刀使の幕間   作:くろしお

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どうも、くろしおです。
ここ一週間ほど、季節の変わり目時によくなる風邪を拗らせていました。
体調管理、気を付けます…。

気を取り直して、今回は真希編その4 前編です。
時系列は御前試合前、年の明けた冬頃です。
ちょっと趣が変わりますがご容赦ください。

それでは、どうぞ。


⑤ 混迷の渦 前編

 ー兵庫県神戸市・淡路市 明石海峡大橋ー

 

 橋長3911m、主塔の高さは300m超という世界最長を誇る巨大な吊り橋。

 本州四国連絡橋の一つとして、神戸淡路鳴門自動車道に組み込まれている。

 建設当時の日本の持つ技術の粋を結集して、百年に一度クラスのスーパー台風にも耐えられるように設計されている。

 

 

 そんな橋だが、現在は特別祭祀機動隊により封鎖されている。関西・四国間の物流を遮断してまで、橋の封鎖を実施したのには理由があった。

 JR山陽本線の舞子駅近くの公園に設営された、現地の特別祭祀機動隊の臨時指揮所は、多くの機動隊員で溢れかえっていた。

「現地の状況は!?」

「分かりません!確認に向かった班とも連絡が取れていませんから、彼ら待ちです。」

「一体、なぜここで…。」

「神戸淡路鳴門自動車道、大鳴門橋の封鎖も完了しました!淡路島に居る住民も、避難誘導を開始しています。」

「絶対に島外に荒魂を逃がすな!我々はそのために来ているのだからな。」

「はっ!」

 士気も上々であった。

 

 淡路島にて出現が確認された複数の荒魂。初報では、淡路島北部での出現となっていたため、物流の生命線であり同時にウィークポイントでもある二つの巨大連絡橋を守るべく、すぐさま緊急配備が敷かれることになった。

 場所が場所なだけあり、徳島県・鳴門側は平城学館が、兵庫県・神戸側には綾小路武芸学舎と応援として長船女学園の刀使が、更には本部からは親衛隊を代表して真希も派遣されることになった。

 今回は、非常に広域に及ぶ荒魂討伐の始まりだった。

 

 

 

 

 昼過ぎに鎌倉の管理局本部を飛び立ち、ヘリの航続距離を伸ばすべく中部国際空港(セントレア)で一度給油を行った後、現地の最寄りである神戸空港を目指す真希。

 

 ヘリに搭載された警察無線を使い、現地の対策本部からの情報をヘッドセットを通して精査する。

「現地の状況は!」

『現在、淡路島に荒魂を封じ込めるべく、明石海峡大橋と大鳴門橋は通行止めにして、一般車両の進入を制限しています。また、島内の住民も島の南部側に避難誘導を開始しています。』

「…初動にしては、まずまずといったところか。荒魂の居場所が特定出来次第、順次刀使を送り込んでくれ。」

『了解!』

「…一度発見された荒魂が、見えなくなったというのが気になるね。神戸空港からは、自力で現地に向かうよ。」

 真希がこう言ったのには理由があり、明石海峡大橋などを封鎖したために、本来四国方面に向かう筈の車両が捌ききれない量まで膨れ上がり、道路交通網が大混乱を起こしていた。そのため、仮に緊急走行として警察車両を飛ばしてきたとしても、一般道の渋滞に巻き込まれてしまうのがオチだと判断した。

 

「真希様、本当に大丈夫なのですか?」

 心配して声を掛けたのは、ヘリに同乗している、親衛隊である真希の補佐を務める綿貫(わたぬき)和美(かずみ)。彼女も今回の報を受け、他の鎌府の刀使を数人引き連れて、真希の援護にあたる。

「和美、心配は要らないよ。今回は平城、綾小路、長船の三校と僕達で対処するんだ。単独でやるよりも、心持ちは全然違うよ。」

「だと、いいのですが…。」

「不安かい?…まあ、和美にとっては慣れない土地だし、仕方ないだろう。不測の事態が起きた時の僕達(親衛隊)なんだから、本来はそのまま、現場の混乱もなく帰られればいいのだけれどね。」

「指揮系統が入り乱れて、混乱しなければいいのですが…。」

 そんな二人の不安を余所に、ヘリは間もなく神戸空港への着陸(ランディング)態勢(アプローチ)に入っていった。

 

