刀使の幕間   作:くろしお

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どうも、くろしおです。

今回はエレン編その4 後編です。
申し訳ありません、今話も長いです。

二人が大宮駅を出発するところから始まります。
時系列が少しややこしくなっておりますので、ご注意ください。

それでは、どうぞ。


⑥ 優しさと危うさ

 ー数ヶ月前 ニューシャトル 大宮駅ー

 

 大宮駅から、六両編成でやってきたニューシャトル*1の列車に乗り込む彼とエレン。

「電車?でも何か違いマスね。」

「ああ。ニューシャトルは新交通システム、モノレールとかと一緒の括りにされている交通機関なんだ。これでも、一応鉄道の括りなんだよな。」

「ソウなのデスか。」

『間もなく、内宿行き電車が発車致します。閉まるドアにご注意ください。』

 

 静かに閉じられるドア。発車のブザー音がしたかと思うと、ゆっくり進み始める。

 

「結構高いところを走るのデスね。」

「新幹線の高架とほぼ同じ高さを走るからな。」

 進行方向左手にはJR東日本の大宮総合車両センター、右手には新幹線の線路が見える。

「さて、そろそろか。エレン、降りる準備をしてくれ。」

「エッ?もうデスか?」

「一駅だからな。」

 彼女が車内のLED表示機を見ると、

『次は 鉄道博物館』

 という文字が出てくる。

 電車は静かにホームに滑り込む。

 ドアが開くと共に、子供連れの家族や老人が降りていく。

「エレン、ちょっと手を借りるぞ。」

「エッ!?」

 人混みに紛れないように、彼女の手を引っ張る彼。

 

 一旦、ホーム上のベンチに腰掛ける二人。

「もう、急に引っ張るなんて、ワタシもビックリデス!」

「ゴメン。この駅はそのまま人波に呑まれる可能性が高いから、仕方なくな。」

「…別に怒っているワケでは無いデスよ。ちょっと強引でしたケド…。

 少し顔を赤らめる彼女。

「ん?エレン、顔が赤いが大丈夫か?」

「だ、大丈夫デ~ス!」

「おっ、おう。…んじゃ、行くか。」

 二人はエスカレーターを下り、彼の目的地のコンコースを目指す。

 

 

 

 

 ー埼玉県さいたま市 鉄道博物館ー

 

 東京にあった旧交通博物館。ここに所蔵されていた鉄道に関する貴重な史料を、建物の老朽化が進む中で別の場所に移設させようという試みが検討されていた。

 その際、旧大宮市*2がこれらの誘致に名乗りを挙げたことから始まった、国内初の超大型鉄道博物館の建設。名古屋市や京都市にも同様の施設はあるが、それに繋がる切っ掛けを生み出したのは、他でもないこの場所である。

 

 

 彼やエレンが来た際にはまだリニューアル工事の最中であったこともあり、展示が見られないエリアもあったが、多くのエリアは見学することが可能であった。

 交通系ICカードで入館ゲートを通ると、目前には待ち合わせ場所にもってこいな彫刻と、レストランの一部、客車の台車が見える。

 

「博物館と聞くと、もうちょっと堅いイメージがあったのデスが、そうでは無さそうデスね。」

「ここは基本、鉄道にあまり詳しくない人でも見てもらえるような風にはなっているからな。」

 

 

 

 

 二人は館内パンフレットを貰い、鉄道車両の展示エリアに進む。

「エレン、以前から研究職が志望だったよな?」

「ハイ。もし、刀使でなくなった時はグランパ達のお手伝いがしたいデス!」

「…もしかしたらだが、こういう施設の展示が役立ったりするかもしれないな。」

「どういうコトですか?」

「ちょっと話が寄り道になるが、遥か昔から存在した、言わば日本古来からある御刀と異なり、日本の鉄道技術はイギリスからもたらされたんだ。当時の研究者や技術者達は『日本式』の鉄道技術の確立に、非常に長い時間を要してきた。これは御刀やノロの研究でも同じことなんだが、何度もトライアルアンドエラーを繰り返してきたから、今の日本の鉄道技術があるんだ。」

