刀使の幕間   作:くろしお

95 / 235
どうも、くろしおです。

今回は真希編その4 後編です。
…一話当たりでは最長の文量になりました。すみません。

それでは、どうぞ。


⑥ 混迷の渦 後編

 ―兵庫県神戸市 明石海峡大橋付近―

 

 大阪湾の荒波に晒されながらも、海上交通の目まぐるしいこの海域を突き抜ける巡視艇。

 

 船尾にいた彼が、艦橋の海上保安官達に声を掛ける。

「保安官さん、現地まであとどれくらい掛かりますか!?」

「もう数分で、明石海峡大橋のあたりです!揺れが酷くて申し訳ありません!」

「いえ、ありがとうございます!」

 弾薬類が爆発を起こさないように、ボストンバックを船の欄干にしっかり紐で括りつける。

 逸るように言葉を発していた彼に、危機感を抱いた姫乃は諭す。

「◯◯(彼の苗字)さん、焦っても仕方ないですよ。」

「だが水沢、こうしている間にも刀使達の損害は大きくなるかもしれない。…真希と連絡が取れないのも気になる*1。」

「此花さんが手配したこの手段が、現地本部へ最速で着くんです。今は耐えてください。……特別な力のない私達はこうした時、無力です……。」

 若干普通の人間の定義から外れかかっている二人だが、その身体が一般人である事実は何も変わらない。

 

 刀使達と接してきた姫乃も、内心とても悔しがっていた。

(もし刀使の持っている力が私にもあれば…。)

 結局のところ仮定の話でしかないのかもしれないが、彼女なりの思いもそこにはあった。

 関西国際空港を出発して四十分後、二人は現地本部へ遅れて到着した。

 

 既に淡路島を封鎖して十時間が経過しようとしていたが、状況が混乱する中において、荒魂討伐は未だ収束の目途が立っていなかった。

 

 

 

 

 ―兵庫県洲本市 洲本港フェリーターミナル付近―

 

 その頃、淡路島に上陸した真希達は、洲本港で発見されたという荒魂を捜索していた。

「和美、荒魂は見つかったかい?」

「ダメです。これだけ暗いなら、逆に見つかりそうなものですが…。」

「他の刀使達は…、いや、和美でさえ見つけられていないんだ。言わずもがな、かな。」

「スペクトラムファインダーの位置情報が表示されていないのも、改めて非日常的なものだと思います。」

「さて、どうするかな…。後方部隊の到着は時間がかかるうえ、手持ちには簡単な照明器具しか無い。…無闇に行動するのも危険か。」

「見回りに出ている他の刀使も呼び寄せますか?」

「そうしよう。交代しながら、海側以外の三方に見張り番を置こうか。」

「真希様、笛を使いますね。」

「ああ。」

 騒音の無い街での呼び笛は、想像以上に響く。まして、今は夜間。中心部から、かなり離れて索敵中の刀使でも耳に届く。

 

 

 ピィーーッ ピィーーッ

 

 

 和美の鳴らす笛の音が、街全体に響き渡る。

 索敵中の刀使も、これを聞いてフェリーターミナル付近まで戻ろうとする。

 だが、この音が荒魂をも引き寄せるとは、誰も思いつかなかった。

 

 

 

 

 バーン!!

 

 

 

 

 フェリーターミナルの沖合から、巨大な水柱が上がると共に、真希達が探していた荒魂が出現する。

 

 

 

 

 

 グオォーウアァァーー!!

 

 

 

 

 耳をつんざくような荒魂の咆哮が、海上に轟く。

 

「海中からだと!!」

「真希様!一旦、海岸から離れましょう!他の刀使には発煙筒で居場所を知らせます!」

「ああ、急ごう!」

 二人は近隣の商業施設まで、八幡力と迅移を使って加速しながら退避する。

 

 

 その直後、洲本港に高さ1mの大波が襲いかかる。一部の脆弱な建物は、その波の威力に負け、破壊されていった。

 真希はこの時に、このヤマは自分達単独での解決は、容易なものではないと悟った。

 

 

 

 

 ―兵庫県淡路市 淡路サービスエリア付近―

 

 一部の非常用電源が作動したため、周囲よりも明るく点灯しているこの施設。災害時には拠点にもなるため、淡路島中がブラックアウトするなかで、ここは目立つ場所になっていた。

 

 そこへ、綾小路、長船の刀使達が集結し始めていた。

 最後の荒魂の集団を、ここで迎え撃つ算段を整えていたのである。

 

 

 

 

