今回は薫編その2 後編です。
前編よりも短めになっています。
タイトルは異なりますが、『私用と想い』の続きになります。
UA7,500、全話PVは18,000を突破致しました。(執筆当時)
読者の皆様、ありがとうございます。
…舵取りを難しく感じる、この頃です。
それでは、どうぞ。
ー広島県廿日市市 宮島口フェリー乗り場ー
エレンのメッセージで一悶着あった二人は、予定として組んでいた、宮島での食べ歩きに向かうことにした。
広島電鉄の一日乗船乗車券はまだ使えるため、広島電鉄の子会社が運営する宮島行きフェリーに乗り込む。
ちなみに、宮島を結ぶフェリーは、他にもJR西日本が運航しているのだが、その航路は国鉄時代から継承された鉄道連絡船として、最後に残ったものとなった(宮島航路)。そのため、宮島の方のフェリー乗り場でも、JRの切符が買えるという、全国的にも珍しい扱いを受けている。
フェリーのデッキにある欄干から、瀬戸内海を望む二人とねね。
「潮風が気持ちいいな。」
「ああ。最近は、山ばかり派遣されていたからな。」
「ね~。」
短い乗船時間ではあるが、日没近くの海は、赤く染まって見えた。
「厳島神社は、明日でいいか?」
「そうだな。今から行ったところで、じっくり見れるわけでも無いしな。」
「薫は、何が食べたいんだ?」
「広島名物のお好み焼きと、紅葉饅頭は抑えておきたいな。ただ、宿の夕食が入る程度にしておかないと、まずいかもな。」
「恐らく、新鮮な魚介類を使った料理が出てくるだろうしな。俺も程ほどにしておこう。…そう、多く入る方ではないし。」
そんな会話をしながら、二人の乗るフェリーは宮島桟橋に到着する。
宮島に上陸した二人は、まず飲食店が建ち並ぶエリアを散策する。
厳密に言えば宮島は通称で、本来は厳島が正しい名称なのだそうが、どちらの言い方でも通じるのはありがたいと思う。
到着後、並び歩く二人。カップルや家族連れも多いなか、周囲の人波に上手く溶け込んでいた。
「人が多いな。…外国人の姿も見える。」
「そりゃ、世界遺産の島だしな。あと、奈良みたく鹿もいるぞ。」
「おお。見つけたら、あとでヒヨヨンに写真を送っていくか。」
「エビせんやタコせんも売っているのか。一つ買っていくか。」
「ん?二つじゃないのか?」
「俺はそこまで入らないからな。割った残りは、ねねと一緒に食べてくれ。」
「すまねえな。じゃあ、タコせんを一つ頼む。」
「了解。ちょっと待っててくれ。」
店員と会計のやり取りをする彼。
「…こうして見ると、アイツも大きいんだな。」
彼の背中を見つめる薫。確かに、彼の身長自体が薫より高いのはそうなのだが、そういう意味で言った訳はない。
(なんだかんだ、安心するよな。アイツの背中。…エレンは、よく胸を頭に載っけてくるが。)
エレンの場合は身長差もあるので仕方ないが、どちらであっても、薫の心を落ち着かせてくれることに変わりはない。
「薫!待たせたな。ほい、タコせん。」
「ありがとよ。」
彼からタコせんを貰い、二つに割る。
「ほらねね、食べろ。」
薫は、少し大きめの方のタコせんをねねにあげる。
「ね~。ねー♪」
美味しそうに頬張るねね。
それを慈しむように見る薫。
「…やっぱり、薫は優しいな。」
「どうした、急に?」
「いや、こっちの話だ。」
「何だよ…ったく。」
バリッ
「…いけるな。これ。」
「近くの漁港から仕入れたそうだ。潮の香りもするだろ?」
「これなら、確かに売れる理由も分かるな。」
「明日来た時は、エビせんも買っておくか。」
その後、二人は土産物屋に立ち寄り、エレンや舞草、可奈美達などへの大量の広島土産を購入する。
なかでも、紅葉饅頭の割合は高かったそうだ。
その紅葉饅頭の購入時のことである。
「薫、一つ試食していくか?」
「そうだな。タダで食えるなら、ありがたい。」
「はい、抹茶味。」
「お前は…こしあんか?」
「抹茶もいいんだが、スタンダードな味ほど重要なものもないしな。特に土産物は、それが顕著だしな。」
「ふーん。そういうものなのか。」
饅頭にかじりつく薫。
「抹茶餡が旨いな…。お茶が欲しくなるぜ。」
「お茶味にお茶含むって、なんつーカオス。…!薫、餡が口についているぞ。」
「何だと?…ホントだ。」
薫は、右の唇のあたりに餡の塊があることに気づく。
「どれ、ちょっと待て。」
「!?」
