刀使の幕間   作:くろしお

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どうも、くろしおです。

今回はエレン編その2 後編です。
タイトルは変わっていますが、『試射実験とお誘い』の続きになります。

UA8,400、全話PV20,000を突破致しました。(執筆当時)
読者の皆様、今作を読んで頂きありがとうございます。

それでは、どうぞ。


③ 難攻不落

 ー静岡県 某海岸ー

 

 夏の暑さがギラつく、砂浜の海岸。毎年毎年、今夏は酷暑だ猛暑だと、メディアなどでは騒がれているが、熱中症や脱水対策をきちんとやっていれば、海辺で遊んでいても問題はないのである。

 

 

 彼が博士へ、二人とも海岸に着いたことをメッセージで送ると、

『Good luck yourself!』

 と、返ってきた。

「博士、何を仰っているんですか。…もう既に、俺自身は幸運ですよ。」

 それを聞き返す人間がいない今、そう呟く彼。

 

 

 今エレンは、海水浴場にある更衣所で、演習場で着替えた私服から、水着に着替えている。

 彼は一人、ビーチパラソルを開き、砂浜にシートのサイズに合わせて窪みを作って、まあまあ広いシートを敷く。

 表層の熱い砂の上に敷くのは、こちらも勘弁願いたいところだったので、少し掘った方がマシと考えての作業だった。

 パラソルの下にクーラーボックスを置き、二人がくつろげるスペースを確保する。

「これで、よし。…にしても、暑いな今日。」

 この日の予想最高気温は、32℃。行き際にスポーツドリンクや塩タブレット、氷枕を買ってきて正解だったと思った。

「スマホも、熱くならないようにしないとな…。」

 使わない間、スマホをクーラーボックス内に入れる。

「もうそろそろ、着替えて終わってもいい頃なんだが…。」

「ダーリン!お待たせしまシタ!」

 彼が陸側を振り向くと、駆け寄ってくるエレン。

 

 

 

 彼女は、黄色と橙色のビキニの上に、白いTシャツを羽織っていた。

 

 

 

 彼は一瞬、彼女の姿を見入っていたが、エレンが不思議そうな顔をしたので、意識をこちらに戻す。

「結構時間がかかったな、エレン。」

「ちょっと混んでたみたいデース。ダーリン、この水着、どう思いますカ?」

「とてもよく似合っているよ。」

 世辞でも何でもなく、すぐに答える彼。彼女は嬉しそうにしていた。

 

 

 海に入る前に、一つ確認しておくことがあった。

「…そういえばエレン、日焼け対策はしているのか?」

「?まだデスよ。…あっ、いいコト思い付きマシタ!」

 笑顔で、自分の前でポンと手を叩くエレン。

 彼女がいいコト、と言う際は、彼の経験則的にイヤな予感がするのである。彼女自身に悪気は無いので、大体断れないのだが。

「ダーリン。私の体に日焼け止めのクリームを、塗ってくれませんカ?」

 

 

 普通の男なら、笑顔で嬉々として乗り出すだろうが、彼はヘタレである。変なところで意固地に成りやすい。そのため、だいぶ悩ましい判断を迫られたわけである。

 

 

「分かった。但し、背中だけな。」

 断れないなら、折衷案を出すだけである。

「エーッ。それなら前側も、遠慮せず塗ってクダサイよ。」

「そうもいかん。前側は、エレンでも目が届くだろ?後ろを完璧に塗る場合は、他人の手が必要だろうけどな。」

「…分かりマシタ。シャツを脱ぎますから、ダーリンは塗る準備をしてください。」

「了解。」

 エレンはシャツを脱ぎながら、

(やっぱり、ダーリンのガードは相変わらず堅いですネ。…そういうところが好きなのですケド。)

 と、少し落ち込みながらも彼を再評価する。

 

 

「じゃあエレン。海側に頭を向けて、うつ伏せになってくれ。」

「ハーイ。」

 彼女は、一度しゃがんで四つん這いになった後、彼の言う通りうつ伏せになった。

「じゃ、始めるか…。…エレン、上のビキニの紐は外さないとダメか?」

「外さないと塗りにくくないデスか?」

「そうだな…。うん…。…外すぞ…。」

 急激に緊張し出す、彼の両手。

 強めのリボン結びになっていた、背中の結び目を瞬時に解く。

 ハラリと両側に落ちる紐。

 

 