 そのバックアップ指揮を、対岸の現地対策本部に居る彼が担当することになった。

「水沢、自衛隊からの情報は来たか?」

「先ほど、淡路島に先行した部隊から順次来ています。後は、国土地理院の地図情報と合わせて、荒魂の進行速度、位置、最適な誘導方法を割り出すだけです。」

「……改めて、お前が居てくれて良かったわな。」

「刀使の皆さんが動けるようになるなら、全力で私も力になります。当たり前じゃないですか!」

「おっ、おう。そうだな。」

 

 そんなやり取りをする中、一人の特祭隊員が二人の詰めるテントに入り、彼に声を掛ける。

「◯◯さん、陸自の善通寺と伊丹からの追加部隊が到着しました!」

「報告、ありがとうございます。…さて、俺も行くか。水沢、作業が終わったらここを畳む準備をしてくれ。移動する。」

「移動って、どこにですか?」

「対岸の淡路サービスエリア。そこでの戦闘が終結し次第、真希達を援護しに向かう。…恐らく、孤立無援の状況である可能性が高い。無線機も、電気が復旧してない以上、街中のアンテナが中継機能を喪失していると考えた方が早いだろうな。」

「…間に合いますかね。私達。」

「最悪、俺一人でも先行して向かう。…というか、間に合わせる。後で海保に頼んで、巡視艇か巡視船を一隻お借りしようとは考えてる。陸路はまだ、電灯とかの復旧に時間が掛かりそうだしな。」

「…分かりました。その時は、コレを持っていってくださいね。」

 姫乃は、特祭隊で使っているタブレットの一つを彼に渡す。

「それがあれば、遠距離でも支援できますから。」

「悪いな。…本部に戻ったら、何か奢らせてくれ。」

「その時は、里奈さんも一緒に頼みますよ?」

「…それは高くつきそうだな。…さて、始めるか。」

 帰った時の自身の財布の中身を心配しつつも、身を引き締める。

 

 

 机上にあるマイクに、顔を近づける彼。

「綾小路並びに長船の刀使の方々、本部の◯◯です。今回、陸上自衛隊の協力のもと、淡路サービスエリアへの荒魂誘導に目処が立ちました。各員は現場の指揮官の指示に従い、残った最後の荒魂の集団を討伐してもらいます。…皆で無事に、母校へ帰りましょう。それでは、作戦開始!」

『『はいっ!!』』

 無線やスペクトラムファインダーから、多くの声が飛び込む。

 

「善通寺から来られた部隊の方々へ。神戸方向から機動戦闘車と中距離多目的誘導弾搭載車両を先頭に、淡路島側の入口で停止してください。軽装甲機動車、高機動車部隊はその後方でお願いします。」

『了解です。』

「荒魂がそちらに向かいそうになった場合は、躊躇なく発砲を行ってください。」

『分かりました。』

「伊丹から来られた方々は、善通寺の部隊の後方にトラック部隊を付けてください。淡路サービスエリアでの戦闘終了後、市街地の戦闘で破損した建物撤去などの協力をお願いします。」

『了解。指示通り、後方にて待機します。』

 

「ノロ回収作業を手伝っている平城の方々へ。現場指揮官の方、作戦はどの程度完了していますか?」

『現在、八割は完了しています。一部手空きの刀使も出てきていますから、応援に向かわせた方がよろしいですか?』

「どれくらい削ることが可能ですか?」

『全体の三分の二くらいは…でしょうか。』

「保険として半分は残します。残りの方々は、ノロの回収作業終了後、淡路サービスエリアへと向かってください。応援の方々は、明石海峡大橋に居る自衛隊部隊と合流して、彼らの防御を頼みます。」

『了解です。応援の彼女達の指揮は…。』

「其方で決めてください。…貴女方の判断と裁量を信じます。」

『はい。』

 

 

 

 

 矢継ぎ早に飛ばした指示。これで上手くいかなければ、真希と寿々花に会わせる顔が無い。

 本部の彼と姫乃、それに他の特祭隊員が、テント内のディスプレイ画面を見守る。

「頼んだぞ…。皆。」

「今、明石海峡大橋の淡路島側と、淡路サービスエリア周辺のデータを表示します。…荒魂は五体ですね。」

「一体あたりの人数比では、此方が優勢か。」

「荒魂、明石海峡大橋の近くを通過します。」

 文で表すと、指示を飛ばしてから十分程度なのだが、荒魂の行動を我慢強く待たなければならないのは、前線も後方も変わらない。

「……抜けたな。」

「刀使達が誘導しながら、荒魂達に進行方向を変えさせてますね。」

「…暗闇で見えないなか、よくやってくれているよ。」

「荒魂、間もなく目標地点です。」

「後は、彼女達の踏ん張り処か…。頑張ってくれ……。」

 合掌しつつ、彼女達の戦闘をドローンの映像から見る。

 

