刀使の幕間   作:くろしお

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どうも、くろしおです。

今回から戻りまして、親衛隊・紫編の投稿の方に移ります。

今話は真希編 その5になります。
時系列はアニメ本編3話あたりの話になります。

それでは、どうぞ。


⑦ 静穏な駆け引き

 ー折神家・特別祭祀機動隊本部 作戦指揮室ー

 

 御前試合で紫に突撃した姫和と、その逃走を幇助した可奈美。

 彼女らの追跡を制止した紫の行動が理解できなかったものの、それには何か理由があるのだろうと考え、敢えて深く追究しようとするのは止めた真希。

 

 あの出来事から、もう既に丸一日以上が経過した。

 不機嫌な表情をしていた真希に、寿々花が声を掛ける。

「どこか納得されていないようなお顔をされてましたが、何かありまして?」

「いや、あの時の紫様のお言葉がね。追うなと言った以上、僕達はそれに従うよ…。ただ、僕個人の感情としては、あの二人を追いたかった。」

「…少なくとも、私も同じ気持ちですわ。紫様に刃を向けた者をみすみす逃すなど、屈辱以外の何物でもありませんから。」

 真希と寿々花は並び立ちつつも、逃げた二人の行方の情報が入ってくることを待つしかなかった。

 

 

 

 

 その頃、刀剣類管理局内部では箝口令が敷かれているなかで、彼の部署のほうにも可奈美と姫和の捜索に加わるように伝令が下っていた。

 …のだが、同僚を預かる彼からすると、今回の伝令の受諾には全く気が進まなかった。

 

 事前に通信を受け取っていたとはいえ、姫和と可奈美の背後関係と事実関係が整っていない状況下では承服できたものではない。

「十条と衛藤の捜索に、俺達のところも加わるように通達が来たが…。」

「どうかしたのか、○○(彼の苗字)?」

 妙に頭を抱えていた彼に、声を投げかける誠司。今この職場には、彼と誠司が居るだけである。

「いやな、糸崎。元々の班員の数が少ないのにも関わらず、ウチのところにまで要請、というか徴収をかける時点で何かあるんじゃなかろうか、と勘繰りたくなるんだよ。今回の件は、特にな。」

 まるで、管理局全体が御前試合での姫和の突撃や、彼女とそれを手助けした可奈美の存在そのものを消そうとしているかのように。この彼の嫌な予感というのは、自身でも真っ青なレベルにほぼ高確率で当たるという。

 

 だからこそ、事前の詮索が今回では重要な意味を持った。

「…お前が調べていた件との関連か?」

「分からん。…だが、もし朱音様の話と紫様の現体制が行っていることが線として繋がるとなれば、むしろあの二人は親衛隊や鎌府の刀使達よりも先に、保護する必要がある。舞草の人間としては、だろうが。」

「…お前自身はどうなんだ?○○。」

「是非に及ばず、だな。真希達には悪いが、二人にはもう少しかき乱すだけかき乱してもらおう。…例え、彼女達と一戦交えることになろうとな。」

「―むしろ、俺は○○の方がそうなった時に躊躇するような気がするんだがなぁ。お前、刀使に甘いし。知っている人間なら、間違いなくそこを逆手に取られるぞ。」

「……そうなった時は、そうなった時だ。ぶっちゃけ、真希や寿々花と戦うようなことは俺も勘弁だしな。」

 舞草としての彼、本部の人間としての彼、などなど異なる立場ごとに思うところはあるにせよ、その最悪の選択肢も頭の中には入れておかなければならないのは、彼自身も勘弁してもらいたいところではあった。

 

 

 

 

 結局、彼の部署の人間も姫和と可奈美の捜索活動には加わった。

 同僚のうち、姫乃は特祭隊本部で神奈川県下や都内各所の防犯カメラ解析の手伝いに回され、里奈に関しては都内で捜索している所轄の警察官らの応援のため、都内をあちこち探り回っていた。

