刀使の幕間   作:くろしお

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どうも、くろしおです。

今回は薫編その2 前編です。
前回が移動途中で終わってしまったので、今話はその続きからになります。
タイトルは異なりますが、連続した話構成になっています。
文量は長めですが、最後までお付き合いください。

それでは、どうぞ。


② 私用と想い

 ー広島駅ー

 

 中国地方の中心とされる、広島市。その玄関口、広島駅に二人と一匹は降り立つ。

「さて、広島まで来たわけだが。薫、何かプランとか考えているのか?」

「あっ?…いや、何も考えてねえな。大体、広島へ行くこと自体が、思い付きだったからな。」

「ねー!」

「マジか…。…今は昼時か。」

 腕時計を見て、現在時刻を確認後、彼はどこに行こうか思案する。

「薫、一箇所寄りたい場所があるんだが、いいか?」

「んぁ?オレは別に構わないが。」

「じゃあ、広電に乗るぞ。」

「OK。ちなみにどこに向かう気だ?」

「展示内容が少し変わってな。そこに向かおうと思っている。…広島で絶対寄っておくべき場所だしな。」

「まあ、時間はまだあるしな。付き合うぞ。」

「ありがとな。」

 

 

 二人は、広島電鉄の一日乗車乗船券を購入し、やってきた広電宮島口行きの路面電車に乗り込む。

 薫の御刀《祢々切丸》は、外出時にその大きさがネックとなることや、荒魂との戦闘で蓄積するダメージの検査も兼ねて、今日明日のうちは長船に置いてくることにした。

 電車に乗り込んで座ると、ねねは薫の太ももの上で丸まった。

「全く、お前ってやつは…。もう寝てやがる。」

「最近、動きっ放しだったからな。案外疲れているんだろ。」

「そうかもな。…すまねえ。ちょっと、肩貸してくれるか。オレも、なんだか眠くなってきた。」

「…分かった。着くときに起こそう。」

「助かる。…おやすみ。」

 数秒ほどで、寝息を立てる薫。

「ずっと、激務ばっかだったからな。こんな時くらい、眠ったって罰は当たらんだろう。…正直俺にとっても、役得だしな。」

 薫の寝顔を見ることなど、ほとんど無いが故に、こうした時の無防備な姿が見られるのが、本当に貴重に感じた。

「可愛いとは、思うんだがな…。」

 穏やかに眠る彼女は、彼の呟きに気付くことは無い。

 

 

 

 

 広島駅を出て、繁華街を通り抜けた路面電車は、元安川と太田川が分流する、相生橋の手前の電停に停まる。

「薫、着いたぞ。」

「…んっ。もうか?ねね…。仕方ねえ。頭に乗っけるか。」

 眠っているねねを起こすのも難だった薫は、自身の頭の上にねねを乗せ、座席から立ち上がる。

 運転士に乗車券を見せた二人は、電停に降り立つ。

「んで、一体何処なんだここは?」

「ほれ。」

 彼は、降りた電停の駅名標を指差す。

 

『原爆ドーム前』

 

 旧広島市民球場の横にあるこの電停から、歩いて数分のところに、世界遺産『原爆ドーム』が鎮座している。

「?原爆ドームに寄りたかったのか?」

 薫が不思議そうな顔を、彼に向ける。

「いや、俺が寄りたかったのは、その後方だよ。…広島の原爆資料館だ。」

 瀬戸内海からの潮風が、二人に当たる。

 

 

 

 

 原爆ドーム、旧広島県産業奨励館は、終戦の年の8月6日、米軍の爆撃機の投下した一発の原子爆弾により、その姿を瞬時に変えた。

 熱線や強力な衝撃波が襲った、爆心地付近にあった建物の中で、爆発時真下にあり、比較的原型を留めたこの建物は、戦後核兵器の惨禍や戦争の愚かさを今に伝えるシンボルとして、1996年に県内の厳島神社ともども世界遺産への登録となったわけである。

 登録の際には、数百万にのぼる人々の署名が寄せられた。未だに、原爆投下の是非に国内外で賛否両論あるが、近年では初めて、米大統領が平和記念公園へと訪問するなど、少しずつだが事態は進展を見せている。

 

 

