刀使の幕間   作:くろしお

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どうも、くろしおです。

今回は可奈美編その6 前編をお届け致します。
今話はとじとものサポートメンバーも何名か登場しています。

それでは、どうぞ。

※2020/7/31 下石井さんの名前の正しい読みが判明したため、ルビを変更いたします。


⑧ 激務下の湯治 前編

 ー神奈川県湯河原町 湯河原駅ー

 

 数ヶ月前に撒き散らされたノロが関東一円に降り注いだなか、派遣できる刀使の数も物理的に限られていた事情から、なかなか郊外への派遣が出来ないこともあった。

 ここ湯河原もその例外に漏れず、荒魂による農作物被害を受けていたのだが、一般の特祭隊員を派遣する程度に留まっていた。ようやく伍箇伝各校からの派遣態勢が安定的に確立されてきたこともあり、本腰を入れた荒魂討伐に動くことになった。

 

 数泊分の荷物を突っ込んだスーツケースと旅行カバンをそれぞれ持って、改札口を抜ける彼と可奈美。

「それにしたって、可奈美を鎌府から離しても良かったのかねぇ…。神奈川県内とはいえ、すぐに鎌倉に帰れる距離でもないだろうに。」

「でも本部長、休息も兼ねて行ってきていい、って言ってくださいましたから、その厚意は受け取っておきましょうよ。」

「それもそうだな。…またいつ休めるのか、分かったもんじゃないし。」

 荒魂の出現が比較的小康状態である今、休めるうちに休むことを受け入れ、討伐も兼ねて湯治に来た次第だ。

 

 

「そういや、可奈美以外にも湯河原に派遣されてきた奴は居るのか?」

「えっと…、三人ほどですかね?先に旅館の方に向かってるみたいです。」

「問題は、所属校がごちゃ混ぜなのかどうかだな。」

「まあ、舞衣ちゃんや姫和ちゃん達とは一緒じゃないことは聞いてますから。…一体、どんな人達が待っているのかな~。」

「…可奈美の場合は、彼女達と立ち合いがしたいの間違いだろ?」

「あっはー、バレてました?」

「いいんじゃないか?だって、あらゆる剣術を熟知している君なら、相手へアドバイスする事も可能だろうし。その辺りは、俺は完全に門外漢だからなあ。」

「そうですか?でも◯◯(彼の苗字)さんの方も、時々剣を合わせると、皆の剣術を荒削りにでも取り込んできているのは分かりますよ。」

「可奈美達に比べりゃ、俺は断然初心者だよ。…俺ができるのは、せいぜい相談を聞くとか、後ろで支えるくらいだし。」

「…結構、充分だと思うんですけれども、それは。」

 

「ま、一度その辺は脇に置くとして、レンタカー屋を探すか。」

「旅館まで距離がありますからね。…そういえば、◯◯さんとドライブするのって、私は初めてになるんですかね?」

「ん?…あー、確かに無いな。だいたい鉄道で行ける範囲だったり、送ってもらったりが多かったしな。」

「ちょっと期待してもいいですか?」

 目を爛々とさせ、ワクワクしている様子を伝えてくる彼女。

「うーん、あんまり期待はしないほうがいいと思うぞ。累さんに比べりゃ、俺のドライブテクニックは上手くないし。」

 資格づくしの彼女に肩を並べようとするのは、ある意味自殺行為でもあるため、資格に関しても自分が必要だと思うものを取ろうと考えている彼。

「でも、なんだかんだ安全に運転してくださると信じてますから。」

「可奈美の表情が笑顔いっぱいな分、プレッシャーも半端ないような…。」

 これからただ運転するだけなのに、隣に美少女を乗せて行くとなると、その手は重くなっていくようにも感じた。

 

 

 

 

 普段使い慣れた車と同じ車種を運転する彼。事故発生時の助手席側の死亡率の高さを考えると、可奈美を隣に乗せるのには抵抗があったのだが、その時に彼女が悲しそうな表情を見せたため、あっさりと折れて隣の助手席に座っている。

 

「で、派遣されたのは可奈美を含めて刀使は二人、サポート要員が二人か。」

「真庭本部長からの通信だと、そうなってますね。」

「そんで男は俺一人か…。本部長は、俺が可奈美達を襲う可能性を考えてないのかねぇ…。」

「そのくらいありえないから、逆に信用されているんじゃないんですか?」

「それはそうかもしれないが…。う~ん。なんかこう、リスク管理がザルな気がしてなぁ…。」

「なら○○さん、その反論のために夜中に部屋へ来てみますか?」

 

 それもいいかも、と一瞬でも魔が差した自分の思考を殴りたくなるように、頭をブンブンと振る彼。

 

