ちょっとこの連休はバタバタしていました。無事戻りました。
今回は可奈美編その4 後編です。
前編でちょうど終わったあたりから始まります。
それでは、どうぞ。
ー数ヶ月前 美濃関学院 学生寮付近ー
ひょんなことから可奈美の鍛練風景を見ていた彼は、突然彼女から立ち合いの提案を受けた。
「どうですか?」
「…ちょっと考えても良いか?」
「はい!」
彼は即答出来なかった。
それも当然のことだった。相手はつい先日まで小学生だったといえども、現役の刀使。しかも、かなり流派の技を磨いていると見た。
対して彼は、一応自衛隊などに出向してきたほどには体を鍛え上げてきたが、剣の腕に関しては素人に毛が少し生えた程度。
これで彼女に挑もうとする方が、普通の人間の感性であればおかしいと思うだろう。
だが、彼はそこまで詳しくない素人だからこそ、見えてくるものを感じようと思った。
「…よし、やろうか。」
「いいんですか?」
「ああ。……流石に御刀は使わないよな?」
「えっ。ああ、はい。使うのは木刀ですよ。」
可奈美は準備良く、鍛練道具の一部として木刀を何本か持ってきていた。
彼は彼女の持つ木刀の中から、自分の持ちやすく使いやすい物を選ぶ。
「開始の仕方はどうする?」
「…そういえば、誰かが合図をしないとフェアな立ち合いにはならないですよね?」
「それは、…そうだな。」
あくまでも対等な条件でやりたい可奈美。彼もその辺りは同感であった。
すると、学生寮から一人の大人びた少女が現れる。
「あれっ?可奈美ちゃん?」
「あっ、舞衣ちゃん!ちょうど良かった~!」
かなり後に、沙耶香と共に舞草の里へとやって来る舞衣ではあったが、この当時は彼の存在も知らず、この時も彼が本部の人間であることに気付くことはなかった。
「舞衣ちゃん。頼みがあるんだけど、いいかな?」
「…聞ける範囲だったらいいけれど…。」
「今時間があるなら、そこの人との立ち合いの審判をしてもらえないかな~?」
「そこの人って…、えっ、男の人!?しかも一般の人だよ!?」
舞衣は、彼を外見でそう判断する。…まあ、彼女がそう思ったのは無理ないことだろうが。今、可奈美と舞衣を見て向き合っている人間が、同じ組織の上の方の人間だとはまさか思うまい。
「お構いなく。元々彼女の提案に乗ったのは、俺ですし。時間があればでいいので、お願いできないでしょうか?」
可奈美に援護射撃を行う彼。
「……分かりました。何かあっても大変ですから、私も見ておきます。」
「舞衣ちゃん!ありがとうね。」
「いいの。ケガだけはしないように、ね?」
彼女を良く知る人間だからこそ、引き受けたというのもあるかもしれない。
「…それでは、両者位置に。」
真剣な表情を浮かべる舞衣の指示の元、足で地面に描かれた線まで二人は進んでいく。
可奈美が鍛練していたここの地面は、細かく砕かれた灰色の砕石が厚く敷かれていた。
ザクザクと、二人の足音がその場を支配する。
「両者、構え。」
土で固められた場所とは異なり、ここは砕石が足を取らせる。
足元の掴みにくさが、二人の行動を大きく制限する。
「始め!」
舞衣の開始合図とともに、可奈美と彼はそれぞれ地面を蹴って近接する。
二人の全ての立ち合いは、ここから始まった。
先に仕掛けたのは可奈美だった。
元々、足元の悪さもあってか短期決戦で挑もうと考えていた彼女。
当然ながら、相手の実力が分からない状況でやるのは珍しい話でもない。むしろ試合などはそうしたもののオンパレードだ。
互いに木刀が正対するように突入する状況を利用し、利き手であろう彼の右手側から横方向に一撃を入れる。
「はっ!」
ツーステップ踏んだ後、彼女は跳びながら彼の木刀の側面目掛けて自身のモノを振り下ろす。
(そう来たか!)
「ふんっ!」
急減速を掛けながら、可奈美の斬り込む向きを予測し、自身の少し左側に木刀を傾ける。
こうすることで突入する彼女の動きを利用して、すぐに次の行動を起こしやすくする。
ガンッ!
力任せにし過ぎず、かといって弱い威力でもない可奈美の打ち込みは、少し彼の動きをぶれさせた。
(!?マジかよ!)
