刀使の幕間   作:くろしお

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どうも、くろしおです。

今回は真希編その6 後編になります。

それでは、どうぞ。


⑩ お伊勢参り 後編

 ー三重県伊勢市 某海岸ー

 

 伊勢神宮を後にした彼と真希は、伊勢市街で赤福を購入したのちに、伊勢湾からの潮風に曝されるなか、とある海水浴場を歩いていた。正確に言えば、オフシーズンでは遊泳禁止ながらも開放されている海岸、という言い方が正しいのだろうが。

 

 

「真希がちょっと寄りたいところがあるって言っていたのは、ここのことだったのか?」

「鎌倉でも海は見れるんだけどね。…少し、潮騒を聞きたくなったのさ。」

「なんというか、意外だな。真希に風情を重んじるところがあったなんて。」

「その言い方は、少し傷つくな。僕がこういうところに来るのはそんなにおかしなことかい?」

 思った以上に抗議の意思を示す彼女に、彼も表情を崩す。

「悪いわるい…。…ただ、単に潮風を浴びたかったという割には、御刀をわざわざ持ってきた理由としては弱いんじゃないのか?」

 指摘のように、彼女が意味もなく《薄緑》を持ってくるとは思えなかった彼。すかさず、真希も言葉を返す。

「それを言うなら、君もそうだろう。腰回りの警棒と十手、それと拳銃。この辺りの治安はいいはずなのに、ひどく重装備じゃないか。」

「…バレてたか。上着で隠していたつもりだったんだけどなぁ…。」

 黒いウェザーコートとジャケットに覆われていた、左右両側のベルト付近にある、それらの膨らみが真希にも視認できた。

「僕を守るつもりなら、また別の物を準備するだろうしね。それにしたって、どうしてまた。」

 彼の考えが読めなかった彼女は、本人に問い質した。

 

 

 

 

 そして彼の口から、この場では意外な言葉が飛び出す。

「……真希、この場で一戦、お願いできないだろうか。」

「この砂浜の上で、かい?」

「ああ。…刀使としての真希の剣を、一度ここで相対してみたいと思っている。」

「別にここでなくとも、本部で幾らでも稽古をつけることができるだろうに。…ここでなければいけない理由でもあるのかい?」

 そこは確かに、真希の指摘どおりなんだけどな、とは言いつつも、彼は話を続ける。

「現状は、舞衣や沙耶香とかから学んでいるとはいえ、俺の剣術はド素人もいいところだ。…敢えてこんな不整地で、今までの戦闘経験が真希(・・)にどれくらい通用するのか、俺は試してみたいんだよ。」

 理由はともかく、彼の目は真剣そのものだった。

 

「…君は一般人だろう?僕の場合、手加減できずに君を斬りかねない。写シだって張れないのに、それでもなお僕の剣を受けたいと?」

「ああ。」

「……ふむ。」

 真希は戸惑った。なぜなら、彼の真意が全く読めないためであったからだ。

「…分かった。なら、僕の攻撃を一分凌ぎきれれば君の勝ち、それよりも前に音を上げたら、僕の勝ちということでいいかな?」

「それで構わない。」

 彼の方は、ゴム弾入りの自動拳銃を使わず、手持ちの十手と二本の警棒で応戦する構えであった。彼女とは純粋な腕比べをしたいという、彼の意思がそこから垣間見えた。

 

 

 

 

 一瞬、海からの強風が二人に襲う。

 その風は、ほんの一、二秒ですり抜けていった。それが同時に、勝負の合図となった。

 

 

「……神道無念流、獅童真希、参る!」

 私服姿であるとはいえ、長袖シャツとレギンス、運動靴という動きやすさに重きが置かれた服装により、刀使としての身のこなしも容易にできるようになっていた。

 一瞬だけポケットに手を入れたため片手となり、動きに隙が出たと思った途端、彼女のギアが切り替わる。

 

「はあっ!!」

 

 一気に彼との間合いを詰めると、真希は上段から真っ直ぐ、彼の頭目掛けて御刀を振り下ろす。

 

「せい!」

 

 特注していた高硬度の警棒と、珠鋼製の十手を頭上でクロスし、初撃を耐えようとした彼。

 だが。

 

 

 ガキンッ!

