刀使の幕間   作:くろしお

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どうも、くろしおです。

今回は沙耶香編その4 前編です。
流れとしては『刀使vsサバゲーマー』の後、フラグ消化の話になります。

長くなっていますが、最後までお付き合いください。
それでは、どうぞ。


⑤ 北陸路

 ー東京駅ー

 

 先日のサバゲー大会*1での優勝景品として、糸崎・三原ペアとは別に頂いた二泊三日の金沢行き旅行券を使い、北陸新幹線の車両に乗り込んでいた。ちなみに先の二人は同様に北海道旅行とのこと。二人仲良く、潔く爆発して来れば良いと考えていた彼。

 

「…待った?」

「いや、全く。むしろ時間ピッタリだな。」

 自身が乗り込んで少しした後に沙耶香が追いついた。

 元々、今日の集合場所を新幹線内に設定していたこともあり、一緒に揃って来る、という訳ではなかった。

「二泊用のキャリーケースか。」

「うん。舞衣が仕立ててくれた。」

(…舞衣、ありがとう。)

 彼は、面倒見の良い彼女が今日のために沙耶香へ気を回してくれたことを感謝しつつ、二人の荷物を棚に入れる。

「沙耶香は窓と通路、どっちがいい?」

「…貴方が選んだのと別の方。」

「沙耶香、本当にいいのか?」

「うん。」

(…となると…。)

 ちょっと考える彼。

「じゃあ、窓側をとるわな。」

 彼女がトイレに向かうことを考えた場合、気軽に出られそうな通路側に彼女を座らせる。

 

「車窓が見たかったら、いつでも言ってくれ。すぐに替わるから。」

「分かった。…誰かと遠出するのは、久しぶり。」

「…そういや、高津学長がいた頃は殆ど鎌府に軟禁状態だったもんな。」

 

 正確には当時の沙耶香自身が『任務だから。』と割り切って高津学長の傍についていたこともあるのだが、他人から見れば軟禁と見られても仕方ないことだろう。

 

「でも、舞衣やみんなと出会えた。」

「…沙耶香は今、楽しいか?」

「うん、楽しい。舞衣のクッキー、いつでも食べていたいから。」

(すっかり餌付けされているな…。)

 内心そんなことを思いつつ、荷物の整理を続ける。

「…金沢か。久しぶりだな。」

「行ったこと、あるの?」

「北陸新幹線が開業する前だけどな。…あの時と違って、だいぶ楽になった。」

 

 東京から金沢への移動は、北陸新幹線開業*2までは小松空港への空路か高速バスが推奨されていた。鉄路では最短でも東海道新幹線と北陸本線などを経由して向かう必要があり、非常に便が悪かった。

 開業効果により、北陸エリアでの関東からの観光客数は激増した。無論、今から向かう二人もこの恩恵に預かっている。

 

「…そろそろ秋か。」

「時間が経つのは、早い。」

「そうだな。…舞衣と一緒の方が良かったか?」

 ふと思ったことを口に出す彼。

「…ううん。舞衣と一緒に居たいのは確か。でも、今は貴方と一緒に行きたい。」

「…と言っても、息抜きの側面もあるんだがな。なるべく怒られないように動くか。」

 

 沙耶香の御刀《妙法村正》は、最近の超高頻度出撃による影響で柄と刀身との間でズレが出始めていたこともあり、この休みに鎌府の方へ修繕を依頼していた。そのため、彼女は手元に持っていない。

 つまり今は、身体能力が高い程度の普通(?)の女の子である。

 

(いざという時は、沙耶香が逃げられる時間を稼ぐか。)

 折角の旅行でも、不測の事態はついつい想定してしまう彼。

 荒魂がこれだけ蠢いているなかでは、それもある種仕方ないが。

 

 クイクイ

 

 服を摘ままれたような感覚がした彼は、隣を見る。

 どこか不安げな表情をする彼女の姿があった。

「ん?」

「どうか、したの?顔が怖い。」

「あっ、すまん。」

 どうやら、かなり険しい表情をしていたようだ。

「何か辛いことでもあったの?」

「大丈夫だ。むしろ、今からの旅行が楽しみだしな。」

「そう…。良かった。」

 うっすら微笑みかける彼女。

 

 そんな時、車内にアナウンスが流れる。

『お待たせ致しました。かがやき507号金沢行きです。発車いたします。閉まるドアに御注意ください。』

 アナウンスから少しして、二人の乗る列車は東京駅を後にする。

 

 

 

 

