刀使の幕間   作:くろしお

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どうも、くろしおです。少し間が空きました。

今回はエレン編その6 中編になります。
…文量が基準を超えそうだったため、やむなく分割いたしました。

今話は本作で以前登場していた、とじとものサポメンが再び登場いたします。

それでは、どうぞ。


⑨ 親友の助言

 ー群馬県渋川市 某山間部駐車場ー

 

 荒魂の軽い探索に入っていた彼とエレンだったが、雨が酷く降り始めたこともあり、急いで車へと戻っていた。

 

 刀剣類管理局のプリウスに駆け込むと、彼は後部座席に置いていたライフルケースに89式小銃を入れ、背負っていたミリタリーバッグを放り込む。

「これで取り敢えずよし。」

 先に助手席に乗っていたエレンが、運転席へ戻ってきた彼に声を掛ける。

「全く、ヒドい目に遭いましたネ。」

「そうだな…って、エレン!?」

 思わず大声を上げてしまったが、無理もない。

 彼女の方を見た時に、下着の色がはっきり分かるくらいの制服の濡れ具合だったからだ。

 

 こうした時の彼の対応は、早かった。

「えーっと、タオルタオル…。」

「…別に、ダーリンにならワタシは見られても平気デスけどネ。」

「いや、そんなビショビショに濡れてたら風邪引くだろ!?すぐに拭かないと。」

 先ほど後部座席に放り込んだミリタリーバッグから、スポーツタオルを取り出す。

「取り敢えず先に、頭を拭こうか。後頭部をこっちに向けて。」

「コウ、デスか?」

「なるべく髪を痛めないようにするから。…少しの間だけ、じっとしていてくれ。」

「…ハイ。」

 

 幸いにも周囲の湿度が高かったこともあり、フロントガラスとドアガラスが湿気で白くなったため、外からエレンのあられもない姿を見られる心配は無かった。とはいえ、車中で彼女と近い距離にあった彼は、心拍数の高まりを感じつつも、無心で彼女の髪や頭を拭いていく。

 

「…よし、ある程度はマシになった。後で風呂には入らないといけないだろうけど。」

「…ダーリン、できれば体の方も拭いてもらえると助かるのデスが。」

「前は流石にマズいだろうが…、後ろだけならいいか?」

「お願いシマス。……。」

(…?あれ、いつもなら冗談混じりに前も拭いてみれば、とか言ってきそうなものなんだが。)

 ちょっとした違和感は感じたものの、エレンはそれ以上何も言わずに背中を向ける。

 

 雨で酷く濡れた制服と、透過して見える黒い下着の生地の感覚がタオル越しにも伝わる。背中の下着の盛り上がりを見るに、バックホックタイプのブラジャーであることが分かったが、それをうっかり外さないように、その場所だけは意図的にタオルで押さえるように水気を抜く。

 

(…こっちもこれでよし。)

「エレン、上の前側とスカートは自力で拭いてくれ。」

「アリガトウ、ゴザイマス。ちょっと待っててクダサイね。」

 彼からタオルを受け取り、前側を拭いていく彼女。

「ああ。…どのみち、その姿だと発進は出来ないから、待ちはするさ。」

「…やっぱちょっと冷えますネ。」

「暖房は…ごめん、まだ点けられない。今点けると、エレンの濡れた姿が丸見えになっちまう。」

「タオルは、もう一枚アリマスか?」

「えっと…。あ、ある。」

 バックから別のタオルを取り出して彼女に渡すと、それを胸周りに巻きつける。これによって、下着が隠れる。

「コレなら、どうデスか?」

「…それなら大丈夫だろう。エレンの体が冷えても大変だし、暖房もすぐ入れよう。」

「サテ、急いでホテルに戻りまショウか。」

「シートベルトは…しているな。じゃ、出発。」

 二人を乗せたプリウスは、一路滞在予定のホテルへと向けて下り始めた。

 どこかぎこちない雰囲気が流れたものの、その間も雨足は徐々に強まりつつあった。

 

 

 

 

 ー群馬県渋川市 伊香保温泉街 某ホテルー

 

 チェックインを済ませると、足早に部屋へと駆け込んだ二人。…経費削減とはいえ、年頃の男女を同室に寝かせるというのは、情操上大丈夫なのかという点で気掛かりだった。今回の裁可を出したのは、エレンのところの学長でもある真庭本部長であるため、お上が良しというのならばそれに逆らうのは逆効果になり兼ねないため、彼もやむなく承諾している。