 

 

 

 ー羽田空港 第二ターミナルー

 

 真希達が神戸空港に到着する頃、北海道内の大学で行われていた荒魂や刀使に関する学術シンポジウムに参加後、東京に戻ってきた彼。

 

「万一に備えていつもの道具を持っていっていたとはいえ、毎度テロ対策用に実施する、鞄の中身のX線検査やら、そん時の身分証提示とかの煩雑さ、どうにかならんのかね?」

「仕方ないですよ。本当なら、航空法等の法律では荷物室への積み込みだって駄目なんですから。特例で認められているだけ、まだ良いと思いますよ。危険物の有無は、全員を調べて白だとハッキリさせないといけない訳ですし、空港の人もいつも大変ですよ。」

 今回は同行者として、姫乃*1を連れてきていたのだが、パネリストの発言を聞きながら打ち出す片手間に、スペクトラムファインダーのちょっとしたバグへの応急処理案を作り上げるあたり、改めて彼女の情報処理能力の高さに対して、彼はその凄さを再確認させられた。

「後は鎌倉に戻って、今日の簡単な概要作成と貰った資料纏めくらいか。」

「それなら、もう機内で済ませてありますよ。本部に戻って現像した物と資料をホチキスで挟めば、すぐ紫様にお出し出来ます。」

「…水沢、仕事早えーな。そしたら、実質今日の仕事は終わりだな。…もう夕方か。」

 このまま京浜急行に乗り換え、羽田空港を後にしようと考えていた時だった。

 

 

 プルッ プルッ プルッ

 

 

 自身のコートの胸ポケットに忍ばせていた、業務用携帯が震える。

「ん?着信か。」

 こんなタイミング良く呼び寄せてくるのも何だかな、という気もしたが、ともかく電話に出ようとする。

「寿々花から?…何かあったのか?」

 意外な人物からの着信に眉をひそめたが、それと同時に嫌な予感を感じ取る。

「悪い水沢、少し時間をもらうぞ。」

「あっ、はい。」

 同僚から少し距離をとって、寿々花からの着信を取る。

 

 

「もしもし。」

『やっと繋がりましたわ。今どちらにいらっしゃいますの?』

「羽田空港だ。ついさっき、同僚と一緒に北海道から戻ってきたところだ。」

『…不幸中の幸いですわね。その同僚さんと共に、そのまま関西へ向かって頂けます?』

「…何かあったのか。」

『淡路島で複数の荒魂が出現との報が有りまして、真希さんと真希さん付きの鎌府の刀使数人も現地へ派遣中ですわ。…ただ、此方も情報が錯綜しておりますの。』

「ん?淡路島なら、綾小路の管轄だろ?京都から二時間掛からない距離じゃないか。増派出来ない程に現地はマズいのか?」

『…初報では荒魂は北部側のみとのことだったのですが、今現在は南部にも出現したという情報もあって、現地へ刀使を派遣しようにも確たるものでなければ送り込めませんの。』

「真希達にそのことは?」

『まだ伝わってませんわ。真希さん達は、今神戸空港に着いたようですので、後ほどすぐ伝えますわ。』

「んで、俺はどうすればいい?今から行っても足手まといにしかならんぞ。」

『羽田から関空までの飛行機を、私名義でチャーター致しましたわ。そこから先は海上保安庁の巡視艇が待っているとのことですので、その足で現地本部に合流してもらいますわ。』

「…どの道、今日は帰れないのか。分かった。寿々花、色々後で頼むことがあるんだが、それは機内に乗ってからメールで伝える。」

『…真希さんを頼みますわ。』

「寿々花も、紫様のことを頼む。…無事に寿々花のもとへ真希を連れて帰る。約束だ。」

 

 

 通話を終え、姫乃のもとへ戻る彼。

「水沢、悪い知らせだ。今日は本部に帰れないらしい。」

「まさか、荒魂ですか?」

「しかも、広域に複数の出現らしい。すまんが、このまま関西まで飛ぶぞ。」

「仕方ないですよ。私達はそれが仕事ですから。それで、どこへ向かえばいいんですか?」

「確か、寿々花が手配しているとか言っていたが…。」

 後で寿々花から送られてきたメールの指示のもと、二人は個人向け小型機用のターミナルへと向かう。

 