 ー金沢駅ー

 

 北陸新幹線の現在の終着駅である、ここ金沢駅。

 福井県・敦賀までの延伸は決まっているものの、当分の間は大阪方面に向かう際にはここで乗り換える必要がある。

 

 

「沙耶香、先にホテルにチェックインするけど良いか?」

「分かった。行こう?」

 駅に着いてから、余分な荷物類をホテルに置くことにした二人は、旅行券で指定された駅前のホテルに入る。

 

 フロント受付の男性が彼に応対する。

「いらっしゃいませ。ご予約をされたお客様ですか?」

「ええ。二名です。」

「こちらにサインをお願いします。」

 ちゃっちゃと書き終える彼。

「◯◯(彼の苗字)様ですね。206号室です。」

「ありがとう。」

「ごゆっくりおくつろぎください。」

 少し離れたところで待っていた沙耶香と共に、泊まる部屋へ進む。

 

 

 

 

「ここか。…ベッドは二つか。」

 ちょっとホッとした彼。もしベッドが一つだった場合、起こり得る確率が格段に跳ね上がるラッキースケベなど、ご勘弁願いたいところだったからだ。

 とりあえず、床で寝る心配はせずに済んだ。

「荷物、置くよ。」

「ああ。そこに並べるか。」

 沙耶香は二人のキャリーケースを部屋の隅に置く。

「さて、どうするかね…。」

 時間は昼時。

 まだ金沢市内を観光する時間はある。

 

 グ~ッ

 

 空腹を知らせる音が鳴る。

「…ごめんなさい。私、お腹が空いていたみたい。」

 彼女は彼に謝ったが、彼はそれを手で制した。

「いや、丁度良かった。俺も腹が減っていたところだしな。」

 そして、インターネット検索で市内に市場があることを知り、そこだったら何か地元の物を食べられるのではないかと思い至る。

「沙耶香、魚介類は食べられるか?」

「?…うん。」

「ちょっと動くぞ。」

 

 おもむろに彼女の手を引く彼。

「!?」

 ビクッ

 

 突然のことで体が驚く彼女。

 流石にそれに彼も気がつく。

「!すまん沙耶香!…気付かず強引に引いたみたいだ。」

「…大丈夫。ちょっと、ビックリしただけだから。」

「何か言ってから手を引くべきだったな。悪い…。」

「…平気。行こう。」

「…そうだな。」

 若干ギクシャクしながらも、彼が先行する形で彼女を誘導する。

 動き回りやすくするため、ホテル近くの店でレンタカーを借りる。

 本当の意味で二人のショートトリップはスタートした。

 

 

 

 

 ー金沢市 近江町市場ー

 

 市内にあるこの市場は、いわば金沢市民にとっての台所でもある。新鮮な海の幸が並び、周辺にはこれらを用いた飲食店も多く建ち並ぶ。

 

「人が、多い。」

「はぐれないように動くか。」

 地元の人や観光客でごった返すなか、二人は腹ごしらえをするべく目的の店へと足を運ぶ。

 

 

 二人が入っていったのは、新鮮な魚介類を丼物として提供する店だった。

「いらっしゃいませ!」

「二名です。」

「奥の方へどうぞ。」

 ピークから若干外れていたこともあり、少し席には空きがあった。

「さて、何にしようかね~。」

「私、そんなに沢山は入らないよ。」

「俺もそうだしな。…よし、決まった。すみません!」

「は~い!」

 店員が注文をしにやってくる。

「小さめの海鮮丼を二つお願いします。」

「海鮮丼ですね。」

「それとお茶をお願いします。」

「かしこまりました。少々お待ちください。」

 テーブルから去っていく店員。

 

 沙耶香は、彼が飲み物が目の前にあるのに、なぜお茶を頼んだのか気になり、首を傾げた。

「お水、あるよ?」

「ん?ああ、違うちがう。ちょっと冷房がな。少し温まろうと思ったんだ。」

 残暑もまだ強いため、どこの建物でも冷房を利かせているところが多い。

 別に冷え症という訳ではないのだが、利き過ぎなのも考えようだろう。

 

 

「…でもまあ、半年くらい前はこんな風に話すことなんて思いもよらなかったな。」

「私も、貴方と話すこと自体想像がつかなかった。」

 

 彼自身、本部勤めであるため鎌府の生徒とも顔を合わせる機会は多かった。

 ただし、沙耶香の場合は高津学長がやたら肩入れしまくっていたこともあり、話す機会も稀だった。無論、荒魂討伐の際に一緒になることもあったのだが、残念ながら今のように話せていたわけではなかった。