 その横を通る二人。薫の方が、彼の後に続く。

 広島の街は、喧騒と活気で溢れていた。

「えらく赤い服を着ている奴が多いな?何かあったのか?」

「ああ。最近になって、広島のプロ野球チームが優勝したらしいからな。」

 だからか、と言って納得する薫。

「街が活気づいていると、なんだかこっちも元気になるからな。不思議なもんだ。」

「そういえば、お前が広島に来るのは何度目だ?」

「う~ん…。二度か三度か…。まあ、女の子と一緒なのは初めてか。」

「ふ~ん。そうか。…エレンや舞衣とかの方が良かったんじゃないのか?少なくとも、あの二人ならこういう場所に興味がありそうだけどな。」

 彼は歩きながら、少し振り向いて続ける。

「最近、一緒に直接話したりとか出来なかっただろ。……それに、薫の元気な姿が見られれば、当分頑張れるからな。」

「…お前、変わってるな。オレみたいな奴の誘いに、躊躇せず来る時点で分かってはいたが。」

「いや、断る要素あったか?…まあ、書類の一部誤魔化しとか依頼されたら、流石に本部長に報告せにゃならんわけだし。」

 苦笑する薫。

「あのおb…じゃない、学長、なんかやけにオレに厳しくないか?」

「悪態つける仲なんて、そう多くはないさ。ぶっちゃけ、薫もよく頑張っているじゃないか。」

「なら、休暇増やしてほしいものだぜ…。正当な労働には正当な報酬を…。」

「ま、まあ、そう落ち込むな。こっちも、他の派遣部隊を出す時の自治体との調整とか、色々やらなきゃならんこともあるしな…。っと、そうこう言ううちに着いた。」

 二人と寝ているねねは、広島平和記念資料館にたどり着いた。

 

 

 

 

 原爆の惨状や、広島の被曝前後の姿などを後世に伝えるため、平和記念公園とともに整備された、広島平和記念資料館。

 原子爆弾、あるいは放射性物質の危険性を知らせるパネルのほか、被曝時の被曝者たちの遺品や焼けたガラスなどが、訪れた者たちに『物言わぬ証言者』として訴えかける。

 

 

「よく考えたら、オレがここに来るのは初めてだな。」

「そうなのか?てっきり、来たことがあるのだとばかり思っていたが。」

「ちょうどいい機会だ。ねねにも見せておきたいからな。」

「ね?」

 先ほどまで寝ていたねねが起き上がり、薫に向けて首を傾げる。

「主義主張はともかく、ここで何があったのか、という事実からは目を背けてはいけないとは思う。…最近は、あの日広島で何があったのかを、知らない世代も出てきているからな…。」

「まあ、同列に語れるわけではないが、荒魂に対する認識も、ここのように知らせられる場所でも有ればいいんだがなぁ…。未だに、ねねに対する誤解も晴れん。」

「ねー。」

「荒魂を正しく畏れる、か…。こちらも、刀使たちの意識も変えていかないといけない以上、単純にことは運んでくれないしな…。」

「その前に、暴れ回る荒魂を祓わないとな。…やっぱり、面倒な気がしてきた…。」

「その辺は、やっぱり薫らしいや…。」

「ねー。」

 

 

 展示物を見回る二人。

 ふと、彼が足を止める。

「やっぱり、無くなっていたか…。」

「何か、ここにあったのか?」

「…昔、ここには被爆直後の人々を模した人形があったんだ。近年になって、あまりに生々し過ぎるということで撤去されたんだよ。」

「そんなものが置いてあったのか…。」

「あれは、原爆の被害を如実に再現したものだったからな…。俺はあった方が良かったとは思うんだが、やはり時代の流れなのかもな。」

「そうか…。一度見ておきたかったな…。」

「写真がインターネット上に残っているだろうから、あとで見てみるのもいいだろう。…ただ、実物を見るのとでは、感じ方がだいぶ違うだろうけどな。」

「そんなにか?」

「ある程度分別がついた頃でも、それを恐ろしく感じた、というくらいにはな…。」

 撤去を少し惜しむ彼。

 

 

 薫は、ここを初めて訪れたこともあり、展示物を一つ一つじっと見ていった。

 中でも、銀行の正面玄関口にあった石階段を置いたところでは、人の影がはっきりと残っている部分が、原爆の炸裂する一瞬の光線が、その時誰かに当たっていたことを、彼女自身に伝えてきた。

 

 

 平和記念公園内も回り終え、ベンチで一休みする二人。

「すまなかったな、薫。私用に付き合わせて。」

「いや。オレも、来れて良かったぞ。あまり分からなかったことを、知ることができたんだからな。」

「そうか。…そういえば、そろそろ宿のチェックインの時間か?」

「ん?ああ、もうそんな時間か。場所は確か…。」

 

 

 

 

 ー広島県廿日市市 某ホテルー

 

 広電に再び乗り込み、広島市を離れた二人は、宮島付近にある、薫の持っている宿泊券が使える宿へとたどり着く。

 チェックインを済ませた二人は、二人が寝るにしては少し広い部屋へと通された。

 

 

「よし、とりあえず荷物を置こう。やべぇ、肩痛ぇ…。」

「もう年なのか?早いな…。おっ、布団。」

 布団を見つけるや否や、布団目掛けてヘッドスライティングをかます薫。

「人のことは言えなさそうだが?」

「うるせー。こちとら、地味に疲労が溜まっとるんじゃい。…そういうお前は、どうなんだ?」

「…正直、ガタは来てるな…。…少し早いが、一度風呂に入るか?」

「賛成だ…。少し汗だくだからな。」

 汗と一緒に、私服の芳香剤の匂いも漂う。やはり、薫も女の子なのだな、と感じた。が、思いがけず色気も感じとってしまう。

(……!いかん、いかん!ここで正気を失ってどうする!)