 

(とはいえ、ツインならともかく、ダブルベッドか…。しかも分離不可能って…。謀りましたね、真庭本部長。)

 室内にあるベッドは、ただ一つであった。

 車内で寝る選択肢もあるにはあるのだが、寝にくいうえに体にもあまりいい影響を及ぼさないため、諦めた。

 部屋そのものは比較的広いものではあったが、彼とエレンの着替えなどを考えると、ワンルームタイプが良いとは必ずしも言えなかった。

 

(エレンが迫ってくるのが悪いとか、そういうのが嫌とは思わない。……が、かと言ってなるべく刀使達を性的な目で見ないように過ごしてきたのは、自分自身のためでもあったわけだし。)

 彼自身も頭では分かっていた。刀使やサポートにあたる少女達を、少なくとも恋愛対象から外していたのは、身近で親しい人を失う悲しみを経験させるわけにはいかないし、したくもないというのが大きかった。何だかんだ理由を付けて避けていたのも、それがただの詭弁であり、意図的に予防線を張っているのに他ならないことも。

 

 好意を向けられていても、気付いたものでさえそこから逃げてしまっている事実に対して、彼女達の想いへ目を背けてきた負い目は正直あった。特に彼へのアタックが強いエレンに関しては、尚更その気持ちが強かった。そうであっても、今更その考えを変えるというのも、既に遅いような気がしてならなかった。

 

 照明で明るく灯されているはずの室内ではあったが、彼の表情は硬く暗かった。

 

 

 

 

 大雨で濡れたエレンは今、バスルームでシャワーを浴びながら、冷えた体を洗い流していた。温水に当てられた彼女の身体中には、水滴が多く留まり、先ほどの雨中の姿とは異なる雰囲気を放っていた。

(…あれから、ずーっと考えてマスが、ダーリンはワタシ達刀使を『個人』として見ているワケではなく、『荒魂を祓うのに失ってはならない存在』としての側面を強く抱いている、というコトでしょうか。)

 

 エレン自身がこの結論を出したのは、彼女からすれば気持ちのよいものではない、彼自身の生死を問わない行動や判断、更には日頃の言動等も大いに関係している。

 つまるところ、彼自身は自分の価値を過小評価し、自身の替えがきくと考えてあれこれやっている。だが、他の人間がその立ち位置に入ろうと思ったら、容易くいくものではないレベルまで物事を進めてしまうという、彼の本意とは逆に自身への依存度を高めている結果へとなっていた。一般論としてそうなってしまうと、その者が抜けた時の反動は非常に大きなものとなる。

 無論、それに気が付いたエレンの祖父、フリードマンはエレンを介して暗に無理をするなと言っていたのだが、彼はその手の話では裏を読むことがなく、最後には過労という最悪の形にならない限り動き続けるという、まるで融通の効かないロボットのような行動形態になっている。

 

(…Actionにはactionで示せ、多分ダーリンならそう返してきそうな気がシマス。ただただ、色仕掛けをし続けてもheartを動かせなければ意味がアリマセン。…ワタシなりのダーリンへの答えが出せるといいのですが…。)

 難しく悩むだけ意味はないかもしれないが、彼女なりの彼への想いがある以上、どこか鬱々としたものをずっと一人で抱えているその姿を晴らしたいと考えるのは、彼女自身の持つ優しさもあろう。

 

 

 

 

「ダーリン、上がりましたヨ~。」

 バスタオル一枚で胸から太ももを覆うエレン。どのみち着替えを入れたキャリーケースは部屋の中であるため、バスルームからは出る必要があるのだが。

「…?ダーリン?」

 室内に居る筈の彼から、返事が聞こえなかった。

 彼女がバスルームから出てベッドの方に向かうと、バスルームの方を背にして簡易テーブルへ突っ伏したまま、椅子上で目を閉じた姿を晒す彼が居た。

(…疲れて眠ってしまったのデスね。今日は朝から、ダーリンはずっと動き続けていましたし、無理もないデスね。)

 今のタオル一枚の姿だと、彼が起きた時にどんなリアクションを取るのか予想できないため、早めに着替えようと思った彼女。

 