 そうであるがために、沙耶香の鎌府脱出と舞衣による保護の報を聞いた際には、

『高津学長との間で何かマズい事があったな。』

 という認識に至るまでに、そう長い時間は掛からなかった。

 

「…流石に俺も、高津学長(あの人)がノロを打ち込もうとした話を聞いた時には真面目にブチ切れるところだったな。」

「…でも、そんな私を舞衣は何も聞かずに守ってくれた。」

「結局、俺は人体実験の被害を受けていた、受けようとしていた目の前にいる娘達を救うことさえ出来ていなかったんだな…。」

(全くもって自分が情けない。)

 SOSさえ汲み取れなかったのか、という自己嫌悪もあるが、過去を悔やんだところで彼女達の心身の被害が消える訳でもない。

 舞衣が居なかったら、目の前の沙耶香さえどうなっていたか分からない。舞草の人間云々より、意思に反したことを強要した高津学長への苛立ちは隠せなかった。

 

 ポン

 

 テーブル上で手を組む彼に、彼女はさらに手を乗せる。

「大丈夫。舞衣や可奈美達が私に熱を与えてくれた。もちろん、貴方も。…だから、思い悩む必要は、ない。」

「沙耶香…。」

 

 危うく、自身の信条を見失うところであった。

 彼の信条は刀使やサポートメンバーの被害軽減、負傷率減少。決して私怨で相手を潰すことでは無い。

 

「ごめんな。こんなところで嫌なことを思い出させて。」

「…ううん。貴方達のおかげで、今の私は居る。だから、」

 胸を張って、と言おうとしたところで店員がやってくる。

「お待たせいたしました。海の幸山盛り海鮮丼です。」

 少し小ぶりな丼が、二人の前に置かれる。

「あと、お茶ですね。ごゆっくりどうぞ。」

 お茶と伝票を置いていく店員。

「…食べるか。」

「うん。」

 会話を打ち切り、食へと集中する二人。

「「いただきます。」」

 イクラ増しましの見事な海鮮丼に、箸が差し込まれていった。

 

 

 

 

 ー加賀温泉ー

 

 近江町市場でも食べ歩きをした二人は、福井方面に下り加賀温泉へと向かう。

 県内でも有数の温泉地でもあるここは、近年の動向に漏れず多くの外国人観光客が訪れていた。

 

「沙耶香、湯加減はどうだ?」

『気持ち、いい。』

「それは良かった。のぼせ過ぎないようにな~。」

『うん。』

 二つの露天風呂が塀を挟んであるこの温泉施設。

 旅行券自体は新幹線の往復乗車券と二泊三日分のホテル宿泊券のみであったため、こうした施設等の割引はなかったのだが、折角来たのなら寄るとこ寄ってしまおうという話になったのである。

 

 

 先に浴場から上がった彼は、牛乳瓶を扱う自販機コーナーの横を通る。

「…そういや、こういうのって沙耶香は飲んだりするのかね?」

 普段の彼女がこうしたものを飲んでいるかは別として、温泉か銭湯などでは雰囲気として飲むものではある。当然、個人によりけりだが。

「よし、買うか。」

 コーヒー牛乳とフルーツ牛乳をそれぞれ買う。

 流石に大手飲料メーカーの提供という点はどこも一緒なのか、と思った彼。

「上がったよ。」

 湯上がりの彼女がタオルで火照った顔を拭う。

「おっ、ちょうど良かった。ほい、これ。」

 先ほど買ったフルーツ牛乳を、彼女に手渡す。

「…ありがとう。」

「さて、飲むか。」

 蓋を取っ払う彼。

 

 ゴクリ

 

「いやぁ、やっぱり風呂上がりのコレはウマいわな。」

 コーヒー牛乳を半分ほど一気に飲んだ彼が、笑顔で彼女に顔を向ける。

「……。」

 それを見て沙耶香も、若干警戒しつつフルーツ牛乳を口に含む。

「……おいしい。」

 そのままゴキュゴキュと、一気飲みしていく。

「ふう…。」

「…意外と豪快に飲むんだな。」

 彼女の意外な一面を垣間見た気がした彼。

「…もう一本、飲んでもいい?」

「おいしかったんだな…。俺も飲むか。」

 市販品なんだよな、という野暮な突っ込みはさておき、五百円硬貨を自販機へと入れ込んでいった。

 

 

