サブタイトルは良いのが浮かびませんでした…。すみません。
今回は可奈美編その4 前編です。
可奈美と彼が初めて会った時の話になります。
時系列は波瀾編の沙耶香の誕生日直前ですが、話が過去に前後しますので予め注意してお読みください。
脚注機能を乱発しまくってます。申し訳ありません。
それでは、どうぞ。
ー鎌府女学院 剣道場ー
鎌倉特別危険廃棄物漏出問題の発災以降、刀剣類管理局の本部長になった真庭長船学長*1の要請で、自身の所属する美濃関にはなかなか戻れず、関東一円の荒魂を日々討伐する可奈美。
前日にどんなにくたびれようとも、翌日には御刀や竹刀などを持って必ず鍛練を重ねる。
そんな彼女だが、一人で鍛練することもあれば、沙耶香などと一緒に打ち合ったりして、自身の剣術のあらゆる可能性を伸ばそうとしている。
今日は朝から、一人道場内で《千鳥》を振っていた。
「…う~ん。なんだか、今日は振り筋がブレているような気がするな~。」
自身の癖も熟知している彼女にとって、ちょっとの違いでも頭に引っかかるのは、彼女自身のもつ超感覚の部分に依るところもあるだろう。
「朝から精が出るな、可奈美は。」
「あっ、おはようございます!」
だいたい出勤がてら道場横を通る彼が、彼女の姿を認めて近寄る。
「ほいこれ。…大方、まだ朝飯食べて無いんじゃないのか?」
彼は自分の部屋で炊いた釜飯をくるんだおにぎりを、可奈美に手渡す。
「ありがとうございます。いや~、どうしても剣に触れたくなっちゃいまして~。」
「いきなり体を動かして体調を壊したら、自分も大変なんだからな。せめて何か胃に入れてから動いた方が、体調にもいいし。」
「あはは~。以後気をつけま~す。…いただきます。」
手を合わせた後、少しおにぎりを頬張る彼女。
それを見て、どこか安心したような顔をした彼もまた、朝食用のおにぎりを頬張る。
「…ふと思ったんだが。可奈美、昔会った時に比べて色々成長したよな?」
彼女自身の心身の伸び方を振り返りつつ、話を広げようとした。
だが、彼女は今の彼の発言を不思議がった。
「あれ?舞草の人たちと知り合うより前に、貴方に会ったことってありましたっけ?」
「…その感じだと覚えてなさそうだな…。…そうだな。あれはちょうど、今から半年以上前のことか。」
ここで彼は、可奈美と初めて会った機会を思い出す。
ー数ヶ月前 美濃関学院ー
まだ可奈美が姫和達と出会う前の頃。
美濃関で開かれる、刀匠を目指す者たちの研修と技術比べの催し、及び刀使達の校内模擬戦*2が実施されることを聞いた彼は、本部の一人として現地へ派遣されることとなった。
優秀な人材を本部に引き抜くこと自体はそう珍しい話でもない*3が、こと彼に関しては、人を見抜く力はあってもスカウティングの面に関しては非常に弱かった。彼自身のスタンス*4もその理由に絡んではいるが。
このため、本部の人間ではあるのだが、なるべく存在を薄くしながら美濃関の中を巡る。
この日は一般の人も来校していたこともあり、敷地内は人で溢れていた。
「適材適所、とは言うが紫様もなんで俺なんかを派遣者リストに入れたのかね…?」
正直、人事部の人間にその枠を回した方が良かったんじゃないのか、とは思った彼。
現在も学籍は美濃関に置いている彼*5ではあるが、かなりの時間を本部などの他の場所で過ごしてきたため、母校という実感が今ではあまりない。
「…まあ、たまの帰りと思えばそう悪いものでもないか。」
のんびり中を見回りつつ、在校生のリストを流し見する。…実際に本人たちと会って話さないことには、ただの紙束にしかならないのだが。
ぐるぐる回ること三十分。
「そろそろか。」
腕時計を見て、武道館で開かれる模擬戦の試合を観に向かう。
武道館内は、多くの刀使達が試合準備を整えていた。
「用意…、始め!」
試合開始の合図が場内に響くと、一斉に刀使達が木刀同士をぶつけ合う。
見方によれば戦国時代の合戦場の一コマにも捉えられなくはないが、一人、また一人と敗者が決まっていく。
「どの刀使達も本部連中が見たら良さそうに見えるな。…ただ、本部で人材を磨り潰すようなことは避けたいし、俺から声かけをするのはやっぱり止めるか。」
彼が直感的に引き抜きを避けようと感じたのは、彼女達が実力不足だから、ではなく単純に場数の経験の問題であろう。