「…いや、色々とマズいしダメだな。」

「…改めて、凄い意思の固さですね。」

 

 色仕掛け等へ簡単に乗っからないからこそ、というのも彼が好かれる要因ではあるのだが、その反面、慎重過ぎるほどの警戒感が仇となり、よほど信用出来る相手くらいでしか、特に男女関係での付き合いに応じることは無かったりする。

 

「日頃から思うんですけど、◯◯さんって色んな人からモテてますよね?」

「いやいや、それはありえない話だ。」

 あっさり彼女の言葉を否定する彼。

「だいたい仕事やら雑務の依頼ばかりだから、そんな人間は居ないだろうよ。せいぜい、体の良い依頼先くらいにしか思われてないと思うぞ。」

「…そうなのかなぁ…?」

「可奈美、そもそも俺を好きになるような娘って、かなりモノ好きな奴だと思うんだが、その俺の認識は間違ってないよな。」

「えっ?」

 つい思わず目を丸くする彼女。

 何を言っているんだお前は、と訴えかけてきているようにも見えた。

「…あれ、俺そんなおかしなことを言ったか?」

「い、いえ。…意外と鈍感なんですね。」

「ど、鈍感って…。」

 なぜだか心に刺さる一言だったように感じた彼。…客観的目線では、彼女の言っていることは当たっているのだが。

 

「可奈美。話は変わるが、荷物だけ旅館に預けてから、そのまま現場に向かうけどいいか?」

「他の人達はどうするんですか?」

「一緒に乗せていく。まあ、女の子同士で話を深める時間だって必要だろ?」

「それはそうなんですけれど…。」

「こういう時に話しておけば、何かしらの縁があるかもしれないしな。」

「はあ。…分かりました。」

 彼の言いたいことは分かるが、彼女の思っていることとは違う提案に、可奈美はちょっと残念がる。

 

 

 

 

 その後、旅館に立ち寄った二人はそれぞれ荷物を置き、今回の討伐に同行する面々と初めて顔を合わせる。

「さて、自己紹介か。俺は本部所属の◯◯、今回この班のバックアップ担当で派遣されてきた。よろしく。」

 ぺこりと頭を下げる彼。

「えっと~、美濃関学院中等部二年の衛藤可奈美です。よろしくお願いします。」

「美濃関学院の福田(ふくだ)佐和乃(さわの)です。お久しぶりですね、衛藤さん。」

 おでこが見えるほどに髪をかき上げ、丸眼鏡を掛けた彼女は、そう言うと可奈美に笑顔を向ける。

「あっ、図書室のヌシさん!」

「知り合いなのか?」

「はい!美濃関一の読者家さんです!」

「本を読んだ上で実践に移す衛藤さんの方が、一番の読者家だと思いますけれどね。」

 

 可奈美が図書室を使う際に知り合った彼女。まさか、遠く離れた湯河原で会うことになるとは、双方思いもよらなかっただろう。

 

「おっと、悪い。あとの二人の名前を聞いてなかったな。」

「…あっ、あのっ。綾小路武芸学舎、中等部三年の工科予科所属…、土師(はじ)景子(けいこ)です…。よろしく、お願い…します。」

 紺色の髪の毛先のあたりが丸まり、目の下のアイラインが隈のようにも見える、おどおどした感じの彼女。恐らく、あまり人前に立つのに慣れていないのだろう。

 そう感じた彼は、自分の右手を拭いて彼女へそれを差し出す。

「よろしく、土師さん。」

 彼が微笑みかけると、一度躊躇いはあったが、彼の手に自分の右手を乗せた景子。緊張はほぐれたようである。

 

「トリは私かあ。長船女学園中等部三年、下石井(しもいしい)千夏(ちか)で~す。よろしく、ねっ?」

「おっ、本部長も舞草の知り合いをよく持ってきたなぁ。」

「ええっと、私じゃ何かまずかったの?」

「いや、むしろ心強い。この小編成なら、お前の力が結構重要になる。」

「お褒めに預かり光栄ね。…っと、貴女が衛藤さんね。噂は色々と伺ってるよ。今回はよろしくね。」

「あっ、はい!よろしくお願いします。」

 可奈美と握手をする千夏。

 

 

 今回はこのメンバーで荒魂を討伐することとなる。

 実例の多くない少人数部隊での討伐任務だが、救いがあったのは知り合いが多かった点である。最も、彼自身は山間部での討伐だとあまり大した援護が出来ない以上、早々に後方へ徹することを決めた。

 

 

 

 

 ―神奈川県湯河原町 幕山公園―

 

 梅の花が咲く頃は多くの見物客で賑わうこの公園だが、秋も深まるこの頃は観光客の数もそう多いものではない。

 

