変則的な投稿で申し訳ありません。
今回は真希編その2 前編です。
…現在後編の執筆で難儀しているところです。
それでは、どうぞ。
ー山梨県富士吉田市 富士山駅ー
鎌倉特別危険廃棄物漏出問題から三ヶ月後。
日本人なら誰しもが思い浮かべる日本の最高峰、霊峰富士山。
その山梨県側の麓にある、富士急行の富士山駅。元々は市名を冠した富士吉田駅だったのだが、外国人観光客の増加に伴い、外国人でも分かりやすい駅名を目指して改称された経緯を持つ。
そんな場所に、彼は降り立った。
JRから乗り入れる特急が、ホームから離れる。
「やっぱり、少し冷えるな。朝方降った雨の影響か。」
少し霧がかっていたが、日差しも少し差し込んできていたため、そのうち晴れるだろうと楽観視していた。
「さて、今日の仕事は…。」
自身のスケジュールダイアリーを開き、嘆息する。
地元商工会議所との会合、荒魂の出現したとされる周辺の自治体への説明。自衛隊と山梨県警との諸調整など、これらを二日以内に済ませて来なければならないのである。
「車、借りるか…。」
普段運転することは稀なのだが、今回ばかりは流石に必要だと判断した。
そして、駅近くのレンタカー会社を尋ねる。
「すみませ~ん。レンタカーをお借りしたいんですが?」
「…お客様。未成年者への車の貸し出しはお断りしていますが。」
「あっ、ちょっと待ってくださいね。…免許証と身分証明書をお見せします。」
そう言って、自身の懐から免許証・刀剣類管理局の身分証明書を、店員に提示する。
「…これは…。はい、問題ないです。申し訳ございません、失礼致しました。」
頭を下げる店員。
「いえ、大丈夫ですから。…ちなみに、車の方は…。」
「そうですね…。用途は、何に使われますか?」
「交渉事があるので、動きやすいものがいいですね。」
「でしたら、マ◯ダのデミオが良いかもしれません。」
「じゃあ、それをお願いします。…あっ、領収書も切ってもらっていいですか?」
「構いませんよ。…こちらが、車のキーですね。」
「ありがとうございます。」
「それでは、よい車旅をお過ごしください。」
そして車へと向かい、一通りの確認を済ませた後出庫する。
車を走らせる彼。午前10時前とはいえ、車の通りも多かった。
「流石に一人はキツいな…。靄もまだあるし、何より眠気を誘いそうだな…。」
彼はまず、市内の道の駅を目指す。この辺りの土地事情に明るく無いため、地図などを揃える必要があったためだ。
ー道の駅 富士吉田ー
既に開店していた道の駅に、デミオを滑り込ませる。
「取りあえず、地図の確保と腹ごしらえだな。」
特急列車の中でも食事はしていたが、少し小腹が空いたので、道の駅のレストランで何か少し口に含もうと考えていた。
彼が、道の駅の建物へと近づいていた時だった。
天然水を汲める場所の辺りに、黒いフードを被った人間が立っていた。
顔は、靄の影響でハッキリとは分からない。
「…確かに少し冷えるが、フードを被るほどか?…職質かけるか…。」
刀剣類管理局も警察組織の一つであるため、不審者への職務質問を掛けることは可能だ。だが、そこから先の取り調べ等は各都道府県警に委ねている。要は、職務の棲み分けだ。
「…?あれ?…どう見ても御刀だよな…。」
近づくにつれて、背中側に垂直に立った鞘が見え、相手が刀使である可能性が出てきた。ただ、彼の記憶の中に刀使がこちらに派遣されたという報告は、聞いていなかった。
どちらかといえば自身の物覚えはいい方なので、尚更引っかかったのである。
そして、謎の人物に声を掛ける。
「すみません。少しお尋ねしてもよろしいでしょうか?」
万一に備え、警棒と拳銃は取り出せる位置に動かしていた。
声を掛けられた人物は、ハッとこちらを見てきた。
「…ウソだろ…。真希。どうして、こんなところに…。」
彼は驚いた。元親衛隊第一席 獅童真希がここに居たからだ。
「!」
彼の姿を確認して、直ぐに逃げようとした彼女。
「待て、真希!」
しかし、八幡力を使われる前に、彼が真希の腕を掴む。
「放してくれ!僕はまだ戻る訳には行かない!」
「落ち着け!俺は、単に仕事絡みでここに寄っただけだ。たまたま職質をかけようとしたら、それがお前だっただけだ!」
「…本当かい?」
「俺の性格考えろよ。こんな時に嘘付ける人間か?」
じっと彼女を見つめる彼。その目に嘘はなかった。
「…分かった…。君の言葉を信じよう。」
逃げるのを止める彼女。
「ふう…。話を聞き入れてくれて良かった…。」
そう言って、真希と向かい合った時だった。
「!?真希、お前ずぶ濡れじゃないか!」
フードで分からなかったが、いつも腕に巻いている包帯を含め、全身が雨に濡れていた。