 薫が上着を脱いだ際の、彼の葛藤が知られることはなかった。

 

 

 

 

「じゃ、一っ風呂浴びて来ますか。」

「おう。あ、お前は残れよ。ねね。」

「ねねっ!?」

 主人に風呂入るなと言われ、しょぼ暮れるねね。

「いや…。流石に一緒はマズいしな…。」

 ねねが女湯にでも行こうものなら、(色々と)大惨事必須である。

「上がったら、またなんか買ってくるからな。それまでじっとしとけ。」

「ね~。」

 ガックリきながらも、ちょっと喜ぶねね。

「薫。それじゃ、また後で上がってからな。」

「ああ。部屋の鍵は、どっちが持っておくんだ?」

「俺が持っておこう。髪乾かすの、時間かかるだろ?」

「…そうだな。じゃ、確かに渡したぞ。」

 そう言って、薫は女湯の暖簾をくぐっていった。

 

 

 

 

 まだ夕方の時間帯ということもあって、脱衣所にも浴場内にも人の姿は無かった。

衝立(ついたて)の向こうは、女湯の露天風呂か?…まあ、隣りあっていたし、ありえない訳ではないか。」

『おーい。聞こえるかー?』

「今の声…、薫か?」

 薫の声が、男湯の露天風呂に届く。

「そっちは、お前だけか?」

『ああ。おかげで、広々足を伸ばせるぜ。』

「声かける時は、気をつけろよー。俺以外の客がいるかもしれないからなー!」

『わかった!もうちょっと浸かっていく。』

「あいよー。」

 風呂から上がる彼。

「薫にラムネかコーヒー牛乳、買っておくか。」

 そう言って、彼は脱衣所へと向かう。

 

 

 一方、薫サイド。首から下を、しっかり湯に浸けていた。

「あ~。やっぱ生き返るわ~。…食品持ち込みNGなのが、玉に瑕だがな…。」

 好物のかんぴょう巻が、ここで食べられないのは残念だが、温泉の効能に関しては折り紙つきなので、身体の疲労回復に役立てる。

「…そういえば、これからどっか行くのかね…。宿に来て風呂入ったのはいいが、何もせずダラダラ過ごすのも…。うん、悪くないな。」

 そんなことも考えながら、ゆっくり心身を休める。

 彼が上がって十五分ほど経ってから、彼女は浴場を去る。

 

 

 

 

 薫を部屋に戻ると、部屋に置いてあった机を広げ、座椅子に腰掛ける彼の姿があった。

「おっ、上がったか。どれか飲むか?」

 机の上には、ラムネとコーヒー牛乳、フルーツ牛乳の瓶がそれぞれ立っていた。

「ちょうどいい。火照った体にはいいセレクトだ。」

 そのなかから、ラムネ瓶を掴む薫。

「さて飲むか…。……うん?」

「どうした?薫?」

「いや、ビー玉が固くてな…。ふ~ん!」

 瓶を垂直に立てて、腕に力いっぱい込める薫。

 しかし、ビー玉はなかなか下に落ちない。

「…。駄目だこりゃ。びくともしねえな…。」

 諦めかけたが、ふと一つの考えが薫の脳に浮き上がる。

「おい、ねね。お前、ちょっとジャンプして、この栓を押してくれ。」

「ね?…ね!」

 一瞬キョトンとしたねねだったが、すぐに薫の言葉を理解したのか、ジャンプをする仕草を始める。

「本当にいけるのか?」

「大丈夫だろ。ああ見えて、力はあるしな。」

 普通に俺が押した方がいいんじゃないだろうか?とは思った彼だったが、自力でやりたいと言っているに等しい薫の行動を妨げるのは、どうも筋が通らないので口を閉ざす。

 

「ねっ、ね!」

 

 飛び上がったねねは、瓶の真上目掛けて落下する。

(いったか?)

