刀使の幕間   作:くろしお

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どうも、くろしおです。

今回は沙耶香編 その5をお届け致します。
時系列はアニメ22話、姫和がタギツヒメに取り込まれていた時になります。

長めになっておりますが、ご容赦ください。
それでは、どうぞ。


⑦ 開戦の裏で

 ー刀剣類管理局本部 駐車場ー

 

 タギツヒメがイチキシマヒメと融合した姫和を取り込み、いよいよ大災厄発災への再カウントダウンが始まった。

 可奈美達五人は、紗南から指揮を引き継いだ結月へ、姫和の御刀である《小烏丸》の奪還を要請する。その準備が整い、軽装甲車へと分乗していく。

 その中には、沙耶香の姿もある。

 

 出発前の一時招集の際、沙耶香と言葉を交わす彼。残念ながら、今回彼は彼女達と行動を共にすることが叶わない。別件の用事があるためだ。

「大丈夫か、沙耶香?」

「うん。平気。…ありがとう。」

「しかしまあ、カチコミに行くっていうのも、難儀なもんだ…。…姫和の御刀、取り戻せるといいな。」

「うん。…可奈美達は、私が守る。…貴方を守れないのは、申し訳、ない。」

「いいんだ。皆が、やれることをやるしかないんだ。沙耶香も、俺もな。」

 そう言って、彼女の頭を優しく撫でる彼。

「沙耶香ちゃ~ん。そろそろ出るよ~!」

「舞衣の声だ。」

「行ってこい、沙耶香。舞衣や皆が待ってる。…後で会おうな。」

「うん。約束。」

 互いの小指で指切りをすると、二人はそれぞれ別れる。

 

(…沙耶香、無事に帰ってこいよ。)

 それが分の悪い賭けだとしても、これから先は別行動になる彼。どうであれ、彼女の無事を祈るほかなかった。

 

 

 

 

 ー数時間前 刀剣類管理局本部 彼の職場ー

 

 このやり取りから少し遡り、可奈美達から《小烏丸》奪還の話を聞く直前。

 姫和がタギツヒメに取り込まれたことを、可奈美達から聞いていた彼は、その彼女達が御刀だけでも取り戻しに行きたい、と言い出したことに驚いていた。

 その発端となったのは、沙耶香からの電話だった。

 

「○○(彼の苗字)、沙耶香ちゃんから電話だ。」

「俺に?携帯じゃなくてか?」

 彼女が職場の固定電話目掛けて電話を掛けてきたことに対して、疑問に思いつつも糸崎から渡された受話器を受け取る彼。

「もしもし、今代わった。」

『…××(彼の名前)、話したいことがある。』

「…ああ。分かった。ウチのところまで来れるか?」

『うん。…すぐ行く。』

「ほいよ。じゃ、後でな。」

 一旦、受話器を置く。

 

「沙耶香ちゃん、何だって?」

「話したいことがあるんだと。…たぶん、姫和絡みのことじゃないか?」

「…そう言えば、アンタも十条さんがタギツヒメに吸収されたって聞いた時は、数時間くらい意識が飛んでたわよね?」

 向かいの机に居た同僚の里奈*1が、その時のことを口に出す。

「…そりゃ、…。悪い、そん時に急に倒れたのは謝る。」

「…アンタが意外にメンタル弱いのは、解ってたつもりだったけど、別にアンタが原因だった訳じゃないんでしょ。なら、もう少し前向きに考えられないの。」

 確かに、主たる原因はタギツヒメなので、彼が気に病む理由はどこにも無い。

 

 だがしかし、この言葉が彼のトラウマスイッチを起動させてしまった。

「…でもな。あの日、俺は結局無力だったよ。近衛隊から狙われているという理由*2で、現地へ赴くことすら出来なかったんだからな。」

 机上で強く握りこぶしを作る彼。そこから先は、加速度的に声のトーンが下がっていく。

「でも、それもアンタが悪い訳じゃ…。」

「無論、可奈美や沙耶香達に比べたら、鼻で笑われる位の付き合いかもしれない。それでも、……たとえ一般人の身であっても、彼女(とじ)達を守るためにやってきたことが、肝心な時に発揮出来なかったら、今まで俺のやってきたことって、一体何だったって言うんだ!!」

 

