ダークエルフの弓使いにショタな弟子ができました   作:あじぽんぽん

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アルテさんの行動は打算なしの天然です
戦闘シーンは苦手なんだ細かい描写は許せ


第3話

「ゴ、ゴブリンがきたぞぉ!!」

 

 村人たちの動揺の声。

 アルテの雨のような矢の攻撃を潜り抜け――あるいは必死に逃げてきたゴブリンたちが次々と村の中に侵入してくる。生き残りは三十ほど……修行によって鍛えられたマオの目はすぐに把握する。アルテがかなりの数を減らしてくれたようだ。

 

「落ち着いて! 罠を利用してください!」

 

 マオは簡潔に叫び屋根の上から膝立ち姿勢で流れるように弓を構える。そして一呼吸で矢を放ってゴブリンを地に転がした。

 その年にしてはかなりの腕前だがアルテの神業のあとでは見劣りする。

 しかし自分たちより年下の子供といえるマオの活躍に勇気づけられ、男たちはそれぞれ槍を強く握りしめて覚悟を決めた表情でうなずきあった。

 

「よ、よし、俺たちもやるぞ!!」

「ああ、負けちゃいられないぜ!!」

「おい、あっちの罠に引っかかっているぞ!!」

 

『ギャ、ギャ、ギャアァ!?』

 

 彼らは落とし穴にかかったゴブリンに駆け寄ると上から力任せに何度も槍で突いた。

 建物の間で響く叫びと雄叫び。血生臭い匂いが風に乗って辺りに広がる。村のあちこちで男たちとゴブリンの戦いが始まったのだ。

 マオは罠を抜けてくるゴブリンに屋根上から弓を撃ち、仕掛け罠にかかったゴブリンの位置を男たちに知らせた。

 師が誘導して村の中に小鬼を入れたので地の利は十分こちらにある戦場だ。

 

 しばらくすると動くゴブリンの姿が見えなくなり、その場には槍をもった村人だけが残った。

 深い安堵の声がもれて何人かは地面にへたり込む。

 流石に全員が無傷というわけにはいかないが、深い傷を負っている者はいないようだ。

 マオは屋根の上で立ちあがると遠くで戦っているアルテの姿を探した。

 

 心配はしていたが不安はなかった。彼女は健在で予定通りオークやオーガの群を一人で引きつけて戦っていた。

 

 本来、距離の取れない戦いは弓使いとしては不利なはずだが、疲れも知らずに動くアルテからは苦戦をしている様子はまったく見られなかった。

 乱戦である。繁殖のために健康で丈夫な牝を望むオークと、自らの闘争心を満足させる強者を望むオーガは、誘蛾灯に誘われる虫のように強く美しい女に惹き寄せられる。

 そんな醜い魔物達のおぞましい求婚をかわして疾走するアルテ。穢れた獣欲の声は美姫の心には一欠けらも響かず無縁のものであった。

 

 振り下ろされるオークの棍棒を片手で受け流し、鞭のような蹴りで太い首をへし折った。

 背後から大剣を持って迫るオーガには矢筒から抜いた矢を素手で投げ、筋肉に包まれた厚い胸板を心臓ごと背骨まで打ち貫く。

 繰り出される攻撃を柔軟に仰け反って避けると片腕をバネにしての後方宙返り。そのついでとばかりに天地逆さまで矢を放って命中させる。

 着地して、弓で魔力の刃を作ると近寄る魔物の首を無造作に切り飛ばす。

 魔物の体すらも足場にして高く飛びあがると、空中から矢を乱れ撃ち一方的に殲滅していく。

 そのアルテの強さに魔物たちは驚愕し、そして怒りの雄叫びをあげ襲いかかる。

 

 血霧を引き連れ、妖艶に微笑みながら、華麗に舞い続ける月弓のアルテ。

 

 まさに伝説の通り、求婚する男達を無下にし続けた傲慢で無慈悲な月の女神の化身である。

 彼女が複雑なステップを踏み、細い指が弦を一つ引くたびに、魔物の命が失われて亡骸がまた一つ生まれるのだ。

 

 アルテの優雅な立ち回りにマオは、ただ溜息をつくしかない。

 

 まずあるのは彼女に対しての深い称賛の心。次に思ったのは追いつき肩を並べて戦えるようになるには、いったいどれほどの時間が必要なのだろうという暗い気持ち。

 だが前向きなマオはすぐに考えを切り替えて師の動きから学ぶために目を凝らした。

 するといかなる神の采配かマオの赤い瞳に映ったのは、ゆるやかな側宙開脚しながら弓を引く逆さのアルテの姿であった。

 鷹並みの目をもつマオは遠距離でも細部を――アルテの関節のしわ(・・)までもはっきりと捉える。

 軽やかな身のこなしとは真逆に重量感をもって揺れる豊かな乳房と臀部、そして大きく開かれた太ももと女の柔肉に食い込む極少の鎧パンツ。

 

