刀使の幕間   作:くろしお

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どうも、くろしおです。
遅くなりましたが、新年明けましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。

今年一発目の投稿はエレン編 その3です。
時系列では、可奈美達と出逢うかなり前の頃の頃です。

それでは、どうぞ。


④ カウンターアタック

 ー長船女学園 校内ー

 

 鎌倉特別危険廃棄物漏出問題が発生する一年ほど前。

 舞草の諜報員としても本部に所属している彼は、この日真庭学長に呼ばれ、はるばる鎌倉からここ岡山まで飛んできた。

「しかし、真庭学長も酷い人だ。こっちも本部で仕事が溜まっているっていうのに。」

 そんな愚痴をこぼしつつ、校内にある廊下の十字路に差し掛かる。

 

 タッタッタッタ

 

「ん?足音?」

 彼が音のした方向に首を向けた瞬間、その音は消えた。

 …ドカンという音とともに、彼自身が吹っ飛ばされたことによって、だが。

 彼は約数m程転がり、そのまま気絶してしまった。

 

 

 

 

「はっ!」

 ベッドから飛び上がる彼。

「一体、ここは…。」

 確か、誰かの足音がして振り向いた瞬間に気を失ったような…。

「あっ!気がついたみたいデスネ?」

 声のした方向を見ると、エレンの姿があった。

 ちょうど、鉄ボウルに氷水とタオルを入れて戻ってきたところだった。

「エレン、ここは?」

「ああ、ここはワタシのマイルームデ~ス!」

「…言われてみれば、女の子の飾りとかがあるな。」

 部屋を見渡し、ちょこちょこと家財道具が置かれているのに気がつく。

「……そういや、今日は真庭学長に会いに来たんだったっけ。」

「無理しない方がいいデスよ。紗南センセイには、私から説明しておきますカラ。…それと、ゴメンナサイ。」

 急にエレンが頭を下げる。

「何がだ?」

「さっきぶつかったことデス。」

「…あれはエレンだったのか。」

 さっきの出来事と線が繋がる彼。

「Yes。…アナタがそのまま気を失ったので、ワタシ焦りマシタよ…。」

「…大丈夫だ、エレン。吹っ飛ばされた程度であの世に逝くほど、俺の体は柔くないぞ。」

「…そういう問題では無いと思うのデスガ…。」

 思っていたのとは異なる答えを出した彼に、戸惑う彼女。

「しかし、看護か…。いつぶりだろうか。こうして病人扱いされたのは。」

 どこか懐かしむ彼。

「ということは、前にも似たようなコトがあったのデスカ?」

「何年か前にちょっとな。」

 

 エレンが彼の過去のことを知っていたかどうかはさておき、彼は病人気分を満喫…している場合ではない。

 

「…なあ、エレン。こう聞くのは無粋だとは思うんだが、もしかして今俺が寝転んでいるのは、お前のベッドってことだよな?」

「?そうデスよ?」

「よし、起きよう。」

 流石に日頃乙女の眠るベッド上で寝続ける勇気は、健全な思考を持つ彼には無かった。

 体を無理矢理叩き起こし、彼女のベッドから離れようとする。

「…いでっ!」

 エレンとぶつかった衝撃からか、少し頭を手で抑える彼。

「無茶しちゃダメデスよ!」

 起き上がろうとする彼を止めにかかる彼女。

「いや、むさくるしい男がここに転がるのはマズいだろ。」

「そうかもしれませんガ、貴方が安静にしていることが第一デス!ワタシのベッドくらい、大したことはないデスよ。」

「その厚意には感謝するが、それはいかんだろ。」

 看病は有り難いにせよ、本来ここは彼女の寝るべき場所だ。まして、体面的にもこの状態は好ましくない。

「…分かりました。それじゃあ、仕方ありまセンネ。」

 大人しく彼の言葉に従うかに思われたエレン。

 

 

 

 

 だが、起死回生の一手というのか、男にとっては食らわされたら一溜まりもない言葉が飛び出す。

「では、今から寮内の人に向かって、アナタにワタシが襲われそうになったとふれて回りますが、それでも良いデスネ?」

「ファッ!?」

 彼にとっては、あまりにも不意打ち同然の言葉であった。

 

 

 

 

 確かにエレンの部屋に担ぎ込まれたのは事実なのだが、それを立証する手立てもない。加えて、彼がここに居る理由を何も知らない人間からすれば、女子しかほぼ居ないはずの学生寮内では、明らかに彼の存在は特異だ。何かあったと勘ぐるのが普通だろう。

