本日は、一日に二度の投稿となります。
今回から親衛隊のメンバーが中心になります。
メイン六人の話をお待ちの方々、戻ってくるまで時間を頂きます。申し訳ありません。
親衛隊一話目は、この人からになります。
短めですが、お付き合いください。
それでは、どうぞ。
① 厳冬の談話
ー刀剣類管理局本部 廊下ー
俺は刀剣類管理局に属する人間だが、現在の折神家当主である折神紫の体制を崩す目的がある、舞草という集団にも所属している。
ぶっちゃけ、所属云々はどうでもいいのだが、元々美濃関に籍を置いていた俺は入学早々に鎌倉、つまり管理局本部に飛ばされることになった。
そのため、現在では年の四分の一をここで過ごす日々を送っている。
「は~っ。やっぱ冷えるな…。」
屋内でもかじかむ手に、吐いた息を吹きかけてこすり合わせる。
季節は冬。外では雪がちらついていた。
正直、こんな日に荒魂が現れなかったのは、ありがたいことだと彼は思った。
「寒いと体は動かしたくなくなるもんだな…。」
ヒートテックを着ていても、一向に体温が上がった気はしなかった。
「…ん?明かりが点いているな?」
管理局本部と隣接する、鎌府女学院の剣道場から光が漏れていた。
「ちょっと寄っていくか。」
今日の仕事は終わっていたので、フラリと其方に向かう。
「はっ!…ふん!…はあっ!」
太い掛け声が、場内に轟く。
剣道場の中心で御刀《薄緑(吼丸とも呼ばれる)》を振るう、折神家親衛隊 第一席、
見た目や振る舞い方がどう見てもイケメンにしか見えないこともあって、男女問わず人気が高い。本人はそれに対して鈍感であるために、尚更たちが悪いのだが。
「…こんなものかな。」
鞘に御刀を収める。その直後、不意に声をかけられる。
「お疲れさん。」
「!?…驚いた。僕を脅かさないでくれよ。」
「悪い。そんなつもりはなかったんだがな。」
「完全に気配を消しておいて、それは無いんじゃないか?…で、こんな所にどうして君が居るんだい?」
「たまたま、ここの明かりが点いていることに気がついてな。確認がてら、寄って来たわけだ。」
「ふ~ん。それにしては、えらく準備がいいじゃないか。」
彼の手に握られていた、買い物袋状のカバンを見る真希。
「気温が氷点下なのに、もしここに誰かいたら凍えてしまうだろ。まあ、お前さんなら居ても不思議はなかったがね。」
「丁度僕も、一息つきたかったところだったよ。」
「なら、少し動くか。」
真希が隣にやってきたことを確認し、彼は剣道場の照明を落とす。
ー刀剣類管理局本部 控室ー
応接室のように配置された椅子に座る二人。
ちょうど、向かい合わせになって座っていた。
彼は、先ほどのカバンに入っていた物を机の上に展開する。
「まさか、即席のティーセット一式を揃えて持っているとはね…。」
「夜見や寿々花のような出し方は無理だが、これくらいならな。これだけ寒けりゃ、温かい飲み物が一番いいだろ。」
魔法瓶を取り出し、二つの紙コップにティーバッグを突っ込んでお湯を注ぐ。
少し時間を置いたあと、湯切るようにティーバッグを外し、一つを真希に渡す。
「ありがとう。…温かいな。」
「どうにか飲める温度までは下がったみたいだな。…染みるな…。」
互いに紅茶に口をつけた後、真希が切り出す。
「そういえば、君は元々美濃関に居たんだよね。どうして、この本部に来ることになったんだい?」
「と、言うと?」
「いや、案外長い期間任務とかで知り合っている割には、こうして話す機会が無くてね。いっそ、聞ける時に聞いてみようかと思ってね。」
「ふむ。確かにこうして面と向かって話す機会は、初めてだな。…といっても、大した理由は無いな。本部で欠員が出たから派遣されて、気付けば今この場に居るワケだしな。」
勿論、二割ほどは嘘が混じっているが、残りは大体ホントのことだ。転属当時、舞草内の工作ブレーン(※葉菜ではない)が何を思ったのか、美濃関に入ってそんなに経っていない俺を飛ばしたのである。
そりゃ、入学数ヶ月程度の人間なら、舞草の「も」の知っている訳がないと判断されて、ここに送り出されたのかは知らないが、お陰様で首都圏を中心に激務へ駆り出される日々である。
「結構、大変な日々を送ってきたんだね。」
「そういうお前さんはどうなんだ?過去を詮索する気は無いが、大惨事に居合わせたとかなんとか。」
実際のところ、真希の指揮していた部隊の惨状は、概要含め戦闘ログで知ってはいたが、当事者でしか分からないこともあると思ったのである。
「…あの時、僕は自分の無力さを知ったよ。未来ある刀使達を、僕の判断ミスでその道を絶たせてしまったのだからね。」
彼女は拳を強く握り締め、悔しげな顔をしていた。
「…正直、俺がその事に関して言えることは何も無い。その場に居ない人間が、とやかく言うことじゃないしな。」
少ししょんぼりしたように、肩をすぼめる真希。
「でもな、失敗から学んで学習することだって出来るだろ?…そこで立ち止まってしまったら、彼女達のことから何も学んでいない、いや、無かったことになる。」
「それは!」
「落ち着け。要は、失敗しても立ち直る機会は幾らだってある。現に、俺は現地に行く時は、必ず過去の戦闘の記録を追っている。成功ばかりする人間なんて、まず居ないんだ。」
「…そうだね…。すまない。見苦しい姿を見せた。」
「正直、結芽ほどまでとは言わないが、肩の力は抜くべきだと思うぞ。」
「…頭の中に入れておこう。…さて、僕は鍛錬に戻るとするよ。」
「もう少し、ゆっくりしていってもいいだろうに。」
「第一席がぼやぼやしていたら、紫様も安心出来ないかもしれないだろ?親衛隊は紫様の盾であり、剣であるべき存在なのだからね。」
真希が部屋から出ようとした時、彼から声を掛けられる。
「真希。」
「なんだい?」
「…負の力に呑まれるなよ。」
「!?…負けないさ。荒魂であれ、紫様に刃向かう者であれ。」
控室の扉は、閉じられる。
真希が去った後、微量に残った紅茶ごと彼女の飲んでいた紙コップを、厳重保管用の密閉式アルミケースに入れる彼。
「…はぁ…。こういう役回りは勘弁して欲しいもんだ…。」
現在の管理局で疑われている、ノロの人体実験に関するモノを探してこい、との舞草からのお達しがあるとはいえ、正直彼の心情的には複雑だった。
「彼女たちを疑いたくはない。それでも、それが人の道から外れようものなら、止める必要はある…。正義って、何なんだろうな。」
答えなき答えを探すのも野暮かと思い、思考を切り替える。
「真希、無茶しなきゃいいけどな…。」
まさか、この数ヶ月後から動乱の日々がやって来ようとは、彼女やまして彼でさえ思っていなかっただろう。
「普通にお茶を飲み合える機会は、やってくるのだろうかね…。」
部屋からの去り際、彼は寂しげに呟く。
誰も居なくなった控室内には、アールグレイの残り香が漂っていた。
ご拝読頂きありがとうございました。
真希は、親衛隊の中で刀使としての実力は高いが、メンタルの方は普通の人だったと思います。
作中色々あり、迷走後からの寿々花との再会で吹っ切れた部分もありました。そういう意味で、真希と寿々花は本当にいいパートナー(夫婦?)だと常々思います。
感想等ございましたら、感想欄・活動報告の方で対応させて頂きます。
それでは、また。