刀使の幕間   作:くろしお

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どうも、くろしおです。

昨日で、このサイトでのSS初投稿から一年が経過致しました。
時間の経過の速さを感じつつ、執筆の腕が上がっているのかどうなのか、その辺は未だ手探りなところもございますが、今後も書き続けていくつもりでいます。

話が脇に逸れましたが、今回は真希編です。
時系列的には、タギツヒメの防衛省襲撃と近衛隊の再襲撃の間のあたりになります。

それでは、どうぞ。


④ 看病という名の罠

 ー刀剣類管理局 医療施設ー

 

 防衛省で真希の確保の連絡を受けた彼。

 しかし、自身は其方へ動くことが出来なかった。

 なぜか。

 

 

「過労による軽度の胃潰瘍ですね。」

「マジですか…。」

 

 

 男性医師の診察の結果、本部の職場で倒れた彼に下されたのはまさかの胃潰瘍だった。

 黒いフードを被っていた真希が、刀使やノロ回収班を襲うタギツヒメと当時勘違いされていたこともあり、彼女の無実を信じていた彼にとっては、日頃のオーバーワークに加えて精神的な部分でも、それが身体に異常をきたす元となった。

 

「最低でも三日間は部屋で絶対安静ですね。無論、食事もあまり摂り過ぎないように。」

「はっ、はい…。」

「…お若いのですから、今安静にしていればすぐに治りますよ。お薬出しておきますから、お大事に。」

「はい…。」

 力無く、医療施設を後にする彼。薬も処方してもらい、一度紗南のもとへと向かう。

 

 

 

 

 ー刀剣類管理局本部 作戦指揮室ー

 

 本部長席に座る紗南。

 タキリヒメの警護などで忙しいなか、部屋の入口の方からよく見知った顔を見つける。

「失礼致します。真庭本部長。」

「どうした?先程医療施設に運ばれたと聞いたが。」

「実は、四日ほど病気療養期間を頂いてもよろしいですか?…これが診断書です。」

 下胸部をさすりながら、先程の医師からの診断書を紗南に手渡す。

「…これはやむを得まい。医師から許可が下りるまで休んでいいぞ。」

「ありがとうございます。…すみません、早速休ませて頂きます。」

 小走りで去る彼。

「…まあ、あれだけ彼女を気に掛けていたんじゃ、やむを得まい。」

 後は彼の復帰を、時間と彼のもつ治癒能力が解決するまで待つほか無かった。

 

 

 

 

 ー刀剣類管理局 官舎内自室ー

 

「…とことん間が悪いな。真希を迎えに行こうと思ったらこれかよ…。」

 絶対安静を告げられた彼は、食事やトイレを除いてベッドから出ることが出来ない。

「やむなしか…。ベッドでスマホをちょろちょろ扱うことくらいか。」

 どの道身動きなぞとれないため、スマホを少し扱ったら眠るを繰り返す彼。

 

 

 

 

 ー折神家・特別祭祀機動隊本部 廊下ー

 

 時間は先に進み、真希が寿々花や紫との再会、イチキシマヒメとの会談を経て鎌倉に戻ってきていた。

「あら、そうそう真希さん。」

「なんだい寿々花。」

「彼のことですが、過労と真希さんの保護の報を受けた際に医療施設に運ばれたそうですわ。」

「…なぜ、そのことを僕に?」

「心配ではなかったのですか?」

「…そうでないと言えば、嘘になるな。二ヶ月前にはお世話になったというのに…。」

「…二ヶ月、前?」

 その時、寿々花の時が一瞬止まる。

「あれ、寿々花は彼から聞いていないのかい?」

 瞬間、怒りとも嫉妬とも、何とも言い難い感情が寿々花から噴き出す。

「…真希さん、真庭本部長のところに伺ったら、彼のもとに向かいますわよ。」

「えっ、…ああうん。分かった。」

 寿々花の雰囲気が変わったことに気付かないほど、鈍い彼女ではなかった。…普段寿々花が真希に向けている気持ちに気付かないのはどうなのか、とは言わないでもらいたい。

 

 

 

 

「…年一回、過労で倒れるのは最早恒例行事か何かなのかね…。こんな愚痴を溢すくらいでしか時間を潰せないのは痛いな…。」

 胃の痛さを寝ることでごまかしつつ、なんとか耐える彼。鎮痛剤も少しずつ効いてきているように思えた。

「…真希、無事だといいんだが。」

 二ヶ月前に会った時が最後だったこともあり、何か酷い目に遭っていないか、刀使達を襲ったのは嘘ではないのか、といった色々なことが頭を駆け巡っている。

「本人が来なけりゃ、その辺りは分からないか。」

 そう口に出した瞬間だった。

 

 ピーンポーン

 

 自室のドアチャイムが鳴る。

「こんな時に、一体誰が…?」

 痛む体を引き起こし、ドアへと向かう。

 

 

『は~い。』

 普段なら拳銃を腰に忍ばせていたりなど、不審者対策は出来るのだが、今はそんな物を持つ余裕も無い。

(誰だろうか?)