 

 

 

 淡路サービスエリアでは、待ち構えていた刀使達が一斉に荒魂に斬りかかる。勿論、集団戦の要領でだが。

 一体、また一体。学校を越え、学年を越えて彼女達は自らの役割を果たしていく。

 そして……。

 

 

 

 

『最後の一体、綾小路と長船の共同戦果により、討伐完了です!』

 現場に居合わせた特祭隊員が、本部にそう伝えてくる。

「よし!皆よくやった!」

 現地本部は、拍手と歓喜に湧く声に包まれる。

「ひと段落しましたね。……◯◯さん、貴方は獅童さんのところへ行ってください。後は私が引き継ぎます。」

「……水沢、すまない。恩に着る!」

「巡視艇はもう来てますから、先に洲本港へ向かってください!」

「ああ!」

 

 

 最後に残った荒魂を討伐に向かった、音信不通状態の真希達のもとへと、彼は急ぐ。

 巡視艇に乗り込んだ彼のその両手に握られたボストンバッグと背中には、大量の装備や弾薬の姿があった。

 

 

 

 

 ー兵庫県洲本市 某商業施設ー

 

 洲本港から少し離れ、洲本市役所よりも川寄りにあるこの建物。本来なら、休日に車でごった返すであろう駐車場も、今晩は人の姿すら無い。

 先程の荒魂の出現時に、海水が洲本港周辺を襲ったのもあって、地面は酷く水浸しになっていた。

 

「真希様。発煙筒は焚きましたので、直に他の刀使も集まってくるでしょう。」

「すまない、和美。…流石に、海上の相手と闘うのは、僕らにとっても難しいよ…。」

「真希様…。」

「…こんな時に、弱音を吐きたくはないんだけどね。何も出来ない自分が悔しいよ…。」

「親衛隊、いえ紫様とて海上に居る荒魂を討伐するなど、出来るものでしょうか。…私は不可能だと思います。」

「和美…。」

「ですから、そんな悲しい顔をなさらないでください。貴女は親衛隊第一席、獅童真希なのですから。」

 

 視界に捉えていた荒魂からおめおめ逃げる羽目になり、自信を失いかけていた彼女は、自らを慕う高潔な刀使の微笑みで再度奮起する。

 

 

 パシパシ

 

 

 両頬を軽く叩く真希。

「ありがとう、和美。…こんな姿、彼の前で見せたら笑われそうだよ。」

「そうなる前に、あの男を遠ざければいいだけの話ですから、真希様は心配なさらなくて大丈夫ですよ。」

「それは冗談には聞こえないけれどね…。」

 和美の言葉に苦笑する真希だったが、表情は先程よりも幾分良くなっていた。

 

 

 

 

 グアァァァーッ!!

 

 

 

 

 そんな時に、海上の荒魂は洲本の街に向かって動き始めていた。

 五階建てビルに相当するほどの高さがあったこの荒魂は、陸地に近くにつれ、海水と海底の汚泥や砂を巻き上げてきた。

 

「…あの荒魂が陸地に上がるというのなら、僕らも相応に相手しようじゃないか。」

「真希様、私はどこまでもお供いたします。」

「ありがとう。…探索に出ていた刀使達は皆集まったかい?」

「はい。いつでも出撃できます。」

「よし…。…荒魂狩りの時間だ。各人、戦闘不能になったら直ちに撤退してくれ。」

「「はっ!」」

「…そろそろ、僕の新たな力を発揮させてもらうよ。」

 そう言った真希の瞳は、赤く光っていた。まるでその眼光で人を射殺さんとする、そんなものだった。

 

 

 

 

 ー洲本港 沖合数km付近ー

 

 一方、巡視艇に乗り込んでいる彼。

 だいぶ無茶を言って、巡視艇の出せる最高航行速度で大阪湾を南下する。

 

「そろそろ洲本港のあたりです!船速を下げますが良いですか?」

「むしろ、こんな無茶を聞き入れてくださっただけでもありがたいです!ここからなら、ナイトビジョン*2を使って陸地の様子を見れますから。」

 そう言って、バッグの一つからナイトビジョンの付いた双眼鏡を取り出す。

 姫乃から渡されたタブレット端末から方位、今の位置を確認しながら洲本港の方向を見る。

 

 