 

 

(―!?これはマズい!)

 

 衝撃とともに、両腕が一瞬痺れたように震える。

 珠鋼製の十手が、《薄緑》との接触で軽い火花を散らしたのだが、真希の持つ八幡力と刀使としての力は、彼の想像の遥か上をいく威力だった。

 表現としては悪いのかもしれないが、まるで熊を相手にしているような感覚であった。

 

(このままでは、潰される!)

 

 彼自身も全く鍛えていないわけではなかったのだが、彼女の剣は非常に重く、まさにパワーでねじ伏せにかかっているというのを実感する。

 特注の警棒はしなり、悲鳴を上げはじめていた。

 

「そんなものか!君の力というのは!」

「まさか、まだまだだ!」

 

 真希からの挑発に受け答えはしたものの、持っている武器としては攻めに打って出られないうえ、このまま彼女による御刀への加圧に耐えるのにも、体力的な限界はすぐ見えていた。

 

 ミリミリと、少しずつ彼の靴が砂浜へ沈んでいく。

(…押し退ける反動で、どうにか今の状態から抜け出せないものか。)

 勝負分け目の一分という時間が、非常に長く感じられた。

 

 

 

 

 形勢に変化が訪れたのは、真希が二度目の加圧に入ろうとして、ほんの僅か彼へかけていた力を弱めた時だった。

 

(―今しか、ない!!)

 

 その間隙を突くように、先ほどまで真希からの力に耐えさせてきた両腕を、彼女の方へと押し出した。

 

「!?―やはり、そう来たか!」

 

 だが、真希もそれは予測していたため、敢えて彼の力の反動を利用し、体勢を正眼の構えへと戻す。

 彼女が立て直している間、彼も反動を利用して後方に下がり、押さえつけられていた足のふらつきに耐えながら、なんとか迎撃できる体勢を作り直す。

 

(…多分、体感時間としては十~二十秒か。それでも、足への負荷がかなりある。…一分は保たないかもな。)

 

 改めて、高威力型の流派を極めた、真希の凄さを実感する。

 彼女の方を見ても、息すら乱れている気配はない。

 

「どうした?君が仕掛けてこないのなら、僕が攻めていいということかい?」

「…今度、珠鋼製の警棒、試作できるか聞いてみるか。」

 ぼそりと呟く彼。

 リーチの短い十手と、御刀にとっては簡単に斬ることができる特注の警棒。無論、彼もただで負けるつもりはサラサラ無かった。

 

「どりゃあぁぁぁー!!」

 真希へ真っ直ぐ突っ込む彼。

 一見すると、自暴自棄になったようにも見えた。

 

(…まだ一分も経ってはいないが、興醒めかな。)

 頼んできた割には、所詮彼もその程度か、という若干の失望感が彼女の思考を妨げた。

 しかし、そこから彼の意図に気がつくまで、数秒の時間を要した。

 その僅かな間が、真希にとって命取りとなった。

 

 

 

 

(よし、その構えなら。――抑えられる!)

 

 彼の勝利条件は、真希を倒すことではなく、彼女の攻撃から一分凌ぎきれればいい、というものである。

 ならば、十手で御刀の動きを数十秒間抑えられれば、その時点で勝ちであることも、同時に理解できていた。

 

(…可奈美の無刀取りのようなことはできないだろう。だが、御刀の動きを縛ることができれば、恐らく勝算もある。…はず。)

 

 問題は刀使である真希の力に、一般人である彼の力がどれだけ通用するのか、この一点に尽きた。

 

 

「―!?しまった!」

 

 

 対応に一瞬手間取った、真希。

 彼との距離を離そうとしたが、ここは砂浜。後退と前進では、砂の押し出す威力が異なる。

 みるみるうちに、彼は距離を詰めた。

 

 

 ガーンッ!

