漢方配達する青年と無愛想なイーブイの話   作:ノクス*。

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※きのこポケ好きな皆様ごめんなさい



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イーブイを引っ掴んだのは殆ど無意識に恐怖心を紛らわそうとしての行動であった。藁にもすがる思いでこれでもかという程その茶色い身体を抱きしめる。

それに驚いたイーブイはうわっ!とかなんとか、兎に角驚きの声と共に文句らしき言葉を発していた。

しかし、軽いパニック状態にあるアッシュの耳には全くもって届かない。

 

「なんじゃ、大きいポケモンはダメなのかい」

 

アッシュの怯えようにカンポウはきょとんとした様子で声をかけてきたが、アッシュは怖さのあまりパラセクトから目が離せず、「いや、うん……その、」と適当に言葉を濁した。

棚の間から、気がついたらしいパラセクトがヒラヒラと片手を振っているが、いつものようにポケモンの感情が上手く伝わってこない。いつもなら何となくの喜怒哀楽や言葉が伝わってくるのだが、パラセクトに至っては虚無の瞳とただただ揺れるハサミが見えるのみである。

それもあってか、何だか幽霊でも見たような心地を感じる。

 

アッシュが身を固くしている間、離せ離せとイーブイはひたすら暴れていたが、こちらもまた絶対離すものかと力が入る。

アッシュのその異様な気迫が伝わったのか、はたまた諦めたのか、それとも苦しかっただけなのか兎に角イーブイはそのまま大人しくなった。

パラセクトも無闇に近づいてくる様子はなく、その場から動こうとしない。

イーブイが大人しくなったことで存分に抱きかかえることが出来、気持ちに余裕が出てくる。

そこでようやくパニックから回復してきたアッシュが腕の力を少し緩めると、イーブイの方も息が楽になったらしく何か悪態らしきものをついているのが伝わってきた。

しかしアッシュとしては今は兎に角手元の温もりを手放したくなかった為、完全無視することに決め込んだ。

 

「――そっちも頼もうと思っとるんじゃがどうじゃ?」

「どうって、まぁ兎に角その薬草を採ってくればいいんだろ?とりあえず行ってくるから!!」

 

その間にもカンポウの話は進んでいたらしく、何やら尋ねられていたようだが殆ど話を聞かないまま返事をして、薬草の写真やノートが入った鞄を掴み取ると「またあとで連絡する!」と言い渡してそそくさと退散した。

 

 

「…ポケモンって凄いな」

 

バタバタと慌ただしく逃げ出してきたアッシュは大きくため息を吐いた。

まさかあんなポケモンがいるとは思わなかった。そういえばポケモンの感情が上手く伝わってこなかったのは初めての事かもしれない。

その瞬間、パラセクトのあの白い目を思い出してまた鳥肌を立てたアッシュをイーブイは腕の中で呆れたように見上げていた。

しかし、よくよく考えてみればカンポウにとっては長年連れ添ってきた大事なポケモンなのだ。

怖いなどと余計なことを言わなくて良かったと思うと同時に少し失礼な態度だったかなと気になりだすが、あの瞳を思い出すとやはり怖い。

お世辞を言ってもし触ってみるかなとど言われた日には卒倒しかねないのでこれで良かったのだという結論に至った。

何の落ち度もないパラセクトには申し訳ない気持ちもあるが、今は見ないふりをした。

さて、バイトをすると言って飛び出してきてしまった以上配達の仕事をやるしかないなと思い直し、どうしたものかと考える。

とりあえず一度家に帰って荷物をまとめて来ようと、アッシュはイーブイを抱いたまま家に向けて歩き出した。

何しろイーブイはまだアッシュの奇行を疑っているらしく、さっきから微動だにしないのだ。これ幸いとばかりにそのまま移動を開始する。

 

 

 

ようやくイーブイを部屋に解放してから改めてメモしたノートを見てみると、32番道路の岩肌に自生する薬草を採ってきてほしいらしいことが分かった。

カンポウが書いてくれたメモと鞄の中に入っていたマップを見比べると、経路としてはキキョウシティまで行ってそこから更に移動するルートと、ヒワダタウンから洞窟を通り抜けるルートがあるらしい。

素人が1人で洞窟に入るなどただの自殺行為でしかない。というか絶対迷子になる自信しかないのでこちらは却下だ。

 

とりあえずキキョウシティまで目指すことを目標に定める。

キキョウシティまで何とか1日で移動しそこから薬草を取って戻ってくるとして……2日では無理なのでもしかしたら何処かで野宿する可能性が無きにしもあらずである。

道順が分かったところで、鞄の中も再度確認すると移動資金らしきものと空のモンスターボールがいくつか、それから謎の袋が新たに追加されていた。

お金の方はあとできちんと残りを返さなければいけない為、自分のお金とは別にして財布に仕舞うことにする。

モンスターボールも餞別か何かだとして、一体この袋は何かと首を傾げる。

鼻を近づけると独特の香りが漂ってきた為、漢方薬かそれに必要な薬草だろうと当たりをつけてとりあえず開けなかった。

なかなかキツい匂いだが、イーブイは別に平気そうにしているのでもしかしたらこういう匂いが案外好きなのかもしれない。

前にモモンジャムを食べて嫌がっていたのもある。ならば苦いものの方が好きな可能性もあるだろう。色々ポケモン用品を見たときおやつとかも置いてあったはずである今度試しに味の違うおやつでも買ってみよう。

そんなことを考えながら、前回の残りの傷薬や携帯食、着替えを詰め込む。

全ての用意を終え、忘れたものはないか確認すると早速出発することにしたのだった。

 

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