 一方の彼と誠司は、舞草側が二人の保護の方向に動いていることを知ったため、敢えて大きくは動かずに、鎌倉で抑止状態になった美濃関と平城の生徒達の対応に当たっていた。

 

 

 その一つ、美濃関や平城の生徒からの今後の相談を引き受けていた彼は、普段以上に神経を使いつつ不安な彼女達のストレスを減らすようにしていた。

「…まさか、以前からやっていたことがこうした形で活きてくるとは思わんわな。自分の信条とはいえ…。」

 今日一日だけでも二桁の数の相談を捌いたような気がしている彼。

 こんな男にでも相談を求めるという時点で、彼女達のメンタルは深刻な状況なのだろうと思った。

 

 

 

 

 コン コン

 

 

 

 

 ふと、彼の職場の部屋の扉を叩く音が響く。

「ん?誰だ?」

『○○、僕だ。入ってもいいかい?』

「…真希か?今は俺だけだが、いいのか?」

『構わないよ。むしろ君に用があって来たんだ。』

「俺に…?何だろ、一体。」

 外は在室表示にしていたが、少女達の相談は一旦小休止にしていたのである。そんな折に、親衛隊第一席からの用である。

(…まさか、バレたのか?…いや、そんなボロを出すような真似はしていないはずだが…。)

 彼女がやってくる理由に思い当たる節がない彼は、彼女を警戒しつつ戸を開ける。

 

 

 ドアを開くと、真希が普段の凛々しさを放ちつつ待っていた。だが、同時にどこか負のオーラを纏っているようにも感じた彼。

「どうした?真希。作戦指揮室に居なくて良かったのか?」

「少しの間、寿々花にあの場を任せてくれるよう頼んだよ。…まあ、今のところは大きな動きもないし、もし何かあればすぐに連絡が入るようにしてある。」

「そうか。…取り敢えず、何か飲むか?大方、あそこで立ちっぱなしだったんだろ?」

「じゃあ、頂こうか。」

 そうして、二人は僅かな一時を過ごす次第となった。

 

 

 応接用のソファーに対面するような形で座る二人。

 その間にあるテーブル上には、湯呑みとティーカップがそれぞれ置かれていた。

「しかし意外だね。君は、緑茶を出してくるものだとばかり思っていたんだけれども。」

「俺はこれでもいいが、真希の気持ちを解すにいいものはこれだろう、と思っただけだしな。」

 

 彼の方は何時ものように緑茶だったのだが、彼女の方に出されたのは、リラックス効果もあるジャスミン茶であった。彼は好んで飲むものではないのだが、真希の様子に少し違和感があったため、状況に適したものを淹れた。こうしたところの気配りに気付く人間が多いかどうかは、意見が分かれるところではあるが。

 

「これだけお茶好きなら、夜見とも上手くやれるんじゃないのかい?」

「そうとも限らん。はっきり言うが、紅茶と日本茶はお茶の淹れ方も違うし、その製法も異なる。俺個人からすれば、美味い紅茶の淹れ方が出来るのは遥かに夜見の方だ。」

「…意外だね。君が彼女をそう評価しているなんて。」

「事実だしな。本人にはあまり言わないけど。彼女、謙虚だし。」

「ふ~ん、そうなのか。じゃあ、僕は君から見たらどうなんだい?」

「真希か?…う~ん。…うぅ~ん。」

 いざ本人の目の前で言おうと思うと、言葉を選ぶ必要があるため、彼は唸る。

「…僕はそんなにつまらない人間かい?」

「いや、そうじゃない。…色々なことに実直だが、非常に危うい、そんなところか。」

「…?危うい?」

「ああ。…別に真希や紫様を批判するわけじゃねえが、あんまり紫様ばかりに肩入れし過ぎると、思わぬところで火傷することになり兼ねない、ということか。その真希の紫様への忠誠心が、な。」

「…それは、逃げたあの二人を庇うということかい?」

 途端、真希の声が低くなる。

 

 