 マオ少年は「うっ」と呻いて膝をつきその場でしゃがみ込んだ。

 

 顔をリンゴのように染める純情な少年の葛藤をよそに、月の女神は死の舞いを踊り続け魔物たちを永遠の眠りへといざなっていく。

 魔物の雄叫びはやがて絶叫へと変わり、狭い平地に死屍累々とした屍の山が築かれる。

 戦いの興奮からさめて逃げだし始めた魔物たちも月弓は容赦なく狩りとっていった。

 最後のオークの額を射抜いた。

 アルテは手を広げ、緩やかにその身を回転させて低い姿勢で残心する。

 

 そうして、踊りの幕引きを知らせるかのように静かに弓を大地へと下ろした。

 

 彼女の周りで動くものは存在しない、それこそ月に広がる静寂の大地のように。

 アルテの戦う姿に引き込まれ半ば見惚れていた男たちは、終焉を告げる彼女の様子に顔を見合わせ、やがて手を取り合い飛び跳ねながら大きな歓声をあげだした。

 屋根からなんとか地面に降りたマオも近くにいた男に笑いながら背中を叩かれ、前かがみのまま引きつった笑顔を返したのだ。

 

 

 すぐあとにアルテとマオは村人の案内で悪魔の目の元まで行き粉々に破壊した。

 それから周辺を探索したが魔物が残っているような形跡はなく、辺境の村での戦いは一人も犠牲者を出さずに終わりを迎えたのである。

 

 

 ◇

 

 

 月明かりに照らされた小さな村は、お祭りのような騒ぎでいつにない活気に満ちていた。

 広場の中央では焚き木があがり若い男女や子供たちが腕を組んで楽しげに踊っている。手拍子とはやしたてる村人たちの笑顔と大きな歓声があがった。

 何処の地方でも邪悪な魔物との戦いが終われば、こうして厄払いの宴を開くのが習わしである。

 ましてや村の全滅も覚悟して挑んだ戦いだ、勝利の喜びはひとしおだろう。

 村は辺境ではあるものの貧しいわけではなく、沢山のご馳走と山の幸がテーブルにならび何個もの酒樽が開けられていた。

 

 そんな夜通しになりそうな宴の中、アルテは弟子のマオに声をかけ先に休むことにした。 

 

「すいませんがマオ、後のことはお願いします」

「はい、任せてくださいお師匠さま」

「マオもたまには羽目を外して楽しんできてくださいね」

「いえ、月弓のアルテの弟子として恥ずかしくない振る舞いをしますよ」

「もう、あなたは……」

 

 当然、宴にはアルテたちも誘われたが、種族の特性上(・・・・・・)あまり人付き合いが得意ではない彼女はこのような場はマオに任せきりになっていた。

 彼女の代役を果たそうと年不相応にしっかりとしているマオの姿は、育て親のアルテとしては誇らしく思う反面、無理をさせているのではないかと心配にもなるのだ。

 

 そしてアルテが宴を断るのには、育て子のマオにも言えぬもう一つの理由があった。

 

「では、おやすみなさいマオ」

「はい、おやすみなさいお師匠さま!」

 

 元気な返事にアルテは微笑み、マオのふっくらとした頬に口づけをした。

 そのまま村長の家に行くと与えられた部屋のドアを開け室内に入る。

 辺境の村に宿屋などというものはなく、この地を訪ねてきた客人は村長の家で世話になる。そのためか宿屋のような余所余所しさがなく、どこか家庭的な温かさを感じられた。

 アルテは注意深く室内を観察する……覗き穴や盗聴する魔道具などの類はないようだ。

 

「我は施錠する――」

 

 アルテはドアを魔力で固定する魔法を唱えた。

 これによりドアは壁よりも強固になり人力で開けるのは不可能になる。

 

「現れよ風の精霊よ、この場に沈黙をもたらせ――」

 

 アルテは透き通る羽をもつ風の精霊(シルフ)を召喚する。

 招きに応じて現れた小さな身、馴染み(・・・)の冷めた目のシルフはうなずくと、彼女の望みを叶えるべく力を振るった。シルフの能力の一つ、指定された範囲の音を遮断する沈黙(サイレンス)。これからしばらくの時間、この部屋で何が起きようと外に音が漏れることはないだろう。

 

 アルテは弓をテーブルに置き装備を脱いで全裸になる。

 そして深い溜息をつき、ベッドの上にうつ伏せになってそのまま動かなくなった。

 

 ダークエルフ美女の寝姿。細い首筋から背中、形の良いお尻、そして長い脚のラインは同性でも見惚れるほどに美しい。しかし、アルテはまだ眠りにはついていない。英雄と呼ばれる彼女だがひどく重たげな様子は戦いの疲労のせいなのか?