本部の折神家親衛隊や、荒魂多発出現地帯である首都圏を守る鎌府の刀使達の動きを見比べると、どこか動きのムラが拭えなかった。
対人試合でこれでは、彼女らの想像を越える荒魂が出現した時に、即撤退なんてこともあり得る。
「もう少し、ここで実力を積んでもらうほうが遥かに良いな。…それなら、後々本部にとっても彼女達にとってもプラスになるはずだろうし。」
それが、この時の試合を一通り見た時の彼の判断であった。
本部の人間とは分からないように私服で訪れていた彼であったが、分かる人間(特に入学時一緒だった人間)にはすぐに見抜かれてしまい、本部・鎌府行きを希望する人間の紹介もされることがあった。
…まあ、その多くは彼の推薦による本部行きを断念してもらったのだが。(何人かは同じく来ていた別の本部の人間に推薦してもらったらしい。なお、採用はまた別の話であるが。)
刀匠達の高速研磨大会(こちらは普通の日本刀を使用)や科学技術を応用した御刀の探傷実演なども行われ、その光景を見ながら、本部に必要そうな人材を二、三人ほど拾い上げ、先ほどのリストにチェックを入れる。
「あら?貴方も来ていたのね?」
「お久しぶりです。羽島学長。」
校内を見回っていた江麻と遭遇する。
「それは…、うちの生徒のリストね?」
「本部と紫様の方から、引き抜きできる優秀な人材を探してこいと依頼されまして…。正直あまり乗り気では無いんですけれどね。」
「ちょっと見せてもらってもいいかしら?」
「ええ。どうぞ。」
彼は美濃関の在校生リストを彼女に手渡す。
パラパラと捲っていく江麻。
「…本当に全然手が入ってないわね。」
「一応仕事なので、自分の目を通してどうするかは決めているんですけれどね。流石に引き抜くなら、よく吟味する必要がありますから。…引き抜かれた本人が悲しまないようにしたいので。」
「なるほどね。…やっと一人。かなり厳しいのね。」
「だいたいチェックを入れた人間は、本部でも十分やっていけると判断していますから。」
「…ありがとう。返すわね。」
リストが彼の手元に戻される。
「見た感じ、中等部の生徒はあまり居なかったわね。…年上が好みなのかしら?」
「羽島学長、一応これでも自分の基準では公平に見てるつもりなのですが…。恐らく中等部の生徒が少ないのは、まだ伸びしろがあるからかもしれないですね。」
「ここで学ぶ方が良いということ?」
「本部引き抜きや舞草云々はともかく、焦らなくても実力のある人間はちゃんとのし上がってきますよ。…今年入ってきた娘たちはどうですか?」
ここで話は可奈美や舞衣、美炎たちの世代のことへと移る。
「まだ分からない、というのが正直なところかしら。」
「というと?」
「入学して数ヶ月で判断するというのも、なかなか難しいのよ。…そういえば、美奈都の子も今はここに居るわよ。」
「美奈都さんの子供さん、ですか?」
「今は苗字が違うから、すぐには分からないわね。でも、確かに彼女の娘よ。」
「…どんな娘なんでしょうかね?」
「そうね…。一つ言えることは、寝ても覚めても剣術、かしら?」
「…以前羽島学長から聞いた、美奈都さんのことそのままですね。」
「もしかしたら、今日会えるかもしれないわね。」
「かなり低い確率でしょうが、お目にかかってみたいものです。」
その後、江麻と別れた彼は校内を散策する。
一応、来校者カード入りのパスケースを首から下げているので、私服といえど不審者扱いをされる心配は無い。
学生寮近くを歩いていた時だった。
「はっ!…せい!…やっ!」
威勢の良い声が通路脇から聞こえる。
「…そういえば、全員が今日のヤツに参加しているわけじゃ無いんだっけか。…こういう時にも鍛練とは感心するな。」
自身の力に胡座をかかず、まだまだ頑張っている人間も居ることを知り、安心する彼。
そう思った数秒後、横から巻き藁が高速で彼に突っ込んでくる。
「はっ!?」
思わず素っ頓狂な声を出すが、迷わずその場にしゃがみ込む。
巻き藁はそのまま彼の頭上を通り過ぎ、学生寮の外壁に衝突する。
「一体何だったんだ?今のは?」
飛んできた巻き藁を見ると、だいぶ崩れていたが若干外壁にめり込んだ痕跡を認める。
「……もし当たったら、即死だったな。」
嫌な汗が出てきた彼。
「しかし、一体どんな人間がコレを吹っ飛ばしたんだ?」
それと同時に興味も持った彼。
すると、巻き藁の飛んできた方向から人影が現れる。