 だが、構わず彼は続ける。

「さあな。…ただ、物事には様々な視点から見なければ、その本質を見誤ることさえあるということだ。恐らく、紫様を襲った十条のことを憎んでいるんだろ、真希は。その感情がおかしいとは思わない。それは至極真っ当な感性だ。…しかしながら、もし彼女が紫様を襲った理由も聞かず斬り捨てる、という手段を取るのなら、それだけは悪いが受け入れ難いところだ。」

「…それは、君の言うところの『刀使を守る』という信条に反するからか。」

「それ以前の話だ。日本は国際人権規約を批准する、法治国家だ。国際法無視の独裁国家でもない。当然ながら、現在進行形で逃げる彼女達の心身の保障もまた、されなければならない。例え、『刀使』という存在が変わっているとしてもだ。もし、それを無視して秘密裏に手を掛けるような事態になるならば、他国での、警察官による市民への発砲を非難する資格などは、俺達にもないというところだ。」

「…つまり、殺さず捕らえろ、そしてきちんとした裁きを受けさせろ、ということかい。」

「やるならば、当たり前の手順を踏んでな。…怒っているか、真希。対応が温いと。」

 折神家親衛隊たる彼女の立場ならば、そう考えるのが自然だとは思う彼。

 それは事実、そうであった。

「…率直に言えば、そうだろう。僕は君のように考えるのは、どうやら無理らしい。」

「…だろうなぁ。」

 そう言ってソファーから立ち上がると、空になった湯呑みに緑茶を淹れ直す彼。

 

 

 その作業がてら、話を続ける。

「ただ、色々考え過ぎるのは精神にも良くないぞ。下手すれば、真希の寿命を短くしかねないし。」

「僕は別に…、」

「―真希!」

 彼女の言葉を遮るように、彼が口を挟む。

「…俺は、真希達やその周りの人間が元気で居られるようにするために、色々駆けずり回っている。…お前さんらの人生は、刀使としての使命が終わった後もまだ続くんだ。俺は、真希にも長く生きてもらいたい。だから、自分のことくらいは大切にしてくれ。」

 彼の真剣な表情に、彼女も固い表情を少し崩して其方を見る。

「…分かった。僕もそんなに、物分かりができない方ではないからね。こうしたことを言うのは慎むとするよ。」

「頼む。―おっ、良い色になった。」

 そんな問答もあったが、再びソファーに戻って座り直す彼。彼女の方も、ジャスミン茶を口に含む。

 

 

 

 

「さて、真希。…お前さんがここに来た本題に入ろうじゃないか。何もないのにここに来たというのは、今のことを考えるなら普通はありえないことだしな。」

「……ああ。そうだね。」

「まあ、予想はつくけどな。親衛隊に十条や衛藤に対しての捜索命令が下った時に、俺にもついて来てこい、といったところじゃないか?」

「…はあ。前もって言われると、来る意味があったのか悩むじゃないか。」

 彼の予想があっさり的中したことで、肩をガクッと落とした彼女。

「別に直談判することくらい、真希には当然の権利だろ?それを俺がどうのこうの言うのは違うしな。」

「―それで。スマートにいきたいが、先に君の答えを聞きたい。どうなんだ。」

「…悪い、真希。お前と一緒には行けない。こっちも色々やることが山積しているしな。戻って一緒にやってくれるならば、この提案には乗れたんだが。」

(まあ、事実そうだしなぁ…。美濃関と平城の生徒達への対応もだが、舞草としてやっとかなきゃならんものもあるしな。)

「分かった。…まあこれは、僕個人のお願いだからね。正式なものではない以上、僕も諦めるよ。」

「ま、何か困ったコトがありゃ、本部での作業くらいはやるわな。」

「助かる。」

 彼の性格も知っている彼女からすれば、話をあっさり蹴っ飛ばすことくらいは容易に想像できたため、ここで色々言い合っても仕方がないところはあった。

 

 

 

 