彼自身は、力点移動を容易に行えるタイプの人間ではあるが、彼女の絶妙な力加減が立ち直りを遅くさせる。
(…想像以上の力だ。…こりゃ、勝てんな。)
力加減が出来る、つまり身体の使い方を分かっているということは、自分にとって最も効率的な斬撃方法も知っているということだ。
(どうやって踏み込むべきか…。)
攻めか守りか。その選択が、彼の判断を鈍らせる。
左足を軸に、彼女の力を受け流しながら半回転する彼。
打ち込みが失敗すると分かった可奈美は、木刀同士がぶつかった後直ちに体を捻りつつ、彼を視界から逃さないように着地する。
ズササァァァッ
砕石が、着地する彼女の体にブレーキをかける。
「…凄い。」
彼女の初撃をなんとか凌いだ彼。
可奈美は、男性とはいえ彼女の動きを予測し、行動に移したことに素直に感心した。
「世の中には、こんな人も居るんだ。」
思わず顔に笑みが浮かぶ彼女。
再び、彼との間合いを詰めに動く。
「たぁっ!」
彼が考える間にも、彼女は連続で彼の木刀目掛けて打ち込む。
(どうする…。このままだとジリ貧だな。)
少しずつ可奈美が有利な状況へと変わってきているなか、彼は一度体勢を整えようと考えた。
(3、2、1…。今!)
意図的に、バックステップで彼女の連撃を逸らせる。
「あっ!」
流石に、少し力押しになりかけていた彼女の虚を突く。
「……危なかった。」
彼が体勢を立て直すことによって、勝負は一旦振りだしに戻る。
「…可奈美ちゃん。」
審判役の舞衣は、二人の立ち合いを見ながら彼の動きも見る。
(何かの流派に付いている訳では無さそう…、でも力任せで可奈美ちゃんとやり合っているようには見えない。)
親衛隊の人間との打ち合いに付き合っていた、なんて事実を知らなければ、可奈美を知る人間にとってはこの状況がいかに珍しく映るかが分かる。
彼自身も思っているとおり、剣術や流派などに関しては全くの素人なのだが、親衛隊に半ば付き添ってきただけあって、回避技術などは並みの刀使と遜色無い。
例え素人であっても、今まで養われた技術や経験は決して無駄ではないのである。…あくまでも、アマチュアの世界でやり合うならの話ではあるが。
(…でも、そろそろ決着が着きそう。)
なるべく体力の消耗を抑えていた彼も、限界が近いことを動きで示し始めていた。
舞衣は、最後までこの立ち合いを見届ける覚悟でずっと二人を見ていた。
立ち合いから二分ほどが経過し、つかず離れずの距離感をとる二人。
「はあっ…。はあっ…。マズいな。息が上がりだした。」
意外と彼女の一撃一撃が、的確に腕への力を弱らせる程度に効いてきていた彼。
ボディブローのようにじわじわと体力を削るそれは、自身が素人であるが故にその消耗速度を上げていた。
それでも、
「…楽しいな。それに、彼女の技は無駄な動きがない。」
段々と可奈美との打ち合いを楽しみだしていた。
「…まだやれるな。」
木刀を握る力をもう一度取り戻す。
(この人、もう折れてもおかしく無いのに全然折れない。…まだ体力が残っているのかも。)
一方の可奈美も、決定打を繰り出せずにいた。
この頃既に頭角を表し始めていたとはいえ、相手の力量を限界ギリギリに見切るまで力を抑える点は、彼相手でも変わらなかった。
「…でも、一本一本に意志が乗ってる。何かを守るような…、そんな重さが。」
可奈美は、彼との打ち合いを通してどんな人間かを見極めようともしていた。
彼女の剣を交えた会話術は、その人間の思考をも感覚的にだが捉えることが出来る。
これは無意識的な要素も強いが、夢の中でいつも修行を続けてきた彼女にとってはこれくらい些細な問題だろう。
最も、相手の方は彼女並みのレベルでなければ、会話だと感じること無く時間が過ぎ去ってしまうのだが。
彼女は、立て直しを終えた彼と相対し、動きを読み取ろうとする。
そして、立ち合いは終局に移る。
可奈美との距離を開けていた彼は、加減速をつけられるギリギリの速度で彼女の胸元に突っ込む。
(ヤケになったのかな…?)
最初はそう思った彼女だったが、どうもおかしい。
「はあぁぁぁぁ!!」
怒気迫る勢いで可奈美目掛けて来る割には、極僅かにだが左側に進んでいるように見えた。
(たまたま…いや、もしかして。)
考え得る可能性がいくつか浮かんだが、その答えは数瞬後に分かるだろうと思い、彼の動きのみに目線を集中する。
(かかった!)
彼は僅かに感じとった彼女の躊躇いを見逃さなかった。
突進するように間合いを詰め、
可奈美の眼前から消えた。
(ウソッ!)
彼女は一瞬焦る。確かに捉えていたはずの彼の姿が、左側*1に傾いたと思ったら消えたのである。
(まさか、後ろから!?)