「今から塗り始めるから、嫌な場所とかあったら直ぐ言ってくれ。」

「ハ~イ。海の方を見ておきますネ。」

 彼に、体を完全に預けるエレン。

(…ダーリン、いつもワタシや皆の為に無茶しますよね。少しくらい、ワタシの体を触っても、神様は怒らないと思うのデスが…。)

 むしろ、ダーリンは女に興味など無いのか、とも日頃の動きからしてそうとれそうではあった。

 彼の手は、素早く、しかしながらムラの無い塗り方であった。まるで、彼女に触れる時間を削るかのように。

(…上手いデスネ。…んっ。そこは…。)

 彼が背中の敏感な部分を、優しく撫でたものだから、思わず艶のある声を出しかける。

 ほぼ同時に、体が少しビクッとしたものだから、彼も驚いた。

「!?すまん、どこか痛かったか?」

「だっ、大丈夫デス…。つ、続けてください。」

「あっ、ああ。分かった。…といっても、もうすぐ終わるんだがな…。」

(…言えない。ダーリンの塗り方が気持ち良過ぎたなんて、とても言えないデス。)

 顔から火が出そうなレベルで、真っ赤になるエレン。

 

 逆に、彼の方はというと、

(塗る力を強く押し過ぎたか!?ホントに大丈夫なのか、エレン?)

 と、盛大な勘違いをしていた。

 彼の言葉通り、エレンが体をビクつかせてから二分程で、背中の日焼け止めは塗り終えられた。

 

 

 

 

「これで、よし。もう、起き上がっていいぞ。」

 エレンの水着の紐を結び終えた彼。

「?…エレン?」

「ちょっと、起き上がるまで、時間をくだサイ…。」

「?…分かった。横にスポドリ置いておくから、熱中症にならないようにしておいてくれ。」

 コクリと頷くエレン。

「ちょっと、海の家で食べ物買ってくるから、待っていてくれ。」

「…ハイ。気をつけて、行ってきてクダサイね。ダーリン。」

 エレンの言動に気をかけながらも、財布を持って海の家に向かう彼だった。

 

 

(危なかったデース。こんな顔、ダーリンには見せられませんよ。)

 彼に気付かれないよう手で顔を覆っていたが、その下はだいぶ緩んだ顔をしていたエレン。

 原因はやっぱり、先ほどまでの日焼け止め塗りである。

(ダーリンの女の子を傷つけたくない気持ちは理解していますが、ワタシでなくてもこんなの落ちますヨ!)

 塗り方が上手いどころか、エレンの知覚過敏な部分(肩甲骨の裏側あたり)を容易く扱うあたり、ワザとやっていないのが嘘のようにも感じた。

 こうなってくると、最早一種のテクニシャンであった。

(カオル達にやったらどうなるのかは気になりますが、ダーリン、これは流石に無自覚過ぎじゃないデスか…?)

 彼女は、海の家へ買い物に向かった彼の姿を見つめる。

(そうデス!ちょっとダーリンにイジワルしてみまショウ!)

 思い立ったが吉日。エレンは、彼が帰ってくるのを待つ。

 

 

 

 

 夏場ということもあり、多くのカップルや家族連れで海水浴場内は賑わっていた。

「結構、色々な水着を着ている人がいるもんだな。」

 海の家からの戻り際、周囲の服装を見る彼。

 エレンと同世代の娘もいれば、彼と似たくらいの男子もいる。

「やっぱり、ただ休むだけでは経験出来ないな。…しっかし、この癖どうにかならんもんかね…。」

 海水浴場内の人の動きや癖、持ち物など、反射的に把握しにかかる彼。こればかりは、自身でさえ極度の職業病なのではないか、と思う程度には気になってしまうのだが、治安を預かる立場上どうも意識してしまうようだ。

「エレン、大丈夫だったのかね…。…何も無ければいいんだが…。」

 そうこう言ううちに、陣取っているビーチパラソルの下へと辿り着く。

 

 

「エレン、お待たせ~。食べれられるか?」

 彼女の後ろにあるクーラーボックス上に、買ってきたものを置いていく。

 こちらを振り向いた彼女は、少しムスッとした顔をしていた。

「ハイ。いただきます。」

「おっ、おう。」

 エレンの変わりように戸惑いながらも、彼は彼女の機嫌を損ねないように言葉を続ける。

「…焼きそばとイカ焼きで良かったか?」

「セレクトは良いデスネ。容器をもらってもいいデスカ?」

「ああ。落とさないようにな。」

「「いただきま~す(マ~ス)。」」

 揃って食事前の挨拶をする。…見事にハモったが。

 

