今回から再びメインメンバーの投稿に戻ります。
その先鋒は可奈美編 その5になります。
時系列はアニメ波瀾編、薫と沙耶香の群馬遠征時あたりになります。
それでは、どうぞ。
ー鎌府女学院 学生寮ー
鎌倉特別危険廃棄物漏出問題によるノロの大量放出により、伍箇伝の各校から多くの刀使やサポート要員が派遣されていた。こうした状況を想定していたかどうかはさておき、その人間を一手に引き受けるだけの収容力が、この学生寮にはあった。当然ながら、人の入れ替わり立ち替わりも激しいため、部屋はなるべく綺麗にしておく必要性が、生徒達には求められた。
だが、例外はあった。
紗南の指示によって各地に派遣されている薫や、元から鎌府の生徒である沙耶香などは、部屋の移動が行われることがほぼないため、部屋の掃除は適度に行えば良かったりする。
そして、その例外にあたる少女はもう一人いた。
「いや~。助かったよ~。まさか、お部屋の掃除を手伝ってくれるなんて。」
「俺としては、よく部屋まで入れてくれたな、という方が驚きなんだが…。」
制服姿の可奈美に、学生寮の一室へ案内される彼。今回、他の友人や仲間がだいたい出払っていたこともあり、その友人達に代わって彼へ、彼女が部屋の掃除を頼み込んだ次第だ。
鎌府女学院は女子生徒しかいないこともあり、こうして男性が入ってくることは業者以外では珍しいことでもある。最も、一階の休憩スペースに入ることはあるが。
案内された部屋まで来ると、鍵を開く彼女。
「どうぞ~。…もっとも、汚いかもしれませんけれど。」
「お邪魔しま~す。」
靴を脱ぎ、照明が灯されると、部屋の中の全貌が明かされる。
「…言うほど汚れてもないな。」
「そうですか?」
「もうちょっとこう、言い方は悪いがゴミ屋敷みたいなものを想定していたから、だいぶ気分的には楽だ。」
「なかなか掃除をするタイミングがなかったですから。でも、二人ならどうにかなりそうです。」
「まあ、後で俺の部屋も掃除してもらう約束だったしな。…さっさと終わらせるか。」
二人は早速、部屋の掃除に取りかかる。
掃除をするにあたり、可奈美は特に何か準備するというわけではなかったのだが、彼の方はというと、マスクやビニール製の手袋を装着し、本格的に事にあたるつもりだったようである。
「えっと~。その…。そこまでやります?」
「いや、自分の服とか、他の人の手で触られるのが嫌じゃないか?と思ったから、ここまでやったんたが。」
「◯◯(彼の苗字)さんなら、変なことも起こさないし、大丈夫だって分かってますから。」
「…いやー、分からんよ。こんな可愛い後輩がいるなら、何も起こさない男の方が少数派だろうし。」
「そうですか?…うーん、そういうものなんですかね?」
良くも悪くも他人を疑うことがあまりない彼女にとって、彼の発言はどうも実感が湧きにくい。
「…でもその割には、◯◯さんから何かちょっかいかけてきたとかは、あんまり無いですよね?あっても、大体気を利かせてくれるようなことくらいですし。」
「可奈美。他人に執着するような人間なら、そうしたところまで計算して行動するだろうから、あまり人を信じ過ぎるのも危険だぞ。」
「いや、流石に分かりますよ。もしその気なら、私のことをどこかに連れ去るとか色々しているはずですよ。」
「どうだかね。案外、油断させてから襲うとか考えているかもしれないぞ。」
「まっさかぁ~。それこそ、無いと思っていますよ。」
「…意外と信用されているのな、俺。」
彼女からそう思われていたのは、改めてとはいえ少し嬉しくも思った。
二人は真っ先に、室内に転がる紙くずやビニール袋などを拾い、種類ごとにゴミ袋へと入れていく。