「さっきの巻き藁、一体どこに行っちゃったんだろう?」
見たところ女の子のようであった。
彼はその少女を凝視する。
「…あれ?まさかアレかな?」
少女は思わず、原型を留めていない巻き藁を指差した。
隣には、少女と巻き藁を見比べる彼の姿があった。
「すみません、大丈夫でしたか?どこかケガしませんでしたか?」
「あっ、いや。大丈夫だぞ。」
「良かった~。」
彼の無事を知り、安堵する少女。
「ん?御刀…?君は刀使なのか?」
「はい!あっ、私の名前を言っていませんでしたね。」
「美濃関学院、中等部一年の衛藤可奈美です!」
そう、可奈美とはこの時初めて出会ったのである。
ー現在 鎌府女学院 剣道場ー
可奈美は先ほどまでのことを聞いて、思い当たる節があった。
「えっ、……まさか、あの時の人って…。」
「それ、俺だったんだよな…。」
「……言われてみれば、その時って眼鏡で私服姿でしたよね?」
「まあ、本部からのお遣いでな。俺は他の奴と違って、一般人を装ったように見学していたからな。分からなかったのも、無理はないだろう。」
彼も変装が得意という訳ではなかったのだが、その時くらいしか御前試合前に直接会う機会はなかった*6ので、他人と見間違うのは必然的であっただろう。
「まさか、その時の娘が紫様を討とうとした姫和を手助けするとは、思いもよらなかったがな。」
「いや~。あの時は、考えるよりも先に体が動いちゃいましたから…。」
「後から振り返れば、可奈美達がこうやってココに集まったのも、その一つの流れだったのかもな。」
時には人の目に見えない導きがある事も往々にしてあるのだろう、と彼は思った。
「そういえば、あの時は本当にケガしなかったんですか?」
「なんとか避けれたからな。…正直、あれが当たったらこの世には居なかっただろうけれど。まあまあの太さがあったし。」
「殺陣でもやっていることを、《千鳥》を使って試しにやってみようと思ったんですけど、思ったよりも威力が強過ぎましたね…。」
「まあ、好きこそものの上手なれ、という諺もあるからその姿勢は当時でも良いと思ったぞ。…周りには気をつける必要はあるだろうが。」
「はい…。」
「ま、一般の人じゃなくて良かったな。」
「ホントですね。」
二人はその時のことを再び思い起こす。
ー数ヶ月前 美濃関学院 学生寮付近ー
可奈美が彼に謝った後、彼は彼女の鍛練風景が見たいと頼み込んだ。
「私の、ですか?」
「巻き藁を使って鍛練するなんて、初めて聞いたからな。他にもどんなことをするのか、ちょっと気になってな?」
立場は最後の別れ際まで伏せていたが、可奈美はそんな彼に対しても嫌な顔一つせずに承諾する。
「…分かりました。地味かもしれませんが、いいですか?」
「刀使さんの訓練風景が見れるなら、充分です。」
一般人を装っているため、あえて「刀使さん」という言い方をしている彼。ちなみに近くには他の美濃関の生徒も居り、彼が不審な動きをすれば飛んでこれる位置に居るため、可奈美も安心して鍛練に打ち込める。
「すぅ……。はあっ!」
目前に立つ数本の長い竹棒を、それぞれ異なる斬り方で短く落としていく。
その間、僅か二十秒。
カチンッ
《千鳥》を鞘に仕舞う彼女。
脇からパチパチと拍手が聞こえてくる。
「…凄いな。」
彼は彼女の技に、つい見入っていた。
「私なんて、まだまだですよ。剣術って、今繰り出した技のほんの僅かな部分でしかないですから。でも、それが面白いんです!」
「そうだな。…太刀筋からそれが伝わってくるよ。」
よく本部で顔を見かける親衛隊第四席とは、同じ剣術でも異なる方向性を彼女から見出だす彼。
この言葉が彼女に届いていたかは分からないが。
「あっ、そうだ!」
可奈美は、とあることを思いつく。
「私と、直接打ち合ってもらえませんか?」
「………えっ?」
まさか、可奈美からそんな提案を受けるとは思わなかった彼。
これが、彼にとって初めての彼女との打ち合いとなった。
ご拝読頂きありがとうございました。
気が付けぱ、もうトータル50話目になりました。
…というか、そんなに書いてたのか。(驚き)
とじともの振袖山城さん、イラストが全然自重してなかったですね…。
むしろ安定感があっていい(?)のかもしれませんが。
感想等ございましたら、感想欄・活動報告で対応させて頂きます。
後編に続きます。それでは、また。