彼の左人差し指が伸び、薫の口元の餡を取り去る。そして、そのまま食べる。
「…おっ、おい…。今のって…///」
間接キスなんじゃ、と言いたかった彼女だったが、
「うん。抹茶味も、なかなかいけるじゃないか。」
と、彼が呑気に返したことで、肩透かしを食らわされる。
「……今ので惚けたオレがバカだった。」
「ん?どうした、薫?」
「お前、それわざとなのか?それとも、それが普通なのか?」
「折角の薫の顔が、台無しになっちまうだろ。それに、その顔の状態を笑われているのも嫌だし、取るなら早い段階がいいだろ。」
「それは…、…そうだな。」
少し照れくさそうな顔しながらも、違う理由で取っても良かっただろうに、と思った薫。
薫の肩に載っていたねねは、二人のやり取りを不思議に思いながらも、互いの不器用さを感じとる。
買い物も済ませた二人は、今日の予定をここで切り上げて、本土に戻る。
ホテルにたどり着いたのは、午後7時を過ぎた頃だった。
「あ~。疲れた。土産物の大半は、お前が宅配にしてくれたおかげで、明日の予定もだいぶ楽になったぞ。」
「薫と一緒に居られる時間を、苦痛なものにしたくないからな。」
「にしても、金の方は大丈夫か?だいぶ使っていたみたいだったが。」
「今まで、全国あちこち飛び回ってたんだ。その結果、時間がなくなって趣味に回せなかった金が、こっちに流れたと考えれば、そう悪いものじゃない。それに、たまには使わないと、溜まっていく一方だしな。」
「そうか。でもまあ、程ほどにな。」
少し経ち、二人はホテル内のレストランに入り、夕食を摂る。
彼の予想通り、瀬戸内海の魚介類をふんだんに使った、刺身や煮物、茶碗蒸しなどの料理が出され、二人とねねは存分に味わい、堪能した。
「ふ~。食った食った。満腹だ。」
「腹を擦らんでも良いだろうに。味は、確かなものだったけどな。」
彼は少し苦笑いをしながら、部屋に帰る二人。
部屋の前にたどり着き、彼が持っていた鍵を差込んだ時。ふと、薫が口を開く。
「そういえば、風呂はどうする?外から帰って来て、少し汗もかいたしな。」
「あっ。…でも、また下まで降りて風呂に入るか、とはならないんだよな…。気分的に。」
「部屋に備え付けの風呂に入るか?」
「そうする。薫も入るだろ?」
「ああ。どの道、ラムネのべたつきを落とす必要があるからな。」
鍵を開け、部屋のテレビの前に、小机と座椅子を並べる薫。
二つの布団は一度畳み、壁の方へ寄せている。
「なんか番組やっているんだろうか?点けてみるか。」
リモコンを使い、テレビの電源を入れる。
時間帯的にはニュースをやっているところも多く、各地の荒魂に関する情報や、刀剣類管理局へのバッシングを報じるものもあった。
「結局、折神紫は今も行方不明のまま。関東派遣はいいが、もうちょっと優しく扱って欲しいもんだぜ。あのおばさん(真庭本部長)、立場が上だからってオレを飛ばし過ぎだろ…。」
愚痴をこぼす薫。
ぴょんと机の上に登る、ねね。
「ね~?」
「ねね?…ああ、すまないな。オレを心配してくれたのか?」
「ねー♪」
ねねの頭を撫でる薫。
(この小旅行が終わったら、また波乱の日々に戻るのか…。ダルいな…。)
今後のことを思い、感傷に浸る薫。
その頃、彼の方は浴槽に浸かりながら色々考えていた。
(はあ…。結局、全然切り込めないまま、時間が過ぎてしまったな…。)
せっかく仕事を早々に終えて、薫と一緒に居られる時間を無理くり作ったのに、関係が進展した気がしない彼。
確かに、平和記念公園内はともかく、宮島を回っている際でも、全然仲が良くなる気配はなかった。
(一度目の風呂上がり時での件は、思わず抱きしめてしまった…。…だが、それ以外で俺、なんかしたか…。精々お金出した程度じゃないのか…。)
『いやお前、あれだけやっててそれは無いだろ!』と突っ込まれる方も居られるだろうが、言われてみれば告白すらしていない現況で、気持ちの確認もしていないのなら、こうなることは自明だろう。
「前に進むも、後に退くも、自分次第だよな…。」
彼自身、今日一日を薫と過ごしながら、
(この
と、薄々感じていた。
しかし、己の過去の経験から、それはどうしても憚られた。
(自身の気持ちを押し出すというのは、彼女に迷惑にならないだろうか。)