「ちょっ、ちょっと待て!エレン、気でも触れたか!?」

「…それが嫌なら、ベッドで大人しく寝ていてクダサイ。それが条件デス。」

 本人がそんな強硬策に打って出るとは想定外だった彼は、渋々それを受け入れることにした。

 

 …まあ、エレンの行動の是非はともかく、病人は無理に動くな、という彼女の姿勢は何一つ間違っていないのだが。

 

 

 

 

 携帯を手に持って、部屋の入口の方へと消えて行くエレン。

 それに対して静かに彼女のベッドで横たわる彼。

 彼から見て奥の方で話し声がした後、彼女が戻ってきた際にふと尋ねる。

「真庭学長、俺が今日来ているのは知っているのかね?」

「さっき連絡を入れておきましたヨ?なんでも、『それなら仕方ない、絶対安静にするように見張っておけ。』というお達しデシタから。」

 手回しが早いと同時に、人の考えを汲み取る上手さも感じる彼。

「こういう時に関してはなんというか、…いや、学長への愚痴は止めておこう。」

 その方向での思考は放棄した彼。女性の勘というのは、案外馬鹿に出来ないのである。

 

 

「なあ、エレン。ちなみにさっきのは…。」

「さっきのコト、デスか?半分はジョークデスネ。」

「…ということは、もう半分は本気だったわけだな。」

 思わず変な汗をかく彼。少し黙っていたエレンは再度口を開く。

「……迷惑なのは分かってイマス。ただ、こうでもしなければ、無茶する癖がある貴方は迷惑をかけまいと思って行ってしまいますし、一緒に長く居れないと思ったのデス。…これじゃただのワタシのワガママ、デスネ。」

「そうだったのか。……よし、俺もごねるのは止すか。こっちからもゴメンな。」

「…何だか、お互い様になってしまったみたいデスネ。」

「どっちかっていったら、俺が悪いと思うけどな。」

 その後、二人でお茶を飲むなり、エレンが準備した氷袋をタオルにくるんで頭に当てるなどしながら、ゆっくり彼は傷を癒していった。

 

 

 

 

 それからしばらく。ぼーっとしていた彼は、ふとエレンの行動を思い返す。

「…そういえば、エレンが思い立った時に、その日の勤務後に俺に連絡するなりすれば互いの休みのやりくりもやり易かったと思うのだが。…エレンがそこまで抜けているとも思えないのがな…。」

 

 彼自身、誰かに誘われれば、予定が入っていない限り別に拒むようなことも無い。

 まして、舞草でも本職でも比較的付き合いの長い筈の彼女が、それを知らないとも思えなかった。

 

「ン?何か私のコトでも考えてマシタか?」

「いや。エレンは誘いをするなら積極的に動くイメージなのに、最近はあまりそんな風な素振りが無いのが気になってな。」

「Ah…。そのコトなんですが、ここ数ヶ月はアナタが忙しそうな感じだったので…。あんまり、こうした話をしたらマズイかな?と思いマシテ。なるべく避けていたんデス。」

 要は仕事で頭一杯なように見えた彼に、余計な迷惑や気遣いを掛けたくなかったという、彼女なりの優しさであった。

「そっか…。…今度、休み取った時にエレンとどっかに行こうかな。」

 

 そう何気なく呟いた彼の言葉をしっかり聞いていた彼女は、態度を急変させる。

 …勿論、良い意味でのものだが。

 

「ホントデスカ!?」

 急に彼の眼前まで顔を近づけるエレン。

「ちょ、エレン。近い近い。」

「あっ、ゴメンナサイ。」

 少し彼から離れる彼女。

「確かに最近、構う機会もあまりなかったしな。それに、エレンと色々意見を出し合いたいというのもある。休みの時でも、少しくらいは仕事のことを考えないとな。」

「貴方らしいと言えば貴方らしいデスネ。…カオルと違って、もう少し休んでもイイとは思うのデスが…。」

 だいたい一緒に居る親友の姿が少し頭をよぎった彼女。

 彼もワーカホリックではないにせよ、別ベクトルで仕事をやり過ぎることがあるので内心自重して欲しいとも感じてはいる。

「とはいえ、俺自身が女子連れてまわるような場所を知らないしな…。弱った。」

「ワタシは別にアナタが一緒なら、何処でも構いマセンが…。」

「…完全に趣味方向だぞ。それでもか?」

「むしろ、それなら貴方のコトを知るいい機会デスから、ワタシはOKデスよ!」

「えっ、…大丈夫かね…。」

 一応、どっちかといえば研究肌のエレンでも見る物が多い場所達ではあるが、普通の女子ならデート場所としてもドン引き必至な場所である気しかしない、そんなエリアセレクトが浮かんでしまった彼。