 

 

 

 ー神戸空港 エプロン(駐機場)ー

 

 一方、神戸空港に到着する真希達一行。既に日は傾き、あと二時間ほどで日没を迎える頃だ。

 ドアが開かれ、一斉にヘリから降りる。

「真希様、空港の方から海上保安庁の巡視艇が、ここから現地本部まで運んでくれるそうです!」

「ありがとう、和美。…よし、これより淡路島での荒魂討伐の支援に向かう!皆、気合いを入れていこう!」

「「はい!」」

 こちらも士気は上々になってきていた。…長く機内で揺られていたというのもあるだろうが。

 だが、寿々花が伝えようとした情報は、真希にまだ届いていなかった。

 これが後の事態に大きく関わってくるのだが、この時はまだ、そこまで深刻な問題ではなかったのである。

 

 

 

 

 海上は陸上ほどの混乱はなかったのだが、大阪湾海上交通センターほか第五管区海上保安本部所属の巡視船や巡視艇、ヘリがひっきりなしに民間船舶を明石側へ誘導していた。

 少しでも被害を軽くするべく、官民で足を揃えて回避行動を取り続けていた。

 その光景を見ながら、巡視艇が舞子駅沖に差し掛かった時に、真希達が八幡力を用いて陸地に飛び移る。

 

 

 現地の対策本部にようやく辿り着いた真希達一行。

 そのまま、特祭隊員の詰めるテントへと入る。

「親衛隊の獅童だ!今到着した。現在の状況は!?」

「此方で説明します!」

 説明役の特祭隊員のもと、真希と和美はテントの中心にある液晶画面入りのテーブルの前へ通される。

 

「まず、第一、第二中隊が二部隊に分かれて大橋上に展開し、本土への荒魂の侵入を食い止める布陣です。次に第三、第四中隊は島北部側の荒魂の捜索と刀使達の援護を行っているところです。そして、第五、第六中隊が島南部へ避難中の住民の誘導と保護を行っています。この中隊も部隊を二つに分け、一部は徳島県警と共に大鳴門橋の防衛に回って貰っています。」

「避難はどれくらい完了しているんだい?」

「最初の出現報告があったエリアからは全員の避難が完了しています。淡路市全体だと八割ほどまで完了済みとのことです。」

「真希様、刀使達の配置は淡路市に集中させますか?」

「そうだね。幸い、荒魂はまだ橋までは来てないようだし、見けられれば此方が優位だね。」

「分かりました。大鳴門橋で待機中の平城の刀使にも、そう連絡を入れておきます。」

 その言葉を聞き、真希や和美も、既に討伐に入っていた綾小路、長船の刀使達に合流する準備を始めようとしていた。

 

 

 

 

 そして、特祭隊員が平城の刀使の方へ連絡を入れたその直後だった。

 

 

 

 

 血相を変えた一人の特祭隊員が、テントに駆け込んできたのである。

「大変です!洲本市のフェリーターミナルで荒魂が出現したとの連絡が!」

「!?……荒魂は、淡路市だけじゃないのか!」

 寿々花が真希に伝えようとしていた情報は、このタイミングで初めて耳に届くことになった*2

「平城の刀使をそっちに向かわせられないのか?」

「呼び出してみま…」

 通信担当の特祭隊員が無線を扱おうとした瞬間、突如として淡路島側の建物の明かりが次々と落ちていく。

 文明の光が暗闇に呑まれていくのを、真希達は黙って見るほか無かった。

 

 

 

 

 

 

 弱り目に祟り目とはこういうことを言うのだろうか。

 淡路島内の変電所や送電線が、荒魂により同時多発的に次々と破壊されていった。これはその、最初の異変だった。

 

 

 

 

 

 