 只でさえ、過去の舞草と親衛隊との激突や、由依や葉菜、歩ら近衛隊へ加わった者達との衝突など、『何が何でも刀使を守りたい』という信条を持ってきた彼にとってみれば、いずれもストレスマッハな状況が続いてきていた中で、どうにかこうにか自分を奮い立たせてやってきていた。だがそれも、その糸が切れてしまいそうなくらい、現状では精神的に追い込まれていた。

 今、彼は虚弱な状態の精神という名の薄氷の上を、その間にあるクレバスへ落下するギリギリのところで、辛うじて踏み留まっているような状況であった。あともう一押しで、二度と立ち上がることが出来ないほどに、である。

 

「…二人共すまない。デカい声出して。」

「…いや。…お前も感情的になる時があるんだな。」

「……まあ、やられっ放しで悔しいのは、私も同じよ。…十条さん、後輩だったから、尚更よ。」

 維新派や近衛隊、そしてタギツヒメ。此方から仕掛けるには限界のある中で、彼の同僚たちもこの状況を打ち破りたいと思っているのは、抱えているものが違えど同じであった。

「…俺は、どうしたらいいのかね…。…姫和も助けに向かえず、由依も葉菜も、未だに近衛隊から救い出せず。…そもそも、俺がやってきたことって、ただの自己満足でしかなかったのだろうな…。」

「○○…。」

「アンタ、いつもの威勢はどうしたのよ!」

 彼の雰囲気を察する糸崎と、口調はキツいが彼を励まそうとする里奈。

 

 それでも、一度決壊した感情は、底を打つまでとめどなく流れ続ける。

「…分かっていたんだよ。刀使同士の争いに、俺のような特殊な力も無い人間が割って入る時点で、自殺行為だなんてことを。刀使を助けたいから助けるなんていう、エゴイズム丸出しなことを平気で口走る癖して、結局何もやらなかったっていう、そんな事だって。」

「お前、それは…。」

「結局、俺は酷い糞野郎だよ。理想論振りかざして、他の人を巻き込んでおいて、いざという時に保身に走ったんだからな。」

「……。」

 

 それは違うと言いたかった里奈だが、今の彼では何を言ったところで、自分のせいだと勝手に理由づけてしまいそうな気がして、口を開くことは出来なかった。二年以上ずっと間近で見てきたからこそ、このタイミングで何か言葉を掛けるのは、悪手だと思ったのだ。

 

「…今まで一緒に、糸崎や中島、水沢*3や他の連中とやってきたことも、…結局、俺が無理矢理押しつけてきただけなんじゃないのか…。」

「バカ言うな!お前はそう思っているだけで、俺や早希は、お前の考えを押し付けがましいなんて思ったことは、一度も無いぞ!」

「…糸崎。」

「私もよ。…それに、今この場には居ない姫乃だって、アンタの『守りたい』って言う思いを重荷に感じたことなんて、全然ない。」

 糸崎と里奈は、精神がボロボロになっている彼を、どうにかこれ以上傷つかないよう踏ん張る。

 

 

 

 

 そんなタイミングで、沙耶香は部屋に入ってきた。

「××、…来た。」

「沙耶香…。」

「沙耶香ちゃん、ちょうど良かった。◯◯に何か言ってやってくれ。◯◯が今までやってきたこととか。」

「糸見さん、お願い。多分、私らだけじゃ、コイツのクソ堅い頭までは届かない。」

 先ほどまでのやり取りを知らない沙耶香は、糸崎と里奈の言っていることがよく分かっていなかったのだが、取り敢えず流れに乗る。

 

 

 彼を一度応接セットの長いソファーに座らせ、その隣に沙耶香が座る。同僚二人は、それぞれ自分の机から見守る。

「…××、どうかしたの?」

「…いやな、今まで俺がやってきたことって何だったんだろう、って。」

「…?貴方は、色んなところで頑張ってたよ?」

「…それでも、姫和の救援にも向かえなかった。近衛隊へ呑まれた刀使だって、綾小路の動きを読めていれば…。行ったところで、気付いたところで、何も変わらなかったかもしれない。…たらればを言ってもしょうがないことくらい、分かっているつもりだったのにな…。」

 俯いて、肩を落とす彼。

 