それが終わると、彼は一度ビニール手袋を変え、今度は室内に転がる可奈美の衣服を纏める。多くが着終えたものであったため、彼の部屋から持ってきた洗濯物入れに次々入れ込む。
「可奈美、事前に言っておきたいんだが、下着とかを俺が拾い上げても殴ったりはしないでくれよ。…一応、年頃の女の子の部屋に入っているという、言い逃れの出来ない事実があるのは自覚しているし。」
「まあその…。片付けを手伝ってくださいとお願いをしたのは、私ですから。」
「それでも、だ。…もっとも、思っていたよりは少なそうだし。なんとかなるか。」
「取り敢えず、どんどん入れていきましょう!」
その後、可奈美に彼女の服と下着の分離を任せ、彼の方は一足早く書類や室内に転がる竹刀や木刀などの掃除に取り掛かる。男が扱っても問題ないような範囲は、彼女の了解を得ながら進めていった。
「それにしても、木刀の数が本当に多いな。剣術好きとはいえ、ちゃんと手入れはして…あるな。」
「木刀だって、御刀と同じように丁寧に扱いたいからね。《千鳥》とは違うけど、ちゃんとすれば何だか応えてくれそうな気がするしね。」
「そういうもんか。…俺の部屋のやつ、埃被ってなきゃいいんだが…。」
「後でお伺いする時に、一緒に確認しますよ。」
「頼む。…さて、この辺はこの棚に立て掛ける感じでいいのか?」
「はい。…部屋が最初の時と全然違う。」
気がつけば、一時間ほど掃除に費やしていた。
「あとはここに《千鳥》を置いて…。これでよしっ!」
可奈美が刀掛台に、鞘に納められた《千鳥》をそっと置く。
これにて、彼女の部屋の掃除は終わった。
「さて、一息つきたいところだが、先に俺の部屋に行くか。そっちの方がまだ片付けてないから、散らかしても問題ないしな。」
「分かりました!…お掃除の道具とかは持っていかなくても大丈夫ですか?」
「部屋にゴロゴロあるからな。」
(―気付いていなかったが、俺が贈ったフォトフレーム、ちゃんと使ってくれてたんだな。)
彼女の机の上には、以前誕生日の贈り物として渡したフォトフレームが鎮座していた*1。姫和や舞衣など、あの日一緒に戦った仲間たちの写真が流れていた。
「どうかしましたか?」
「いや、行こうか。…お邪魔しました。」
可奈美の部屋を後にする二人。ちょうど扉が閉まったタイミングで、可奈美と彼の二人で写る写真がフォトフレームに表れていたが、彼が気付くことはなかった。
ー刀剣類管理局 官舎内自室ー
彼が自身の部屋まで人を案内するのは、正直珍しいことでもあった。実際のところ、話し合いやら談笑やらはだいたい校内のスペースなどで事足りてしまうため、よほど個人的に親しい間柄でもなれば、部屋に案内することは普通ないことである。
まして、鎌府は女子校。加えて自身の立場は本部職員であり、舞草の諜報員。これで人を呼ぶというのは、なかなか自身の心理的ハードルも高いものであった。
そんなハードルもあっさりぶち壊し、自身が舞草に入るきっかけに関わった少女を部屋に誘導する。…字面だけを読めば、不審者か犯罪を起こす行動の一歩直前のようにも見える。だが、可奈美が先程姫和や舞衣、美炎へ『彼の部屋の片付けを手伝う』というメッセージを送っていたりしたため、その辺りの誤解は晴れそうであった。
「ほい、どうぞ。」
「お邪魔しま~す、…ってあれ?」
「どうかしたのか?」
「えっとその…。これ、どこを掃除すればいいんですか?」
可奈美が困惑した理由、それはもう既にだいぶ綺麗に彼の部屋が片付けられていたからだ。
「多分、木刀とかの手入れが終わったら、掃除自体は終わりだな。」
「えっ、それだけでいいんですか!?…もっとこう、袋一杯のゴミを運ぶとか、そんなものは無いんですか?」