「……腹括って、少しマシな場所にするか。」

「なんだか青ざめた顔をしてイマスが、大丈夫デスか?」

「だ、大丈夫だ…。」

(エレンに引かれなきゃいいけどな…。今度から、もうちょっと若者の好みなデートスポットとか調べとくか。)

 今回は仕方ないにせよ、看病のお礼はしておきたいと考えた彼。

 

 …問題はその場所なのだが、これは後の話としてここでは伏せることとする。

 

 

 

 

 訪れた時には昼間だったのだが、もうすっかり夕方になった頃。

 トイレに行くべく、立ち上がろうとする彼。

「さて、ちょっと起き上がるか。」

「サッキみたいなのは無しデスよ。」

「分かってるって。だいたい逃げる理由も無くなったしな。」

 そう言って、ベッドから両足を着けてトイレに向かおうとする。

 

 

 …だが、踏み出し一歩目は部屋に転がるジュース入りのスチール缶によって阻まれた。

「ちきしょー!またかー‼」

 本日二度目の転倒。

 しかも今回は倒れる進路上に、座布団に座るエレンの姿があった。

「エッ、チョット待ってクダサイ!まだ、心の準備が…。」

「避けろエレン!」

 しかし、彼の思いは虚しく空を切った。

 半ば彼が彼女を押し倒すように、前に倒れていった。

 

 

 

 

 

 

「…大丈夫か、エレン。」

「…ハイ。」

 咄嗟にエレンの頭に左手を回したことで、彼女の脳に与えるダメージを最大限軽減した。ある意味、自衛隊などで積んだ身体能力の鍛えが、こうした状況で活きたのは良かったと思ったが。

「……エレン、先に言っておく。ゴメン。」

 ただし彼女と少し斜め向きになるように倒れ込んだため、右手は彼女の胸の上にあった。こんな時に発動して欲しくはない事態であった。

 普通の男なら、こうした状況では内心喜ぶなり、誤って手を動かしてしまったりなどのアクションを取るのだが、この時の彼の場合はかなり真っ青な表情を浮かべて直ぐに右手をどけた。

「…不可抗力なのは分かってイマスから、謝る必要は無いデス。…それよりも、守ってくれてアリガトウゴザイマス。」

 ちょっと赤らめるエレン。 

(いっそこのまま…。)

 そのまま一線を越えたって良いかもしれないとも考えたが、彼の表情を見てそんな考えも吹き飛ぶ。

(…やっぱり駄目デスネ。そんな顔をされては、コチラも困ってしまいマ~ス…。)

 若干無言だった彼は、上体を起こし少し口を開く。

「…ゴメン、どうやら血の気がちょっと引いたみたいだ。」

「それだけ呆然としたような顔なら、そうデショウネ。」

 そう答える外ない彼女。

 かなり気まずい空気が流れる。

(誰か来てくれマセンカネ~。…というか、そこまでワタシは魅力が無いのデスカ!?)

 色々思うところはあるエレンだったが、この空気感をブレイクする人間の存在を期待した。

 

 

 

 

「お~い。なんか凄い音がしたんだが?エレン、大丈夫か?」

 意外とすぐにやって来た展開は、まさかの親友の登場となった。…修羅場の巡り合わせともなったが。

 

 

 

 

「…おいお前。取り敢えず、さっきの状況を説明しろ。」

 薫によって正座させられる彼。

「薫、落ち着いてクダサ~イ。彼はただ「エレン、少し静かにしていてくれ。」…ハイ。」

 エレンは薫を冷静にさせようとしたが、思った以上にマズい雰囲気が流れる。

 親友に口出しを止めるほどとは、相当なものであったことが窺える。

「で?エレンに何をしようとしていたんだ、お前は?」

「…さっきまで看病してもらっていたんだが、トイレに行こうとした時にこけた。その時、倒れた先にたまたまエレンが居たんだよ。…押し倒したのは事実だし、不埒な行為に及んだように見えても仕方ない。」

