漢方配達する青年と無愛想なイーブイの話   作:ノクス*。

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先に謝っておきます。きのこポケ好きさんごめんなさい。


覚えるより慣れろ

カンポウの達筆解読講習会が始まってかれこれ数十分、読んでも書いても全くもって覚えられないアッシュは目頭を強めに揉みほぐした。

そもそも何故こんなに崩して書くんだと文句すら覚える。

マスターするにはまだまだ掛かりそうだと、軽く息を吐いて肩の力を抜いた。

慣れない字と格闘したせいで目と腕が疲れてアッシュは大きく伸びをし机にもたれ掛かった。その様子を見たカンポウが、仕方ないとばかりにいそいそと茶の準備をし出す。

腰はどうしたんだと二度目のツッコミを試みるが、その前に痛たたたと唸り出したのでそれは諦めてアッシュが代わりにお茶の準備をしに台所へと向かった。

ラッタは甲斐甲斐しくカンポウを布団へと案内している。それを横目で見つつ、イーブイの姿を探すとこちらは机のすぐ横で丸くなっていた。とはいえ、寝ている訳ではないらしく、ぴくぴくと耳をそばだてているのが分かる。どうやら何をしているのかはきちんと把握しようとしているらしい。

まだ慣れないようだが、最初の頃に比べれば随分と良くなった。そんな風に感慨深く思いながら、入れたお茶を飲み一息付いているとカンポウがアッシュを指差す。

 

「おや、アッシュや。その腕はどうしたんじゃ?」

「あぁ、イーブイ洗った時にちょっとね」

 

聞かれて自身の腕に目を移すと写作業をするのに腕を捲ったせいでボロボロの腕が晒されている。

そういえば地味に痛いんだよなこれ、と意識した途端に気になりだし軽く触れてみるとミミズ腫れのようになったそれらは熱をもっているようだった。

それを聞いたたイーブイはほんの少しだけこちらに首をもたげたが、その顔に申し訳なさは浮かんでおらず、どちらかというと読み取れるのは“お前が悪い”だった。通常運転過ぎて逆に安心する態度だ。

 

「なんじゃ!早く言わんか!これを使うと良い良い」

 

と救急箱の中から小さな軟膏を取り出すと、ぽいっと放り投げて寄越したのでアッシュは慌ててそれを受け取る。

 

「これ人間用なのか?」

「そうじゃよ。お得意さんにだけじゃが、たまに作るんよ」

 

市販の軟膏とは違い、クリーム状よりも柔らかく泥状に近い。そして何よりもその色はどす黒い紫色をしている。これ使って大丈夫何だろうかと不安になる色だが、これだけ漢方薬に囲まれて過ごしているのだから大丈夫だろうと、少しすくい取って腕につけてみる。途端に肌がピリピリと痛みを主張するがそれは仕方ないらしい。

塗りながら「へぇー」と相槌を打つと、それに気を良くしたカンポウは「うちの子は優秀じゃからな」と向かい側で満足そうに笑った。

うちの子、と聞いて疑問に思ったアッシュは塗っている手を止めてカンポウの方に視線を向ける。

 

「…え、ラッタが作るのか?」

「そんなわけなかろう!パラセクトじゃよ」

 

パラセクトってどんなポケモンだっけと疑問符を浮かべながら、そもそもカンポウはラッタ以外にもポケモンがいたのかと純粋に驚いた。カンポウ宅へは今まで何度か通っているがラッタ以外のポケモンは見たことが無い。

それが顔に出たらしく、

 

「言うてなかったからのう。今日は天気がいいからこっちにいるわい」

 

ほれと指さされた先には、薬草棚と普通の棚の間が空いており、たくさんのキノコ類が置いてあるエリアだ。

乾燥途中のものは上から吊るしてあり、既に乾燥している、もしくは粉にしているものが袋や瓶に入れられ床に積まれている。

まだ地元にいた幼少の頃、弟分達と読んだ魔女の絵本を唐突に思い出す。暗くてゴチャゴチャしていて、おどろおどろしい雰囲気と神秘的な雰囲気が交わったような空間だ。カンポウはそんな不思議な空間の更に奥を指さしている。

 

奥の方に視線を移すと、

 

―――他とは比べものにならない程大きなキノコが見えて思わず後ろに仰け反った。

 

「なん…っ!?」

「見たことないのかの?こやつのキノコから出る胞子が漢方の大事な原料になるんじゃよ」

 

ラッタと一緒でもう長年連れ添っててのうとカンポウは語っていたが、アッシュはそれどころではなかった。

アッシュ自身にも何が何だか分からないが、生気の感じられない目元に物凄い恐怖心が湧いてくるのだ。

思わず手足を駆使してそのまま更に1歩後ろへと下がる。

 

 

 

生き物というのは鳴き声を上げなくても何かしら感情のオーラというか、特有の雰囲気を持っている。人間でもこの人は活発そうだとか、ミステリアスであるとかそういったものだ。

ポケモンにもそれは当てはまり、イーブイならクールな印象があるし、ラッタならば逞しいというか漢気を感じさせられる。

アッシュは何となくのレベルでしか分からないが、ベテラントレーナーともなれば一瞬でその性質を見抜くらしい。

しかし、パラセクトはただひたすらに無言というかそのオーラそのものが感じられない。

生きて活動しているはずなのに生きてる感じがしない。

正気が感じられないというやつだ。

まさかこんな所でその言葉の意味を体感するとは思わなかった。

何よりパラセクトの真っ白な目線はどこにも向いておらずひたすら虚無感を感じる。

 

 

何故2匹目の存在に気づかなかったのだろうと疑問に思っていたが、今まで感じたことのないパラセクトの存在を確認してこれのせいかと何と無く納得してしまった。

 

「ブイッ?!」

 

何なんだこいつ!

怖い、なんか分からんけど怖い!

一瞬にしてパラセクト恐怖症に陥ったアッシュは近くにいたイーブイを引っ掴んだ。

 

 

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