UA2000を越え、戦々恐々とするこの頃です。読者の皆様には感謝しかありません。
今回は薫編です。…ちょっと今話は趣が異なるかな?と書きながら思ったところです。
それでは、どうぞ。
① 休暇の有効活用法
ー長船女学園 学生寮ー
岡山県にある長船女学園。荒魂に関する先端研究を進める、伍箇伝の一角であるこの学園では、フリードマン博士や真庭紗南学長のもと、舞草の中心的な活動を行ってきた。
無論、他の4校にも舞草のメンバーはいるが、刀使を含めて組織的に動いてきたのはここくらいなものである。
友人の古波蔵エレンに、半ば誘われる形で舞草に入った
「…あのおb…じゃなかった、学長がわざわざ休暇をくれるとはなあ…。嬉しいんだが、明日雪でも降るんじゃないだろうな?」
そんな薫に、急な休暇が与えられたのはつい数十分前。
『最近動き過ぎだから、少し休んでみろ。』と真庭学長からの連絡だった。
無論、通話の最後には『休暇が終わったら、またこき使うからな。その覚悟で。』という旨の言葉が発せられたが、休みが貰えると舞い上がっていた薫の耳には通っていなかった。
のちに彼女は、可奈美が『薫ちゃんと会う度に、目の隈が濃くなっていた』と言う程の激務に突入することとなるが、ここでは触れまい。
「にしても急に休みを貰えるとはなあ…。休みの時の準備、何もしてなかったしな…。エレンもいないしな…。」
エレンはフリードマン博士がいる、愛知県長久手市にある研究所の方に行っていたため、今留守にしている。
「ねー。」
「ん?どうした?ねね。」
薫の守護獣であるねねが、スマートフォンの画面のある一点を見て鳴く。
「…そういや、あいつは今高松だったな。…よし、呼ぶか。」
そう言うと薫は、通話履歴からその人物に連絡をかける。…彼女同様、日本中を動き回る舞草所属の彼を。
『もしもし?どうした薫?何かあったのか?』
薫が呼ぼうとした彼が、電話に出る。
「ああ、済まない。ちょっと頼みがあってだな。」
『…書類偽造やピンチヒッターとか言うのは無しな。』
「いやいや、そんなパシ…人遣いの荒いことじゃなくてだな。」
『おい、今パシりって言いかけなかったか?…それとその手のもので無いとは、どういう風の吹き回しだ? そりゃ真庭学長…いや今は本部長か。あの人に、お前の件でどれだけ一緒に怒られたことか…。』
「その節はすまなかったな。で、頼みなんだが…。」
ー岡山駅ー
「で、大急ぎで岡山に戻ってきたわけだが…。まさか、今日明日付き合ってくれとはな。」
「連絡入れてものの二時間でこっちに戻ってきた、お前もお前だがな。」
彼が連絡を受け取ってたった30分で所用を済ませ、特急しおかぜを使って僅か一時間半で帰ってきたのには、流石の薫もビックリであった。
「そりゃ…、まあな。…それで、今からどこに行くんだ?時間的にそう遠くには行けないぞ。」
「二日も休みが貰えたんだ。ホントなら、自室でゴロゴロしても良かったんだがな。…広島観光でもいいか?」
「俺は構わないが、宿とかそんな急にとれるのか?」
「フッフッフ。この益子薫様を舐めてもらっちゃあ困る。以前、荒魂討伐に行った時に贔屓にしてもらった宿から、優先宿泊券を頂いてるんだぜ~。」
そう言うと薫は、カバンからその券を取り出す。…一枚だけだが。
「薫さ~ん。一つお尋ねしても宜しいでしょうか?」
「なんだ?」
「それって、ペアチケットっていう認識で宜しいんですよね…?」
一瞬、頭の上で?を作った薫だったが、その意味に気がつくには少し時間が必要だった。
「…んな、なんじゃこりゃー!」
その宿泊券には、“一枚につき二名様まで同室でご利用になれます。”の文言が入っていた。
加えて、“なお、二名様で別々の部屋を取られる際、別途料金が掛かります。”という注意書きまであった。
…そう、薫が貰っていたのはペアチケット、しかもカップル向けのものだったのである。(なお利用に同性異性は問わずの文言は入っていた)
「どうする?エレンが帰ってきた時に使うか?」
「…いや、そもそも有効期限や任務を考えたら、多分この機会がラストチャンスだろうからな…。」
「そうか…。」
「なあ、一ついいか?」
「なんだ?」
「オレと一緒に寝るのは、嫌か?」
二人(と一匹)の間に、一瞬の静寂が訪れる。
…矢は放たれた。
彼は、薫の言わんとしていることは分かっていた。
だが、答え方によっては何がどう転ぶか分からなかったし、まして岡山駅ならば同じ長船の人間が居ないとも限らないので、言葉を選びながら返した。
「薫を異性としてみているか否かと言われれば、恐らく前者だろうな。…ただ、単に寝るだけで有れば何ら問題はないと思うが、どうだ?」
彼は、恐らく人生でそう多くない、手に汗握る選択の時間を潜り抜けた。
そして、薫は彼に聞こえない程度の声で呟いた。
「…そうか。…案外女として見られていたんだな…。」
「えっ?」
当然、今の声は彼には聞こえなかったが、薫にとって先ほどの言葉は、充分過ぎる返事であった。
「いや、こっちの話だ。…それに、万が一のことがあれば、ねねが容赦しないだろうからな。」
「ねっ?」
薫の言葉を不思議がるねね。
「ともかく、いざ、広島へ~!」
「ねー!」
「…よく分からんが、行くか。」
そう言うと、二人と一匹は岡山駅を後にする。
一行は、山陽新幹線を一路西に進む。
大焦りで高松から戻ってきた彼は、事後報告を真庭本部長に伝えたのち、座席で短い眠りに就く。
薫は、彼の寝顔を見ながら、ふとイタズラしてやろうかとも思った。
だが、岡山駅での彼の言葉や今日の行動を思い出し、思いとどまった。
「お前は真面目過ぎだよ…。それでもオレは…。」
「ね~。」
急にねねが、薫の頭から彼の太ももの上に飛び移り、その場で丸くなった。
「ねね、お前。…?」
ねねは彼に何をするわけでもなく、ただその場で寝息を立てていた。
ねねは、薫以外の女子でも寝つくことはあるが、男でねねが懐いたのは、彼女が知りうる範囲では彼が初めてであった。
「…そういえば、ウチのご先祖、今まで一体どうやって益子の家の歴史を紡いできたんだ?」
ねねの安心しきった寝顔を見ながら、ボヤく薫であった。
そして、新幹線は東広島を通過する頃であった。
ご拝読頂きありがとうございます。
薫は、普段は省エネですが、やる時はしっかりやる娘でした。
群馬での薫の荒魂観や紗耶香へのアドバイス、姫和に対する思いなどを表していた部分は、他の娘とは違った視点でよく見ているのだな、と感心したところでもありました。
…次話のハードルを上げた気がしないでもない。
感想等ございましたら、感想欄などで対応させて頂きます。
それでは、また。