「…別のアプローチから見えるモノ、デスか。」

「相模湾大災厄も、そういう意味じゃエラーだったのかもしれないな。ただ、あのことは博士に責任が無いことだけははっきり言える。」

「グランパがノロの研究に付きっきりナノも何だか分かる気がシマ~ス。」

「技術や研究は、誰かが必死になって積み上げてきたことの成果だからな。」

「こんな昔の電車とかも、色んな人が携わって作っていったのデスね。」

 古い電車の横を通りながら、回想にふける彼女。

「…最も、鉄道分野での女性の社会進出は比較的最近の話なんだがね…。」

「それは意外デスね…。」

 

 

 

 

 二人は中央に鎮座するSLに近づく。

「これが日本で最後の定期旅客列車を牽引した蒸気機関車だな。」

「この大きな車輪は何デスか?」

「これは動輪って言ってな、蒸気機関で得られた力をシリンダーとこの長い棒(主連棒)を介してこの車輪に伝えていたんだ。」

「なかなかゴツゴツしてマスね。」

「直径が大体二メートルあるかくらいだな。」

「写真を撮ってもらってもイイデスか?」

「ああ。自分の体との比較か。」

 何枚かパシャパシャと撮る。フラッシュは切っている。

「アリガトウゴザイマ~ス!」

「いや、こっちこそ。さて、奥側も回るか。」

 

 

 

 

 次に見に来たのは電気機関車と貨物車のブースだった。

「アッ、コレはよく見かけマスね!」

「コンテナ車か。確かによく見かけるな。」

「ン?後ろの白いのは何デスカ?」

「あれは冷蔵車。昔は魚とか運ぶのに使ってたんだが、トラックに押し負けてな。完全な形で生き残った唯一の車両だ。」

「だから、魚の積まれたイメージで置かれているのデスね!」

「…理解の早いことっていいことだよな、よな?」

 彼に言葉を返す相手はいない。

 

 

 

 

 その後、国鉄時代の特急車両を見回ったり、日本の鉄道で混在する交流・直流の転換をどう行うかを実物展示で見たりしながら、階段を上がる。

「取り敢えず、あそこの展示を見るか。」

「あの長いパネルみたいなやつデスか?」

「そう。…確か、荒魂被害によるものも載ってたりするんだよな。」

「今では緊急停車するコトが多いデスが、昔はそうではなかったのデスか?」

「今ほど通信技術が発達していなかったからな。…荒魂と衝突して脱線したり、乗っていた時に荒魂の攻撃によって死傷した人達もいただろうな…。」

「ソレを防ぐのは、今も昔もワタシ達刀使デスね。」

「荒魂が出現し続ける限り、な。」

 

 

 

 

 展示パネルを見ていた際、ふとその反対側を見たエレン。思わず下の光景に息を呑む。

「…スゴいデス。」

「ここはこの展示エリア全体を一望できるしな。…おっと、そろそろ時間だな。」

「?何のデスか?」

「下を見たら分かるぞ。」

 彼女はフェンスから少し身を乗り出し、サークル状に縁取られた柵の中に囲まれる先程のSLを見る。

「一体何が始まるのデスか?」

「エレン、ちょっと耳を塞ぐぞ。」

「エッ?どういう…。」

 そのまま、彼が音が少し聞こえる程度に優しく耳を塞ぐ。

 

 

 

 

 ボオォォォォーッ!!

 

 

 

 

 中央のSLから、建物内に響き渡る大音量の汽笛。

「イ、イマのは一体…。」

「……ちょっと耳が立ち直るまで待ってくれ。…グワングワンしてるから。」

 エレンの耳を塞いだことで、カバーが出来なかった自身の耳内の感覚の正常化に少し時間がかかる。

「よし、治った。」

「…大丈夫デスカ?」

「なんとか。多分ここに来るのは初めてだから、エレンは驚くと思ったんだ。咄嗟のこととは言え、すまない。」

「イ、イエ。おかげで、ワタシの耳は守られましたから。…ソレで、サッキの汽笛は?」

「決まった時間に、あそこに置かれている蒸気機関車から汽笛が鳴らされているんだ。鳴らす音量も調整してくださってはいるんだが、何分音が外に抜けないから反響が凄くてな。初めて聞く人はビックリするだろうな。…俺も最初に来たときにはビックリしたもんだ。」

「教会の鐘、みたいなモノデスか?」

「イメージとしてはそれに近いだろうな。下の博物館の人の説明と共にまた汽笛が鳴らされるから、展示パネルは一旦後にして先に昼食を摂ろう。」

「ハイ!…。」

 

 