 そんな状態の彼に、沙耶香が口を開く。

「…日光の任務の時、貴方は私や葉菜達を支援してくれた*4。」

「あれだって、沙耶香や葉菜の展開が速かったからであって、俺のおかげってわけじゃない…。」

「あの時、私は嬉しかった。…貴方が居たから、荒魂を倒せた。多くの人を助けることが出来た。」

「…沙耶香…。」

「それに、貴方は以前私にこう言った。『人には、与えられたもの或いは学んだことを、最大限活用する頭を持っている』って。…だから、自分で考えて、舞衣や可奈美達を守るための、力をつけたいと思った。その中には貴方だって居る。私は、戦うことしかできない。でも、それは皆を守るために戦う。…貴方が頑張ってきたことは、私も知ってる。だから、ここで挫けたら、ダメ。」

 沙耶香なりの言葉で彼を再起させようと、あまり話すことが得意ではない彼女も、彼に一筋の光を当てようとする。

「…そうであっても、もう俺は限界かもしれない。沙耶香。…頑張って、悩んで、耐えて…。なのに、それなのに……。」

 どんどん頭が下がっていく彼。

「姫和を助けられなかったのは、私も同じ。…貴方は何でも抱え込み過ぎてる。」

「沙耶香ちゃん…。」「糸見さん…。」

 同僚二人では、気を遣いすぎてストレートな言葉をなかなかかけにくい雰囲気もあったのだが、沙耶香にとって、色々な部分でお世話になった彼が精神的に窮している時に、的確な言葉をぶつけられたのは、彼女自身の持つ純粋さもあるだろう。

 

 

 

 

 

 

「だから、貴方のその苦しさ、私にも持たせてほしい。二人で分け合えば、その苦しみも、きっと和らぐから。」

 

 奇しくも、沙耶香にとっての剣術の師である可奈美が、以前に姫和へ放った言葉と、今彼へ放った言葉が重なったのは偶然とも必然とも言えるだろう。

 彼の苦しみを分け合いたいと考えたのは、少し前の可奈美と沙耶香達とでのやり取りがあったから、というのもあったかもしれない。

 

 

 

 

 

 

「……沙耶香、ありがとう。」

 少しの間沈黙していた彼は、彼女に向かって静かに、そう告げる。頭を上げたその顔には、目に迷いがなかった。

「…!」

 彼の言葉に、驚く沙耶香。

「糸崎、中島も、色々ありがとな。…もう少し頑張ってみる。ここで何もかも投げたら、それこそ姫和や志半ばで去っていった刀使達に、顔向け出来ない。」

「◯◯、お前…。…ったく、仕方ない奴だな。」

「…全く、人を散々心配させておいて…。…でも、良かった。」

 普段の彼の調子に戻ったことを確認し、安堵の言葉を漏らす二人。

「今の沙耶香の言葉、絶対に忘れないからな。…本当に、ありがとう。」

「私はこれくらいのことしか出来ないから。…それと、××に話しておきたいことがある。」

「…電話を掛けてきた本題だな。聞かせてくれ。」

 ようやく、沙耶香の話を聞く時間が回ってくる。

 

 

 

 

 彼はそれから、沙耶香から可奈美の独白とお願いの内容を聞いた。可奈美もまた、姫和を目の前で失ったショックを抱えていた。それこそ、彼の比ではないレベルで。

 それでも、沙耶香達に話したことで少し吹っ切れたようだという。

 

「可奈美のお願いか…。…一歩間違えれば、命を落とすかもしれない。それでも、沙耶香や可奈美達はタギツヒメのところへ行くんだな?」

「…うん。もう、大切な仲間を亡くしたくないから。」

(…沙耶香の表情に、彼女自身の意志が見える。…なら、俺が止める理由もないな。)

 他人に言われてではなく、沙耶香自身の意志で可奈美達と共にタギツヒメを討ちたいというのを感じ、彼は無粋な言葉をかけるのは避けた。

 

「…よし、分かった。なら、俺もウジウジするのは止めだ。沙耶香達を支援するために、俺のやるべきことをやろう。」

 この時にかつて自身を教導し、荒魂に不意を突かれて殉職した彼の先輩のことを、再度思い出す。彼が何度精神を破壊されようが、それでも前へ進むしかないのなら、足を止めて嘆いている場合ではない。

 

 

(無力を呪う暇があるのなら、沙耶香や可奈美たち刀使を死地から引きずり上げて帰す努力をしろ。…今までやってきたことを総動員して、必ず全員鎌倉へ帰還させるぞ。)

 

 

 彼は再び、本格的に立ち上がる覚悟を固めた。その道筋を切り拓いたのが沙耶香であるのは、言うまでもない。

 

