刀使の幕間   作:くろしお

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どうも、くろしおです。

UA2400越えを達成いたしました。ありがとうございます。

今回はエレン編です。少しばかり長くなっていますが、ご容赦ください。

それでは、どうぞ。


エレン編
① 独白と告白


 ー愛知県長久手市 特別稀少金属利用研究所ー

 

 埼玉県と東京都に跨がる狭山湖周辺での荒魂討伐が済んだと思ったら、今度は珍しく福岡での荒魂出現という、刀使やケア・サポートを行う人間にとっては殺しにかかってきたような状況が一段落し、S装備をはじめとする刀使が使用する機材の実戦データと改良点を、実物ごと持ち込んで此処までやってきた。

 とはいえ…。

 

「いくら何でも、福岡から陸路で10人分のストームアーマーと、刀使用の緊急時展開システムも持って来いとか、博士も無茶言いますよね…。」

「まあ、確かに私もそれには同感だけどね。なんか私、使い勝手のいい人間だと思われてないかしら?」

 トレーラーの運転席で、泣きを入れる彼と恩田(おんだ)(るい)

 運転の付き添いに乗っただけの彼はともかく、累は御前試合直後に可奈美や姫和を匿った時以降、紗耶香に部屋は荒らされるわ、警察にお世話になるわ、鎌倉での一件以降は刀剣類管理局のパシり扱いされるわ、結構受難な日々を送っている。

 そんな彼女は、船舶免許を始め多くの資格を持っていた。トレーラーの運転資格である大型一種免許や牽引免許も、そのうちの一つであった。

 実のところ、福岡からはJR貨物の方へ委託して愛知まで持ってこようとしたのたが、その直前に西日本を襲った大規模な豪雨災害により、鉄道網や山陽自動車道が壊滅的被害を被ったため、やむなくトレーラーをチャーターし、中国自動車道を経由して持ってくるハメになったのである。

 

「累さん、見えて来ましたよ。もうすぐ目的地です。」

「やっと着くわね…。」

 途中休憩を挟んでいたとはいえ、約半日に及ぶドライブから解放される累。心身ともに休みたいところだろう。

 

 

 

 

 研究所入り口のゲートを潜り、建物本体に入るトレーラー。

 トレーラーの停車位置付近に、人影を見る。

「…あれは…、エレンか?それに博士の姿も見える。」

「ということは、あそこで止まればいいのよね…。」

 白線内にキレイに停める累。ドライビングテクニックは、プロ並みのものだろう。

「累さんは、もう休んでいてください。後は、俺がやっておきますから。」

「そっか…。それじゃあ、お願いね。…エレンちゃんと上手くやるのよ。」

「上手くやるって、一体何の話ですか…。」

 累のアドバイスの意味を考えながらも、体は後ろのトレーラー部分の方に向かっていた。

 長船の制服を着た金髪の少女と、ピンク色のYシャツを着た白髪の男性が、その先には待っていた。

 

 

 待ち人として立っていたのは、舞草の共同設立者にしてこの研究所の特別顧問であるリチャード=フリードマン博士と、その孫娘である古波蔵(こはぐら)エレンであった。

「お久しぶりデース!My Darling!」

「待てエレン、少なくとも俺はダーリンではないぞ…。っておい!」

 再会して、僅か数秒ほどでエレンにはハグされる。

 

(マズいマズいマズい!博士こっちメッチャガン見してるんだけど!)

 天然なのか、それとも狙ってやったのか、エレンは結構な時間ハグし続けていた。

 勿論、その間フリードマン博士は、意味深な顔をしてこちらを見続けていたが。

 

「…ふぅ。ついはしゃぎ過ぎてしまったみたいデース。でも、また会え嬉しいデス!」

「お、おう。そうだな。」

(おかしい、普通男だったら喜ぶシチュエーションな筈なのに、博士がメッチャ見てたから凄い胃が痛い)

 知っている第三者から見られると、本来喜ぶべきところがこうまで印象が変わるのか、と考えながらも博士に向き直る。

 

「遅くなりました。フリードマン博士、福岡からの例の物、無事お持ちしました!」

「ご苦労様。…その…、先程は済まない。愛しの孫娘が、同世代の異性にハグするとは思わなくてね…。つい、固まってしまったよ。」

「い、いえ。だ、大丈夫です。こちらが粗相をしていないか、非常に不安でしたから…。」

 フリードマン博士との会話はギクシャクしながらも、本来の目的であった搬送やS装備の損傷状態の確認などは、滞りなく進んでいった。

 

 

 

 

 諸作業も終盤に差し掛かった頃、エレンが博士や彼の下にやってくる。

「グランパ、彼を借りてもいいですか?」

「ああ、構わないよ。こちらも、後は確認作業くらいなものだからね。」

「ダーリン、行きましょう!」

「あっ、ああ。直ぐ行く。」

 フリードマン博士の部屋から出る直前、不意に声をかけられた。

「そうだ。出る前に、いくつか聞いてもいいかな?」

「構いませんが。…エレンさんのことですか?」

「まあ…、そうだろうね。」

「自分で答えられる範囲であれば。お願いします。」

 

「…あの娘には済まないことをしてきたと思うよ。本来、私事にエレンを、我が孫娘を巻き込むことを望んではいなかった…。それでもあの娘は自分の意志で、グランパのためならば、と色々頑張ってきたんだ。時には、自ら危険に飛び込むことさえ厭わない。」