 取り敢えず、ドアノブを捻る。

 

 

 

 

 彼の目に入ってきたのは、二人の元親衛隊の制服。

 真希と寿々花であった。

「お久しぶりですわ。」

「やっ、やあ…。」

「寿々花、真希も。何かあったのか…、グッ…。やべ、胸が…。」

 言葉を続けようにも、胃潰瘍の痛みがそれを拒む。少し汗も浮かぶ。

 何とか痛みも引いたところで、寿々花が口を開く。

「取り敢えず、部屋に上がってもよろしいですか?流石に、私達も長時間立ちっ放しなのは疲れますわ。」

「あっ、ああ。…ちょっと散らかっているかもしれないが、いいか?」

「構いませんわ。」

 来客を通す彼。

「お邪魔します…。」

 最後に入った真希は玄関ドアを閉める。

 

 

 彼の部屋に入る二人は、整然とした室内の様子に驚く。

「散らかっているとは…。全然そうは見えませんわね。キッチンにも何もありませんし。」

「なるべく栄養食品を食うことで、今は凌いでいるからな。無茶して胃を傷つけるようなものを口に含む必要もない。あと、体の自由が利かないのに汚したくないしな。」

「…君の私室の割には、えらく物が少ないな。」

「元々仮住まいなんだ。やたらと飾り気があるのも、落ち着かないからな。届いた荷物類も、使うもの以外は実家に送るようにしているんだよ。」

 

 机には複数のパソコンやタブレットが置かれている。それを見た寿々花は、思わず溜め息をこぼす。

「今更ですが、これだけ端末があったなら貴方を疑っておくべきでしたわ。」

「舞草のことか。…まあ、寿々花に部屋に踏み込まれた時は気が気でなかったけどな。」

「あの時は、足の踏み場が無いくらいの書類の山でしたから。あれも欺瞞工作でしたの?」

「いや…。単に年度末で立て込んだ書類を持って帰ってやっていただけだ。…それで、わざわざ二人がここにやってきた用件は一体何なんだ?」

 恐らく本命の案件は別にあると思っていた彼は、二人にティーバッグの紅茶を淹れながら、聞いてみる。

「真希さんと貴方が二ヶ月前に会っていたと伺いましたので。…何があったのか説明して頂けますか?」

「…なるほど。真希が一緒なのはそういうことか。」

 恐らく彼の言葉だけでは齟齬が出る可能性があるため、証人として彼女を連れてきたのだろう。…顔はニッコリしていても目が笑ってない寿々花から、僅かに滲み出る殺気を感じつつ。

「…説明すると長くなりそうだが…。やむを得ないか。ありのまま話すがいいな?」

「勿論ですわ。」

「…頼むよ。(寿々花をここまで怖く感じるのは久しぶりかもしれない。)」

 ともかく、彼は寿々花に二ヶ月前の山梨での出来事を順を追って説明していった。

 

 

 

 

