刀使の幕間   作:くろしお

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どうも、くろしおです。
前回投稿から少し間が空いてしまいました。

今回は真希編その6 中編をお送り致します。
前回の旅館のチェックイン後のあたりから再開します。
(当初予定の文章量よりも膨れ上がったため、分割執筆作業に手間取りました…。)

それでは、どうぞ。


⑨ お伊勢参り 中編

 ー某旅館 和室ー

 

 伊勢観光と調査の兼務をこなしていた彼と真希。

 宿泊先の旅館で、そのトラブルは起きた。彼が予約していた二部屋のうち、片方の部屋が中国人観光客の団体とダブルブッキングしてしまい、真希の承諾を得つつも、今晩は二人で一夜を共にすることになった。

 

 

 部屋に着いて一時間ほどが経過し、彼の方はパソコンと向き合いながら、文書づくりに勤しんでいた。

 真希は今、部屋にはいなかった。

 

「…ほんと、こんなことってあるもんなんだな。」

「―全くだね。」

 ちょうど旅館併設の浴場から上がってきた、施設側が用意した浴衣を纏う真希。

 湯上りなのが分かるように、彼女の髪の毛が少し水気を含んでいるようにも見えた。

「―にしても意外だった。まさか、同室でもいいと言ってくるなんてな。」

「単純に、旅館の人たちを困らせたくなかっただけだよ。」

「そうか。」

 彼女の性格的にも、その返答は想定内だったため、あっさりと流す彼。

 

「そうそう。《薄緑》はどうする?床に置きっぱなしというわけにもいかないだろ?」

「ん?ああ、《吠丸》*1のことか。それなら心配ないよ。段ボール製だが、簡易的な刀掛台を持ってきているし。」

 彼女はそう言って、スーツケースの中から、黒塗りの強化段ボールキットを取り出す。

「なるほどな。これなら、ちょっとした任務の時でも御刀を粗末に扱う心配もないか。」

「まあ、これも青砥館から薦められたモノだけれどね。」

「…商魂逞しいな。陽菜、陽司さん。」

 青砥館の、知らぬうちにリピーターを増やす姿勢は、彼も見習いたいものだと思った。

 そして組み立てられた刀掛台へ、《薄緑》は静かに置かれていった。

 

 

 

 

 彼もついつい忘れてしまいがちにはなるのだが、真希自身の体つきが女の子であることを、こういう時に改めて認識させられる。浴衣姿であるなら、尚更である。

 

「…うっかりしてたんだが、真希って確か、普段から胸を抑えているのって、サラシじゃなかったっけか?」

「ああ、うん。それがどうかしたのかい?」

「…固定、今日明日はどこでするつもりだ?」

「……あ。」

 度々抜けているところのある彼女だが、彼女自身も彼に指摘されるまで忘れていたところをみるに、完全に失念していたようである。

「…朝のうちに大浴場の方でやってくるよ。」

「入口の貼り紙に、明日の朝から夕方まで業者が入るから、浴場は利用できない、とあったように思うんだが。」

「…なん、だと…。」

 驚くほかない真希。

「それに、サラシを巻いている姿は他人からすれば目立つものだしな。…まして、宿泊客には他国からの観光客もいるんだ。異文化に興味を持った人たちからあれこれ聞かれて、真希があたふたする姿が目に見えるぞ。」

「う、う~ん。弱ったな。」

 と、ここまできて、彼はあることに気がつく。

「…待てよ?ーまさか今、上は浴衣だけで着けてないのか!?」

 焦る彼。だがこれに、彼女は反論する。

「流石にタンクトップは着ているよ。…そんなに慌てなくとも…。」

「いや、俺が社会的に死ぬから!…それで、どうするんだ?」

「予備で持ってきていた下着を着ればいいから、その問題は解決するとは思うけれど。…あれの着心地はよくないけれどね。」

「…それを最初に言ってくれ…。」

 一気にメンタルが削られた彼。自身の思い込みが原因であったこともあり、その後、彼女を責めるようなことは言わなかったが。

 

 

 

 

 パソコンへの入力作業と、電子メールの送信が一段落し、座椅子へもたれかかった彼。

「終わったぁ…。」

「別にそのくらいなら、僕へ任せてくれたって良かっただろうに。」

「俺の記憶が確かなら、真希は機械の扱い、不慣れじゃなかったっけ?」

「…あっ、うん。」

「…まあ、今度時間がある時に、日常生活で扱う端末とかの使い方を教えていくから…。紙ベースの文書が何時までも続くとは限らないしな。」

「その時は、よろしく頼むよ。」

(スペクトラムファインダーが扱えるんだから、慣れさせたら使いこなせるはずなんだがなぁ…。)