「…そうですね…。休憩の際に、博士のことを話すこともしばしばありましたね。最近では、可奈美を始めとした刀使の娘たちと、仲良くしているところもよく見かけますが。」

「エレンは、我ながらできた孫娘だと思うよ。両親と離れていても、決して我が儘を言わない。むしろ、私たちを気遣ってくれる。…もっと甘えたって良いはずなんだ。」

「俺なんかよりも、彼女の方が強いですよ。俺には、彼女が素晴らしい人間だと思います。あと、頭がよく回りますし。よく、周囲の状況を見て動いていますね。」

「そうか、君は人を見抜く力が有るみたいだな。これなら、大丈夫だろう。」

 

 フリードマン博士は、じっと目を据えて彼を見る。

「…もし、万が一の時は孫娘を、エレンを頼めるかい?」

「…?フリードマン博士、私たちは盾になってでもエレンさん、いや他の刀使たちも含めて、あなた方の下へ生きて帰しますよ。たとえ自分が帰ることが出来なくなろうとも、です。」

「…君も覚悟は出来ている、といった顔だね。」

「舞草に所属している云々以前に、本来立場上刀使を守ることが使命ですから。」

「我々は、なお一層の研究を進めることしか出来ないが、私たちが傍に居られない間は、エレンや彼女たちのことを頼むよ。」

「是非に及ばず、です。それでは、また後で。エレンさんが待っていますから。」

 彼は博士に会釈すると、エレンの下へと向かう。

 

 

 

 

「だいぶ遅かったデスネ。ダーリン。」

「ちょっと博士と話していてな。そう大したことじゃなかったけれども。」

 敢えて先程の重要な部分をぼかす彼。

「ホントですカ?…ウソ、ついてません?」

「いやいや。…まあ、男同士積もる話もあったと、思ってくれればいい。」

「…そうですネ。話せるようになったら、言ってくださいネ。」

「そういえば、ここは一体どこなんだ?研究所の中にこんな場所が有ったなんて知らなかったぞ。」

 彼とエレンが立っていたのは、研究所の一角にある展望テラス。

 ここから、濃尾平野の一部を望むことが出来た。

 時間的には、もうすぐ日が落ちようとしている頃だった。

「本来はここの研究員の人たちが、外で休憩したい時にリフレッシュする場所なのデスが、今日は人がそんなに居ませんから、ワタシたちの貸し切り状態デース。」

「そうなのか。…確かに、いい場所だ。」

 

 夕日に照らされるエレン。

 風も少し吹いていたこともあり、彼女の髪も艶よく靡いていた。

 彼は、その姿にドキッとしながらも、それをエレンに気取られないよう、会話を続ける。

「なあ、エレン。君にとって、俺はどんな存在なんだ?」

「ン?ダーリンはダーリンじゃないですか?」

「そういう意味じゃなくてな…。友人とか、任務上の職員とかさ、色々あるじゃないか。そういう視点での話だったんだが…。」

「そうですネ…。」

 

 エレンは欄干から手を離し、彼の方へと近づく。

「ボーイフレンド…、では無いですね。そこまで関係は進展していませんからネ。…親友でしょうか?薫とは違うベクトルの。」

「…そうか。」

 悲しさ半分、ホッとしたのが半分、という何とも言えない感情が湧く。

「デスけど、」

 そう言うと、エレンは彼に顔を近づけてくる。

「そこから、ステップアップしても言い訳デスよね?」

「ん?あっ、ああ。」

 エレンの言葉の真意が読めず、思わずたじろぐ。

 そして次の言葉で、彼は完全に固まった。

「ダーリン、ちょっとだけ目を閉じて貰ってもいいデスか?」

 

 

(何となく気がついてはいたが、ここまでするか!?止めさせるべきか…、いやそれだとエレンを嫌っているという意思表示だと捉えられてしまわないか?)

 内心葛藤する彼。その間わずか二秒。

(ええい、もうなるようになれ!)

 腹を括って、エレンの行動を待つ。

 

 …だが、一向にアクションが無い。

 どうしたものかと、一瞬気を緩めた瞬間だった。

 左頬に熱い感触が伝わる。

 

 ビクッとして思わず目を開けた。

 目の前には、エレンの姿があった。

 彼女は、ほんの僅かに寂しげな顔をしたが、すぐにいつもの笑顔に戻った。

「少なくとも、今のワタシの気持ちデース。アナタがどう捉えるかは、分かりませんケド。」

 そして、先にエレンが固まる彼の横を通り過ぎようとした時。

 彼の耳に囁きかける。

This mind gives for you.…先にグランパのところに戻ってますネ。」

 彼女のブーツの音が、遠ざかっていった。

 

 

 

 

「私の心をあなたに捧げます、か。…とてもじゃないが君には勝てそうもないよ、エレン。」

 秋風が体を包み込む。

 寒気と共に、自分がどう選択するべきかを問いただしているかのように、日は沈んでいった。




ご拝読頂きありがとうございます。

エレンは、メイン6人のなかで最も精神面で安定した娘だったと思います。
普段は明るさ満載の表情を見せる一方、クレバーな面を見せたり、家族との和気あいあいとした姿も印象的でした。
とじらじで、おじいちゃん大好きっ子ということも明かされ、彼女の人当たりの良さもその辺りから来ているのかな?とも感じました。

感想等ありましたら、感想欄などで対応させて頂きます。

次回は戻って可奈美編です。
それでは、また。
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