 討伐任務のため、簡易的な指揮所の設営を行う彼ら。

「土師さん、準備はできたかい?」

「はい…、ちょっとこれを弄ってもいい、ですか?」

「土師さんが気の向くまでやってくれ。」

 彼女は元々機械弄りが好きだったらしく、彼がそう言うと、先に送られていた機材を整備し始める。

 

 それとは別に、最後の機材を持ってきた千夏が、テーブルの上にそれらを置く。

「ふう~。これで全部かな?」

「ありがとな、千夏。それと、オペレートも任せるようですまない。」

「大丈夫。梢さん*1からどうやるのかは聞いているから、補助の方をお願いするよ。」

「はいよ。…そろそろ、可奈美達も準備できた頃か。」

 準備を始めてから十五分程は経っているため、彼女達の諸々の手筈は済んでいる頃合いだろうとは思った。

 

 

「お待たせ~。」

「準備できました。」

 それから少しして、可奈美と佐和乃の二人が指揮所の方にやってくる。

「えっと、可奈美達は…。スペクトラムファインダーの表示に従いつつ、荒魂の討伐に向かってくれ。」

「わっかりましたー!」

「了解しました。」

 二人の準備は整っていたため、すぐにでも討伐に向かわせるつもりでいた彼。

 

「土師さん、スペクトラムファインダーとここの機材のデータリンク設備の設置って、もう終わってたりする?」

「は、はい…。終わらせて、ます…。」

「じゃあ、位置情報とかの担当を土師さんにお願いするよ。」

「えっ、私が、ですか?」

「出来そう?」

「…頑張り、ます。」

 ちょっと嬉しそうな顔をしていた彼女。S装備の整備などを担当したい彼女にとってみれば、こうした分野で頼られるのは、自信を持たせる一助になるからであろう。

「可奈美、それと福田さん。オペレートは千夏が担当するから、俺が特段の指示を出さない限りは彼女に従ってくれ。」

「「はい!」」

「迷わせないように、こっちも頑張るからね!」

 千夏もだいぶ意気込んでいた。

「それでは、任務開始!」

 彼の号令のもと、討伐任務が始まった。

 

 

 

 

 と、ここまで全員やる気十分で挑んだわけなのだが、可奈美と佐和乃による連携プレーと、千夏や景子の適切な指示などにより、周辺に居た荒魂は速攻で討たれることになった。数そのものも二体と少数だったこともあり、彼の心配は杞憂に終わった。

 

 

 順調に討伐が終わり、早々と撤収作業を進めていた一行だったのだが、ここにきて、雲行きが急速に悪くなってきた。

 撤収作業がスムーズに進み、雨に濡れる前に旅館へ到着できたのは、運が良かったとも言えた。

 

 

 

 

 ー神奈川県湯河原町 某温泉旅館ー

 

 今晩五人が宿泊する旅館は、少数の宿泊客が既に居るとのことであった。

「部屋は…、二部屋ですね。」

「はい。今晩はごゆっくりお過ごし下さい。」

 旅館の女将に確認をとり、今日泊まる部屋へ進む一行。

 

 部屋割りは当然というか、男と女とで分けることにした。

「皆お疲れさま。荒魂を討って、無事ここまで戻ってくることができた。後はゆっくり、休んでくれ。」

「「「「はい!」」」」

 それぞれ部屋ごとに分かれていった一行。

 

 

 部屋に入ると、荷物を置いてくつろぎモードに切り替わる彼。

「ふっ~。…特にあれこれ指示を出すようなことも無く終わってくれて、良かったわな。」

 座椅子に体を下ろし、姿勢を楽にする。

 視界に湯沸かしポットと湯呑、それと茶パックを捉える。

「一息つけたい時には、お茶が一番いいよな。」

 再度立ち上がると、ポットを持って併設されているバスルームに向かう。

 水道が飲料水を兼ねた洗面所であったため、ポットに水を流し込む。

 

 汲み終えて部屋に戻ると、入室した際にいの一番で点けていたテレビでは、関東地方に大雨をもたらす低気圧の接近が報じられていた。

『熱帯から湿った空気が日本上空に流れ込んでくる影響で、太平洋沿岸の地域を中心に活発な雨雲が発生しています。今夜遅くにかけて、東海から関東の広い範囲では局地的に猛烈な雨が降る恐れがあり、気象庁は厳重な警戒を呼びかけています。これから明後日までに各地で降る雨の量は…』

 激しく降る雨の様子が流れつつも、アナウンサーの原稿を読む姿が容易に想像できる。

「あー、マジか。明日帰れるのかねえ…。」

 と、呑気にしていたのだが、テレビ画面に速報が流れる。

『ただいま入った情報によりますと、東海道線は熱海から小田原までの区間におきまして、設置していた雨量計が基準を超えたため、運転見合わせとなりました。』

「えー、嘘だろ。」

 ますます嫌な予感が募る。

 ポット内の水を沸かすため、コンセントに挿すと同時に業務用携帯が鳴る。

「ん?誰からだ?」

 机から拾い上げると、発信相手は紗南からだった。

「…火急の要件か?」

 そう思って、通話ボタンを押す。

 