 

 

 

 ー折神家・特別祭祀機動隊本部 作戦指揮室ー

 

 遂に東京駅や大手町を中心としたエリアから、荒魂の多数の出現が確認されるなかで、この元凶であるタギツヒメを討つために可奈美達からの要請を受け取った、紫をはじめとする元特務隊メンバー陣。

 陣頭指揮を、紫の説得で維新派から呼び戻された結月が、現場指揮を紗南、その補佐に江麻が回ることが決まった。

 そこへ、彼が沙耶香と共にやってきた。

 

 

「◯◯。十条の件の時は、派遣抑止を掛けてすまなかった。…本当に申し訳ない。」

 紗南が、彼の姿を見て開口一番こう告げた。この時まで、姫和の取り込まれた一件から彼と紗南は顔を合わせていなかったためである。

「真庭本部長、その件はもう大丈夫です。近衛隊に狙われている俺の身を案じて、派遣を止めたのは分かりますから。」

「…すまない。」

「…それに、沙耶香のおかげで色々吹っ切れました。…今凹んでいて何もしなかったら、それこそ姫和にどやされます。なら、俺も行動を起こすまでです。」

「××…。」

「言ったろ、沙耶香。俺のやるべきことをやるって。」

 そう言って、彼女の手を握る彼。

 紫達は少し驚いていたが、彼は話を続ける。

「朱音様、頼みがあります。まだ東京周辺に残っている近衛隊の対処の指揮を、俺にやらせてもらえないでしょうか?」

「◯◯、それは…。」

 

 思わず口を開いた紗南は、一般人の彼が刀使と対峙するには無理があるのではと思ったのだが、意外な人物から助け舟が出される。

 

「……いいだろう。近衛隊の一部をタギツヒメの防衛から、引き剥がしてこい。」

「「「結月先輩(ちゃん)!?」」」

 紗南と江麻、いろはが驚嘆の表情を浮かべる。陣頭指揮を執る結月が、許可を出したからだ。

 

「…◯◯、お前は近衛隊へ苦杯を嘗めさせた経験があるからな。それに、何か策があるのだろう?」

「はい。…ですが、その策には朱音様の許可も必要です。」

 紫を含め、全員が朱音を見る。

「……アレ(・・)を使うほか、無いということでしょうか。」

「…出来ることなら、俺も正直アレを使いたくありません。他でもない、舞草の刀使達を無力化させた、トラウマ持ちの物なんですから。……ですが、沙耶香達がタギツヒメのもとに辿り着くためには、近衛隊をタギツヒメから離すのが、時間的、戦術的には最善の作戦です。この際、暗殺対象だろうが知ったことではありません。」

「◯◯。お前は、自分の命をむざむさ投げ出すために、衛藤達の支援に回るのか?」

 彼が来て以降、静かにしていた紫が、彼に問いかける。

「いえ。…結果論で命を落とすのはやむを得ないにせよ、冥加刀使になっている近衛隊の娘達を助けたいのもまた、俺の本心です。此方も死ぬ気で前線まで行かなければ、彼女達を助けるなんて夢のまた夢です。後方でふんぞり返っているような奴に助けられるのは、彼女達とて嫌でしょう。」

「…ウチの生徒達を、頼む。」

 結月は、彼に頭を下げる。

 彼は命を狙われていたとしても、敵に回った刀使達を生かして帰すという、文字通り生死を懸けた闘いにも、同時に繰り出すのであった。

 

「…それと、各学長にお願いが。鎌府も含めて各校から一人か二人ずつ、刀使を付けて頂いてもよろしいですか?

「私は構わないけれど、…何か考えているのね。」

 江麻の言葉に頷く彼。

「最悪の最悪を想定したうえです。…駄目な時はすぐに退きます。せめて、沙耶香達の方に向かう近衛隊の数は少しでも多く、削ってみせましょう。」

「了解した。◯◯××(彼の名前)、これより貴官は部隊を率いてタギツヒメを守る近衛隊を誘引し、衛藤達の突入の援護を行え!準備は一任する。」

「はっ!!」

 こうして、彼は沙耶香達を援護するべく、命を賭けた近衛隊の迎撃誘導、及び救出作戦の立案と準備に取りかかった。

 

 

 

 

 ー刀剣類管理局本部 廊下ー

 

