UA6000、全話PVは14000を突破致しました。
本作を読んでくださり、ありがとうございます。<(_ _)>
今回は沙耶香編その2 前編です。
タイトルは異なりますが、その1の続きになります。
今話は、アニメの方で登場していた、とじとものサポートメンバーの一人が登場します。(声は無しでしたが)
…内容が、観光スポット巡りになっていないか心配。
それでは、どうぞ。
ー栃木県日光市 某旅館ー
荒魂の目撃情報が入って、四日目。
沙耶香たち派遣部隊一行は、第一報の目撃情報以降、あまりの情報の無さゆえに、今回の討伐は長期戦になることが予想された。
このため、部隊員のなかには、荒魂対処に対して楽観視する者も、現れ始めていた。
隊を率いている沙耶香は、元々感情を表に出すことが苦手であるため、統率がとれなくなることを懸念した真庭本部長は、彼の他にもう一人現地に送り込んだ。
その話を最初に聞いたのは、彼であった。
「えっ、もう一人此方に寄越すと?」
『ああ。本当なら、うちの怠け者を派遣したいんだが、生憎あいつは出払っていてな。』
「ああ…。」
薫、強く生きろよ、と内心思う彼。話は続く。
『そこで、薫よりも働いてくれる奴をそっちに送った。多分、お前も顔見知りだろう。』
「顔見知り、ですか?…誰が来るんだ…、一体。」
『ということで、後は任せた。日光での討伐任務、よろしく頼むぞ。』
そのまま、通話は切れる。
「真庭本部長…。現場に投げっぱなしは、マズいと思いますが…。」
「…どうか、したの?」
起床したての沙耶香が、彼に声を掛ける。
早朝から、彼の声が聞こえたのでやって来たが、眠い目をこすっていた。
「真庭本部長から、もう一人部隊に加わる人間がいるから、よろしく頼むだと。」
「…そう。人手は、多い方がいい。」
舞草で匿われていた期間も経て、彼女は人の動きや考えに対して、敏感になり始めていた。
「沙耶香、今日も一人で回るつもりか?」
「うん。」
「せめて誰か一人は、一緒に連れていった方がいいだろ…。」
「…じゃあ、一緒についてきて…くれる?」
彼女は、彼を見てそう言った。
「……、えっ俺!?」
コクリと頷く、沙耶香。
「待て待て。沙耶香、よく考えろ。俺は刀使じゃない、ただの人間だぞ。」
「…でも、貴方はさっき、誰かを連れていけって…。」
(…しまった!確かにそう言った!)
彼は、『刀使の誰か』を連れて行くように、というニュアンスで言ったつもりだったのだが、沙耶香は純粋に『誰か』を連れて行くように、と捉えてしまっていた。
…言葉を端折ると意味が大違いになる、日本語の恐ろしい部分である。
「う~ん。弱ったな…。」
(断るべきなんだろうが、こんな顔されたら断り辛い…。)
引き取り先を見つめる子犬のような、そんな雰囲気を醸し出す沙耶香。
本人は無意識でやっているから、彼は余計に何も言えなくなった。
(どうしたもんか…。)
と、そんな時だった。階下からの声で、いったん二人の会話は打ち切られる。
「失礼致します!真庭本部長の指示により、糸見隊長の指揮下に入るよう命じられた者です!」
「…お客さん?」
「ああ、本部長が言っていた…って早くね!今7時前だぞ!」
彼は、思わず時計を見る。
「…今、6時52分。…特別、早いわけでは無いと思う。」
「いや、ここ日光だぞ。それにヘリの音さえしなかったし。…本当に、誰が来たんだ…?」
ともかく、二人はエントランスにいるであろう、派遣されてきた者を出迎えに向かう。
二人がエントランスに着くと、サイドテールをした茶髪の刀使が待ち構えていた。
彼女の隣には、黒いトランク状のコンテナがあった。
彼女は、二人を見つけると、姿勢を正して敬礼をする。
「お久しぶりです。糸見隊の方へ無事、馳せ参じました。」
「真庭本部長が言っていたのはお前だったのか、葉菜。」
「はい。僕もあちこち飛ばされてて、大変だったんですよ。」
本部長が派遣してきたのは、綾小路武芸学舎所属の鈴本葉菜。彼女は、彼同様舞草の構成員で、主に綾小路の諜報を担当していた。
確かに、彼も顔見知りではあったし、真面目さがモットーの彼女が来たのは、適任であっただろう。ちなみに、彼女はいわゆる僕っ子だ。
「警視庁に出向していると聞いていたが、それは大丈夫なのか?」
「そちらの方が一段落したので、ちょうど、一度本部の方に戻って来ていたんです。そしたら、真庭本部長に頼まれまして。」
「体の方は、大丈夫なのか?」
「はい。…といっても、ここが終わったら、また警視庁の方に戻るんですよね…。トホホ…。」
