思っていた柊子にとっては、特に彼からの筋が通った反対意見が出たことに驚かされた。
ただ、今の彼の発言で裏打ちされたこともあった。
(…本当に、あの子のことを本気で考えて言っているのね。)
身内から言うのも難ではあるが、舞衣ほどの容姿端麗の少女なら、彼女とお近づきになりたいと考えて大抵の男なら即賛成、もしくは渋々賛成くらいには傾いてもおかしくはない。彼女の持つ優しい性格ならば、大抵のことは許しをもらえるであろうことくらい、想像がつく。
だが、彼はそんな誘惑などをあっさり無視して、『舞衣のことを想って』反対したわけである。
舞衣の意向を無視して、彼の言葉に賛成するのも確かに良案ではあったが、彼女の口からたまに語られる彼の人柄や考えを聞いてきた柊子は、彼の提案を受け入れなかった。
「なら、舞衣自身が決めなさい。◯◯さんから護衛してもらうことを承諾してもらえるか、彼とは三日間なるべく会うことを避けて過ごすかを。」
「お、お母さんそれは。」
賽は投げられた。
あとは舞衣自身の選択に委ねられる。
柊子の分析力はさておき、彼の方は自身を中心に考えた場合、舞衣は後者の選択をするのではなかろうか、と考えていた。
「…舞衣、俺個人としては後者の方がいいような気がするんだが。」
「申し訳ないのだけれど、今貴方に選択権は無いの。決めるのは、舞衣本人よ。」
「あっ、はい。」
柊子にこう言われては、口を開くことすらままならない。
彼女の考えが纏まるまで、ここは待つほかない。
(…いや~、普通に考えたら後者だろうけどな。…むしろ、前者を選ぶメリットの方が皆無だろうに。)
建前と本音という側面で考えた場合、彼は圧倒的に建前の方を優先する(それだけ鈍いところがある)わけだが、今日に関して言えば、舞衣の家族が居るというのに、尚更先程の提案へクエスチョンを浮かべたのである。
(どのみち選択権はないらしいし、大人しく舞衣の判断に従うか。)
ともかく、彼女の次の言葉を待つ。
「決めました!」
「それで、舞衣はどうしたいの?」
「……○○さん、この船に居る間は私を守ってもらえませんか?」
「…本気か?」
「○○さんなら、信じられる人ですから。」
「そうか……。」
言葉少なく、そう返した彼。
(…普段通りの平常心を保てるんだろうか。)
日頃の環境とは大きく異なる状況下で、彼は何事もなく無事横浜に戻ってこられることを祈るほかなかった。
横浜港を出航する中型クルーズ船。
桜の蕾も膨らみ出す時節で、少しずつ暖かい空気が甲板に流れ込む。そんな中で、孝則の先導のもと船内を案内される彼や舞衣達。
ふと、彼は思ったことを口に出す。
「…そういや、舞衣。二泊三日ということは泊まる部屋の場所も決まっているんだよな?」
「えっと、確かそうだったと思いますけど…。」
「舞衣姉、お父さん達の話は聞いてなかったの?」
「あれ、そんなお話ししていたかな?」
「そう言えば、舞衣にはまだ話していなかったな。家族で集まる時以外は、部屋の関係で別れて眠ることにしたんだ。」
孝則は、そう言って彼や舞衣に説明する。
「確かにこうした時くらいでしか、家族で揃って過ごすことが出来ないのは、お前たちにはいつもすまないと思っている。ただ、寝る場所に関してはどうしても分けざるを得ない。そこは分かってくれ。」
そうして、孝則と柊子、美結と詩織、そして舞衣という風に部屋分けを行ったことも伝えられる。舞衣が別室なのは、御刀の点検などを行う際、他の家族がケガをしないようにするためだったという。長久手での事から、父親として何が舞衣にとっていいかを考えたが故のところもあった。
それを聞いた詩織は、柊子にあるお願いをする。
「…お母さん、今日は一緒に寝てもいい?」
「全く、甘えん坊さんなんだから。…いいわよ、詩織。一緒に眠りましょうね。」
日頃家を空けているからこそ、娘たちの我が儘にも付き合おうと思った柊子。
「詩織がお母さんと一緒に寝るってことは、舞衣姉は私と一緒に寝ることになるのかな?…なんかなぁ…。」
「…美結、それはどういうことかな?」
「舞衣、ストップストップ。妹ってそういうものだから!」
静かに姉妹喧嘩が勃発する前に、それを消火する彼。
「…まあ、俺の方は対岸の火事だしなあ…。」
(主催者とゲストの部屋が近接しているというのは、警備上あり得ないことだしな。警備で部屋前に突っ立っているのはあり得るだろうが。)
などと楽観視していた彼。
だが、そんなものは次の柊子の発言で吹き飛ばされる。
「そうそう、○○さん。貴方の部屋は、舞衣の部屋の隣にさせていただきましたよ。その方が、警備もしやすいでしょう?」
その瞬間、彼の頭は真っ白になった。
断る余地はなく、同行途中から彼の意識は、魂が抜けたようにフワフワとしたものになっていった。
その後、なんだかんだあって、持参していた荷物を部屋に運び込む彼。部屋着は勿論、防弾チョッキや下着類などをスーツケースから取り出す。
もう一つのスーツケースは、銃器やスタンバトンなどを入れた偽装コンテナであった。これらは舞衣やその家族にも了解を取って持ち込んでいる。最も、非殺傷武器しか持ち込んでいないため、何かあった時に相手側を死なせる心配は低いともいえる。
さすがに持ち運ぶ際には、慎重にならざるを得なかったが。