「…エレン…。」

「!?」

「…Zzz。…Zzz。」

「…寝言、デシタか。」

 急に自分の名前を呼ばれるとは思わなかったが、彼の顔を覗き込むと目はまだ覚めていなかった。

「一体、どんな夢を見ているのデショウか。…ワタシのコトでも考えていたりするのデショウかね?」

 それはそれでいいな、などと思っていたのだが。次の寝言に、彼女の体は固まる。

「…ゴメンな、エレン。…何もしてやれなくて…。…ごめん…。」

 どうやら彼の深層意識が、眠っている間無意識に表へ引き擦り出されてきたらしい。

 

 思わず時が止まった彼女だったが、何も言わず眠っている彼の手に自分の手を重ねる。

「…謝らなくて、イイんデスよ。…ずっと、一人で頑張り過ぎなんですヨ、アナタは。だから、…だから放っておけないのデス。ワタシは。…アナタが好きだから。」

 本当ならば、起きている時に言う方が良いに決まっている。

 内心狡い女だと思いながらも、それでも彼女は寝ている彼を安心させたかった。

 

 …するとどうだろう。彼の眠る表情が苦しそうなものから、少し安心した時のものへと変わったように、彼女には見えた。

「…ダーリンが起きる前に、早く着替えてしまいましょうカ。」

 彼から一度離れると、室内にあった毛布を彼の背中に掛けるエレン。

 起きてきた時に備えて、バスルームで着替えを済ませることにした。彼が起きてきたのは、それから二、三時間が経過してからだった。

 

 

 その後、彼は再度眠るまでの間、エレンの姿を直視できない時間が続いた。

 というのも、日本人の体格に合わせたサイズであるホテルの浴衣では、エレンのダイナマイトボディが強調されるようなことになっていたからだ。かといって浴衣からまた着替え直すというのは、彼女へ申し訳ないと思ったため、彼は色っぽさを纏った彼女から漂う、一般的な男性としてはつい性的に刺激されそうな誘惑を、一晩耐えきって無事何事もなく翌朝を迎えた。

 エレンが同じベッドで、かつ隣で眠っている状況下でも、彼の理性は凌ぎきったという点は、後々判断に困るものではあったようだが。

 

 

 

 

 ー翌日 群馬県渋川市 某ホテル 大浴場ー

 

 昨晩は大雨のためシャワーを浴びてしまい、伊香保温泉の引いてある浴場へは足を運ぶことができなかったため、起きて早々に朝風呂へ向かったエレン。

 

「はあ~。分かってはいましたガ、やっぱり何もしてきませんデシタね。ダーリン。」

 むしろ、自分が起きた時に彼の姿を見ると、壁ギリギリの位置でエレンの方を背にして眠っていたようであった。珍しく、彼の方が遅い起床になったわけである。…もしかしたら、起きていたとしても彼女を起こすまいとして眠ったふりをしていたのかもしれないが、それはこの場では確認しようがない。

 顔にお湯をかけると、ため息を吐いた彼女。

「…フ~ッ。ワタシが会ってきた男の人の中でも、ワタシの言葉へ簡単に靡くような人ではなかったからこそ色々なアプローチを掛けてきたワケですが、何だかモウ、疲れてきてしまいマシタね…。」

 流石のエレンも、かなり長い時間をかけて彼へアタックを続けてきていたものの、ここまで頑として首を縦に振らないとなれば、当然自信も失くしてくるし、何よりあの過去の話を聞いて以降、説得などという手段が彼には意味を為さないことを解ってしまった。

 

「…薫、今起きてマスかね。」

 ふと、親友であり相棒でもある彼女を頼りたくなったエレン。昨日のうちに連絡を入れようとしていたのだが、向こうの電波状況が不調だったのか、電話が繋がらなかったのである。

 紗南の電話は取りたがらないだろうが、親友の電話なら恐らく取るであろうという期待が、彼女の中にはあった。

 平日だったこともあり、元々宿泊客も少なく浴場内はエレン一人しか居なかった。会話内容自体も任務と関わるものではないため、人前で話しても平気だと思ったのである。

 

 

 プルルルルルル プルルルルルル

「出ますカネ~。薫は。」

 声が大きく通ってしまうのは難点ではあるが、こうした開放的な空間での電話というのは一度くらいやってみたくなるものである。

 

 

 

 