(…さっきのは偶然だったのか、判断がつかないデスネ…。でも、館内の女性に全然見移りしないというコトは、元々そういう対応をするというコト、デショウね。)

 二人で展示パネルを見る前には、二人組の女性が館内の行きたい場所を彼に尋ねてきたのだが、愛想良く行き方の手順を教える他はいつも通り距離を置く雰囲気を漂わせた。

(…ハッキリ言って、謎ばかりデス。人が良いのに…。なんで、ワタシ達から距離を置きたがるのか。)

 

 

 人の持つ、所謂パーソナルスペースはそれぞれバラバラだ。エレンの場合、それはあまり無いに等しい。これ自体は何らおかしな話ではない。それだけ、人とフレンドリーに接することが出来るとも言えるからだ。

 しかし、彼の場合はそのパーソナルスペースが可変するため、彼女は違和感を覚えてしまっていた。近づいたと思ったら気が付かないうちに彼が離れていたり、かと思ったら先程のように普通に最善手を打ってきたりと、彼女でもそこは驚くほかなかった。

「…ますます興味深くなりマスが、普段からこんな感じ、なのデショウね。」

(舞草でも話すことはアリマスが、改めて思うに不思議な人デス。)

 そんなことを思いながら、彼の後ろを追っていた。

 

 

 

 

 そして事件は起こった。

 彼とエレンが、鉄道ジオラマとエントランスに通じるエスカレーターとの間にある、少し広めの通路のあたりで話していた時だった。

「どけどけ!」

「ン?」

「コレクションギャラリーの方からだ。…ただ事じゃ無さそうだな。」

 女性の博物館員を押し倒しながら、そこから出てくると此方の方に向かってくる中年くらいの男。

 ハンチング帽と茶色のレトロ調なジャケットを羽織った男は、ポケットからサバイバルナイフを取り出し、振り回し始める。

「そこの女!お前のそのカバンを寄越せ!死にたくなければとっとと離せ!」

「マズい、彼奴エレンを狙ってやがる!」

 周囲には男性しか居らず、明確に彼女をターゲットにしていることが分かる。

「このカバンは、グランパ達からの贈り物なのデスが…。御刀が無い以上、仕方ないデスね…。」

 彼はエレンがカバンを手放す際に見せた、もの悲しげな顔に感情を突き動かされていく。

(…素人がナイフ一つを振り回すだけ、衝動的な行動だな。…なら。)

 彼は、男がエレンのカバンを取った後の動きに備える。

 

「そこの嬢ちゃん、素直でいいこった。コレは有り難く貰っていくぜ。」

「…グッ。」

 刃先を彼女に向けながら、易々と床に置かれたエレンのカバンに手を掛ける男。彼女は普段絶対に見せない、憎悪に近い感情をさらけ出していた。

「エレン、心配するな。すぐ取り返す。」

「エッ?」

 その時、後ろに備えていた彼が彼女の耳横で小さく声を出す。…彼女も、彼が何を言っているのかよく分かっていなかったが。

 

 

 カバンを拾い上げた男は、一目散にエントランスに通じるエスカレーターへと走り出す。

「待てやこの野郎!!」

 エレンを人質にとるパターンなど複数の行動を予測していた彼にとって、男のとった行動は最も対処し易いものだった。

 そのまま男を猛ダッシュで追跡する彼。

「チョット待ってくださ…。…行ってしまいマシタ。」

 下から大声が上がるなか、彼女は彼の行動を止めることが出来なかった。

 

 

 

 

「おい待て!そこの男!」

 エスカレーターを駆け下りる男。

(…博物館員さん達、すみません!)

 彼は長いエスカレーターの途中から飛び出し、下階の通路へショートカットする。

(下に人は無し!受け身は取れるな。)

 一旦着地の際に前転して、内臓等にかかる負荷を軽減する。

「待てコラ~!!」

「クッ、しつこい!」

 退館ゲートを強行突破する男。

「すみません!通ります!…待てー!!」

 彼もやむなく通過する。

「!?」

 男はエントランス前方にある、二重の扉に顔をしかめた。当然ながら、警備員がここには立っている。

「どけ~っ!死にたくなけりゃ、扉を開けろ!」

 サバイバルナイフを振り回す男。だが、遠くからでは警備員も何を振り回しているのかが分からなかった。

 当然ながら、扉は締切状態のままだ。

「クッソォ!」

 両サイドはトイレなどで行き止まり。

 前方の扉は閉鎖、後方からは彼の接近。半ば詰み状態の男。…これが何の武器も持っていなければの話だが。

「とっとと開けろ!」

 入口付近でナイフをかざしながら、ギリギリと警備員達を睨みつける。

 