恋愛とは何か?という問いに答えるなら、それは各々のエゴの先鋒である、と返されるだろう。だが、そのエゴが双方の一致を見たときに、関係性は初めて、その一歩を踏み出す訳である。
「…言わなきゃ、何も始まらないよな。」
彼はここにきて、親友なのか否かなどといった、薫に対してどっちつかずな立ち位置を、固めに行くことにした。
これは後に、自身にとって大きな分水嶺を迎えることとなる。
「薫、上がったぞ。一応、浴槽内は一通り水洗いして、溜め直しておいた。」
「ありがとよ。…お前、やっぱり几帳面だろ?」
「他人が不快になる原因を、なるべく排したいだけだ。」
「…そうか。風呂入っている間、ねねを見ておいてくれ。」
「分かった。着替えは?」
「もう持ってる。…絶対、覗くなよ。」
「覗かんわ。何でダメなことをせにゃいかんのよ。」
「それを聞いて安心した。」
その直後、彼が真剣な眼差しで薫を見る。
「……薫、上がったら話がある。」
「ん…?いいぞ。何だ、急にあらたまって。」
「気のせいだ。上がるまで、お茶でも飲んで待っている。」
「あっ、ああ。分かった。」
バタン、とバスルームの扉は閉じられる。
(一体、急にどうしたんだ?……まさか、な。)
思い当たる可能性はあったが、それは無いだろうということで、直ぐに選択肢から消える。
一人で居られる空間であることもあり、薫は無心になる。精神統一の一環だ。
身体中の力を抜き、そのまま十分ほど黙想する。
座椅子に座って、薫が上がるのを待つ彼…だったのだが、どうも様子がおかしい。
「やべぇ…。何か、急に眠気が……。…Zzz。…Zzz…。」
想定以上の疲労と温茶の相乗効果で、身体(頭も含めて)が悲鳴を上げる前に、脳が意識を切ってしまったのである。
ちなみに、小机上の彼の左腕を枕にして、ねねも眠ってしまったそうだ。さぞ、気持ち良かったことだろう。
「…。はっ!今何時だ!」
目を覚ますと、布団から起き上がったことに気がつく彼。
「全く、人騒がせな奴だ。1時半だぞ。」
声のした方向を見ると、薫が広縁にある椅子に座っていた。
「…すまん。勝手に眠ってしまって。」
「オレもさっき起きたところだ。動かすの大変だったんだぞ。」
「て、ことは…薫が俺を寝かせてくれたのか?」
「まあ…そういうことだ。えらく疲れていたようだったしな。……で、話ってなんだ?」
自身の眠気を吹っ飛ばし、彼女を見据えて言を放つ。
「……単刀直入に言おう。薫、俺はお前のことが好きだ。」
一瞬、目口を開いて驚いた彼女だったが、何となく彼の雰囲気からして、ある程度察していたようだった。
「今日の言動と動きから、あり得そうな気はしていたが、そうなのか…。」
「正直悩んだ。ただ、言わなきゃ何も始まらない。俺自身、勝手なことを言っているのは、百も承知だ。でも、後悔はしたくない。」
彼の言葉を聞いたうえで、薫は窓の外を見る。
「月が綺麗だな。」
「…?月…?」
一瞬、
(曇り夜空なのに、薫は何を言っているんだ?)
と思ったが、彼はその言葉の真意に、はっと気がつく。
「…俺、死んでもいいわ。」
「……よく分かったな。一瞬、焦ったぞ。」
「朧気に覚えてた。……つまり、そういうことでいいんだな?」
「ああ。…女らしくないオレでも、好んでいる奴はいるんだな。改めて言わせてもらう。ありがとう。」
薫は、彼に手を差し出した。彼は、その手を握る。
「こんな可愛い女の子を、捨て置く奴はいないさ。…一つやっておきたいんだが、いいか?」
そう言うと、薫の手と自身の手を組み換え、恋人繋ぎをする。
薫は少し戸惑ったようだったが、彼にこれ以上ない笑顔を向けた。
その瞬間、雲の切れ間から月光が射し込んだ。
それはまるで、二人を照らし出すようだった。
なお、ねねは薫の寝ていた布団で、ぐっすり寝ていた。
翌日、二人はほぼずっと、恋人繋ぎをしながら各観光施設を回りまくった。
エレンがそのことを知ると、
(薫、思いが叶って良かったデスね。)
と、内心祝福していたそうな。
ご拝読頂きありがとうございました。
こんな感じで話を落着させましたが、如何でしたでしょうか。
…今までで、一番書くの大変だったかもしれない(^^;
感想等ございましたら、感想欄・活動報告の方で対応させて頂きます。
次回はエレン編です。
…エレン編のUA、PV共に、相対的に多いので読者の皆様の期待に添えるか不安ですが、頑張って書ききります。
キャラ崩壊は避けたいこの頃。
それでは、また。