 少し経って、エレンが笑い始める。

「…フフフッ。ダーリン、ワタシと間を合わせるなんて、一体どんなマジックを使ったんデスか?」

「…ホッ。急に素っ気ない態度になったから、こっちは気が気じゃなかったぞ。」

「ワタシだって、イジワルしたくなる時くらいは有りますヨ。でも、わざわざ買ってきてくれて、ありがとうございマ~ス。」

「いやいや。こんな美人と、この時だけでも一緒に居られるだけ、十分幸せ者だよ。俺は。」

「ダーリン…。本当にアナタって人は…。

「ん?何か言ったか?」

「何でもないデス!…それにしても、この焼きそばとイカ焼き、美味しいですネ。」

「イカ焼きは、イカは近くの漁協から仕入れたものだそうだ。焼きそばは、店主が富士宮のところで修行を積んで作り上げんだと。」

「なら、美味しいのに納得がいきマ~ス。」

 

 隣あって食べる二人。

 同じように海水浴場に来ていたカップルも、思わず二人の雰囲気に押し負けそうになった。

 端から見ていて、食べさせ合いっこでもしようものなら、他のカップルの破局を押し進めそうな感じではあったそうな。

 それは流石になかったようだが。

 

 

 

 

「ダーリン!ハリーアップ、デス!」

「待てエレン。そんなに急がなくとも、海は逃げんぞ。」

 昼食を食べ終えた二人は、海目掛けて駆けていく。

 貴重品類と衣服は、海水浴場内のコインロッカーに預けてきたので、盗難の心配は無い。

「それーッ!ダーリン!こっちデ~ス!」

「速えぇよ…。今追いつく!」

 二人とも浮き輪を持って入っていったのだが、エレンが輪っか状のものに対して、彼のものはマット状のものだった。

 地味にサイズが大きかったこともあり、海水をかきづらく、中々前に進まなかった彼の浮き輪であった。

 

 

 広い太平洋の波に揺られる二人。彼もようやく、エレンに追いつく。

「ゼェッ、ゼェッ…。やっと、追いついた…。」

「大丈夫デスカ?ダーリン。」

「何の、これしき…。…前言撤回。やっぱキツい。」

「今度、一緒に運動しますカ?」

「頼む。多分、一人だと三日坊主になりそうだ…。」

 運動の約束を取り付けたところで、二人は海上を漂う。

 

 

 

 

 周囲に人がいないことを確認したエレンは、彼に思っていたことを聞き出す。

「ダーリン。一つ聞いてもいいデスカ?」

「何だ、エレン。」

「…ダーリン自身は、ワタシのこと、どう思っていますカ?」

「…それを今聞くのかよ…。といっても、以前俺も全く同じことを、エレンに聞いたよな…。」

 なら、答える必要があるな、と一人つぶさに言う。

「…親友寄りの友人…、だろうな。気兼ねなく色々聞けて、それこそ年齢の違いなんて気にならないほどにはな。異性として見ているか、そう言われれば、恐らくそうだろうな。」

 

 そこまではまだ、エレンも今までの彼の行動からして、大体予測が出来ていた。

 だが、次の言葉は彼女にとって完全に寝耳に水だった。

 

 

 

 

「…それでも、そこから彼氏彼女になるかという、その一線は超えられないな。」

 

 

 

 

 今まで散々アプローチを仕掛けてきたエレンにとって、それは衝撃的な言葉であった。彼女は、一瞬聞き間違えたのかと思ってフリーズしてしまった。

(What!?どういうコトですカ!?…もしかして、ホントにそっちの方が好みなのデスか…?)

 

「…エーッと、その…。ダーリンは、女性には興味があるんデスよね?」

「一応、男だからな。…ただ、少なくとも今の立場なら、尚更超えたら駄目だろうな。考えてもみろ。刀使の上の立場の人間が彼女持ちとか、部隊の士気の低下なんて、火を見るより明らかだぞ。しかも、仲間内なら更にアウトだ。」

「それは、そうかもしれませんガ…。」

 確かに、彼の言っていることは解る。考え込むエレンをよそに、彼は言葉を続ける。

「君が素直にアプローチを仕掛けてくれるのは、男としてありがたいと思う。でも、それはそれだ。俺がそこを曲げるわけにはいかない。」 

「…そう、デスか…。」

(ガードが堅い、なんて次元で考えていたワタシが馬鹿デシタ。根本的にダーリンの考え方を変えない限り、この先ダーリンは女心を知らずに過ごしていきますネ…。)