 少し経って、眠そうな声を上げる薫の声がエレンに届く。

『…んあぁ。どうしたー、エレン?』

「薫!やっと出ましたネ!」

『…?何かあったのか、お前がこんな時間に連絡を寄越すなんて。らしくないぞ。』

「察しが早くて助かりマ~ス。……実は、ダーリンのことに関して、薫を頼ろうと思ったのデス。」

『ん?アイツと喧嘩でもしたのか?』

「イエ、どっちかって言うと平穏そのものデスよ。」

『なら、どうして掛けてきたんだ?』

「…薫は、ダーリンがどうして命がけで刀使を、サポートする人間を守ろうとしているのか、知っていましたカ?」

『うんや、全く。…正直そこまで興味が無かったしな。で、その口ぶりだと聞いたんだろ?その理由とやらを。』

「ハイ。…薫は『秩父会戦』を知ってますカ?」

『「秩父会戦」?…あ~、近年稀にみる荒魂被害が出たアレか。確か、刀使や管理局の人間も複数死んだっていうやつか。』

「…その時亡くなった一人に、ダーリンの先輩が居たそうデス。恐らく、そのことがあの行動原理の一番大きな理由になっているんじゃないか、とワタシはみています。…だからといってloverから外されるのは、正直納得しているワケではアリマセンが。」

 

『なるほどなあ。…で、エレン。お前はアイツをどうしたいんだ?』

 薫は、エレンの彼への想いの核心に迫る。

「ワタシは…。…ワタシは、ずっとダーリンと一緒に並んで歩んでいきたい、そう思ってイマス。デスが、今のダーリンの考えでは一人で全部背負い込んで、死ぬことになっても構わないからワタシ達を優先するというのを、崩せる説明がデキマセン。…ワタシは、あの人に嫌われたくないんデス。」

 昨日の事からエレン自身も深く考え込んでしまい、つい電話口でも塞ぎこんでしまった。

 その様子を察してか、薫は言葉を掛ける。

『まっ、そんなことだろうと思ったぜ。…いいか、エレン。アイツが居なくとも済んだ現場は、今まで沢山あっただろ?―アイツはオレ達刀使と違って、ただの人間だ。…だからこそ、アイツが刀使を守るっていう状況そのものが、本来はおかしな話なんだよ。あの男は、なんだかんだ言って優しい奴だからな。人が傷つく姿を見て、黙っていられるタマじゃない。でも、それと任務での行動方針は別で考えるべきだろう、とオレは思っている。』

「それは、確かにソウですね…。」

『なら、エレン。今度荒魂討伐でお前が一緒に居る時は、お前がアイツのことを守ってやればいいじゃねえか。』

「それだと、ダーリンは怒りませんカ?」

『むしろ何を粋がっていやがる、とでも返してやれ。そうすれば、きっとアイツの目も覚めるだろうよ。それか、そう言ってきた時はビンタを一発加えるか、だな。』

「…Violenceなのはどうなのデショウかね…。まあ、それはその時次第デショウが。」

『ま、オレとしては早いところくっついてくれとしか言えないんだがな。…いい加減こんな愚痴だけじゃなく、惚気話くらいエレンの口から聞かせてくれよ。』

「か、薫!」

『んじゃ、そういうことだ。またな、エレン。』

「本当に、アリガトウ。薫。」

『ふっ。じゃ、切るぞ。』

 その直後、エレンの携帯画面は通話終了の画面表示に切り替わった。

 

 

 通話を切った携帯電話を、旅館の机の上に置いた薫。

「頑張れよ、エレン。」

 同じく遠征中の彼女は、親友の恋路の成就を願いつつ、大きく伸びをするのであった。

 なお、その日の荒魂討伐もかなりしんどいものになったのだが、この時の彼女にはそれを知る由はない。

 

 

 

 

 一方、エレンが大浴場で薫との連絡を行っていた頃。

 少し遅れてベッドから起き上がった彼は、眠い目を覚ますため、バスルームの洗面台へ向かう。

 

「あ~、全然眠れなかった…。…なんとなく、禁欲に走る修行僧の気分が分かったような気がする。」

 目の下の隈が少し濃いようにも感じたが、自分から避けているとはいえ、彼個人からすれば女性としてとても魅力的であるエレンが、一晩ずっと寝返りをうてば当たる距離で眠っていたのである。並みの男なら我慢できずに一線を越えていた可能性もあるが、なぜかその辺りの忍耐力に関しては、彼本人でさえ呆れるレベルでかなり強力であった。