 

 

 十手の棒身と鉤が、《薄緑》の動きを捉える。

 

「っ!小癪な真似を!」

 

 当然、彼女も十手を離そうと足掻く。

 結果として鍔迫り合いとなり、互いの顔が異常に近くなる。

 

(前傾姿勢で御刀を抑えているとはいえ、保ってもあと数秒か…。…いや~、これはキツい。)

 アキレス腱の運動のように、両足の幅を取るような形となったため、ズルズルと後ろへと押されている感覚が、足裏にあった。

 

(…たぶん、そろそろ限界かもな。俺の手足は。)

 

 両手を十手と《薄緑》を抑えるのに使っていたが、敢えて御刀を押さえていた左手を放し、腰の左側にあった高硬度の警棒を、真希の右手首へ向け当てる。その分、右手への負荷が増大した。

 

「!…っ!」

 

 彼女へ多少のダメージは入ったようにも見えたが、そこは刀使。写シが剥がれることもなく、未だほぼ全力でこちらを押し切ろうとする。

 

 

 

 

 そして、長いようで短い勝負も、決着の時を迎える。

「…ぐっ、あっ、もう駄目だ。」

 引き出せる限界までこらえ続けた両手足も、遂に余力まで使い果たして、腕や足が下がっていった。

 

「チェックメイト、だね。」

 

 真希はその隙を逃さず、十手から《薄緑》を外し、彼の喉元へと切っ先が向けられる。

 

 

「…ここまで、だな。」

 

 

 十手と警棒を置き、両手を上げる彼。

 彼のギブアップ宣言により、勝負の時間は終わりを告げた。

 

 

 

 

「それで、結局どれくらい経ったんだ?」

「…59秒84。僅差で、僕の勝ちだね。」

 ポケットにこっそり入れていたストップウォッチを取り出し、彼の前へと突き出す真希。

「負けたぁー。」

 ドサリと砂浜に横たわる彼。表情は、どこか柔らかかった。

 彼女も《薄緑》を鞘に仕舞い、その隣に腰掛ける。

 

「…だが、驚いたよ。まさか本当に、僕の攻撃を受けるなんてね。」

「多分、ここが砂浜じゃなければ、腕か足の骨は折れてたかもな。…とはいえ、本当は加減してくれたんじゃないのか。真希。」

「…どうだろうね。正直言って、すぐに音をあげると思っていたのは僕の方だ。案外、君への過小評価をしていたのは、僕自身だったのかもしれないね。」

「ま、それでも俺の我が儘に付き合ってくれたんだ。俺がそれにどうこう言う資格はねえよ。」

 彼個人もある程度手加減はされるかも、とは感じていただけに、真希が可能な限りの全力投球をしていたことへ、嬉しさもあった。

 

 

 

 

 少し間が空いたのち、真希が彼へ向き直った。

「…それで、こんな勝負を頼んだ理由は、また別にあるんだろう?◯◯(彼の苗字)。」

「ん?何のことだ?」

「とぼけなくともいい。伊勢神宮を出てから、どこか様子がおかしかったからね。…何かを決めたような、そんな雰囲気があった。」

「…仕方ないか。」

 彼は寝転んで海に向けていた視線を、体を起こしてから彼女の方へと向ける。

 

 

 そこから、彼が真希に抱いていた感情を吐露する。

「俺な、鎌倉の夜の一件以降、戻ってくるまでの間、出奔した真希のことが心配だったんだよ。当時はノロの除去治療の影響等もあって、寿々花も荒んでいたし。」

「それは、……すまないと思っている。」

 申し訳なさそうな表情を浮かべた真希。彼はそれを手で制する。

「それはいいんだ。だが当時、同時にこうも思った。『真希に頼られないのは、俺が真希よりも弱いから。』なんじゃないのか、ってな。」

「そんなことは…。」

「俺も自惚れるつもりはなかったんだが、現実として真希達刀使のような特別な力は、俺は持っていない。おこがましい話かもしれないが、少しでも真希達より強く在らねばならぬ、無力なままでは誰も救えない、とそんな強い感情があったのは確かだ。…結局、敵わなかったけどな。」

「◯◯…。」

「特に真希の場合は、お前さん自身よりも強いか、並び立つ相手でないと、対等な相手として認めてもらえないだろう、と俺が考えていたのもあったし。」

「……ん?―その『対等』な相手とは、どういう意味なんだい?」

「勿論、戦闘時の仲間として、あるいは職務上の相手として、……あとは、真希の彼氏になるに相応しい人間であるのか、ということか。」

「……!?…ちょ、ちょっと待ってくれ!今、君の口から『彼氏』という言葉が聞こえた気がしたんだけれども!?」

 彼の言葉に慌てふためきだした彼女。

 しかし、彼はそれに臆することなく、真希の瞳を見据えた。

 