「端的に言えば、びしょ濡れの真希さんを保護して食事と宿の提供までした、と。で、部屋は一緒だったのですわね。」

「…真希に聞けば分かるが、何も法に触れることはしてないからな。」

「寿々花、彼の言っていることは本当だ。…確かにシャワーもしていたし、部屋も一緒だったが彼は何もしてこなかったよ。」

「…真希さんが口止めされている訳でもなさそうですわね。ですが、お二人共もう少しご自分の立場を弁えてください。」

 危うく抜きかけた《九字兼定》を仕舞い、クッションに正座し直す寿々花。

「まさか真希さんに手を出していようものなら、ここで貴方を斬り捨てることも考えていましたが、実際は全く逆だった訳ですね。…人騒がせなことですわ。」

「…まあ、寿々花が真希を心配するのは無理ないな。数ヶ月音信不通だった訳だし。」

「僕はその分報いも受けるよ。…もう既に一部もらったけれど。」

「おっ、おう…。」

「ただ、貴方も貴方で早くに一度会っていたことを私に伝えてくれれば良かったではないですか。なぜ、教えてくださらなかったのですか?」

「…その時の真希のことを見て考えたら、どうしてもな。落ち着いた頃に伝えようと思っていたら、これだ。」

「…全く、憎めない人ですわね。いいです。経緯は分かりましたから。」

 立ち上がる寿々花。

「寿々花、もう行くのか?」

「ええ。少しレポートを書く必要がありますので。」

「だったら、僕も…。」

「真希さん、貴女はまだ話すことがおありでしょう?お二人のお邪魔にならないように失礼させて頂きますわ。」

 真希に手を振るように、彼の部屋を去っていく彼女。

 ティーカップのお茶は既に全て飲み干してあった。

 

 

 

 

「んで、真希。話ってなんだ?」

「ああ、うん。まずはお礼が言いたい。あの時は本当にありがとう。」

「気にするな。単に俺が独善的だっただけだ。」

「それでも、ありがとう。」

「こっちに戻ってきたんだな。」

「…巡り巡ってね。まさか、状況が更に混乱しているとは思いもよらなかったけれど。」

「まあ、少しばかり頭を整理するといい。」

「…僕は取り敢えず、紫様が戻ってこられるまでの間、真庭本部長の指揮下に入ろうと思っている。また、背中を預けることになるが、その時は頼むよ。」

「胃潰瘍が治り次第な。」

 ここまでは至って普通の話なのだが、問題はその後であった。

「…あと…。その、君が治るまでの間、時間のある時にここで看病させてもらえないだろうか?」

「……うん?」

 彼は自身の耳を疑った。…真希の発言に対してではなく、聞き間違えたのでは、と思ったのである。

「真希、俺の耳が確かなら『看病したい』と聞こえたんだが、気のせいか?」

「確かにそう言ったけれど?」

「……。待てまて、別に熱出したわけじゃないんだから、看病するほどじゃないだろ。」

「あの時の恩返しの一つと思ってくれないだろうか!お願いだ!でないと此方も気持ちが落ち着かないんだ!」

 自身のベッドよりも下にある座布団の上で、彼に頼み込むように両手を合わせて正座する彼女。

「真希、顔を上げてくれ。分かったから。」

「じゃあ、良いのかい?」

「これを断ったら、俺も後味が悪いしな。好きなようにしてみな。…ただし、なるべく自分で出来ることはやるから。」

「あっ、ありがとう!」

「…性格までイケメンだと、俺は立つ瀬がないな…。」

 そんなことを痛感する彼であった。

 

 

 

 

 その日以降、時間が出来た時には彼の部屋で飲み水を彼のところへ運んだり、内服薬を袋から出して彼に手渡したりなど、色々と気を回してくれていた。

 期限の四日が経過したものの、完治まではまだ少しかかるとのことで、しばらくは寝たきり状態が続いた。

 

「…真希が段々通い妻、もとい看護師のようになってきている気がする。」

 任務で来られないこともあったが、時間を見つけては彼と話したり、机の上にあったタブレットを彼に渡したりなど、本当に看護師のようになってきていた。

「寿々花、ヤキモチ妬いてなきゃいいんだがね…。」

 

 ガチャン

 

 玄関のシリンダー錠が開かれる。

 ビニール袋を引っさげた真希の姿が目に入る。

 毎度彼女が来る度に起き上がるのも億劫だった彼は、彼女に自室のスペアキーを渡していた。完治したら返してもらうつもりではあるが。

 

「お邪魔するよ~。キッチンを借りるけどいいかい?」

「好きに使いな。但し、料理が終わったらキチンと片付けることが条件だ。」

「分かっているよ。ここは君の部屋だしね。」

 そう言って、流し台に食材を置いていく彼女。

「真希も料理するんだな。」

「簡単なものしか作れないけれどね。」

 キッチンにあった鍋に炊いておいた米とお湯、塩、ネギなどを入れ、かき混ぜていく。

「ズッ…。これなら、大丈夫だろう。」

 お茶碗に鍋の中身を移し、少しうちわで仰ぐ。

 

 

 彼のもとへと運ばれたそれは、うっすら湯気を立てる程度にまで温度が下がっていた。

「はい、お待たせ。」

「お粥か。確かに、胃に負担をかけないな。」

 ベッドより少し高めの位置にボードがあった小机上へと置かれるお茶碗。

「…いただきます。」

(どうだ…、僕の料理は…?)