「それで、どうしたい?」

「俺は弁明する気もない。…いっそ、さっきの言葉を信用できないなら、俺をここで斬り伏せてくれてもいい。エレンのことが大切なら、尚更だ。」

「…お前の言っていることは分かった。ねね、すまないがちょっと離れていてくれ。」

「ね?」

 頭上のねねを部屋の机上に置く。

 薫は普段持ち歩く《祢々切丸》…ではなく、 カーボン製の木刀を取り出す。

「十秒、時間をやる。お前の言葉の真偽はそこで分かる。」

 簡単に言えば、その十秒間で何もなければ信じるということである。…逆に言えば、木刀で頭を叩き割られる可能性もあるということだが。

 

(…何事もやったことの責任は付く。むしろ、エレンを想うならやってくれ。)

 

 彼は薫に打たれることを覚悟した。

 親友に手を出しかけたも同然なのだから、当たり前といえばそうだろう。

 

 

 

 

 …だが、木刀の一撃は一向に彼に向かってこなかった。

 

 

 

 

(…どういうことだ。…薫は信用したのか、俺の言葉を?)

 考えているうちに、十秒を通り越し三十秒経っても何も動きがなかった。

 

 

 事態が動いたのは、薫の言葉からだった。

「エレン。なんで、オレの前に立ちふさがる。」

「例え薫でも、彼に手を出すのを黙って見過ごすつもりはアリマセン。」

「コイツがお前をケダモノの如く襲おうとしていてもか?」

 薫の怪訝そうな顔に、エレンは少し頬を緩めて穏やかな顔を彼女に向ける。

 

「…彼は絶対にそんなことをしませんヨ。寧ろ、ワタシから距離を常に置きたがってイマスから。」

 第一、彼がもしそんなつもりならもう少し激しく抵抗しているはずだと、エレンは言う。

「大体、彼はワタシの体を触っても喜ぶどころか直ぐに謝ったのデスヨ?…本当にその気なら、倒れる時にワタシの頭に手なんか回しませんヨ。」

(まあ、後で色々問いただす必要はアリマスが。)

 同性愛者などであるならまだしも、そうでは無い男がエレンに全く欲情しないというのも、流石にどうなのかと思った彼女。

 遠回しに薫へ、彼の言ったことを信じろと言っていたのである。

 

 長い双方の沈黙の末、遂に薫がデカい溜め息を吐く。

「……はぁ~。…オレの負けだよ、バカエレン。」

 木刀を仕舞う彼女。

「そこまでお前が言うなら、信じてやる。…害虫の如く付きまとうなら斬り伏せるが、それでもいいんだな?」

「…本当デスカ?薫?」

「アイツをそこまで信用しているんだ。オレが口出す部分じゃ、無いだろうしな。」

 薫はそう言ってエレンに微笑む。

「薫~!!」

 ムギュッと薫を抱きしめるエレン。

「おい!急に何だよ全く…。」

 口ではそう言う薫だったが、体はエレンの動きを受け入れていた。

「…結局俺は、薫に信じられたのか…?」

 一人傍観する外ない彼は、二人の時間が終わるまで静かに待つことにした。

 

 

 

 

 その後、薫から何とか一部の誤解を解いた彼。

「色々すまなかったな。」

「もとを正せば俺が悪い。…すまない。」

「止せ。…こっちもこっちで悪かった。そうとは知らず。」

 薫と彼、双方が謝る。

「薫~、どうせなら今から三人で学食に行きませんか?」

 横からエレンが、そんな提案をする。

「全く、エレンは…。仕方ないな。お前はどうする?」

「薫が良ければご一緒させてもらうが?エレンは言わずもがなだし。」

「薫~。お願いシマ~ス!」

 顔の前で両手を合わせて薫に懇願するエレン。

「…ったく、しょうがないな。変なことをしないことが条件だ。」

「ソレって…。」

「折角のエレンの頼み、断る理由は無いしな。一緒にお前も来い。」

「…ありがとう、薫。」

 

 

 その後、三人は長船の食堂で夕食を食べる。

 全員、先ほどまで剣呑な雰囲気であったとはとても分からないほど、笑顔で食事と話を楽しんでいるようであった。

 

 

 これは可奈美達と出逢う、遥か昔の出来事であった。




ご拝読頂きありがとうございました。

因みに、本編中でエレンが主人公を『ダーリン』ではなく『アナタ(貴方)』呼びしている件ですが、まだこの頃はそこまで深く親密になっていなかったということを表しているためです。


話は変わりますがとじとものエレンの振袖姿、かなり良いですね。
運良く引けたことが、逆に不安になった筆者ではございます。

あと数日でみにとじが始まるのを楽しみにしつつ、執筆を続けます。

次回ですが、一話だけ番外編を挟みまして再び可奈美編に戻ります。
それでは、また。
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