「う~ん、無いな。取り敢えず、新聞紙を敷いて木刀の埃だけ落とすか。」
「あっ、はい。」
彼女は言われるがまま、数本の木刀を新品の雑巾で乾拭きし、目に見えなかった埃を拭き取る。そして、固く水気を絞ったタオルで水拭きをし、埃を落としきった後で、ベランダにて陰干しを行った。これで夜に戻し入れれば、木刀の手入れは完了である。
「あとは普段のゴミを捨ててと。…こんなもんか。」
今日の場合は書類が立て込んだりなどがなかったため、床を掃いたり拭いたりする程度で、比較的早く掃除も終わった。
「終わりましたね。お掃除。」
「だな。…ただ、今日はともかく、年度末には書類が複数の山の束になるから、その時の掃除は困りどころが多くてな…。」
「この光景からじゃ、その想像がとてもつかないです。」
「今度、寿々花や真希とかから聞いてみてくれ。…あれはそう何度も経験したかねぇな…。」
「あはは……。」
若干顔が引きつり気味になった可奈美。これだけ綺麗な部屋を埋め尽くす、途方もない書類の量を考えるのは止めようと思った。
彼は可奈美へ来客用の座布団を用意し、台所で少し作業をしている。彼としては二人揃って、一息吐こうと思ったのである。
可奈美の方はその座布団へ腰を下ろし、部屋を改めて見回していた。
彼の部屋の構造は1DKで、玄関から細長い廊下を抜けた先にダイニングルームがある。その廊下の両側には台所やら浴室やら寝室やら、結構圧縮気味に配置されている。幸いにも、トイレと浴室は分離されていたが。
「○○さん、この部屋が綺麗な理由って、あんまり使ってないこともあるからですか?」
「どうしてそう思った?可奈美。」
「ちょっと部屋を見回してみたんですけれど、埃がそんなに舞ってないんですよね。もしかしたら、そうなのかなぁ、って。」
「…ああ、確かにそれもあるか。ここ以外の場所で寝ることも多いからな。」
「…お仕事、大変ですね。」
「命を落としかねない可奈美達は前で頑張っているのに、これくらいで大変なんて言ってられないさ。」
(その割には、結構前線まで出てきて支援してくださいますよね…。)
彼女自身、彼のことを本格的に知ったのはほんの数ヶ月前とは言え、時には自身の身を顧みず、荒魂によって戦闘困難な状況に陥った刀使や民間人を、積極的に救援しに向かっている姿を数度目撃している。この行動を蛮勇ととるか、命を張った戦いととるかは人それぞれだろう。
「さて、そろそろできるか。」
「そういえば、さっきから何か作ってらっしゃいますけど、一体何を作られているんですか?」
「あっと、緑茶とちょっとした和菓子をな。」
実家の近くで生産されたお茶を淹れ終えた彼。水をIHクッキングヒーターで二つの鍋にかけていたうち、片方の鍋で行っていた小豆の缶詰の湯煎を終えて、それを取り出す。
白玉粉と水を和えて白玉を作ってきたが、沸騰し終わったお湯に、その球を次々投下していく。
「あとは茹でた白玉を冷水に移して、っと。」
平行して缶切りで缶詰を開封し、二つの茶碗に温められたゆであずきが流し込まれる。
その後、数個ずつ白玉が中に入れられる。
「…よし、完成だな。」
使用した材料そのものは少なかったものの、他人をもてなそうと思った彼の心に、何ら偽りはなかった。
「可奈美、お待たせ。」
ダイニングルームに置かれた、膝くらいの高さのテーブルに、先程から準備していたものを運んでくる。
「おしること、大福ですねこれ。」
彼が調理した分以外にも、昨日買っていた抹茶クリーム大福を彼女の眼前に置いていく。
「お茶の濃さは少し薄めにしたけど、それでもよかったか?」
「はい!…でも、いいんですか?私、そんなに大したことはやれてないんですけれど。」