終わった後のことを思い、しょんぼりする葉菜。
チョンチョンと、彼の肩をさす沙耶香。二人の会話が一段落するまで待っていたようだ。
「…この人は?」
「おっと、沙耶香に紹介が遅れたな。この娘は、鈴本葉菜。綾小路所属で、俺と同じ舞草の人間だ。」
「どうぞ、よろしくお願いします。糸見隊長。」
「…隊長って、ほどの人じゃないよ?」
「いえいえ。大荒魂を鎮めた英雄の一人が、何を仰っているんですか。」
「英雄…。」
沙耶香は、彼女の言葉に対して、少し困惑した表情を浮かべる。
「これ。」
彼は、葉菜の頭に軽く手刀をお見舞いする。
「いてっ。何してくれてるんですか!折角結んだ、僕の髪の毛がずれちゃうじゃないですか!」
「沙耶香が困っているだろ。…それに、お前も鎌倉に居たじゃないか。何も無かった、とは言わせんぞ。」
まあ、確かにそうですけれど、と葉菜は、彼への抗議を取り下げる。
「にしても、どうしたもんかな…。」
「何がですか?」
「いや、実はな。沙耶香と刀使の誰を組ませようかな、と考えていてな。」
彼は、先ほどの沙耶香の案をどう返そうか、まだ考えていたのである。
「でしたら、僕が糸見隊長と組みますよ。」
「いいのか?」
「元々、本部長が僕をここに派遣したのは、糸見隊長の手助けをしてほしいとのことでしたから。」
「…すまん。助かる。」
「…よろしく、お願いします。」
「隊長なんですから、敬語は不要ですよ。糸見さん。」
葉菜の言葉に、少し微笑んだ沙耶香。
「そういえば、もし僕が来なかったら、隊長は誰と組むつもりだったんですか?」
葉菜の疑問に、沙耶香は彼の服を摘まむことで答えた。
「…誰でもいいって、言ったから。」
「ほ~う。…これは少し、事情を聞かないといけませんね。」
鞘から御刀を抜きかける、葉菜。
「待て待て、葉菜!これには訳があってだな!」
「…舞衣さんに、報告しておきましょうか?」
「やめてください、しんでしまいます。」
その後、二人にキチンと食い違った部分を説明したら、葉菜からは
「僕にもあり得そうな話ですから、すみません。」
と謝罪が。
沙耶香からは
「…そういう意味だったの?」
と納得した顔をされた。
真面目に、二人から御刀で斬られたらどうしようか、と内心ヒヤヒヤした彼であった。
葉菜を泊まっている部屋に案内中、葉菜が思い出したように、コンテナを彼に渡す。
「そういえば、これ。真庭本部長が持っていくように、と言っていたものです。確かに渡しましたからね。」
「後で中身を確認しよう。ありがとう、葉菜。」
「いえいえ。お役に立てて、何よりです。」
沙耶香がそのやりとりを見て、手渡されたコンテナを見る。
「それは?」
「これか?刀使用の…。そうだな、保険に近いな。」
「保険?」
「できれば使いたくはないんだが、何があるか分からないのが戦場だからな。」
「戦場…。そう考えたことは、無かった…。」
「死と隣り合わせなのは、変わらないからな。…大丈夫だ。万が一ダメそうな時は、ともかく逃げろ。生きていれば、必ず反撃のチャンスだってある訳だからな。」
「うん。分かった。」
「ともあれ、荒魂が見つかるまでは、こちらも肩に力は入れ過ぎない方が良さそうだな。」
柄にもなく、薫のようなことを呟く彼。
ただ、未だに姿を表さない荒魂に対して、不気味さも感じ始めていた。
ー栃木県日光市 華厳の滝ー
鎌倉から撒き散らされた多量のノロは、ここ日光でも例外なく降り注いでいた。
観光客の足を遠のかせたくない、地元商工会議所や観光協会も、刀使達に対して、できる限りのバックアップをとっていた。
旅館の部屋の提供も、そうした側面がある。
意外にも、観光施設への立ち入りを許可している自治体もあり、日光市はその側に入る。
観光施設に刀使が巡回している、という事実だけでも、荒魂に為す術が無い観光客にとってみれば、安心を与えてくれるものである。
荒魂の警戒がてら、華厳の滝を見に来る三人。
他の糸見班の刀使達も、荒魂を警戒しながら各観光施設を巡っている。
今日の糸見班は、捜索ではなく巡回を中心に行うことにした。
最も、沙耶香にこの提案をしたのは葉菜だったのだが、薫が以前沙耶香に触れ込んだことを思い出し、彼女もそれに同意したのである。
他の糸見班の刀使達は、前評判との違いに少し驚いていたようではあったが。
紅葉が色付き始めた断崖絶壁を、約百メートルの水柱が分かつ光景は、圧巻であった。
平日の朝と昼の間だけあって、展望台にいる人間は、そう多くはなさそうである。