 

「もしもし、お疲れ様です。真庭本部長。」

『ああ。湯河原での討伐任務、ご苦労だった。』

「思いのほか杞憂で終わってくれたのは良かったんですが、…何かマズいことでもありましたか?」

『いや、荒魂が出現したというわけではない。…済まないが、明後日までそちらで過ごしてもらっても構わないか?』

「?珍しいですね、そうした提案が本部長から出るなんて。薫とかを馬車馬の如く飛ばしている割にはですが。」

『アイツはサボり性があるからな。…それはさておき、どうも天候が悪化しそうでな。雨脚が弱まるのが明後日の朝らしい。安全のため、そちらで二泊していってくれ。』

「はあ。それは構いませんが…。元々長期化も考えていたくらいでしたから、ありがたい限りです。」

『では、そういうことだ。ゆっくり息抜きをしてこい。…また過労で倒れられたら、此方も敵わないからな。』

「あははー。…了解です。後で他の面々に伝えます。」

『よろしく頼む。では。』

 そのまま通話は切れる。

 

 

「やっぱり嫌な予感は当たったか。…まあ、急な休みをどう過ごしたもんかねぇ…。」

 仕事の方は同僚たちに任せればそう問題にもならないのだが、暇あらば何かしら色々することが多かったこともあり、どうも休もうという気が起こりにくいというのはあった。

「…一杯飲んでから、風呂にでも浸かるか。ここ、確か露天風呂もあったはずだし。」

 雨の降る中での温泉というのは、あまり体験できることでもないため、取り敢えず頭と体をゆっくり解すことに思考を切り替えた。

 

 その後、可奈美達が宿泊する部屋にお邪魔し、明日一日中は休みということを伝えた。

 最もその場に可奈美の姿はなく、他の三人に訊いてみると先に温泉へ向かったとのことだった。

 夕食の時間にはまだ時間がだいぶあったこともあり、自身も浴場へと赴くことにした。

 

 

 

 

 一通りの入浴セットを脇に抱え、脱衣所の前にやってくる彼。何か書いてあるプレートは気になったものの、仮に書いてあるとしても温泉の効能程度で、大したことは書かれていないだろうと踏み、歩を進める。

 脱衣所は男女で分かれていたため、男と書かれた青い暖簾をくぐり抜け、昔ながらの竹籠の中に服を脱いでいった。

 タオルを腰に巻いて扉を開き、浴場へと足を踏み入れる。

 

 

 髪と体を泡立てて洗いながら、備え付けのシャワーでシャンプーなどを流していく。

 周囲は温泉の湯煙と雨による湿気がひどく、十数m先はもう真っ白だった。

「すごくほわほわしてるなあ…。先に露天風呂の方へ行くか。」

 辛うじて見える案内看板を頼りに、露天風呂へと辿り着く。

 少し歩いたものの、目線の先には屋根で囲われた一角が見えてくる。

「見えてきたか…。…あれ、先客が居るのか?」

 湯煙で視界が遮られている関係で、はっきり誰かまでは分からなった。

 

 すると、その先客からの声が聞こえてくる。

 だが、それは本来聞こえるはずのない少女の声であった。

「なんか、○○さんの声が聞こえるなあ~。温泉に浸かりにきたのかなぁ?」

「…あれ。前から可奈美の声が聞こえたような…。」

 まさかな、と思って露天風呂の中へと足を踏み入れようとした時だった。

 

 

 

 

「あれっ!?○○さん!」

「―!?可奈美!なんで君がここに!?」

 お互い、顔を見合わせて驚くしかなかった。

 それと同時に、この場の二人の時間は静止した。

 

 

 

 

 浴場を取り巻く温泉の湯煙は、さらにその濃さを増していくのであった。

*1
長船女学園の西梢(とじともサポメン)のこと。




ご拝読いただき、ありがとうございました。
本話でトータル百話目という節目を迎え、意外にあっという間だったなと思うところがあります。

刀使ノ巫女の小説も無事届き、これから読んでいく次第です。
S装備をめぐる話…、結芽もどう絡んでいくのでしょうかね。

とじともの方には、遂に岩倉さんがプレイアブルとして登場というのにちょっと驚いています。(いきなりだったので。)
姫和との絡みが増えそうで良かった…。

感想等ございましたら、お気軽に感想欄・活動報告にご投稿頂ければと思います。

後編に続きます。

それでは、また。
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