漢方配達する青年と無愛想なイーブイの話   作:ノクス*。

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翌朝、センター内にある食堂にイーブイを連れて朝食を取りにいくと、途中で書類を抱えたジョーイに出くわした。

 

「おはようございます」

「あら、おはようございます。お早いですね」

「えぇ、帰る前に焼けた塔を見ておこうかと思いまして」

「残念ながら危ないのであまり中に入る事は勧められませんが、外からなら見ても大丈夫ですよ」

 

ジョーイは壁に貼られたエンジュ内のマップを見せながら丁寧に教えてくれた。

無理に入るつもりは勿論なかったが、事前に教えてもらえると揉め事にならないのでとても有難い。

 

そのままジョーイとはそこで別れ、アッシュは食堂の一席についた。

センター内の食堂は基本A定食B定食という具合に分かれており、自分で取ってくる仕様だが、朝はトーストのセットが二種類あるらしい。

甘いものを好むアッシュはモモンの実を使ったジャムトーストを注文する。

イーブイはフーズと水用の皿を借りてきて足元に座る。

たっぷりかかったモモンジャムが気になるのか、イーブイがチラチラとこちらを見るので少しちぎって渡してやると、食べたイーブイの顔にシワが寄った。

 

「ブーイ!」

 

ポケモンも顔にシワが寄るのかと変なところで驚いていると、すぐさま水を要求されたので慌てて隣の器においしい水を入れる。

どうやら甘いものはお気に召さないらしい。それともモモンの実が苦手なのか。

味をかき消す様フーズにがっつくイーブイを見ながら、今度色々試して好きなものを探してみるのもいいなとアッシュもトーストに齧り付いた。

 

そんな風にしながら食事を終え、荷物を取りに行ってからチェックアウトする。ジョーイに教えられた通り街の奥へと進んでいくと何やら奇妙なにおいが漂ってくきた。

エンジュ内に蔓延する木板のにおいとは違う焼けたようなにおいと、それだけではない何か薬品でも混じっていそうなにおいがする。

そんなことを思いながら歩いて行くとすぐに黒くくすんだ建物が建っているのが見えてきた。

 

「……これが焼けた塔か」

 

塔のすぐ前に置かれた掲示板には、「この焼けた塔は謎の大火事で焼けました。危険な匂いがするのであまり近寄らないで下さい」と書かれている。

確かに、この付近には妙なにおいが充満している気がする。これは早々に立ち去らなきゃいけないだろうかと悩んでいると、すぐ近くにいた老人が声をかけてきた。

 

「おや、見学かい?」

「えぇ、この塔を見に…」

「これは正式にはカネの塔と言ってな、向こうにあるスズの塔とは対に作られたものなんじゃ」

 

向こう、と指したのはスズの塔へと続く関所と呼ばれる所らしい。

先ほどジョーイにマップを見せてもらった時に書いてあったのをアッシュは思い出す。

確か関係者以外立ち入り禁止となっていたような気がする。

すると老人は後ろ手に腰へ手を回したまま塔を見上げた後、ちと昔話を聞いていくかい?と聞いてきたので鼻の事は暫し我慢してそのまま話に耳を傾けることにした。

彼に向き直ると、老人はそのまま語り始める。

 

「昔……この塔が火事になった時、名も知れぬ三匹のポケモンが炎に包まれ死んでしまった。それを蘇らせたのが空より降り立った虹色のポケモンじゃ……」

「虹色のポケモン…」

 

アッシュが繰り返すように呟くと、老人はうんうんと神妙に頷いて見せた。

ポケモンの事はあまり詳しくないので知らないが、それも伝説と呼ばれるポケモンだろうか。虹色なんて如何にも伝説といった感じがする。

 

「そうじゃ。そして街の人々はこうしたポケモンの力を恐れ、暴力で抑えつけようとした。しかし、ポケモン達は人々に反撃することなくむしろ人間の行いに深い悲しみを覚え自らこの地を去った……」

 

これはエンジュのジムリーダーに古くから伝わる話じゃ、と呟いて老人は再び焼けた塔を見上げる。

しんみりとしたその様子を見て伝承も気になるが、それよりも更に気になることがありアッシュは思わず老人に尋ねた。

 

「ジムリーダーに伝わる…ということは貴方も?」

「わし?あぁ、わしも昔はジムリーダーだったのじゃよ」

 

むおっほっほっほ!と老人は笑うと、「話に付き合ってくれてありがとう」と笑みを浮かべてその場を去って行く。

その後ろ姿に礼を言ってから、アッシュはもう一度背にした焼けた塔を見上げた。

それからイーブイの入ったボールを何とはなしに見つめて、ポケモンが死んだポケモンを蘇らせるなんて事が出来るのだろうかと考える。

死ぬのは、瀕死の状態とは全く違い、その命が終わる瞬間の事だ。

もしそんなポケモンが居るならばきっともう人々の目に止まるようなことはしないのだろうと思いながらもう一度顔を上げると、何かが塔の近くを走り抜けて行くのが目に入った。

 

「すごい!きっと三匹のうちの一匹に違いないわ!」

 

すぐ近くに立っていた少女にも見えたらしく、興奮した様子だったので何の事かと尋ねると先ほど聞かせてもらった話に出てきた三匹はジョウト中を駆け巡っているとのことらしい。

厄災の中で生まれたポケモンが駆け巡る姿は何処か居場所を求めているようだとアッシュは物悲しさを覚えたが、彼女には神秘的に映る様だ。

どう思っているかなど当人にしか分からない。どう思うかも人それぞれというやつだ。

そんなことを思いながら、アッシュはコガネシティへと向けてエンジュを後にしたのだった。

 

ちなみにこの帰り道、あの草むらで再びガーディと対峙してしまいイーブイが飛び出してきてアッシュがあちこち手を焼いたことは余談である。

 


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