「ちょっと来い!」
「ちょっ、ちょっと待ってくれ!」
「いや、待たない!」
自身の乗ってきた車まで、彼女を力強く引っ張る。
真希を後部座席に乗せ、積んでいた荷物からタオルを引っ張り出す。
「取り敢えず、体を拭け!そんなんじゃ、すぐ風邪を引く!」
「あっ、ああ…。」
彼に気圧される真希。フード類を外し、タオルを受け取って服の上を拭き始める。
「外からは見えにくい窓ガラスだから、安心して拭いていけ。拭き終わったら、ドアをノックしてくれよ。」
「…分かった。」
彼は後部ドアを閉めて車にロックをかけ、彼女が体を拭き終わるまでの間、どうしたもんかと思案する。
「まさか、こんなところで彼と出会うなんてね…。」
管理局から出奔中の彼女にとって、彼との再開は喜ばしくも警戒すべきことだった。だが、
「会って早々、体を拭けって…。君は、僕の保護者みたいだな…。」
あまりに意外な展開だったが故に、彼女の警戒心はすっかり毒気を抜かれてしまった。
「僕は、どうなるのかな…?見る限り、彼一人みたいだから脱出するのは容易だろうけれど…。」
脱出も考えたが、彼女の心が少し痛んだ。
「…考えるのは後回しかな。彼の真意も知りたい。」
一度、彼の考えを聞いてからでも悪くないと思い、脱出は思い留まった。
一方、彼も彼で真希を保護したはいいが、どうすりゃいいのか、と悩ましかった。
「想定外過ぎて、頭が混乱してやがる…。幸い、今日明日は俺一人の仕事しか無いから、他の刀剣類管理局の連中と遭遇する確率は低いが…。」
報告するべきかとも思ったが、彼女のあの慌てようを見る限り、それは愚策だと考えた。
「取り敢えず、今日明日は仕事に同行してもらうか。…幸か不幸か、二人居ても過ごせる金額は持っていたようだ。」
出奔中とはいえ、元親衛隊。職務関係なら、彼女の助言も得られるだろう。…流石に会議に同行させる訳にはいかないが。
「よし、そうと決まれば行動指針通り、動くか。」
後は、真希が拭き終わるのを待つ。
…ついでに、着替えも真希用の物を仕入れるまでの間、彼の所持品を使ってもらうことにした。
親衛隊の服装では目立つ上に、ビショビショなら余計に着せる訳にはいかなかったからだ。
テーピング代わりの包帯も、持ってきていた医療キットの方から貸している。
後で、彼女に買い直してもらうが。
「真希、何があったんだろうな…。」
この三ヶ月、親衛隊関係は大きな変化があった。
折神紫が、姫和の一の太刀でタギツヒメ諸共隠世に送られたとされ、旧紫派の陣営はその求心力を失った。
それと連動し、鎌府女学院学長・高津雪那と元親衛隊第三席 皐月夜見が行方を眩まし、元第二席 此花寿々花は現在鎌府の医療施設で療養中、第四席 燕結芽は寿々花の『処置』により荒魂化を防がれた上で、火葬されることとなった。
そのため、これらに加えて真希の失踪は、寿々花の心に暗い影を落としていた。
(本来なら、真っ先に寿々花に伝えるべきなんだが…。今、話す訳にもいかないか…。)
内心、寿々花に謝りながらも、ことが落ち着いたら彼女に話そうと考えた。
なお、それから二ヶ月してノロ回収班の襲撃が相次いだ時、真希がこちらに無事合流した際にこの時の話を寿々花にすると、真希と一緒にこっぴどく叱られたがそれはまた後の話だ。
コンコン
「ん。終わったか。」
ガチャッ
「すまない。服まで貸してもらって。」
スーツ姿の男性服に身を包んだ真希。さながら、某歌劇団の男役のようであった。
「俺が着るより様になっているじゃないか。…確かに、カッコいいと男女問わず言われる理由もわかる。」
「やめてくれよ。僕はこれでも女なんだから。…ただ、褒め言葉として受けとっておくよ。」
「そうしてくれ。…真希、食事がまだならここで少し食べていくか?金はこっちで出す。」
「いいのかい?…確かに、少し所持金が心許ないな。お言葉に甘えるとするよ。」
「会計の時、領収書切るために別料金になるが、支払いは俺がするから気にするな。」
「…相変わらず、変なところで気を回すね。」
そして二人は、道の駅のレストランへ入っていく。
「真希、この三ヶ月間お前は何をしていたんだ?」
食事中、彼は彼女の動向を知ろうとする。
「…すまない。それはまだ教えられない。」
「…そうか。」
「深堀りしないのかい?」
「話せる時に聞くさ。出奔の理由を話してもらえるとは、俺も思ってないしな。」
「…ありがとう。」
「しかし、ここのうどんは旨いな。名物とはいえ、体が温まる。」
「!…本当だ。美味しいな…。」
少し嬉しそうにする彼女。それを見て、彼も思わずはにかむ。
「真希、今日明日時間はあるか?」
「…ま、まあ。まさか、管理局に来いとか言わないよね…?」