「…陸地が、白く光っている…?」

 真希達を除いて人が居ないはずなのに、本来暗く包まれているはずの双眼鏡からの情報は、彼が異常を察するに十分すぎるものだった。

 更に巡視艇が近づいていくにつれて、洲本の街のあちこちで火や黒煙が上がっているのが見えた。

「保安官さん、本部にこう報告してください!『洲本市街、炎上中』と。」

「わ、分かりました!」

「…真希達や荒魂は…、……居た!」

 人の呼吸から僅かに発される赤外線と、火災によって生じた赤外線が不自然に回析しているのを捉える。

 荒魂に至っては、数㎞離れた海上からでも肉眼でぼんやり確認できるほどであった。

「…先に、信号弾を上げるか…。」

 援護射撃を行うにしても、味方が居ることを伝える必要がある。まして、無線が通っていない状況ではフレンドリーファイアの可能性も高まる。

「すみません!今から此方は戦闘態勢に入ります!前甲板に人を近づけないようお願いします!」

「りょ、了解です。」

「航行速度はこのままで構いません!もし危ないと判断したら、全速でこの海域を離脱してください!」

 

 

 

 

 前甲板に一人残る彼。

「さて、いっちょ派手にやりますか。」

 信号弾を打ち上げるため、左耳を塞ぎ、右腕が右耳を覆うように高だかく上げる。

 

 

 

 

 ヒュ~~~ッ

 ドン

 

 

 

 

 赤色の信号弾が、海面を大きく照らす。

「…真希、気づいてくれよ…。」

 この色の意味に彼女が気づくかは、自身にとって賭けであった。

 そのまま、彼は大掛かりな武装を準備し始める。

 …それは通常、絶対に洋上で使うことが想定されていないものであったが。

 

 

 

 

 ―兵庫県洲本市 某商業施設付近―

 

 超大型の荒魂と対峙する真希達。

 彼女や和美が選抜してきた精鋭部隊も、後方支援の無い中で十分に健闘していた。

 だが、この荒魂は一撃が非常に重く、攻撃を受けた者は簡単に写シを剥がされてしまう。

「和美!動ける刀使は!」

「どうやら、私達二人だけのようです!」

「…かなりマズいね。」

 荒魂を睨みつつ、剣先を据え直す真希。

「せめて、あの荒魂の意識を一瞬でも逸らせられれば…。」

 

 

 そんなことを口にした瞬間、海上で赤い光が発せられる。

「真希様、今の光は…。」

「……!!和美、戦闘不能の刀使はどこに居る!?」

「…?商業施設内の屋内駐車場で休ませていますが…。」

「彼女達に、防爆姿勢を取るように言ってくれ!和美は僕と一緒に、荒魂の山側に来てくれ!」

「はっ!理由はお有りなのですね。」

「…全く、君って人は強引だな。」

 海を一瞬チラッと見た彼女は、そう呟いた。

 

 二人は荒魂から少し距離を取りつつ、荒魂を軸に海から対称な地点まで移動する。

 

 

 

 

 その五分後、二人は啞然とする光景を見せられることになる。

 

 

 

 

 ―洲本港 沖合数㎞付近―

 

 その原因は洋上に居る彼にあった。

 ヘッドセットを掛けて、本部に残った姫乃に無線を行っていた際のこと。

「水沢、今から荒魂を直接照準で攻撃したいんだが、その弾道補正を頼みたい。」

『ちょ、直接攻撃ですか!?』

「光学照準器もあるにはあるが、ちょっと心許ないからな。」

『…◯◯さん、その巡視艇に武装はありますか?』

「船首側に機関銃ならあるが…。」

『ちょっとその巡視艇の情報をお借りしますよ。』

「…あとで問題が無いようにな。」

『分かってますよ…。…この船か。…この船の射撃指揮システムをお借りしてと…。』

 こっそりハッキングを行う姫乃。

「…大丈夫なんだろうか。」

『…今、コントロールをこっちに設定しました。あの黒っぽく動いているヤツですよね?』

「あっ、ああ。」

 少し呆気にとられる彼。

 