 その後、隣接する福井県の景勝地・東尋坊へと足を運び、独特な断崖絶壁の空間と日本海の高波が押し寄せる様をカメラに収めつつ、彼女のスマホなどを通して舞衣たちに今の状況を伝えた。

 ホテルに帰りついた頃にはすっかり日も落ち、夕食の時間になっていた。

 

 

 

 

 ー金沢市 某ホテルー

 

 ホテルでの夕食を済ませ、部屋に戻ってきた二人。

「いや、よく食べたわな。」

「私もお腹いっぱい。」

 料理がおいしかったが故に、かなり大量に食べしまった二人。吐かない程度には抑えたものの、胃は重くなっていた。

「沙耶香、シャワーは浴びなくて大丈夫か?動き回ったから、少し汗もかいただろうし。」

「…そうする。貴方は?」

「俺は少し仕事に手をつけるから、先入ってていいぞ。…結構掛かる可能性が高いしな。」

「分かった。」

「あっ、着替えは忘れずにな?」

 後々、彼女の衣服を持っていく羽目になったら、それこそ気まずい空気になり兼ねないため、念押しして言う。

 

 カチャン

 

 バスルームの扉が閉じられる。

「…ちょっとやっておきますかね。」

 少しでも長く彼女と居られるように、隙間時間に仕事を一部こなす彼。

(…まあ、沙耶香と一緒にいることで生じる雑念を吹き飛ばす面もあるけどな。)

 彼女への庇護欲も湧いてくる一方、やはり彼も男である以上、異性としての意識も当然湧き上がってくる。

(…一線を越える気はサラサラ無いし、越えようもんなら十中八九舞衣からチェックを受けそうだからな。)

 ただし、彼が恋愛に対して極端な頭の堅さを誇っている(褒めてない)ため、沙耶香と交際するような事態にもならないだろうという、ある種の楽観論が彼の頭を支配していた。

 

「それに、…まだ色々な経験をさせる方が沙耶香のためにもなるだろうし。」

 どちらかといえば剣術一本でずっと過ごしてきた彼女にとって、任務外であちこちの場所での経験はいい刺激になるとも考えた。

「コミュニケーション関係は舞衣達に任せるとして、俺は俺で剣術以外の見識も持ってもらえるようにしよう。……絶対お節介なことになるだろうけど。」

 沙耶香が持ち運び式の木刀*3を持ってきていることも知っていた彼は、翌朝少し早めにホテルを出ようと考えていた。

 やはり彼女も刀使であり、剣術を極める者でありたいという彼女の思いも、こうした時でも汲み取る必要があると思った。

「どこか、人気の少なく素振りがしやすい海岸でもないかね…。」

 パソコンを使った仕事の傍ら、翌日のプランも練っていく彼であった。

 

 

 一方、シャワーから下り落ちる温水を浴びる沙耶香。

「…男の人って、こういう時にやってくるものじゃないの?」

 あながちその認識も間違いではないのだが、彼に関しては恋愛と友人関係をない交ぜにする人間ではないため、沙耶香が思ったような反応を彼は取らなかった。

「…三原のお姉さん、こういう時は色仕掛けをしてみろって言っていたけれど、そもそも色仕掛けがどういうものかが分からない…。」

 この辺り純粋さがある彼女にとって、早希の発言の真意がよく分かっていなかったのも幸いしたのか、災いしたのか。

 いずれにせよ、沙耶香がバスルームから出る時でも、彼はブルーライトカットのだて眼鏡を掛けながらパソコン作業をしていた。その姿が、彼女の視界に映った。

 

 

 その後、彼もものの数分でシャワーを浴び終え、早々に床につく。

「おやすみ、沙耶香。」

「おやすみなさい。」

 部屋の照明が消え、暗闇が空間を支配する。

 

(沙耶香、楽しんでいるだろうか。)

 そんな懸念も頭に抱えつつ、目を瞑る彼。

(…分からない。貴方のことが。舞衣と違う、いい人…。)

 彼女もまた、彼の考えを読もうとしつつ少し考える。

 だが、そのまま睡魔が彼女を包み込んでいった。

 

 

 こうして、金沢旅行の一日目は幕を下ろした。

*1
『刀使vsサバゲーマー』参照。

*2
正確に言えば長野までは一部先行開業していた。(1997年)

*3
可奈美が持っていたものを借りている。




ご拝読頂きありがとうございました。

感想等ございましたら、感想欄・活動報告にて対応させて頂きます。

後編に続きます。
それでは、また。
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