 

 

 

 

 

「この際だから、はっきり言っておきたい。…真希、俺は恋愛感情としてお前のことが、好きだ。」

 ずっと考え、自ら導き出した結論は、彼女への告白だった。

 

 

 

 

 

 

 一方、告げられた側の真希はというと、聞いた言葉への理解ができていないのか、ポカンとした顔をしていた。まるで処理落ちしたパソコンのように、固まってしまった。

「…僕のことが好き…とは…、…それは、愛しいという意味でかい?」

「…俺は、そう言ったつもりだったんだが…。」

 再度、肯定の意思を示した彼。

 すると、たちまち彼女の顔は真っ赤になっていった。茹蛸は言い過ぎにせよ、ともかく普段は絶対に見せることの無い表情がそこにあった。

 擬音語が付くのならば、ボフンという感じだろうか。

 

 

「ま、真希?」

「―な、なんだい?」

「…ゴメン、急なことで悪かった。でも、こういう機会が巡ってこないと、きっと伝えられないと思ったんだよ。」

 彼女を第一に想う赤髪の刀使のことを思い浮かべつつ、敢えてそう言った彼。

「…伝えるまでが回りくどいやり方だったと思うし、俺個人もいいのだろうか、と考えもしたが。現に今、真希は混乱しているし。」

 だいぶあたふたしていた彼女も、段々冷静さを取り戻し始める。

「…ふう…。全く、君という人間は…。普段のやり取りの中だったら、何かの冗談かと思って流せるのに、これはズルいと思うぞ。」

「んなもん言われてもなあ…。」

 

 確かに普通ならば、勝ったうえで想いを伝えるというのが常道なのだろう。だが、この男はそんなことを意に介さなかったようである。

 

 

「…でも、ああまでして僕にはっきり好意を伝えてきた異性は、多分君がはじめてだと思うよ。」

「真希は、男女ともに人気があるとは思っていたんだが。……あー、でも、『女子』として見られるよりも、『カッコイイ』刀使として見られていた可能性の方が高いのか。…性格は並みの男以上にイケメンだし。」

「そうなのかい?」

「……うん。正直、そのあたりで俺自身も気後れしているところはあった。…それでも、踏み出したいと思った。」

 男としてどうあるべきかという、個人的な自信を失いながらというところがあったのは事実ではある。

 

 

 

 

 真希は頭を抱え、彼に向き合う。

「…一旦、これは持ち帰ってもいいかい?」

「それはどういう…。」

「いや。別に君のことが嫌いと言うわけではないんだ。…ただ、あまりに急で判断に困っているのは間違いない。時間を置いて結論を出すと言うのはどうかな、と。」

「ああ、そういう…。」

 

 彼も一瞬、混乱状態ならば彼女の考えに乗るべきだろう、とも思った。しかしながら、彼はその選択を採るわけにはいかなかった。結論が先送りになった末、なあなあな雰囲気になることを恐れたのだ。

 

「……いや、ここで決めてくれ。真希の気持ちがどうなのかを。」

 

 無茶は承知だった。例えこの気持ちが、拒まれようとも。

 

 

 

 

 

 

 長いことう~んと唸った末、彼女は口を開いた。

「…まあ、恋人…という関係を作っていくには、まだ時間がかかるだろうが、それでも構わないかい?」

 

 性急な結論を出すことは避けたものの、真希は事実上、彼の告白を受け入れた。

「…ああ、ありがとうな。真希。俺自身は急いていないし、いきなり関係が変わるわけでもないから大丈夫だ。…ゆっくりいこう。」

 先に立ち上がると、彼女へ手を差し出す彼。

「…こちらこそ、改めてよろしく頼むよ。○○。」

 その手を取り、立ち上がる真希。ただ、すぐにはその手を離さず、十数秒間だけ握りしめていた。

「真希?」

「…君の手は、思っていたよりも大きかったんだね。―行こうか。」

「おっ、おう。」

(…少しずつ、もっと君のことを知っていこう。○○。)

 彼からの告白を通して、彼女は異性としては初めて、心を落ち着かせられる相手を見つけられたように思えた。

 