 二人ともお茶を飲み切ったものの、まだ時間がありそうであったため、再びお茶を淹れ直す。

「○○、幾つか聞きたい。もし君が十条や衛藤の立場なら、どう逃げる。」

「俺か?…まあ、俺なら少なくとも都市部を中心に移動するだろうな。ただ、新幹線は使わないだろうよ。改札で張っていれば、間違いなくバレる。」

「そうだろうね。…なら、まだ東京に居るのか。」

「俺ならばそうするけどな。…あくまで参考意見になるが。」

「いや、十分だよ。…もう一つ聞きたい。『舞草』、という言葉に聞き覚えはないか?」

 彼女個人も疑っているわけではないが、一応彼に鎌をかける。

「『舞草』?日本刀源流の地のことか?別に、伍箇伝の人間なら知っていてもそうおかしな話じゃないだろ?」

「…いや、何でもない。」

 彼の場合は知識として知っていそうだったため、特に怪しまずにこの話は終わった。…まさに、その舞草の構成員は目の前にいるのだが。

 

「じゃあ真希、こっちからも。…ノロ、もしくは荒魂が使用された人体実験について、何か知っていることはないか?」

「――っ!!」

 そう彼が聞いた途端、彼女の顔や体の動作が強張ったように一瞬止まる。

「…?どうした、真希?」

「い、いや。何でもない。…◯◯。申し訳ないが、僕はそれについて何も知らないんだ。力になれなくてすまない。」

「いや、こっちこそ変なことを聞いた。悪い。」

 そうして、彼はこれ以上のことを彼女から聞き出そうとするのを止めた。聞かずとも、分かってしまったからだ。

 

 

 

 

 終盤は双方ともぎこちない雰囲気が漂ったものの、真希が作戦指揮室に戻るため、ちょっとしたティーブレイクタイムは終わりを迎える。

「今日はありがとう。…貴重な意見を聞くことができた。」

「俺の意見はあまり参考にしないほうがいいぞ。碌な結果にしか繋がらんだろうし。」

「…まったく、相変わらずの過小評価だね。」

「実際そうだしな。俺でなくとも、これくらいのアドバイスはできるだろうし。」

「…本当に、変わった男だよ。君は。」

「というか、俺自身は真希に認められるような人間でもあるまいて。まして、剣術がほぼ分からん人間なワケだし。」

「さあ、その辺りはどうなんだろうね。…最も、僕は君を認めないなど一度も言ったことはないけれど。

 彼に聞こえない程度の小声で、そう呟いた彼女。

 当然ながら、それを聞き返す彼。

「ん?何か言ったか?」

「いいや。…それじゃあ、戻るとするよ。」

「帰り、気を付けてな。」

「僕を誰だと思って言っているんだい?」

「折神家親衛隊第一席、獅童真希、だろ?」

「分かっているならよろしい。じゃあね、○○。」

 彼の苗字を呼ぶと、彼女は部屋の扉を閉じていった。

 

 

 

 

 真希が去り、再び一人になった彼。

 その表情は、先ほどまで女子と話していた割には酷く固く、そして暗かった。

「……真希、お前さんは嘘が本当に下手だよ…。」

 あれだけ分かりやすいほどのリアクションを取られれば、否が応でも勘繰りたくなる。…間違いなく彼女は、ノロか荒魂を使用した人体実験のことを知っているであろうと。

「…だから、尚のこと放っておけないんだよ。俺は。」

 彼は真希の過去を知ってしまったが故に、その彼女の精神がいつか限界を迎えないだろうか、という危機感を抱かずにはいられなかった。

 

 

 

 

 それは、この後に起こる伊豆・石廊崎付近や折神家突入時での出来事を通じて、その懸念が的中してしまった。これはその前触れの話であった。




ご拝読いただき、ありがとうございました。

最近になってようやく名残花蝶を聞くことができましたが、…本当にウルっときつつ、色々考えさせられました。
夜見ファンの方は特に、買って損のないと思える、それくらい聞きごたえのあるものですので、もし未購入の方がいらっしゃるならば、是非前向きに考えていただければと思っております。(※あくまでも筆者の個人的意見です。)

長くなりましたが、次回は寿々花編です。
感想等ございましたら、お気軽に感想欄・活動報告へご投稿頂ければと思います。

それでは、また。
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