 

 

 彼は気づいていないが、多方面の異性からのアプローチを、無碍にはせずとも、ほぼスルー同然の状態を長く続けている。

 アプローチをかけ続けている方のエレンでさえこれでは、彼がいくら仕事人間で刀使たちに恋愛感情を指向させなくても、その肝心の『仕事』上でいつかやらかし兼ねないことを、彼女は持ち前の頭でシミュレーション出来た。

 詰まるところ、彼との間の信頼感の漸減と刀使などの自信喪失(この場合、刀使などの異性としての魅力を、どんどん削りとっていくパターン)を、自分から導いていることに他ならないのである。

 

 

 エレンが熟考している間、彼は沖合の方を見る。

「別に彼女が要らないとか、そんな話じゃないんだ。…君たちを、恋愛対象として見てはいけないんだ。」

「…それは、何故デスカ?」

「君たちは、俺が守るべき立場の人達だからだ。俺のような奴の代わりは、言葉は悪いが幾らでもいる。でも、刀使はそうじゃない。もし君たちが居なくなったら、誰が荒魂を祓うんだ?」

 少し口を休め、エレンに向き直る。

「俺は人壁になってでも、死ぬことになろうと、君たちを生きて返したい。それでも、刀使が彼女だと、俺が任務中死んだ時、一生その娘の心傷になるかもしれない。そんなことを、俺は望まない。」

「…だから、刀使やサポートの娘は恋愛対象に出来ない、と。そういうコトですカ?」

「少なくとも、恋愛としての距離は置くべきだと思う。あくまで俺の考えだし、それは変わるかもしれない。ただ、かなり滅茶苦茶なことを言っているのは、確かだ。理解してくれ、なんて世迷い言は言わない。…すまない、エレン。」

「…ダーリン。」

 

 

 エレンは、彼に反論すべきか悩んだ。だが、先ほどまで話していた、彼の目は本気だった。

(ダーリンの考えを変えることは、本当に正しいのか、分からなくなってきました…。ダーリン自身、極端に優し過ぎて、自分のことをあまり考えていないような気がシマス…。)

 彼女は、その場で彼の意見に反駁することは出来なかった。

 

 

 

 

 砂浜に戻り、演習場に戻る準備をする二人。

 既に、荷物は纏め終わっていた。

「そろそろ帰るぞー。エレン。」

「ハ~イ!」

 エレンが、二つのかき氷を買って戻ってくる。

「これが、ダーリンの分です。」

「ありがとう。…っと、冷てぇー。」

「ホントですネ。」

 シャリシャリと、削られた氷が口の中に広がる。

 

 

「…ダーリン。お願いがあるのデスが。」

「…?何だい?」

「車に乗るまでの間だけ、腕を組んでくれませんカ?」

 少し悩んだ様子だったが、今日の言葉を聞いて、なおそう言ってきた彼女を思い、それを汲み取る。

「分かった。」

 パアッ、と顔を明るくするエレン。

「ありがとうございマース!」

 彼のその腕は、ギューッとエレンに締められる。

(…あとで少し詫びないとな…。)

 彼は、そう思った。

 

 

 

 

 思いっきり腕を締めていたエレンだったが、内心はやはり少し悲しんでいた。

(ワタシの想いをぶつけて、ダーリンの思いを砕こうとすることは、果たして正解なのでショウか…。)

 

 それでも、彼女はそんな簡単に萎えて、彼のことを諦められるような人間ではない。

(ダーリンの思いと私の想い、どちらも両立できる方法は、きっとある筈デス!…貴方の未来が明るいものであって欲しい、そう思っている人のことを、貴方のなかに刻み込んでみせマース!)

 

 

 可能性に賭けて、エレンは、彼の頑固な考えを打ち砕くことを決めた。

 彼は、自分の言葉が彼女の心に火を点けたことを、未だ知らない。




ご拝読頂きありがとうございました。

今話が18話目にあたり、ここから先の投稿話数は初めてになります。(文量はまだもう一つの作品が多いですが。)
よくここまで書いてこれたなぁ、と筆者自身感じているところでございます。

今話で、一旦メイン六人からは離れますが、ちゃんと戻って来ますのでご安心ください。
次回が誰になるのかは、楽しみにお待ちください。

感想等ございましたら、感想欄・活動報告で対応させて頂きます。

それでは、また。
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