 そう思った彼だったが、確かにねねはラムネ瓶のビー玉を押した。

 だが、押した衝撃のあまり、瓶からラムネが吹き上がり、薫に降りかかる。

「おっ、おい!…マジか…。びしょ濡れじゃねぇか…。」

「大丈夫か…!すまん!後ろ向いとく!」

 薫の着ていた浴衣は、見事に濡れていた。彼女は座っていたこともあり、ラムネは上半身を中心にかかっていた。…下着の部分を除き、薫の肢体が透けて見える。

「なっ…!…見たなこの変態!」

「待て!俺は無実だ!ちょ、まっ。」

 薫にポカポカ殴られる彼。

「ねー。」

 やっちまった、とでも言いたそうなねねだった。

 

 

 

 

 つい焦った薫が落ち着きを取り戻したのは、それからしばらくしてだった。

「落ち着いたか…。」

「悪い、取り乱した。…着替えも終わったし、どこか行くつもりなら支度をするけど、どうする?」

「なら、ちょっと食べ歩くか。その前に布団を敷いて行こう。」

「賛成だ。帰ってきたときに、布団に飛び込めるなんて、こういう時くらいしか味わえないしな。」

 二人は、部屋の押し入れからもう一組の布団を取り出し、並べる。

「これでよし。」

 二つの布団の間隔が、大きく空けられていた。

「?えらく間を空けているな?何でだ?」

「えっ?…いや、流石に隣り合って寝るのも、悪いだろう?それに、薫だって女の子だろ。不安にさせる訳にはいかないしな。」

「…すっかり忘れてた。お前はこういう奴だったってこと。」

「何か、不味かったか?」

「いや、何でもない。」

 少し悲しげな顔をした薫。

 彼の前を通り去ろうとした。

 それを見た彼は、薫の手を掴むが…

「!待て薫、ってうわっ!」

「おい!ちょっと!」

 二人は布団の上で、引合い倒れる。

 

 

 

 

 二人の体勢は、布団の上に薫、それに覆い被さるように彼が腕を抑えていた。

 彼の右手は、薫の顔の横にあった。壁ドンならぬ床ドンといったところか。

「「……。」」

 お互いの顔が近いため、どういう表情をすればいいか戸惑う二人。

 彼は、押し倒した薫の浴衣姿に色っぽさを感じながらも、状況の整理がついたことで一瞬青ざめる。

「わっ、悪い!すぐに退く。」

「…おっ、おう…。」

 薫は、どこか名残惜しそうな表情を浮かべていた。

 そして上体を起こし、口を開く。

「…やっぱり、エレンや舞衣とかの方が、女としての魅力があるのか?」

「…?突然、何を言い出すんだ。薫。」

「いや、さっきといい、風呂上がってからといい、全然直視してくれてないだろ。」

「それは…。」

「やっぱりオレでは、あの二人より…」

「薫!」

 彼に思いっきり抱きしめられる、薫。

「!?」

「確かに、二人の魅力に引き寄せられる奴はいる。でも、それがなんだ!薫だって可愛いじゃないか!」

「で、でもな…。」

「お前の魅力が分からん奴なんて、糞食らえだ!人一倍頑張っているお前を、否定なんかさせやしない!」

「……お前って奴は…。言いたい放題言いやがって…。」

 そう言うと薫は、彼を抱きしめ返す。

「!」

「そこまで言われたら、何も言えなくなるだろ。…ありがとう。…可愛いって言ってくれて。」

「薫!」

 思わず、薫を抱きしめる腕に力が入る。

「おい!強い強い!…もうちょっと、女の子だと思うなら、オレを丁寧に扱ってくれよ。」

「…すまん。」

「全く…。でも、なんだか自信がついた。」

「そうか。」

 

 

 

 ピロリーン

 

 

 

 誰かからの通知が、薫のスマホに入る。

「ん?…エレンからだ。」

 何事か思い、メッセージを見る。

 

 

『ハーイ薫!愛しの彼とイチャイチャ出来てますカ?帰り際に広島のお土産、お願いシマース!(^^)b byエレン』

 

 

 二人は画面を見つめる。そしてお互い固まる。

「「……。」」

「なあ、薫。愛しの彼って…」

「見るんじゃねぇー!!」

 グワァーッ、と彼の顎に決まるアッパー。

 離れて見ていたねねは、やれやれと首を振っていた。

 

 

 日没迫る宮島の海は、穏やかなものだった。




ご拝読頂きありがとうございました。

私事ですが、広島平和記念資料館は、まだ人形のあった頃に一度だけ訪れたことがあります。
数多くの展示物のなかで、ひしゃげた三輪車や爆発の衝撃で歪んだ橋桁などが、未だに記憶の中に残っています。

荒魂は当分出てくる予定はごさいませんので、各ヒロインとの関係性を少しずつ近づいていこうと思います。
駄文も多く出るかと思いますが、筆者の力不足ですのでご容赦願います。

次回も薫編その2 後編となります。
…宮島なのに、まだ回れてない…。

感想等ございましたら、対応させて頂きます。
読者の皆様には、この作品を読んでいてくださり、感謝の念に堪えません。
それでは、また。
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