「せい!」

「グハッ!」

 

 直後、追いついた彼が男の後頭部に膝蹴りをかます。

 あまりに急なことだったため、男の右手からサバイバルナイフが離れる。ナイフはそのまま人のいない方向へ、カランカランと音を立てながら滑り落ちる。

「観念しろ!」

「この野郎!!」

 後頭部に膝蹴りを喰らってもなお、未だに意識をもっていた男。普通、脳震盪くらいしそうなものだが意外と耐久力があったようだ。

 ただし、ナイフが今手元に無いのなら話は別だ。

「はっ!」

「クッソ、やってやる!」

 ボールペンを突き出す男。確かに先端は脅威だがそれだけだ。

「はあぁぁーっ!」

 彼は男の腹部に猛タックル。男に突っ込む直前、頭突きするように真っ直ぐ向かっていったこともあり、男の鳩尾にも深く突き刺さる。

「グホッ…。」

 壁と化していたガラス扉と彼に挟まれ気を失う男。そのままのびてしまったようだ。

 過剰防衛にならないよう、仰向けに気道を確保した状態で寝かせる。

「…制圧完了。警備員さん、警察が来るまでこの人を事務室かどこかに入れておいてください。」

「あっ、ああ。」

「…それとすみません。館内に戻っても大丈夫ですか?半ば緊急事態だったもので、連れの人間を置いてきてしまっているので…。」

「はっ、はい…。」

 彼に向けて、引きつった顔を見せていたような気がした警備員であった。…突然、冷静な口調になる方が怖いというのも当たり前なものだとは思うが。

 

 

 

 

 その後、埼玉県警の警察官達がやってきて、彼とエレンは事情聴取と現場検証を受けた。

 刀剣類管理局の身分証明書を提示した彼は、鉄道博物館の職員の方にもご迷惑をおかけした旨を謝罪した。

 

「申し訳ありません。犯人を追うためとはいえ、来館者の皆様や職員の方にもご迷惑をおかけ致しました。」

「いえ、貴方のお陰様で職員を突き飛ばした者を捕まえることが出来ました。ありがとうございます。」

 博物館の代表者が此方にお礼を告げる。

「いえ、彼女の大切な物を取り返すために無我夢中したから。一番労われるべきは、犯人を館内に留めた警備員さん達ですから、お礼は其方の方にお願いします。」

「謙虚な方ですね。」

「いえ。俺はこの場所が好きですから。…それで、突き飛ばされた職員さんは?」

「ちょっと擦りむきましたが、命に別状はありませんよ。」

「…それを聞いて安心しました。怪我をされた方にはお体を大事になさるよう、お伝えください。」

「はい。…後日、博物館の方からお礼をさせて頂きますが、よろしいですか?」

「…ええまあ、はい。分かり、ました。」

「それでは、失礼致します。」

 応対していた博物館員の方を見送る彼。

 

 

 そして、先程まで蚊帳の外だったエレンが彼の横にやってくる。

「スッカリ人気者デスね。」

「まさか。俺は、あの時動かなきゃならないと思っただけだよ。…それとこれ。」

「コレは…。」

 彼が彼女に手渡したのは、男に盗られたはずのエレンのカバンだった。

「埼玉県警の人から、証拠保全は済んだから返すと言われてな。中身は全部無事か?」

 一通り中を確認した彼女。

「……ハイ!アリガトウゴザイマス!」

「そうか。…良かった。」

 彼は胸を撫で下ろした。だが、彼女の肩が急に震えだす。

「…グスッ。」

「えっ、大丈夫か!」

 急に涙を見せる彼女。

「…カバンを取り返してくれたのは嬉しいデス。…デモ、アナタに何かあったらと思うと、心配で心配で…。」

 自身の胸の前に手を置く彼女。

「…大丈夫だ。その証拠に、俺はピンピンしているだろ。武術の心得が無さそうなあのオッサンなら、俺でも対処出来ると思ったから、追いかけたんだし。」

(ただエレンを人質に取られてたら、流石に俺でも容易に手出しはできなかっただろうな。)