「ふう…。ワンフロア貸し切りのおかげで、反対側の客室には誰もいないというのは良かったんだが、隣の部屋が舞衣か…。まあ、ゴム弾とはいえ、拳銃と89式小銃を持ち込んでいるわけだし、よくよく考えれば一般人と同じ階に居るわけにはいかないか。そういう意味では、舞衣のお母様の言っていることも正しかったわけだ。」
隣の部屋のことを一瞬考えはしたが、先に持ち込んだ装備の確認をする。
「銃火器とゴム弾入りの弾倉、スタンバトン。あとは警棒と…。」
積み込んでいたものはそれくらいである。元々舞衣を守るというよりも、警備員として船内に乗り込む予定だったこともあり、テロ対策としての装備も積んではいた。ただ、スタングレネードなどの投擲武器は持ち込むことができなかった。狭い船内で使用するには、無関係な民間人を巻き添えにしかねないものが多かったため、事前の判断で止めておいたのである。
「…ふと我に返ると、普通の同世代のやつと比べれば、だいぶ非現実的な生き方をしてきたよなぁ…。ホント、よく今まで死なずにやってこれたもんだ。」
自分で言うのも難ではあるが、美濃関に入学して、舞草に参加して、本部に飛ばされ、死線を飛び越え、去年の御前試合から超ハードモードな体験を繰り返したりなどをしてきた。もはや『普通』というのが何であるのかという、そんな哲学的なことまで考えさせられるまでに、精神的に達観してくるのも致し方ない部分もあるだろう。
「…いかん、どうもよくないな。折角、舞衣や舞衣のお母様方が気を利かせてくれたんだ。一旦そのことを考えるのはヤメだ。」
一人感慨にふけっている場合ではないと思った彼は、装備の確認を終えると、スタンバトンや自動拳銃をホルスターに介してベルトに固定する。
「これでよし、と。」
コン コン
『◯◯さん、まだいらっしゃいますか?』
ドアの外から舞衣の声が通る。
「ああ!今装備の確認をしていたところだ。」
『部屋に入っても、大丈夫ですか?』
「ん?ああ、ちょっと待ってくれ。すぐドアを開ける。」
ドアチェーンを外し、舞衣の姿をドアスコープで確認すると、扉のドアノブを手前に引く。
そこには先ほどの白いワンピース姿とは異なり、ピンク色のドレスに着替えていた彼女が、彼の視界に入る。
「どうかしたのか、舞衣?」
「あと三十分くらいでパーティーが始まりそうなので、それをお知らせしに来ました。…あれ、あのスーツケースは…?」
「今ちょうど、護衛用の装備を出していたところだったからな。あの中に89式(小銃)も入ってる。」
「まさか、実弾ですか?」
その舞衣の疑問に対して、彼は間髪入れずに返す。
「いやゴム弾だ。最も、使うことがなければそれに越したことはないしな。」
「そうですね。…お邪魔してもよろしいですか?」
「まだ時間はあるんだろ?扉はストッパー嵌めて開けておくから、入ってくるといい。」
「お邪魔しま~す。」
彼は言葉どおり行動を起こし、二重の意味で彼女が逃げやすいように退路を確保する。
「内装は、私のところと変わらないんですね。ベッドも二つありますし。」
「正直、武器を扱うから二人用の部屋で良かったと思った。…冷静になって考えたら、舞衣のお母様の意見も正しかったわけだし、要らないことを言ってすまなかった。」
「いえ、○○さんならそう仰るだろうっていうのは、私は分かっていましたから。」
リボンによって結ばれ、かき上げられた後ろ髪と、室内に差し込む日光によって彼女のうなじや首筋が、はっきりと照らされる。
先日14歳を迎え、少ししか経たないくらいの少女であるが、そこから伝わってくる妖艶さは、彼女より上の世代でも渡り合えるほどのものであろう。
思わずその姿にドキッとするものの、
(何考えているんだ、俺は。)
と、邪な考えを祓うように両手で頬を全力で叩く。
バチンという大きな音に驚いた舞衣は、慌てて彼の方を振り返る。
そこには、両頬を押さえてしゃがみ込んだ彼の姿があった。
「だ、大丈夫ですか!?」
「…ああ、うん。すまない…。思いっきり頬を引っ叩いたら、思った以上に痛かったみたいでな…。」
「どうしてそんな…。」
「…一時の気の迷いだ。あー、少し引いてきた。ごめんな、舞衣。」
自傷癖はないが、やり過ぎたと思った彼。
「○○さんが無事なら、それでいいんですけれど…。」
「そうそう舞衣、パーティーの時間が来る前に、会場の避難経路と扉の配置を確認しておきたいんだが、付き合ってもらってもいいか?」
半ば話題を逸らすように、彼女へお願いをする彼。
「それは構いませんよ。…じゃあ、私からも一つお願いさせてください。」
「ん?何だ?」
「……手を繋いで、回ってもらえませんか?」
「…えっと、それは…。」
「…ダメ、でしたよね。…すみません。今のは聞かなかったことにしてくれませんか?二度と、今のようなことは言いませんから…。」
悲しそうな顔を浮かべ、部屋から出ようとする舞衣。
「いや待ってくれ、舞衣。」
気づいた時には彼女の腕を掴んでいた。
「一緒に回ってくれ、舞衣。」
彼女の表情を見て、頑固でいられるほど彼の頭は思考停止していなかった。
「本当に、いいんですか?」
「ああ。…頼む。」
彼女に嫌ではないことを伝えるために、そっと笑いかける。
「…はいっ!」
舞衣の表情は、途端に明るくなった。
その後、パーティーなどで彼はあれこれ大変な目に遭うのだが、この時は舞衣と共に歩くことが、非常に貴重なものであると感じるのであった。
ご拝読いただき、ありがとうございました。
次回も舞衣編になります。
感想等ございましたら、お気軽に感想欄・活動報告にご投稿頂ければと思います。
それでは、また。