 状況がハッキリしてきたところで、無線も再度繋ぎ直される。

「平城の刀使と連絡がつきました。ですが…。」

「どうかしたのかい?」

「島内がブラックアウトした影響で、現在地が分からなくなったそうで…。」

「刀使達はスペクトラムファインダーは持っている筈だろう?」

「それが、位置情報を中継する基地局もブラックアウトの余波で、復旧に時間がかかるそうです。」

「どのくらい掛かりそうだい?」

「三時間は見て頂きたいですね。…せめて、非常用電源が基地局にあれば良かったのですが…。」

「そう言っても、仕方ないさ。…彼女達には海岸線を目印に、北に向かうよう指示を出してくれ。」

「洲本市の方へは…。」

「僕らが行こう。無線機のバッテリーが切れた時に備えて、現地本部(ここ)から替えのバッテリーを配給しに、何台か向かわせてもらえるかい?」

「第一中隊で手空きの者を送ります。」

「お願いするよ。…和美、連れてきた刀使達を集めてくれ。これから、海路で洲本市に向かうよ。」

「はっ。心得ました。」

 

 

 既に淡路市内の荒魂の方は片付きつつあった。スペクトラムファインダーが半分機能を喪失したり、島内の電気が落ちて周囲が暗闇に包まれた状況のなかで、綾小路と長船の刀使達は互いに協力して事態の収拾に努めていた。

 問題は、まだ刀使が派遣出来ていない、洲本市の方の荒魂。数も分からないうえ、明かりの無い道を進むには危険が高かった。

 再び、海上保安庁の巡視艇に乗せてもらい、真希ら派遣されてきた六人の刀使は、荒魂が出現した洲本市の洲本港フェリーターミナルへと急ぐ。

 

 

 

 

 ー関西国際空港 非常用船着き場ー

 

 一方、すっかり夜になり滑走路灯や誘導灯などが煌々と光っているなか、海上保安庁の巡視艇を待つ彼と姫乃。

 関西国際空港内には税関手続き用の貨物置場や倉庫もあり、その中には特別祭祀機動隊の装備置き場もある。

 

「何かあってもいいように、一通り出られる態勢にはしたが、俺達が行っていいもんかね?」

「でも、此花さんは私達に淡路島に向かうように言ったんですよね?…何の理由もなく、人材を送るような人でもないと思いますけれど。」

「単に真希が心配なだけだったりしてな。」

「…あり得そうでは、ありますけれど…。」

「そういえば、現地はどうなっている?」

「ちょっと待ってくださいね…。」

 姫乃は日頃持っている端末の一つである、セパレート型のパソコンを起動する。

「今、関西エリアの特祭隊の情報と折神家の情報を拾ってみます。」

「頼む。…出来れば、ここまでの重装備で乗り込みたくはないしな…。」

 背中には重量級の武装を、両手には弾薬や必要になりそうな医療キットを満載した、二つのボストンバッグを握る彼。

「…寿々花、頼んだ事はやってくれたんだろうか…?」

「どうなんでしょうね。でも、仕事はキッチリこなす人ですから、その心配は杞憂だと思いますよ。」

「…そうだな。」

「あっ、出ました。後はパスワードを入れてと…。」

 折神家の紋章、鶴丸*3に双刀が交差したマークが、画面に表示される。

 

 

 情報を手繰るにつれ、深刻そうな表情を浮かべる彼女。

「…結構、マズいかもしれませんね。」

「どういうことだ、水沢。」

「現地の部隊が、分断してます。」

「何だと!?…スペクトラムファインダーの情報が出ていないということは、まさか。」

「私達の想像以上に、混乱が起きているのは間違いないです。急ぎましょう、◯◯(彼の苗字)さん。」

「まずは現地本部か…。待ってろ、真希。今、追い付く。」

 まだ、彼女達が後方支援なしで洲本港へ向かっていることを知らない彼。

 一刻も早く、二人は現地の状況を掴みたかった。

 

 

 

 

 少し経ち、待ち望んでいた巡視艇に乗り込み、彼が大量の武装と物資を積み込んだ際には、海上保安官からかなり驚かれた。

 出港時の大阪湾は、荒れ始めていた。まるで、二人の再会を妨げるかのように。

*1
水沢姫乃のこと。詳細は『設定集・時系列まとめ』参照。

*2
但し、先に情報を掴んでいた寿々花も、島南部(南あわじ市付近)での目撃情報という認識だったため、本部内でも情報が錯綜している。(洲本市は島中部にあるため。)

*3
但し、某航空会社のものではない。




ご拝読頂きありがとうございました。

後編へ続きます。

感想等ございましたら、感想欄・活動報告にて対応させて頂きます。

それでは、また。
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