 これは今の彼女に言うと追い討ちをかけ兼ねないので、黙っておく彼。 

「…このまま、泣いていいデスか?」

「…それでエレンが落ち着くなら、存分に泣いてくれ。」

 彼女の家族の思い出を取り戻したのは良かったが、彼女に心配を掛けてしまったことは反省しなければ、と心内に思うのだった。

 …思えば、この頃からエレンには迷惑や心配を掛けてばかりなのだろうが。

 

 

「落ち着いたか?」

「ハイ。」

「なら、いい。…昼食はどうする?」

「駅弁、まだアリマスかね?」

「…下の売店にまだ残ってりゃいいけどな。」

 その後、まだ売れ残っていた駅弁を旅情溢れる保存車両内で食べ、鉄道博物館内の再散策に戻っていった。

 二人にとって濃密な時間だったか、と言われるとそういう訳ではなかったが、エレンにとって彼の関係の転換点になったという点では、非常に重要な出来事だったと言える。

 

 

 

 

 鎌府に戻り、エレンと別れる時が来る。

「今日は色々と助かりマシタ。明日になったら、長船に帰らないと行けないんデスヨネ…。」

「企画も終わっちまったしな。俺も明後日からはまた忙しい日々だわな。」

「…ソレでなんデスけど…。」

 彼女は、強盗から取り戻したカバンから、リボンなどで装飾された小箱サイズの紙箱を取り出す。

「ワタシの手作りチョコレートデス。…一応言ってオキマスが、男の子に贈るのは初めて、デスヨ。」

「いいのか?俺が貰って。」

「ハイ。今日のお礼デス。」

(ホントは、内緒で作っていたのデスケドネ。)

「…ありがたく、頂いていこう。」

「じゃあ、また明日デスね。See you tomorrow!!」

 そのまま、鎌府の学生寮へと彼女の姿は消えていった。

「お返し、どうすっかな…。」

 彼は来月のホワイトデーに、彼女へどう返すべきなのか悩むのであった。

 

 

 

 

 ー現在 鎌府女学院 休憩スペースー

 

 携帯の壁紙のうち一面には、彼と一緒に鉄道博物館で撮った写真を載せていた。

「…あの時は大変デシタが、ダーリンの必死な姿を改めて知ることが出来マシタ。」

 あれから彼のことを自然と「ダーリン」と呼ぶようになった。

 それから彼は、御前試合の一件以降の混乱のなかでも裏で手を回したり、折神家へのS装備射出用コンテナによる起死回生の一手の際も、可能な限り闘いやすい状況を作っていた。

「…ダーリン。異性として距離を置かれるのは、やっぱり嫌デス。…例え、アナタの言葉が正論だとしても。」

 

「お~い。エレン、居るか~?」

「アッ、ダーリン!お帰りナサイ!」

「ダーリン呼びは止してくれって言ったろうに。」

「何か言いましたカ?」

「いや、何でもない。」

 彼女に、口で勝つのはそう簡単ではないと改めて感じる彼。

 

 

 

 

(それでも、ワタシはアナタのことが大好きです。…例え、アナタに好きな人が出来ようとも。)

 彼女の意思は、なお揺るぎないものであった。

*1
正式名称は埼玉新都心交通伊奈線、ニューシャトルは通称。ここでは分かりやすく後者で統一している。

*2
現在のさいたま市大宮区を形成するエリア。




ご拝読頂きありがとうございました。

今話でメイン六名の話が六話分揃ったワケですが、今更ながら各話とも結構書くのが大変でした。
その一方、早くくっつけるべきなのか否なのかという、この手の話では難しい舵取りを迫られることがあります。
あまりに中間経過をすっ飛ばして付き合うなどとなったら、それはそれで読者さん達からすれば意味が分からないという方も出られますし、かと言ってそのまま何も起こらないというのもどうなのかというのも正直思いとしてはあります。勿論、そうしたアプローチの作品も有りますのでそこを否定するつもりもありません。
「突発的な恋愛」をなるべく排する方向がいいのかは悩ましいところではあります。(現実でも多いので)

筆者の力量不足な部分も多々ありますが、こんなSSでもお付き合いして頂いている読者の皆様方には改めて感謝の念が絶えません。ありがとうございます。

次回以降は番外編等挟みまして、親衛隊・紫編への執筆に移ります。
…結芽・夜見編はどうすべきなのか、未だ思案中です…。現状は、なるべくアニメ本編から逸脱し過ぎないようにはするつもりでいます。

それでは、また。

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