「これは手伝ってくれたほんのお礼だ。…取り敢えず、間違いも何も起こらなくて、良かった。」
彼が懸念していたようなラッキースケベの類もなく、可奈美と自身の部屋を片付け終えれたことに安堵する。
「「いただきま~す。」」
二人の声が室内で反響する。
可奈美は先におしること緑茶に口をつける。
「……美味しい。美味しいです!」
「そうか、よかった。」
「特にこの白玉、優しい味がします。…さっき作業されていたのは、これを作るためだったんですか?」
「まさか。作るのに使ったものは、だいたいが既製品だよ。」
敢えて、自分で作った白玉だったとは言わなかった彼。褒められることに対して、小恥ずかしいというのもあったのかもしれなかったが。
(…でも、優しい味、か。自分で作る時はそんなこと、感じたことがなかったな。)
彼女のその感覚に対して、思わず笑みがこぼれる。当の可奈美は、ちょっと首を傾げていたが。
「ふ~。もう、お腹いっぱいだよ~。」
膨れたであろうお腹をさする可奈美。
彼の方はおしるこを注ぐ量を調整していたこともあり、胃にかかる負担を軽くしていた。
「可奈美、まだ夕方にもなってないぞ。夕飯入るのか?」
「それは分からないけど…。あっ、そうだ!」
ずいっと、彼の眼前に顔を近づける彼女。
「なら、今から私との立ち合いを、お願いしてもいいですか?」
(ーちっ、近い!)
「おっ、おう。」
可奈美は無意識でやっているのか、彼女の唇と接触しそうな距離であった。
「…それと、可奈美。ちょっと下がるからな。…危うく頭同士がぶつかるところだったし。」
「えっ…。……!!す、すみません!」
今の状況を正確に理解し、顔を真っ赤に染めた彼女。可奈美自身に悪気が無いことくらい、彼も分かっているため、テーブルから少し下がった位置で、頬を緩めて彼女に再度語りかける。
「…こりゃ、勘違いを起こす男子が現れても不思議はないわな。まあ、それも含めて君の持っている魅力ということなのかもな。」
「あっ、あの~。」
「行くんだろう、立ち合い。」
徐に立ち上がり、座っていた彼女に手を差し出す彼。
「なら、早くやろうじゃないか。可奈美師匠。」
からかう訳ではなく、剣術に関しては彼女から学ぶことが多いため、たまに師匠呼びをすることがある彼。
もっとも当の可奈美は、その呼び方に、どこかむず痒さを感じているようではあるが。
「…師匠は言い過ぎだよ。でも、ありがとうございます。」
彼の手を取り、立ち上がる彼女。
その後、可奈美の部屋に置いてあった竹刀を使って、彼女から剣術指南を受けた彼。双方ともによく動いたことで、夕食を残す心配はしなくて良かったようである。
可奈美は剣術指南を終えた別れ際に、彼から、『もしクリスマスの日に予定が入っていなかったら、一緒に出掛けるなりどうだろうか?』という提案を受けた。
クリスマスイブは、姫和を含めた仲間達と過ごすつもりであったため、一日予定をずらして設定しようとしてくれた、彼の気遣いにありがたみを感じた。
だが、この年のクリスマスに、その約束が果たされることはなかった。二人の未来が翻弄される時は、着実に迫っていた。
ご拝読いただき、ありがとうございました。
可奈美の部屋は汚部屋なのか?という点も含めて、筆者の考察も交えながら今話を執筆させて頂きました。
アニメ中での彼女の部屋の風景は、果たしてそこまで散らかっているのか?と、ふとした疑問を覚えた筆者でございます。(個人談)
家事は一通り出来るようですので、尚更そのあたりが不思議ではありますが。
感想等ございましたら、お気軽に感想欄・活動報告にご投稿頂ければと思います。
次回は姫和編になります。
それでは、また。