 そんなことを感じた彼ではあった。

 

 

 夜も更け、寝る時間も迫る。

 彼は押し入れに仕舞われていた、二組の布団を引っ張り出す。

「布団は、間隔をあけて敷いていいよな?」

「ああ、うん。…ちなみにどのくらい離すつもりだい。」

「一畳分。」

「……その間隔は普通なのかい?」

 

 そう広くはないこの部屋で一畳分の間隔となれば、部屋の隅に近くなるような配置である。もちろん、隅の布団へ寝るつもりだったのは彼であった。

 

「少なくとも、異性同士が寝る以上、これくらい間をあけておかないと、真希は落ち着いて寝られないだろ?…なら、俺は部屋の隅の方がいいだろうし。」

「……君って男は…。」

 彼にとってみれば安心材料を与えたつもりが、なぜか彼女からは呆れ顔を向けられた。

「そんなに、僕と一緒に寝ることが嫌なのかい?」

「そうじゃない。だが、もし何かあった時が怖いんだよ。暗闇の中でも撮影が可能な、赤外線カメラでも持ってきていりゃ、まだ良かったんだが。」

 

 安全性の担保ができないというのは、刀使としてでなくとも、女性ならば危機感を抱いて然るべき問題ではあった。真希はその辺りの感覚が鈍いようにも思えたが、此方が大袈裟に振る舞うくらいの方がちょうど良い、という認識を彼は取ったのである。

 

「俺だって真希と同じ部屋で寝ること自体はやぶさかではないが、甲府での出来事を考えると、間違いを犯さないということを否定できないんだよ。」

「甲府の…。」

 こう言われて、真希は去年中の出来事を思い出す。それにより、思わず顔を赤くすることになったが。

「あっ、あれはその…、事故だよ事故。きっと、偶発的なものだったんだろうし。」

「…あの時って、なぜか俺のベッドに真希が居たんだよな?あれは何でだ?」

「きっと気のせいだよ、気のせい。君も寝ぼけていたんじゃないのかな。アハハッ。」

「……そうか。」

 個人的には解せないところもあったが、こんな話で喧嘩などまっぴらごめんだったため、彼もそれ以上の追及には至らなかった。

 

 

 

 

 布団を敷き終え、ゴロンと横になる彼。

 天井の板張りが心を落ち着かせてくれるようにも思えたものの、上半身へ照らされていた電灯からの光が、立つ真希の影で暗がりに転じる。

「ちょっと隣、いいかな。」

「え、…ああ。別に構わないが。」

 体を起こそうとした際、彼女にそれを止められる。

「あ、ちょっと待ってくれ。まだ寝転んだ状態で構わない。僕が座るから。」

「?―お、おう。」

 彼女の思考が読めないなか、彼の頭頂付近でシーツが擦れる音が聞こえてくる。

「よっと。頭を起こしてもらってもいいかい?」

「はあ。それは、構わないが…。」

 

 首を前へ倒した彼。すると、後頭部に柔らかい感覚が伝わる。

「!?―真希、これは?」

「こうされるのは、嫌いかい?」

 ふと首を後ろに向けると、戦闘中のような険しい表情とは打って変わって、非常に朗らかな顔を浮かべていた。

「い、いや。少し驚いただけだ。」

(…膝枕をしてくるとは、正直思ってもみなかった。)

 彼女の性格として、こうした行動をとってくる事の方が、彼からすれば意外であった。

 

 

(…エレンは以前零していたが、真希の身体は彼女で言うところの『Nice body!』だったっけな…。)

 

 彼も、真希のことを意識しなかったわけではない。ただ、己の感情を彼女へ向けることは避けてきていた。親衛隊第一席としてより強く在ろうとする心身、不器用ではあっても人当たりの好い性格、機械音痴に代表される、ちょっと抜けたところのある雰囲気など、彼女の人柄を挙げ出すときりがない。

 

(―きっと、俺自身は幸せではあるんだろうな。こんな美人に膝枕をされている時点で。)

 同時に、真希を補佐する和美*2あたりに、今日の出来事が知られたら後が怖いな、とは思った彼。

 