 伊勢の空は赤く染まり、陽はまもなく沈もうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 その晩、二人が泊まったのは前日と同じ宿、同じ部屋であった。結局、二日間とも先方との都合はつかず、こうなったという。

 

 ただ、前日と一つだけ異なることがあった。

 それは、彼と真希の寝る二つの布団を、隣り合うように敷いたことであった。

 

「いいのか、真希?俺の布団を端に寄せなくて。」

「ああ。…何だったら、くっつけて寝るかい?」

「いや、それは流石にな…。まだ早いしな。」

「そうかい。」

 揃って布団へ横になる二人。

 

「真希の気持ちの整理がつくまでは、俺もなるべく抑えていくつもりだ。…あ、剣術の稽古とか、むしろ厳しく指導してもらえれば助かる。」

「ふっ、僕が手を抜くとでも?」

「まさか。…ただ、俺はてっきり真希から断られると思っていたから、あの返事には驚いた。」

「結局、今までの積み重ねだよ。親衛隊に入ってからも、一度君たちの下から離れた時も、会う時々で君は僕の気持ちを推し測ってくれていたしね。…山梨での出来事は、特にそうだった。」

「単に、放っておけなかっただけだ。それ以外の理由はないさ。」

 変わらないな、と呟いた彼女。そのまま、続ける。

 

「…あの時、君のベッドへ、僕が入っていったことがあっただろう?」

「あっ、ああ。」

「ずっと、一人でタギツヒメを討つために動き回っていた僕は、恐らく精神的に疲れてきていたんだろうね。だからといって、寿々花や本部の方へ頼ることはできなかった。出奔していた身なら、尚更ね。」

「…まあ、そうだろうな。」

「そんな時に偶然出会ったのが、君だった。知っている誰かに会いたくなかったというのはあったけれど、僕が逃げようとする前に、君が僕を捉えた。…逃げ出そうと思えば、いつでも出来たのにね。」

「真希…。」

「きっとあの時、僕は誰かに居てもらいたかったのかもしれない。…まさか、寿々花も含めて本当に誰にも言っていなかったのには、驚いたけれどね。」

「約束は守りたかったしな。…運悪いタイミングで、過労と胃潰瘍を併発するとは思わなかったけど。」

「まあ、もしまた倒れることがあれば、看病くらいはするさ。」

「こんな娘に来てもらえるだけ、幸せ者だよ。俺は。」

 

 

「……なあ、○○。」

「ん?どうした?」

 少しの沈黙ののち、もじもじした感じになる彼女。何かを躊躇っているようにも見えた。

「今晩は、手を繋いだまま、寝てはくれないか?」

「…多分、途中で寝返りをうったりするから一晩中は無理だと思うが、それでもいいか?」

「僕や君が眠るまでの間だけでいい。…ダメ、かな?」

 普段『甘える』ということを表に出さない真希が、こうしてお願いをしてくることに驚きながらも、彼は微笑みかけつつ、布団の中にあった彼女の手を握る。

 その行動に、彼女はちょっと驚いたようではあったが。

「俺か寿々花の前では、もっと肩ひじ緩めて楽にしてくれ。俺の前なら、いくらでも愚痴や文句を言ってくれ。それでスッキリするなら、その方がいい。…もっと甘えていいんだよ、真希。」

「…それは程々にさせてもらうよ。それで君が倒れたら、意味がないからね。」

「違いない。」

 互いに笑いあった、二人。

 

 

 

 

 消灯後、手を離しにくい恋人繋ぎにはせず、普通の握り方にしたのは、二人が眠りやすいように彼が配慮した結果でもあった。

 意外なことに、二人の手が離れたのは、就寝後一時間も経過した後のことであった。

 緩やかな歩調ではあるが、一歩一歩、二人は着実に前へと進む軌道に乗り始めていた。




ご拝読いただき、ありがとうございました。
真希へのアタックをかけるには、これくらいやらないと難しいのでは?という個人的な見方がありましたので、今話のような流れとなりました。

とじとものイベントでは真希と寿々花の絡みがありましたが、やっぱりいいですね、まきすず。かなひよも、またよし。(筆者の一意見です。)

次回は寿々花編になります。

感想等ございましたら、感想欄・活動報告へお気軽に投稿いただければと思っております。

それでは、また。
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