 

 静寂に包まれる室内……やがて一糸まとわぬアルテの褐色の肢体が小刻みに震えだした。

 

「きゃあああああああああああああああぁぁぁぁ!!」

 

 突如、月弓のアルテが黄色い悲鳴をあげた。

 

「可愛いの! 可愛いの! マオきゅん、本当にちょ~う可愛いのおおぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 枕に美麗な顔を深くうずめて抱きしめ、むっちりとした長い足をばたつかせて、ダークエルフの美女は大音響で絶叫した。

 普段の彼女をよく知っている者からすれば考えられない有様で、驚愕しドン引きものだが、マオ少年ならなんとか受け止められるだろうか?

 

「堪りませんっ! 堪りませんよっ! マオきゅん可愛い! マオきゅん可愛いよぅ! おっぱい触って恥ずかしがる年頃なマオきゅん最高に可愛いよぅ!!」

 

 戦いの前のマオとのやりとりである。アルテは平静に見えて、実はだだ漏れそうになる欲望を……心の叫びを押さえて良母な演技をするのに必死だったのだ。

 それこそ先ほどの魔物たちとの戦いなど鼻で笑えるレベルで。

 ダークエルフ美女の胸の柔肉が、たぷんたぷんとシーツの上で蠱惑的につぶれ肉感的な腰がリズミカルにベッドに打ちつけられる。

 誰がどう見たってアレな行為を思わせる滑らかで激しい腰使いは、女を知らぬ年頃の男子が見たらそれだけで鼻血をふきだす凄まじい妖艶(エロ)さであった。

 

 ベッドが軋む、マオ少年ならまだぎりぎり受け止められるはずだっ!?

 

「不安げになっている顔が可愛いの! 男の子らしいキリッとした顔も可愛いの! 不意におっききしちゃって私にばれないか焦っている顔も可愛いの! どこまでいっちゃうの!? どこまで私を喜ばすの!? 天使よぅぅぅぅ!! 私の天使マオきゅんなのよおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 アルテさんの空腰がラストスパートだぜ! とばかりに速度と勢いを増し、大男が寝ても大丈夫のはずのベッドがスパーンスパーンと鳴って破壊寸前の悲鳴をあげている

 シルフの沈黙がかかって無ければ人が集まって来るほどのやかましさだ。

 その呼び出されたシルフはというと、埴輪のような悟った表情のまま無言で見守っていた。

 

 マオ少年……でも、これはちょっと厳しい案件である……。

 

「あきまへん! あきまへん! あきまへんよアルテはん! 天使マオきゅんに対してそんな邪な気持ちはあきまへんでっ! あ、あ、で、でも、お、お腹がじんじん! じんじんするぅ! マオきゅんに突撃ラブラブハートでキュンキュンしちゃうんやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 前世、男時代の言葉使いがでてアルテの美しい両腕が妖しく激しくテクニカルに動いた。

 もうなんだか説明するのも嫌になるほどの大ハッスルっ!!

 

 そして――

 

「んほぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

 普段は淑女のたしなみを忘れない楚々としたダークエルフの美女が、姿に見合わぬ野太い声で大絶叫をしたのである。

 

 

 ……ここで、アルテの痴態に対しての言い訳をさせて欲しい。

 

 アルテは確かに前世はショタコンという性癖(つみ)を背負っていた。

 しかし女の身になってからはそれがなくなり、むしろ子供(ショタ)たちに母性的な気持ちで接することができるようになって彼女自身が一番喜んでいたのだ。

 マオを育てるのだって打算などはなく、半ば押し付けられたものであったが純粋な気持ちで一人前にしようと思っていた。だがそんな女の身に起きた不幸がダークエルフの適齢期だった。

 

 身もふたもない言い方をすれば……発情期である。

 

 しかも悪いことは重なるもので、前世の性癖(ショタコン)が突然よみがえり、なんの因果か彼女好みのドンピシャな容姿をもつ者が成長した愛すべき息子のマオであった。

 血は繋がらぬとはいえ由々しき事態だ。

 もちろんマオには隠している……隠しているのだが、戦いの後だと生存本能が働いて子孫を残すことを強く欲するのか熱く火照ってしまうのだ。女体の色々な部位が。

 

 結果が先ほどのような桃色一人遊戯なハッスルスパークであった。

 

 アルテも知らぬことだが長寿であるダークエルフの発情期は始まると子を宿すまで続き、症状が酷いときは理性が吹き飛ぶほどだ。

 数の少ない種を存続させるための月の女神の呪いとも言われている。

 ダークエルフの使命である子作りを今だに果たせず、三百と十八歳の処女な母は食べごろの美味しい肉体を持て余していたのだ。

 

 それでも発情する対象(・・・・・・)に手をださないのは英雄としての矜持か、はたまた育ての親としての道徳心か、あるいは少年の生い立ちに対しての特殊な事情ゆえなのか……獣のような情欲に染まる彼女には判断がつかなかった。

 

 

 翌日……なぜかエビぞり首ブリッジの姿勢で目を覚ましたアルテは、自らの惨状に人知れず溜息を洩らすのであった。


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