漢方配達する青年と無愛想なイーブイの話   作:ノクス*。

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その後はそれまで鬱蒼と生い茂っていた木々が少しずつ減っていき、突然開けた場所に出た。

開けてすぐの場所には少女が2人並んで立っている。まだトレーナーになりたてと言った年齢だろうか。そっくりな顔を見るにどうやら双子らしきトレーナー達はモンスターボールを手に待ち構えている。

最初はアッシュの姿を見るなり意気揚々とバトルを申し込んできたが、一匹しかポケモンを持っていないと分かると特にバトルする事もなく大人しく引いてくれた。どうやら2人でバトルする事に拘りを持っているらしい。

ちなみにそれをダブルバトルというのだと教えて貰ったが、イーブイしか手持ちに入れるつもりは無いアッシュはそんなバトルの仕方もあるんだなとあっさりと聞き流したのだった。

 

良かった良かったと安堵したその矢先、今度は2人の女性トレーナーに捕まった。こちらは自分より年齢が上かと思しき2人組である。

てっきりこの2人もダブルバトルを希望かと思いきや、先程の双子トレーナーとは違い女性達はわざわざ1人ずつバトルを申し込んでくる。

バトルを挑まれたアッシュは乗り気ではなかったが、イーブイの方はかなりやる気満々だった為、渋々イーブイ一匹で何とかバトルを行うハメになってしまった。

 

「貴方って……将来なんて待たないでも良さそうね」

「……」

「貴方みたいに腕のいい人って久しぶりだわ」

「……どうも」

 

バトルが終わると同時に獲物を見つけたかのような視線を寄越す女性トレーナー達に前と後ろで挟み撃ちにされる。

あまりの近さにしどろもどろになりながらも何とかその場を切り抜けたアッシュは如何にかこうにか草むらへと入り込んだ。

腕がどうのと言っているが、同じトレーナーならばアッシュが殆ど指示出来ていないのは分かっているだろうからそんなものは口実だろう。逃がさないとばかりに向けられる視線に学生時代のトラウマが蘇る。

 

「…ブイ?」

 

ぞわぞわと背中をかける悪寒を消すように身震いするアッシュの様子を察したのか、普段はあまり話しかけて来ないイーブイがどうしたんだと疑問符を投げかけてきた。

 

「いや、ちょっと昔色々あってな…」

 

アッシュは旅に出ず進学する道を選んだが、当時進学といえばジョーイやジュンサーに憧れる女の子達ばかりでアッシュの様に男で進学の道を選ぶ者はあまりいなかった。

そのせいか学校は女性中心に回っている節が強かった。中心になった人間側とは強かになるもので、アッシュ達男性陣は割といい様にこき使われることが多かった。そんな状態だったので所謂女の恐ろしい面とやらをアッシュや極一部に該当した男子達は嫌でも知る事になったのだ。

勿論そうでない少女達もいたにはいたのだが、1度植え付けられた苦手意識なそうすぐに消えるものでは無い。

それ以来、アッシュにとって女性の視線は嬉しいものではなく寧ろ恐ろしいもので……要するにやや女性恐怖症気味なのだ。

 

 

そんな訳でアッシュはそそくさと逃げる様にして先を進む事にした。イーブイは面倒だと鳴いたので再びボール内へと戻っている。

足早に進んだ草むらの中には掲示板が立てられており、それによればこの草むらを抜けた先には目的地であるエンジュシティがあるらしい。

 

「……もう少しかぁ」

 

あと一息だと小さく息を吐き、更に一歩踏み出したところに突然何かが飛び込んできた。

咄嗟によろける様にして一歩下がると、体当たりする勢いで出てきたそれは踏ん張りを効かせて砂煙を立てながら止まると勢いよく吠え出した。

 

「ワウン!」

「おぉ、ガーディだ」

 

久しぶりに見たその姿に懐かしさを覚えて思わず種族名を漏らすと、向こうは更に身を低くして臨戦態勢に移行する。

どうやらここはこのガーディの縄張りらしく、ガーディは誰だとか出ていけとかそんな感じの事をまくし立てている。

ちらりとその先を見やれば、遠くに独特な瓦屋根が見えた。どうやら彼処がエンジュシティらしい。あと少し、五分もしない距離に見える街並みを見てしまうと怖さよりも面倒臭さが先に立ってしまう。

出ていけと言っていることだし、このまま突っ切ってしまいたい、いけるだろうかと思案していると実にタイミングの悪いことにイーブイが勝手に飛び出してきた。

 

出ていけと吼えるガーディに対し、喧嘩を売られた事が分かったらしいイーブイはぎりぎりと歯軋りするように唸りながら身を屈める。これは完全に応戦態勢である。そんなイーブイを見たアッシュの反応は早かった。

 

「用があるのはこの先だからな!」

 

戻しても出て来てしまうだろうと踏んだアッシュは今にも突進でも仕掛けそうなイーブイを問答無用でそのまま小脇に抱えると、ガーディの横をダッシュで駆け抜けたのだ。

言葉の意味を正しく理解したのか、はたまた立ち去って行く事が分かったからか、警戒は解かずともガーディが追いかけて来る事はなかった。

何とか草むらを抜け、無事にエンジュシティに入ったことを確認すると、アッシュは大きくため息を吐いた。

 

「何とかなった……っいで!」

 

余裕が出たことで小脇に抱えた存在がやたら固まっているなということに気づいたと同時に、今まで大人しく抱っこされていたイーブイがアッシュの腕を引っ掻く。その痛さに驚いて思わず手の力を緩めると、その隙にイーブイはひょいと隣へと着地する。

どうやらさっきまで大人しかったのはいきなり抱っこされて驚いていただけらしい。今になってイーブイは全身の毛が逆立っている。

 

「悪かった、悪かったって。とりあえずポケモンセンターに行こうか」

 

そう告げると面白くなさそうな表情をしながらもちょこんとその場に座った為肯定と受け取り、イーブイをボールへと戻すとすぐ近くのポケモンセンターへと向かったのだった。

 

 

 


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