 数時間の後、出撃準備を整えて沙耶香と共に歩く彼。

「しかしまあ、まさか自衛隊に出向していた時の服を、また着ることになるとはなぁ。」

「××は、今からの戦いが怖くないの?」

「怖くない、と言えば嘘になる。今回は正真正銘、二十年前の災厄の再来。普通に考えて、防御手段がない俺達は複数の荒魂と出くわしたら、一巻の終わりだろうな。」

「…貴方なら、ここに残ることだって、出来たはずなのに。」

「沙耶香や可奈美達が行くのに、俺が残る選択肢は考えてなかったしな。それに、…守りたいと思っている娘を差し置いて、自分だけ後方に残るとか、ありえないだろ?」

 そう言って、彼女へ微笑みかける彼。だが、その顔には死相が出ているようにも見えた。

 

 

 

 

「…お別れするのは、イヤ。」

 沙耶香はそう言うと、彼の身体に両腕を回す。抱きついてきた構図なので、顔は向かいあっていた。

「…さや、か?」

「悲しい時とか、辛そうな時にこうするといいって、舞衣が言ってた。相手を安心させるからって…。」

 彼を木のように絞める彼女。その腕には、少し力が入っていた。

 

(…沙耶香って、華奢な身体つきなのに、今は懸命に腕へ力を入れている。こうされて何もアクションを返さないのは、男としても流石に酷いよな…。)

 こう考えて、彼は沙耶香の身体を抱き返す。

 彼女は少し体をビックリさせたようだったが、腕の力を少しずつ弱めていく代わりに、体を彼に預けていった。

 その間互いに無言ではあったが、もしかしたらこれが最後になるかもしれないと思ったのか、一分以上そのまま抱き合い続けた。

 

 

 

 

 非常に長く感じられた時間は、彼が彼女から腕を離した瞬間にその幕を下ろす。

「…嫌じゃ、なかった?」

「むしろ、俺に安らぎを与えてくれたよ。…今日は本当にありがとな、沙耶香。」

 彼がそう声をかけると、彼女ははにかんだ笑顔で、彼に返した。その後、二人は駐車場へ向かう。

 

 ちなみに、一分以上も抱き合い続けていた割には、その時に廊下に居た人間は居なかったという。ある意味、二人だけの秘密とも言えなくもないが。

 

 

 

 

 ー刀剣類管理局本部 駐車場ー

 

 そして、時系列は冒頭の駐車場へと戻る。

 沙耶香と別れた彼は、車内に積まれた、これから必要になる装備群を確認し終え、ミニバン型の車のエンジンを始動させる。

「…沙耶香。俺も生きて鎌倉に戻る。だからこれが終わって一段落した時は、一緒に出掛けよう。…本人には、後で言うか。」

 

 そんな独り言を零していると、糸崎と里奈の同僚二人が車に乗り込んでくる。

「◯◯、準備できたぞ~。」

「じゃ、行きますか。隊長殿。」

「隊長呼びは止してくれや、中島。…糸崎、三原と一緒じゃなくて良かったのか?」

「なんとか説得して、万一に備えて鎌府に残ってもらった。…なに、死亡フラグくらい折り飛ばして、鎌倉に帰ってくればいいんだろ?」

「確かにな。」

「◯◯、周りは発進してるわよ。私らも行きましょ。」

「ああ。―行くぞ!」

 そして、三人を乗せたミニバンは、東京へ向け加速していく。

 

 

 

 

 それぞれの車両がクリスマスイブの凍えた空気を切り裂いていき、東京での各々の決戦の時が近づいてきた。

 二人の、いやこの世界の未来は、彼女(とじ)達に託された。

*1
中島里奈のこと。人物紹介は『設定集・時系列まとめ』参照。

*2
この経緯は、主人公編『Surgical Strike』前後編参照。

*3
水沢姫乃のこと。人物紹介は『設定集・時系列まとめ』参照。

*4
この時の経緯は『任務と現在(いま)と』、『来訪者と荒魂襲撃』及び『荒魂討伐と温泉』参照。




ご拝読いただき、ありがとうございました。

先日、UA60,000、全話PV170,000を突破いたしました。本作をお読み頂いている読者の皆様方には、改めて感謝申し上げます。ありがとうございます。
今後も精進して参ります。

感想等ございましたら、お気軽に感想欄・活動報告へご投稿頂ければと思います。

次回は薫編になります。

それでは、また。
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