『距離出ました!タブレットに情報を送ります。』

「……届くか?というか、当たるのか?」

『何発撃つつもりですか?』

「…一か二か。多分、一発で十分だろうが。」

『なら大丈夫です。適切な発射角度と方位を出します。ちなみに、撃ち込むのは何ですか?』

「…110㎜個人携帯対戦車弾*3。」

『……正気ですか?』

「だって、関空寄ったときにいい武装無かったんだよ!仕方ないだろ!過剰火力なのはこっちも承知の上だ。」

『獅童さんに引っ叩いてもらった方が良さそうですね…。…どっちにしても、海上から撃てるものなのですか?』

「はっきり言うが、洋上から撃つなんてケースは無いぞ。…その最初の例になるとは思わなかったが。」

『獅童さん達には伝えたんですか?』

「無線が復旧してない以上、信号弾で伝えるのが限界だ。…後は運だ。」

『博打打つのは構いませんけど、責任はご自身で取ってくださいね。』

「分かってら。…そろそろ撃つから、切るぞ。」

『ご武運を。』

「…撃ち方用意…。」

 姫乃のデータを基に、荒魂をじっと捉える。

 波も穏やかなものになっており、巡視艇上の振動も読みやすかった。

「後方の安全、ヨシ。」

 発射時のバックブラスト対策も済ませ、引き金に指を掛ける。

 

 

 

 

 バオン

 ブシューーッ

 

 

 

 放たれた弾薬は、少し螺旋を描きながら荒魂へと突き進んでいった。

 

 

 

 

 ―兵庫県洲本市 某商業施設付近―

 

「真希様、何か来ます!」

「ミサイルなのか!?」

 その判断がつく前に、対戦車弾の衝撃が荒魂を大きく揺らす。

 

 

 この一瞬の隙を、真希は見逃さなかった。

「和美!行くぞ!」

 ノロにより身体能力がブーストされている真希は、荒魂の頭部まで一気に飛び上がると、《薄緑》に全体重と位置エネルギーを掛ける。そのまま、落下エネルギーが荒魂を斬り裂く力に変換されていった。

 和美は真希の半分ほどの高さまで上がると、横に一閃加える。

 思いの外、外殻は固くなかったようでスパッと斬れた。

 真希は地面まで下りきり、荒魂の崩壊を見届ける。

 大量のノロの山に変わった荒魂に少し悪態を吐きながらも、視界に光が射してきたことに気づく。

 

 

 

 

 こうして、丸一日掛かった淡路島の荒魂討伐は、朝日と共に幕を下ろした。

 

 

 

 

 その後、後方支援の人間として最初に合流した彼。

「真希!すまん、遅くなった。」

「遅いよ。…荒魂は討ち終わった。済まないが、先に負傷者の手当てを頼むよ。」

「了解。…お前さんも、後で診せてもらうぞ。」

「えっ?」

「有無は言わさないからな。じゃ、一通り診て回るから。」

 負傷した鎌府の生徒の応急手当を行う彼。

 インフラが復旧したことにより、ノロ回収班への連絡を済ませた和美。真希の横にやってくる。

「…先程、荒魂を撃ったのはもしかして…。」

「間違いなく彼だよ。…無茶をするのはお互い様だけどね。」

「一体彼は、何者なのですか。」

「…正直に言うと、僕にも分からないな。一つ言えるのは、彼が携わった案件での全体死傷率はかなり低いこと、かな。」

 掴み切れていないところもあるが、彼女にとっての彼はそんな感じだった。

 

 

「一通り診終わったぞ。全員、医療キットで済む程度の負傷具合だったみたいだ。」

「そうかい。」

「で、そこの麗人は外傷一つないようだが、真希は…。左頬と右腕か。ちょっと待て。」

「僕はいいよ。」

「バカ言うな。感染症対策だと思って受け入れろ。」

 そう言いながら、医療キットから包帯とガーゼ、絆創膏とオキシドールを持ち出す。

「染みるから気を付けろよ。」

「…っ。」

「絆創膏を貼って…、頬はこれでよし。右腕は、念のため巻いておくぞ。」

 テキパキと処置を終わらせる。

 

 

 

 

「さて、帰ったら寿々花に色々怒られそうだな…。」

「一体、何をしたんだい?」

「自衛隊の派遣要請の調整とか、諸々ぶん投げたから。」

「全く君ってヤツは…。」

「でも、間に合った。真希を無事に連れて帰れるだけ、結果は十分だ。」

「…ズルい男だ。」

 こんなことを言い合いながら、ヘリコプターが降下してくる。

 また再び、二人は本部での日常に戻っていった。

*1
この時点では、二人は淡路島のブラックアウトの件を知らない。

*2
暗視装置のこと。暗闇の中でも、可視光線を増幅することなどにより物体の有無などを識別できる。

*3
またの名をパンツァーファウスト3。文字通り、本来は敵戦車撃破用の武装である。




ご拝読頂きありがとうございました。

本日は由依の誕生日ですが、真希編の投稿ですみません…。

感想等ございましたら、感想欄・活動報告にて対応させて頂きます。

次話は寿々花編になります。
それでは、また。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。