 セクハラなどと言われないために、真希の胸部をなるべく見ないよう、彼は視線を彼女から離すようにしていた。

「…僕のこれは、どうだい?」

「―落ち着く。ただ、俺の頭、重くないか?」

「これくらいは平気さ。」

 その言葉に安心した彼。今の雰囲気ならば、彼女が嫌がらない範囲のことなら大抵の行動は許されそうだ、と思いはした。いっそ、そのまま押し倒してみるということだって、異性愛の性嗜好を持つ男性である以上、浮かびもした。

 

(…でも、それで嫌われたら意味がないんだよな。ようやく、真希とお互い積極的に関わり合うようになれてきた、ってのに。)

 彼は、彼女とより深く付き合っていくには、ある出来事が必要になると考えており、敢えてこれ以上甘えることを拒絶した。

 

 

 

 

 つい長い時間、二人は膝枕へと興じていたが、いよいよ睡魔がきつくなってきた。

「じゃあ、電気を消すとしようか。」

「ああ。…お休み、真希。」

「明日も頼むよ。」

「了解…。Zzz…。Zzz…。」

 床に就いた彼は、早々に寝息を立てていった。

 

「……全く、君は散々危機感を煽るだけ煽って、本当に何もしないとはね…。…だからこそ、君は僕にとって、信用に値する人間なんだよ。」

 もう寝てしまった本人へ声は届かないだろうが、真希はそう呟いて、彼に背を向けるようにして眠りに就いて行った。

 

 

 

 

 

 

 ー三重県伊勢市 伊勢神宮・外宮ー

 

 翌朝、調査のために鳥羽周辺の神社を経由し、レンタカーにて伊勢市街に入った彼と真希。

「車は…、駐車場があるのか。なら、ここに止めるとするか。」

「やはり、人数は多いね。」

「お参りとノロの状態確認を兼ねて来るっていうのは、俺らくらいのものだろうし。…流石に、ここでぞんざいな扱いをされているとは考えたくないけどな。」

「ともかく、用事は早く済ませよう。」

「御刀は忘れていかないようにな。」

「ああ。」

 車を停め、二人は火除橋から伊勢神宮境内へと入っていく。

 

 

 日本の神社の大多数のトップにして、神社本庁の本宗である伊勢神宮。約二千年という遥か昔から存在し、二十年おきに一度は内宮・外宮のどちらかが建て替えられる、式年遷宮も行われている。なお、内宮・外宮はそれぞれ大きく離れており、今回二人が参ったのは市街地に近い外宮のほうになる。

 

 歩きながら、真希へちょっとした小話を挟む。

「意外な話だが、出雲大社と伊勢神宮は派閥的な見方だと別になるんだよな。二つとも、同じ日本古来からある社ではあるんだが。」

「…古代の元々の文化圏の違いもあっただろうから、ある意味必然的なものなのかもしれないけれどね。そう言う意味では、長船(女学園)が岡山に立地しているのにも、意味があったのだろうけど。」

「長船は、日本刀の製作に欠かせなかった玉鋼、御刀にも使われている珠鋼が採れた、安来*3にも近かったしな。その歴史背景をもとにすると、伍箇伝の新規校開設に向く立地では恐らくあったんだろう。…まあ、先人たちはまさかその精錬時の過程で出たノロが、今の今まで暴れ回ることになるなんて思わなかっただろうしなぁ…。」

 時として人間の行いは我が身に返ってくる、ノロと御刀の関係はそんな事例であるとも、彼には思えた。

 

 

 

 

 二人は手水舎で両手と口を清めた後、外宮神楽殿で神宮の関係者と会うべく、まがたま池を横目に突き進む。

 

「宮司さんからは、服装に関しての許可を貰っているとはいえ、私服姿で参っていいもんかねぇ…。」

「いいんじゃないかな。…まあ、僕達が来た理由自体、殆ど確認目的というのが大きいしね。」

「…ちなみに真希、今の地点でノロを感じるか?」

「…ああ。ただ、かなり反応は薄いね。」

 

 ノロを取り込んだことで、ノロの反応を探知することができるようになっていた彼女。それはいわば、人間スペクトラムファインダー、といったところだろうか。ノロを除去する治療は継続して受けているのだが、完全除去にはまだまだ長い時間がかかりそうである。

 

 