瞬時に振り返るも、そこに彼の姿はなかった。
「だあぁぁぁっ!」
その時、彼女の左耳に彼の声が届く。
「!?」
咄嗟に、木刀で大振りをかまそうとした彼の動きを止める。
ガンッ
木刀同士のぶつかる固い音が響く。
当然ながら、互いのエネルギーはそのまま自分にも返ってくる。
可奈美は体を回転させ、彼の振りをそのまま受け流すように動く。
そして、そのまま彼の背中へ斜め向きの斬撃を入れた。
抗す力も残っていなかった彼には、それを防ぎきる力は無かった。
この瞬間、両者の打ち合いに決着が着いた。
「両者、それまで!」
舞衣の終了宣言が二人の耳に入る。
二人は最初に構えた位置まで戻る。
「礼!」
無事、二人の立ち合いは可奈美の勝利で終わった。
「立ち合いをやっていただき、ありがとうございました!」
「いや、此方もいい勉強になったよ。」
握手をする二人。
「衛藤さんもお強いですね。流石、現役の刀使さんだ。」
「いえ、貴方も凄かったです。…剣から、何かを背負って守っているような感覚が伝わってきましたけれど、何か人を守るような職にでも就いていらっしゃるんですか?」
「あっ、ああ。まあ、そんなところかな?」
なるべく身バレを防いでいるので、自身が本部から来た人間とはとても言えまい。
「こちらも、立ち合いを楽しむことが出来たよ。ありがとう。」
「はい!機会があれば、またいつでもお願いします!」
「流石に校内には立ち入り出来ないから…。でもまあ、ありがとう。」
その後、舞衣とも少し話し、別れの挨拶も交えてこの場を後にした。
「衛藤可奈美、衛藤可奈美っと…。」
二人と別れた彼は、在校生リストから彼女の名前を探し出す。
本部への引き抜きは行わないにせよ、今後伸びしろがあると踏んだ人間に関しては、彼は独自にチェックを入れている。無論、他の人間には悟られないようにだ。
御前試合後に関わる舞衣も、公平な審判をしていた点などからこの時既に彼もチェックは入れていた*2。
「これで良し、と。」
ブラックライトを当てなければ分からないタイプの蛍光ペンで、可奈美の欄にチェックを入れ終える。
「…彼女なら、きっと上がってくるだろう。」
そんな考えを抱きながら、美濃関の施設内へと戻っていった。
まさか、そこから一年経たずにまた逢いまみえることに成ろうとは、彼自身思いもよらなかったが。
ー現在 鎌府女学院 剣道場ー
可奈美は彼からの話を聞き終えて、少しむくれていた。
「折角以前会っていたなら、舞草の里に初めて来た時に、教えてくれれば良かったじゃないですか。」
「まあ、そう言うのも無理ない。…俺は、普段の可奈美達の姿を知らないと、何とも判断が出来なかったからな。それに、本部に引き抜くなら尚更慎重に選ぶしかないし。」
彼女が訝しむのは仕方ないにせよ、自身の振る舞い方に問題があったことには変わりない。
もうちょっと考えて動くべきだったかな、とは彼も思った。
「そういえばあの時、私の目の前から消えたのは…。」
「あれか。あれは簡単に言えば、視線誘導の応用だな。ギリギリまでこちらに気を向けさせて、瞬間的に斜めの動きをする。こうすることで、人の視覚は消えたと錯覚するわけだ。…それでも防がれるとは、当時でも驚くしか無かったがな。」
「いや~。…その節はすみません。」
「まっ、その時の縁なのか今じゃたまに稽古をつけてもらっているしな。」
可奈美と彼とでたまにする打ち合いは、そうした側面も持っている。
「でも、本当に私が教えて良かったんですか?舞衣ちゃんだっていますし、沙耶香ちゃんでも良かったんじゃあ…?」
「良いんだよ。…段々強くなってきているのは、流石に分かるがな…。」
既に刀使の中でも飛び抜けた存在になろうとしている彼女だが、そんな最中でもこうして剣を交えてくれることは、ある意味彼女らしさであり、彼女の精神を安定させるモノになっているのだろう。
まして、こんな平々凡々な人間にさえ構ってくれている彼女の懐の広さも、彼女の良いところであると再認識させられる。
「…昔話をしていたら、俺もちょっと振りたくなってきたな。よし。可奈美、出勤前に一太刀お願いできるかな?」
そう頼んでみると、彼女は笑顔で応える。
「はい!やりましょう!」
そして、道場内に二人の男女の声が響き渡る。
波瀾の日々が続くなかでは、二人にとって平穏な朝であった。
ご拝読頂きありがとうございました。
みにとじ、遂に始まりましたね。
5分枠と短いながらも、抱腹絶倒な内容でだいぶ楽しませてもらいました。
翌週も楽しみです。…鎌倉各所のカットの入るOPがまた良い。
ちなみに主人公が一太刀浴びせようとしていた動きですが、言ってしまえば『黒子のバスケ』でのバニシングドライブの応用版です。
…やろうと思えば出来そうなのがまた…。(それでも足壊しそうな予感がする。)
次回は姫和編になります。
それでは、また。