「そんなわけないだろ。…単に、俺の仕事の手伝いをして欲しかっただけだ。ちょっと一人じゃ手に余りそうだったからな。どうだ?」
「…まあ、ここまでしてもらっておいて、僕としても逃げるのはね…。分かった。」
「決まりだな。…さて。食い終わったし、仕事に向かうか。」
「了解。」
かくして、二人の仕事という名のドライビングデートが始まる。
但し、当事者達はそんなことを露も思っていなかったようだが。
ー富士吉田市民会館ー
富士五湖周辺や、近隣の都留市、大月市の自治体職員が集結する。
荒魂の発生頻度の増加に伴い、広域での連携が求められるようになった近年、彼のような刀剣類管理局職員との意見交換会は重要なものになりつつあった。
「それでは、会議を始めます。まず…」
パワーポイントや配布資料を通じ、過去の発生例と自治体の取れる対処方法などを挙げていった。
そこから、この地域で対応可能なものを絞るなど、激論が交わされていった。
会議は、約二時間で決着した。
会議が終わるまでの間、真希は車の中で地図を広げて、今後どう行動すべきかを考えていた。
すると、窓の外から彼がヘトヘトになって帰ってくるのが見えた。彼女は気取られぬよう、ゆっくり地図を畳む。
「お待たせ。」
「君も大変なんだね…。だいぶ、ゲッソリしているじゃないか。」
「そこが調整役の辛さよ。…さて、次は甲府か。といっても、もうホテルなんだが。」
「今日はもういいのかい?」
「商工会議所の件は、すぐに終わったからな。刀使が派遣された時は、全面的に協力してくれるそうだ。」
「そうかい。」
「じゃ、動くか。」
車を発進させ、一路甲府に向かう。
二人の乗る車は富士吉田市を抜け、河口湖付近まで延びる中央道支道を、大月JCT方面に北上していく。
「真希、何個か聞いてもいいか?」
「答えられる範囲なら。」
「体は大丈夫か?」
「体調は、今のところ崩していないよ。感染症も無い。」
「…ノロはまだ取り込んでいるのか?」
「…いや、今は全く。寿々花から聞いたのかい?」
「まあな…。それならいい。…真希、こう言うのを失礼と分かった上で言うが、女の子ならもう少し自分のことを大切に扱いな。」
「…そうは言うが、君も大概だろう?刀使でも無い人間が荒魂との戦闘に飛び込むなんて、それこそ死に行くようなものじゃないか。」
ここで論点が、戦闘時の互いの見方に変わる。
「ああ…。今はだいぶ自重している。…偶発的なものは仕方ないがな。それ以外は、大体後方支援だ。」
「思えば君と僕とでは、最終的な目標は同じでも構え方が逆だね。」
「基本、俺自身が後方に留まるのが好きではないからな。だからといって何か出来ることがあるか、と言われれば、そうではないし。」
「…指揮官が前に出ても、やれることはたかが知れているしね…。」
「それにこっちは一度、それやって死にかけたんだ。折角助けてくれた恩人を、悲しませるような真似はできねえよ。」
「ああ、あの闘いの…。…僕も過去、似たようなことがあったね…。…部隊は壊滅的被害を被ったけれど。」
彼もその件は知っているが、敢えて彼女の言葉に口を挟む。
「正直、俺の例は参考にならないと思うぞ。市街地と山岳地帯、視認性の有無、攻撃と防御。あらゆる面で有利不利が揃っていた。真希は、その時取れる最善を尽くした。確かに検証も大事だが、それは後の方に生かすから検証なんだ。…奇策呼ばわりされる俺のものは、宛にしない方がいい。」
「…それでも僕は、また無力だった。結芽も救えず、紫様がタギツヒメだと知ってもなお、体は動かなかった。」
「…人の命は戻らない。だが、人生のやり直しはまだ利く。これは刀使だけでなく、普通の人間でもそうだ。…まだ、色々悩むだろうけれどな。」
静かに隣で頷く彼女。
「俺は、出奔のことを本部に伝える気は無い。考えが固まったら、御刀を返納するなり、
「というか、もう既にお世話になっているよね?」
「…違いないな。」
後部座席で、真希の御刀《薄緑》が揺られる。
二人の今後を見守っているように。
ご拝読頂きありがとうございました。
作品評価の棒の色が 無色→赤色
へと変わっているのに気がついた時には、
(;゚д゚)ポカーン(本当にこんな感じ)
としてしまいました。
評価を入れて下さった方々、ありがとうございます。
今後も精進して参ります。
コンセプトワークスの内容も一通り読んでみると、結芽のリボンが繋がっていたり、S装備の細かな設定など非常に読み応えがありました。(相模湾の一件は必見)
…何か生かせる部分があるといいな…。(なお筆者のレベル
後編もなるべく早く投稿しますので、お待ち下さい。
それでは、また。