 二人がたどり着いた外宮神楽殿で待っていたのは、神宮の管理を任されている責任者と、巫女さんだった。

「遠路遥々、神宮まで、ようこそおいでくださいました。」

「刀剣類管理局の◯◯(彼の苗字)と、折神家からの代表者として、此方の獅童が、この度の件で参らせさせていただきました。」

 彼が真希も含めて、神宮の方々に挨拶をする。

「今回はノロの管理確認と、新しい御刀が発見されたのかどうかの調査、でしたね。」

「はい。最も、後者に関しては無視していただいて構いません。もし神聖なこの土地から見つかった御刀を、思慮なく軽々に持ち去っていくというのも、恐れ多く思いますので。」

 

 彼自身は科学的根拠をもとに動くタイプの人間ではあるが、同時に現代科学では解き明かせないようなこともあるだろうな、と考えている節もある、比較的柔軟な発想をもつ者でもあった。

 

「それでは、ご案内いたします。私の後に続いてください。」

 責任者の先導のもと、巫女さんと挟まれるような並びで、彼と真希は後続に連なった。

 

 

 少し歩くと、複数の祠が並ぶ一角に、少し大きめの石くらいのサイズで注連縄と伊勢流の紙垂(しで)が施されたノロの祠があった。内側を雨風から凌げるように、木造りで覆われていた。

「こちらがそれになります。」

「思っていたよりも小さいな…。…○○?」

 真希が祠を見て彼の方を向いた時、彼はノロの祠へと、手を合わせて拝礼していた。

 数秒の後、頭を上げた彼。

「責任者さん、ここに祠が建立されてどれくらいになりますか?」

「つい、先月のことかな。確か。最初は驚いたが、我々が先頭に立って行動すれば、他の神社へもノロの分祠が進むということを、宮司が話しておられたからね。」

「ノロを置くことに対して、抵抗は無かったのですか?」

 おずおずと真希が尋ねる。

「勿論、過去に荒魂に襲われて怪我を負ったり、家財を失った者とかは反対しましたよ。わざわざ、荒魂になっていく危険を自分たちが抱え込む必要はないと。」

「…まあ、当然の反応でしょうね。」

 彼がため息を吐きたくなるような表情を浮かべる。

「でも、宮司は最後まで説得を重ね、漸く此方の安置に取り掛かることができました。折神家からの口添えもあったことが、大きかったとは思いますけれどね。」

「朱音様…。」

 

 療養中の紫に代わって刀剣類管理局の立て直しを計るなかで、一人ひとりに身を砕いてきた姿勢を彼も知っているので、そうしたことが今のことに繋がっていると考えると、感慨もひとしおであった。

 

 

 

 

 ノロの保管状況の確認と外宮の参拝を終わらせ、責任者と巫女さんへお礼を伝えたのち、二人は車へと戻った。なお、新規で見つかった御刀は無かったという。

 

「真希、内宮はどうする?参っていくか?」

「いや、確か距離が離れていただろう?次に来たとき、寄ることにしようと思う。」

「そうか。…え~っと、今日分の調査はあと十数ヶ所か。それが終わったら、実質自由時間になるわけだが、どこか寄りたいリクエストとかはあるか?」

 ファイル内の書類にメモをしていく彼は、ドアに頬杖をする彼女の姿をチラッと見る。

「……なら、海に行ってくれないか。」

「海か?」

「ああ。…ダメ、かい?」

 此方に顔を向けてきた真希の目と、たまたま首を横にした彼の目が合う。

「俺は構わないが…、砂浜のあるところがいいのか?」

「…うん。」

 彼女の意外なリクエストに若干の戸惑いはあったが、彼も特別寄りたいと思っている場所があったわけではなかったため、それを承諾した。

 

 

 

 

(まあ、俺も人目がつかない場所で、実行したいと思っていたしな。…俺の気持ちを真希にぶつけるにも、相応しいところだな。)

 無論、彼にも考えがあったことは言うまでもないことであろう。

 彼は真希の我が儘を聞きつつ、次の訪問場所で彼女との関係に大きな変化をもたらすことを、腹に決めた。

*1
真希が《薄緑》を呼ぶときの名前。この御刀は、過去幾度となく名前が変わっている。

*2
鎌府女学院の綿貫和美(とじともサポメン)のこと。

*3
島根県安来市のこと




ご拝読いただき、ありがとうございました。

感想等ございましたら、感想欄・活動報告へお気軽に投稿いただければと思っております。

とじともの新プレイアブルキャラ(稲河さん)、一体どんな風を巻き起こしてくれるのでしょうか?
(葉菜や他のサポートメンバーのプレイアブル化は、まだ先のことになりそうですね…。)

後編へ続きます。…なるべく早く投稿したいところですが…。

それでは、また。
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