 蓮華に掬われたお粥が彼の口に運ばれる。

「…ちょっと塩が多い気もするが、おいしいな。」

「本当かい!?」

「真希、お前も食べてみろよ。」

「茶碗と蓮華、借りるよ。」

「ああ。」

(よっぽど嬉しかったみたいだな。)

「本当だ。普通に食べられる。」

「自分の料理に自信は持っていいぞ…。別にメシマズとかそういう訳じゃないんだから。…本当のメシマズはこんなもんじゃないぞ…。」

 若干虚ろげな顔を見せた彼。過去に経験があるとでも言いたそうであった。

 

 

 そんな彼を無視して、紙コップにお茶を入れてきた真希。

「一緒にお茶も注いできたけれど、冷蔵庫に緑茶と烏龍茶が常備してあるなんて…。夜見が聞いたら驚きそうだね。」

「長期で部屋を空けることも多いから、下手に牛乳とかは買い置きできないからな。」

 飲み物まで気を使わないといけない身の丈を、少し恨めしく思うこともある彼。…だからお茶を作るようになったとも云えるのだが。

「ただ、俺はお茶に関してはにわか知識ばかりな人間だ。夜見のように本格的に淹れるのは無理だぞ。」

「いや普通、日常生活でお茶淹れる人間なんてそう居ないからね!?」

「そうなのか?」

「…本当に君は変わっているよね…。」

 彼の人の良さと戦闘時のフォローなどはお墨付きなのに、どうしてこう残念感があるのかと思わざるを得ない彼女であった。

 

 

 

 

「だいぶ調子も良くなったみたいだし、明日あたり担当医師に診てもらうか。…真希の看病がなくなるのは少し残念だけれどな。」

 一週間ほど経過したこともあり、胃の痛みもかなり引いたようであった。

「…この時間が無くなるというのも、少し寂しくなるね。いずれ終わるとはいえ。」

「いつまでも俺に付きっきりというわけにもいかんだろ。寿々花にもそろそろ御刀を向かれかねないからな。」

「なぜ寿々花の名前が出てくるのかはさておき、確かにそろそろ潮時かもしれないね。」

 立ち上がる彼女。

 ふと、こんなことを口走る彼。

「…一つ要望があったとすれば、真希のナース服姿を拝みたかったもんだな…。」

「ナッ、ナース服!?」

「…冗談だ。やるなら寿々花にやってやれ。滅茶苦茶喜ぶと思うぞ。」

「そうか…。…今の発言、ホントに冗談なんだよね?」

「真希、女の子はそんな簡単に肌を見せるものじゃありません。…俺以上に欲望に忠実な男だったら、勘違いじゃすまないかもしれないぞ。そこは気を付けてくれよ。」

 暗に彼女に、男性との付き合い方への警告をしていた彼。

「…女の子扱いをするのは君くらいなものだよ。ただ、その忠告は心に留めておくよ。」

 

 

 

 

 その後、スペアキーを彼に返却し、玄関に向かう。

「じゃあ真希、明日復帰したらその時はまた頼むわ。」

「君の病状が快方に向かっていることを望んでいるよ。…君は、もう少し自分のことを考えた方がいい。案外、君に信頼を寄せている娘達も多いんだ。君の存在が、彼女達の士気にも関わり兼ねないことも覚えておいて欲しい。」

「…俺はそんな大層な人間じゃないと思うんだがな。…ただの一般人だ。」

「ただの一般人が、大立ち回りやっている時点で色々突っ込みたいところだが、まあいい。…僕も君に死なれては困る。そのことも忘れないでくれ。…また明日、会おう。」

 地味に重要なワードが彼女の口から放たれていたのだが、彼はそれに気付くことは無かった。

 

 

 

 

 そして、この復帰直後。

 近衛隊を名乗る綾小路武芸学舎の刀使達が、市ヶ谷の防衛省を急襲した。

 これを鏑矢に、彼にとっての穏やかな日々が訪れるのは当分先までお預けとなった。




ご拝読頂きありがとうございました。

とじともももう間もなく一周年を迎えますが、こちらもマイペースに投稿を続けているところでございます。
…メイン招集は見事にすり抜けましたが、気を落とさず運だと思って諦めることも肝心だと常々思わされます。

真希のナース服姿…、個人的には似合いそうな気もしますがどうなのでしょうかね?

次回は寿々花編になります。

余談ながら投稿翌日の3月3日(結芽の誕生日でもありますが)は、川崎市の方で刀使ノ巫女オンリーの同人誌即売会が開催されるとのことですので、向かわれる方はお身体に気をつけて楽しんできてください。

それでは、また。
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