 まあ、合意がない状態でそんなことをしでかせば、どうなるかなど容易に想像がつく。

 

 

 ザーッ バシャッ

「…冷てっ!ああ、目がすっかり覚めたな…。」

 蛇口を締め、バスルームに掛けてあったタオルで顔を拭うと、部屋に戻る。

「…そういや、エレンは…。ん?何か書き置きしてあるな。」

 室内のテーブル上に置かれた、メモ紙を拾い上げる彼。

 

 メモ紙の内容はこんな感じであった。

『ちょっとお風呂に入ってきマ~ス!少し長くなるかもしれないデース。(^^) エレン』

 

「エレンは、風呂入りに行ったのか。…なら、好都合だ。電話したい相手がいたしな。」

 彼女が居ると気を遣って連絡できないと思ったのだが、幸い今は留守である。これなら、気兼ねなく電話ができる。

「…今の時間なら、多分起きているだろう。…多分。」

 そう思いつつも、業務用携帯の電話帳からある人物の携帯電話番号を引っ張り出す。その人物は自身にとって、親友と言って差し支えない人間である。

 

 

 

 

 通話ボタンを押すと、発信音がスピーカーから届く。

「出るか?…10コール鳴らして出ないなら、またにするか。」

 など思ったのだが、意外と早くに電話が繋がる。

『もしもし?珍しいね、こんなに朝早い時間に電話なんて。』

「悪い、彩矢。起こしちまったか?」

『ううん。大丈夫。久しぶりってわけでもないけれど、声が聞けてよかったから。』

「ならいい。」

 電話相手は平城学館に所属する、警邏課の小池(こいけ)彩矢(さあや)。彼にとっての親友であり、『秩父会戦』と称されるあの戦いで共に行動した、言わば戦友でもある。

『それで、何かあったの?相談をする時間にしては、かなり早い気がするけれど。』

「ああ、実はだな…。」

 

 彼は彩矢に、エレンからの自身への猛アタックと、過去の要因による自身の信条での刀使などへの恋愛対象外しを、簡潔に説明した。

 彼女も当時の当事者であるため、彼のその信条は理解していた。それと同時に、彼の迷いも口ぶりから読み取る。

 

『なるほどね。君は古波蔵さんとの関係を踏み出すのに、躊躇しているわけだね。』

「…ああ。…エレンはこんなろくでなしでもいい、とは言ってくれている。だが万一の可能性で、大切にしている人を置き去りにして、心に傷を負わせるということになるくらいなら、他の奴の方がいいんじゃないのか、とか考えるんだよ。」

『…ほんと、君って人はいつも優しいんだから。…私個人は、君はもう幸せになっていいと思っているよ。君は充分過ぎるくらい、私達や、色んな人達のために頑張ってきたのを、私はよく知っているから。』

「彩矢…。」

『むしろ、私がその立場なら、多分怒っているだろうけれどね。古波蔵さんは、よく我慢していると思うよ。』

「うぐっ…。」

 痛いところを親友に突かれる彼。

『だから、私が言えることは一つ。あの遺言も大事だけど、今を生きている人のことはもっと大事にしなきゃ。ね?』

「…そう、だな。」

 細やかな事情を知っている者の言葉ほど、こうした時は耳を傾けて聞き入れやすい。彼も心の中で少し整理がついたようであった。

『いい結果、期待しているよ。また鎌倉に応援へ向かう時には、よろしくね。』

「ああ。…彩矢、ありがとう。」

『私はいつでも、君の話を聞いてあげるから。それじゃあね。』

「またな、彩矢。」

 そうして、二人は通話を終える。

 

 

 

 

「はあ~。先、越されちゃったか。」

 携帯をベッドに置くと、溜め息を吐いた彩矢。

「…古波蔵さん。彼のことを、頼んだよ。」

 気難し屋の彼へ、強く想いを寄せる少女と仲良くなってみたいと共に、恋敵(ライバル)として何時の日にか会ってみたいものだ、と感じた彼女であった。




ご拝読いただき、ありがとうございました。
あともう一話分、エレン編が続きます。

販売が決まった姫和の書き下ろし抱き枕カバーからは、隠しきれない色香が雰囲気として伝わってくるように思いました。

感想等ございましたら、感想欄・活動報告へお気軽にご投稿いただければと思います。

それでは、また。
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