「相変わらず、流量に差があるな。ここは。」
「…そうなの?」
「ああ、中禅寺湖の下流側にあるダムで、この滝の水量調整を行っているんだ。訪れる季節によっては、水量の違いに驚くぞ。」
「そこまで
「ま、冬場は綺麗なんだがな。滝が凍った姿を見られるし。」
「舞衣と、また一緒に見に来たい。」
「そうだな。…何事も、落ち着いてからだな。」
「僕も、ゆっくりできる時にまた来たいものですね。」
三人はそれぞれ、また来たいということを口にだしつつ、華厳の滝を後にする。
ー栃木県日光市 戦場ヶ原ー
次に三人が向かったのは、大湿原である戦場ヶ原。
なぜ戦場ヶ原という名称なのかと言うと、遥か昔に中禅寺湖を巡って、男体山と赤城山の神同士がここでやり合った『戦場』だったから、との由来からだそうな。
昼を過ぎた頃だったため、沙耶香や彼は、ここで他の刀使達を、一度集めようと考えていた。
かなり広域が湿原であるので、荒魂の目視確認もし易いと考えてのことであった。
「スペクトラムファインダーも、万能じゃないからな…。」
「確か、あまりに小さな荒魂には、反応しないんでしたっけ?」
「大体の場所では、問題無いんだがな。山岳地帯では、それが顕著に表れてくる。反応が無い=荒魂がいない、ではないからな。」
「私も、経験したこと、ある。」
「あー。薫と一緒だった時の件か。…一応、博士に言って、機能の精度向上を図ってもらっているが、まだ時間が掛かるだろうな…。」
「話を脇に置きますが、糸見隊長と一周回ってみましたけれど、ここに荒魂は居なさそうでした。」
「そりゃ、そんな簡単に見つかるなら、ここまで長期化してはいないだろうしな。」
「…任務は、本来早期に達成すべき。でも、肝心の荒魂が発見出来ない以上、私たちは探すしかない。」
「…本当に、いるんでしょうか。荒魂。」
流石に、ここまで広域的に探しても見つからないとなると、一度捜索範囲を絞り直す必要があるかもしれない。
そんなことを考えている矢先だった。
沙耶香の携帯が鳴る。
「…もしもし。」
他の糸見班の刀使からの連絡だった。
『隊長!荒魂です!比較的大型の荒魂です!』
「!?」
「本当に居たんだ…。」
「で、場所は!」
『それが…。』
応対する刀使は、どこか困ったように沙耶香達に答える。
『…いろは坂です。』
三人は大慌てで、いろは坂の下り口に向かう。
沙耶香におぶってもらった彼は、日光駅付近に居る
「なんで、スペクトラムファインダーが作動して無いんだ!?」
「分からない。でも、そこに荒魂が居るのは、事実。」
「ともかく、僕達はいろは坂に向かうほか無いんですね!」
「ああ!くっそ、よりによっていろは坂かよ!」
日光を代表する観光スポットであるいろは坂は、安全のため基本は車でしか進入できない。
しかし、そのような場所でも、刀使は木と木の間を、八幡力を駆使して跳び駆けることが出来るため、車の渋滞などに左右されず、スムーズに向かうことが出来る。
「…文句垂れても仕方ねえな…。沙耶香、おぶってもらって悪いんだが、荒魂のもとに行く前に、俺をロープウェイ乗り場に落としてくれ。」
「…いいけど。何かするの?」
「もしかすると、言っていた保険を使うかもしれないからな。」
沙耶香が彼を見ると、旅館で見かけたコンテナを背中に載せていた。
「無理、しないでね。」
「それはお互い様だ。見えて来たが、…マズいな。」
三人は、第二いろは坂の日光側から、うっすらとした黒煙が上がっているのを確認した。荒魂の襲撃現場は、まだ見えない。
「僕は先に行って、現場に加勢します!」
「…分かった。私も、すぐに向かう。」
「無事、また会おう!すまないが、頑張ってくれ!」
二人と別れ、直線距離で現場への最短ルートの降下を始める、葉菜。
沙耶香も、経由地のロープウェイ乗り場を目指す。
(速く、もっと速く…)
沙耶香の焦りは、募る一方であった。
澄み渡る秋空は、黒煙によって霞んだものに変わろうとしていた。
青空を取り戻せるかは、まだ分からない。
ご拝読頂きありがとうございました。
アニメの方に登場していた、とじとものサポートメンバーは、話に絡められそうな場合に登場させてみようかな、と考えています。
(キャラブレの可能性もありますので、その際にはご指摘頂けたらと思います。)
次回も沙耶香編となります。
もやっとした終わり方になっていますので、なるべく早く投稿したいと考えています。
感想等ありましたら、感想欄などで対応させて頂きます。
それでは、また。