漢方配達する青年と無愛想なイーブイの話   作:ノクス*。
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何事もまずは挑戦

「いでででで!噛むなこら!」

 

尻尾に触られるのが嫌なのか、カーッ!という威嚇の声を上げながら振り返ったイーブイがアッシュの手に噛み付く。

普段そんな声聞いたことがないというのに、まるで他のポケモンの様に低い唸り声をあげている。

その際、イーブイの身体に付着していた泡が飛んできてアッシュの服にベタッと張り付いてシミになった。

 

 

 

 

――エンジュシティからの帰り道で起きたガーディとイーブイの激闘はなかなか終わらなかった。

縄張り内から追い出したいガーディと、吠えられても怯まずむしろ喧嘩を売るイーブイ。そしてさっさとこの場を切り抜けコガネに戻りたいが為、イーブイをボールに戻したいアッシュの奮闘といえばお分かりだろうか。

一番苦労したのは誰かとは最早問う必要もないだろう。

一瞬のすきをついてイーブイをボールへと戻したアッシュはそのままダッシュでガーディの前を駆け抜けたのだった。

まさか自分の手持ちポケモンの隙をついて行動しなければならない日が来ようとは誰が想像しただろうか。

その後はエンジュシティからカンポウの所へと戻り、そこから自宅へとまっすぐ帰宅したアッシュは到着するなりベッドへと倒れ込んだ。

もう暫く配達は行かないと心に決め、寝落ちたことは覚えている。

その際イーブイへフーズをやるのを忘れ、何度起こしても起きないアッシュに怒ったイーブイが部屋中を荒らし回ったのもつい数日前の事である。

 

死んだ様に眠りこけたアッシュの髪は、イーブイが起こそうとした跡なのか起きたらぐっちゃぐちゃになっていた。

その時イーブイはというと、暴れたのとリュックを漁った際に出てきたフーズを食べることで多少気が済んだのか、アッシュの服を何枚も下敷きにして眠りこけていた。出掛ける前に溜めていた洗濯物をとりあえず全て部屋干しした物だ。

洗濯は全てやり直しになる為後々頭を抱える事になるのだが、起きた当初は理解出来ておらず何も考えつかなかった。

アッシュからすれば目を覚ましたら部屋は荒れているわ、髪は逆だって違和感はあるわで何が何だか分からない状態である。

暫し当たりを見渡しながらも呆然としてしまった。

 

しかしいつもフーズ入れにしているイーブイの皿がベッドのすぐ隣にまで引っ張って来られていたのと、リュックから引きずり出されたフーズの空袋と残りカスが散乱していることで事態を把握したのだった。

空腹の時に悪い事をしたとは思いつつも、その代償に強制清掃へと駆り出されるのは少々腑に落ちない。

とはいえ、悪いことばかりでもなかった。

どうやらそれを機にイーブイの行動範囲も広がったようなのだ。

今まで本棚裏にある自身のテリトリー付近でしか行動しなかったはずが、あちこち部屋の中を歩き回るようになったのである。

そういう意味では結果オーライと言うべきか否か…。

気がつけば朝は必ずテレビの前にちょこんと座ってキマワリ天気予報を見ていたり、お腹が空けばアッシュの眠るベッドに乗って的確な鳩尾アタックをしかけてきたりするようになっていた。何とも活発である。

 

そんな事がありつつもしばらくは慣れない疲れを取る為に休日を満喫したものの、その間店長からの連絡は一切なかった。

見に行くだけならすぐに帰って来るだろうとたかを括っていたが、これは今回の休みは相当長くなるなとアッシュは早々に諦めることにした。

 

 

とりあえず前回考えた通りイーブイを洗うことにする。

ベッドでウトウトしているイーブイを、今がチャンスとばかりに浴室へと引っ張り込む。

最初はイーブイも抱っこされる事に驚いたものの案外大人しくしていたのだが、いざ洗い出すと触れる箇所が悪いのか逃げる逃げる。

それをなんとか浴室の隅に追いやって身動きが取れない状態にしてようやくまともに洗うことが出来たわけだが、今度はあちこち引っ掻くわ噛み付くわでアッシュの腕はボロボロだった。

それでも両腕を犠牲にしてどうにかこうにか洗い終わると、拭く前に今度はぶるぶると自分で身体の水滴を振り落とそうとするのでサッとタオルを頭から被せて止めさせる。

それから先は案外大人しく、特にドライヤーの時は気持ち良さそうに目を細めているのがこちらからも見えた。

どうやら洗われるのが嫌なだけで触られるのが嫌なわけではないようだ。

洗っている時には分からなかったが、やはりホコリ等がついていたらしくドライヤーが終わると今まで以上にふわふわとした触り心地に変わる。

それが自分でも分かるのか、イーブイはしきりに毛繕いをしては満足した様な様子であった。

腕はボロボロだが、満足そうな様子にこちらも満足である。

 

「さて、どうするかなぁー」

 

無事にイーブイのシャンプーをするという当初の目的は達成された。

しかも両腕の犠牲と引き換えだが、思ったよりはスムーズに済んだ。時計を見ると昼前で、既にやることもなくなったとアッシュは考え込む。

 

「んー、掃除も終わったし、買い物も食品以外は平気だけどそれは夕方行けばいいし……爺さんのところにでも行ってみるかなぁ」

 

ちらりとイーブイを見やると、興味なさそうにくあっと大きなあくびをしたところだった。

 

 

 








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